起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ガルパン面白かったので興奮して書いた。後悔はしていない。



第四十一話:0079/07/21 マ・クベ(偽)とジオンの騎士

結局、明確な答えにたどり着けていない俺であるが、残念ながら時間は平等に過ぎていく。そして忙しさにかまけている間に、ふと気がついた。

もう原作知識とか言えないくらい状況を滅茶苦茶にしているじゃん、俺。ついでに言えば、多少のずれはあるとは言え、ジオンも連邦もここまである程度原作と同じ流れである事も気持ちに余裕が持てた原因だ。何せ流れが同じと言うことは、基本的な行動指針や目標が同じであるという事だからだ。当然、情勢に合わせて作戦が行われたり行われなかったり、前倒しされたり遅延したりはあるだろうが、それでも相手が大凡でも何がしたいか解っているというのは非常に大きい。そんな訳で色々と開き直った俺は、取り敢えず目先の問題を片付けることにした。

 

「戦災者保護施設の防備拡充に関する陳情か」

 

シーマ少佐を交えて再度防衛体制について打ち合わせをした席での一幕を思い返す。

 

「相手がMSやMTできたらどうすんだい?」

 

当初ドヤ顔で護衛居るからヘーキ!とか嘯いていたフラナガン博士だが、こともなげにシーマ少佐に言われて絶句していた。外縁とは言え、オデッサ基地の一区画にある施設までMSが来るなんて想像していなかったようだ。

 

「こんな所までMSが入り込めるとは思えませんが」

 

そう苦し紛れに返せば、少佐は可笑しそうに笑った。

 

「ジブラルタルに降りた時、連邦の連中も同じ事を言っていたよ。敵中に降下するなんて正気じゃ無いってねぇ…つまり正気じゃ無い奴ならここにMSで入り込んでくるという証明でもあるわなぁ?」

 

その言い方だと提案した俺が正気じゃ無い奴みたいなんだが…。ちょっと敵だらけで、退路が無くて、友軍の支援が受けられないところに降りて基地制圧するだけじゃないか。はっはっは、正気じゃねぇ!?

 

「ありうるな。今の連中は猫に追い立てられたネズミのような有様だ。数人程度の命でこの基地が活動を数日でも停止すれば釣りが来るくらいは考えかねん」

 

ミデア辺りを使って超低空侵入でもすれば、運が良ければたどり着く機も出るだろう。何せ増築に増築を重ねているもんだから、防空態勢や防御設備の構築が終わっていないのだ。ミデア1機でもMS3機は運べる筈だから、損耗を前提に突っ込んでくれば十分MSが暴れる余地はある。ついでに言えば、博士達の居る場所は庭や植林した森でそれなりのスペースがありながら守備は薄いため、敵からすればさぞかし降りやすいポイントになっていることだろう。何度か高高度偵察機を追い払ったという報告も受けているから、基地の概観は完全に把握されているだろうし。

 

「守備を預かる者としましては、対空火器の設置、並びにMS隊の常駐を提案します。問題は手空きのパイロットが居ないことですが」

 

「でしたら、MSだけこちらに頂けませんかな?幸い護衛に連れてきた者はパイロットなのです」

 

博士の提案に対し指揮権は基地側、つまり俺に帰属するという条件ならと少佐が付け加え、それに博士が応じたことから増強小隊が組まれる事になった。

そんでMS渡す以上手順は必要になる訳で、それが目の前の書類である。配備するのはドム4機、小隊としては半端な数だが護衛が4人でしかもロッテに慣れているとのことでこの数になった。幸いドムの生産も順調だったのですぐに配備すると、早速慣熟訓練を開始した。

 

「回避は1番機、総合的な技量では2番機、3・4番機は今後に期待と言ったところかな、博士」

 

訓練を眺めながら時折メモを取っているフラナガン博士に声を掛けた。服装こそそこら辺に居る近所のおっさんだが、顔つきは研究者のそれだ。ちょっと時間が出来たから顔を見に来たんだが、中々良い動きだ。

 

「お解りになりますか?」

 

「MSの動きはそれなりに見ているからね。まあ、シミュレーションだが」

 

そう言って博士の隣に座る。訓練は小隊を2対2に分けての模擬戦形式だ。技量の上では1・2番機が圧倒しているが、3・4番機も息の合った動きで善戦している。ただ2番機の技量が図抜けているから、ちょっと勝つのは厳しいだろう。

 

「1番機に乗っているマリオン・ウェルチ少尉はモーゼス博士の研究に参加していたのですが、例の一件で手空きになりましてね。こちらの施設の話をしましたら同行を願い出てきたのです」

 

良い子なんだね。軍なんか入らないで看護師とかでも目指せば良かっただろうに。

 

「彼女はザビ家の孤児院出身ですから。3・4番機の兄妹もですが」

 

あそこのスタッフ熱心なザビ家信者だからなあ、尊敬と言うより狂信に近い思考だし。3・4番機の兄妹の方は例のヤバイ実験に使われそうだったが方針転換で助かった組で、既に軍属だった事と少尉の近くに居た為かニュータイプとしての片鱗が見えたため、本人達の希望もあって連れてきたらしい。

 

「あの兄妹はまだサイコミュに反応はしていません。しかし互いの考えや思いが極めて高い精度で認識できるのです」

 

鼻息荒く告げてくる博士。

 

「あのような逸材をただの確認試験で使い潰そうなどと考えていたのですから、我ながら視野が狭いとしか言いようが無い」

 

研究の為の研究だったと自嘲する博士。おお、結構改心してるんだなぁ。でも、完全に丸くなられても困るんだよね。彼女達が死んでしまうのは避けたい、けれどその為に他の兵士の屍の山が積まれるなんて、そんなことは許容出来ないからだ。

 

「博士、それは違う。貴方の研究があればこそ、それを使う事が出来るのです。研究の為の研究、大いに結構ではないですか。貴方が疑問に思い解き明かそうとしたからこそ、彼らはただの兵では無い存在になれたのです」

 

俺の物言いに言いたいことを悟ったのだろう。一瞬呆けたような表情になった後、博士は悲しげに笑った。

 

「申し訳ありません、老いぼれのセンチメンタルと笑ってください…。大佐、我々は地獄に堕ちますな」

 

「良いでは無いですか。それで多くの命が存えると言うなら安いものです」

 

そんな風におっさん二人でしんみりしていると、模擬戦が終わったのかドムがこちらに戻ってきた。見立て通り1・2番機が勝ったようだ。3番機はペイント弾まみれ、4番機は袈裟懸けにバッサリやられたらしく綺麗に一本線のラインが入っている。

MSから降りると何やら話しながら向かってきた。青みがかった髪の女性…というよりは女の子と表現した方が良いような小柄なパイロットがまず俺に気付き敬礼をする。続いて気付いた2番機のパイロットが、最後に3・4番機が慌てた様子で敬礼をしたところで俺も立ち上がり答礼する。

 

「良い動きだ。新型だというのにもう乗りこなしている、流石と言うべきかな?」

 

「はっ、いいえ大佐殿。まだまだ十全にはほど遠い状況であります。しかしドムは素晴らしい機体ですな」

 

そう言って乗機を見上げているのは2番機のパイロット、ニムバス・シュターゼン大尉だ。この大尉、俺もゲームやら何やらでお世話になったり敵対したりしたのでよく知っているつもりだったが、ちょっと話してみたら割と原作と食い違いがあった。正確には、よく知られる人物評に書かれているようなことをやっているにしては、真面目というか高潔というか、要は本当に騎士っぽいのだ。気になって聞いてみれば言われたこと自体はやっていると本人談。え、つまり上官ぶっ殺したり、撤退してきた友軍ぶった切ったりしたの?何それ怖い。そう伝えれば、毅然とした態度で事実だと認める大尉。なんか言い訳もしないしその態度に違和感を覚えて調べてみたら、何のことは無い。ぶっ殺したという上官は部下を見捨てて敵前逃亡しようとしたところを取り押さえようとしたら撃たれたんで、やむを得ず応戦。撤退してきた友軍を切り捨てたというのも、どうも撤退を偽装して連邦に寝返った部隊が襲撃してきたのを撃破したというのが真相のようだ。普通に考えれば上官殺して降格で済むとか、味方切ったのにお咎め無しとか変だと思ったがそう言う事なのね。噂が一人歩きして完全に悪人扱いなのに何で訂正しないの?と聞けば、

 

「彼らを私が手に掛けた事は事実ですので」

 

なんて真顔で言いやがった。あ、こいつもアナベル大尉系の武人さんだわ。俺が渋い顔してると笑いながら続けるニムバス大尉。

 

「それに、解ってくれる者は解ってくれます。私はそれで十分です」

 

…こやつも後で指導せんと、何かの拍子でテロ屋モドキになりかねんな、注意しておこう。

そんなやりとりを思い出しつつ、ヒートソードを握っているドムを俺も見上げる。連邦もMSを送り出してきたということは、格闘戦の機会が高まるだろう。ドムは優秀な機体だが、格闘戦、特に速度を殺された状態での立ち回りはザクと同程度だ。無論装甲の分ドムの方が生存性は上だが、連邦がビームサーベルを投入している以上、あまり意味が無い。この辺りちょっと相談してみようかなあ。幸いアテもあるし。

 

「気に入って貰えたようで何よりだ。だが大尉の特性的にはグフⅡの方が合っていたかな?」

 

そう問えば、やはり真面目くさった顔で大尉が答えた。

 

「はい、大佐殿。私個人の特性であればグフⅡの方が合いましょう。しかし我が隊で考えるならばドムこそが適正であると愚考いたします」

 

「確かにな」

 

マリオン少尉も含めて未成年の残り三人はやはり肉体的に一般の兵には劣る。その辺りも研究していたフラナガン機関から提出された食事やサプリは支給しているが、一朝一夕で効果が出るものでは無い。だとすれば、同じホバーでも加速が鈍く、またグフⅡより耐G対策がしっかりしているドムの方が扱いやすいというのは頷ける。そんな風に納得していたら、なんと無しに真面目な大尉をからかいたくなって、つい口を滑らせてしまった。

 

「所で大尉、コイツの肩は赤く塗らんのかね?」

 

俺の言葉に目を見開く大尉。え、嘘、このネタ通じるの?この世界あのむせるアニメ存在すんの!?ってびっくりしてたら、少し興奮した様子で大尉が最敬礼をしてきた。なんぞなんぞ?

 

「そこまでのご配慮、感謝の言葉もございません。このニムバス・シュターゼン、必ずや大佐のご期待に応える事をここに誓わせて頂きます!」

 

そんな大尉の予想外の反応に困惑しつつ業務に戻ったら、数時間後にキシリア様から呼び出しがかかった。曰く、勝手に部下に専用機を与えてるんじゃねぇとのこと。なんのこっちゃと思ったら、よくよく考えればあの肩を赤く塗るのニムバス大尉のパーソナルマークだった。その日、通信が切れるまでの凡そ10分間、俺はひたすら猛虎落地勢を繰り出し続けた事をここに記しておく。

本日の教訓、口は災いの元。余計なことを考え無しに口にするのは止めましょう。




ネタバレにつき詳細は控えますが、もうちょっと長くても罰あたらんのではと思いました。
ガルパンはいいぞ?(ここで言う台詞ではない

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