起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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皆さんの一ヶ月が早すぎる件


第四十五話:0079/08/01 マ・クベ(偽)と模擬戦

「よし。デル、アス、相手の性能は頭に入っているね?」

 

「はっ!問題ありません」

 

「こちらも大丈夫です。行けます」

 

即座に返ってくる言葉を頼もしく感じながらトップ・スノーフィールド少尉は大きく息を吸った。

 

「機体の性能は大した事は無い…が、新型で乗っているのがあの人だ。油断するな」

 

声を掛けられたのは偶然で、例のお嬢さん方の訓練状況を報告に行ったら丁度良いとばかりに訓練相手に指名されたのだ。そこまで買い物に行くような気安さで話す大佐を思い出す。

 

「新型機の試験を頼まれてね。どうせならサンプルは多い方が良いだろう?」

 

何でも生産前に口出しした所、要求に合わせたシミュレーションデータが送られてきて、それを使って動作検証をして欲しいと頼まれたそうだ。

ただいくら自分が言い出した事とはいえ、基地司令が自らテストする必要は無いのではないか。そう聞けば横に居たシーマ少佐が疲れた声で答えをくれた。

 

「運用がなんというか独特でなぁ、取り敢えず提唱した人間が一番理解して使えるだろうという判断だ。…それから正直この基地で大佐より腕の立つパイロットが居ないからねぇ」

 

一月程前からアッザムでの失態を反省してとかなんとか言いつつ実機での訓練にも参加するようになった大佐は、現在正直手に負えない領域に達しつつある。先日遂に撃墜されたものの、その内容はシーマ、デメジエール両少佐を筆頭にシン大尉とアナベル大尉に加えニムバス大尉にマリオン少尉を加えたその戦力が居れば基地の一つや二つ落とせるんじゃ無いかというメンバーが揃って漸くだった。尤もその内容は戦闘と言うより、逃げ回る大佐を一方的に襲い続ける狩りのような状況だったが。ちなみに唯一撃墜されたシン大尉は随分落ち込んでいたらしい。

そんなことを思い出しながら相手のスペックをもう一度表示する。

出力はグフと同じ。装備に関して言えば頭部に内蔵された90ミリマシンガンが2基に、腕に装備された改良型のヒート・ロッド、それから280ミリロケット砲と、どれも訓練で馴染みのある装備ばかりだ。気になる点は二つ。

 

「いいか、相手はこちらより一回り以上小型の機体だ。目視だけに頼ると距離感を狂わされるよ、ちゃんと計器も確認しな。それと高い隠蔽性能とある、各センサーの値には常に気を配れ」

 

訓練の一戦目は相手に有利、と言うより想定された運用下での試験だ。沿岸基地で夜間。正直他の水陸両用とやり合うのでも嫌な条件だ。

 

「相手の装備はドム相手には貧弱だ。唯一近接装備が厄介だが幸いこちらの方が速度がある。常に動いて距離を取って対処する。いつも通りだ、いいな?」

 

「「了解」」

 

二人が返事をすると同時に訓練開始のアナウンスが流れる。緊張にやや身を強ばらせながら、慎重に海岸線付近まで移動する。シチュエーションは揚陸襲撃であるから、海から飛び出してくる瞬間を叩いてしまおうと言うのが三人の出した結論だった。何しろ小型とは言え10mを超える物体だ、海から上がろうとすれば当然海面が激しく動く。揚陸されて障害物の乱立する場所ではステルスも活きるだろうが、こうも見晴らしが良ければその恩恵も受けられない。

今日こそ一泡吹かせてやる。息巻きながらその時を待ったが5分以上経過しても動きが無い。それでも油断を誘うつもりかと更に5分待ってみるがやはり海面は静かなままだ。

 

「おかしいですな、揚陸するとすればここだと思うのですが」

 

この基地でMSがギリギリまで水中から接近できるのはこの岸壁だけだし、何よりここならすぐ倉庫街に入り込める。

 

「こちらがここで張るのを見越して裏をかいたんじゃ?」

 

アス伍長の言葉に迷いが生まれる。今回のあちらの目的はサボタージュであるから、無理にこちらと戦う必要は無い。移動指示を出すべきか逡巡していると、唐突に後ろの倉庫街で爆発が起きた。

 

「クソ!やっぱりもう入り込んでっ」

 

そう悪態をついてアスが機体を倉庫街へ向け、その背を無防備に海へと晒した瞬間、海面が一気に盛り上がった。

 

「アス!後ろだっ!!」

 

トップは叫ぶが、それはあまりにも遅かった。海面から低く、しかし鋭く飛び出したそれはアス伍長のドムで巧妙にこちらの射線を遮りながら接近、同時に放たれたヒート・ロッドが振り返り切れていないアス伍長のドムの胴体へと食らいつき、致命の電撃を流す。

 

「アス!」

 

射線を確保するべく動いていたデル軍曹が叫ぶのも虚しく、脱力したドムのコックピットへ腕が押しつけられる。

射突式ブレード、スペック表の中に書かれた見慣れない名前の武器を思い出す。そしてそれは目の前で正しく使用された。

 

「このぉ!」

 

軍曹の機体とは逆方向へ移動していたトップは、アス機に当たるのも構わずトリガーを引いた。書かれている通りの性能であれば、アス伍長は間違いなく戦死しているからだ。MMP-79から120ミリとは比べものにならない連射が襲いかかるが、相手を捉えることは出来ずアス機に傷を増やしただけだった。

 

「何処へ!?」

 

「右です少尉!」

 

軍曹の言葉に従って視線を送れば、目を通したカタログスペック以上の速度で移動する目標の姿があった。よく見れば、ヒートロッドの巻き上げ機能を利用して速度を稼いでいる。

 

「多芸な事ですね大佐!」

 

追撃するべくマシンガンを向けるが、それはあちらの射撃で防がれてしまう。回避行動を終えた頃には、目標は倉庫街に消えていた。

 

「デル、アスは?」

 

「コックピットへの一撃で死亡判定です。見事ですなぁ」

 

想定通りの言葉に溜息を吐きながらアス機を見れば、寸分のずれも無くコックピットハッチが貫かれていた。味方であれば称賛を送りたいが、今は残念ながら敵である。

 

「電波は当然としても、熱源も音響も反応無し。厄介だね」

 

「便利な道具に慣れたのが仇ですな、目視がこれ程頼りないとは」

 

ミノフスキー粒子下でこそ索敵手段が重要であるという提唱に賛同していた大佐によって、ドムにはザクより多くの索敵装備が盛り込まれている。敵の発見は格段にやりやすくなったが、それは一方で開戦時は当たり前だった目視のみによる索敵の機会が大幅に減ったことを意味していた。仮に今対峙している機体と同等のステルス性を持つ機体を連邦が用意すれば、古参の連中はともかく、新兵にはかなり厳しい戦いになるだろう。何せ地球は宇宙と違い隠れる場所に事欠かないからだ。

 

「厄介だな、残念だが一度仕切り直す。防衛目標まで下がるぞ」

 

「目標が狙われませんか?」

 

「倉庫街で見えない相手と戦う方が危険だ。あのやんちゃな大佐殿だぞ?何をしてくるかわからん」

 

「ですな」

 

そう言って二機は遮蔽物の少ない道を選んで移動を開始する。奇襲をしにくくするだけでも火力の低い相手にすれば厄介だろうという判断だ。

 

「それにしても大佐殿は何処であの様な機動を覚えてくるのですかな?」

 

頻りに左右へ視線を送りながら軍曹が口を開く。

 

「確かに。だがグフ乗りとは何度かやった時にヒート・ロッドを機動に使う奴は居たからな」

 

何かに打ち込んでアンカー代わりにするという奴はそれなりに居たから、案外それを見ていて思いついたのかもしれない。それをシミュレーションとは言えいきなりやってみせる技量には舌を巻くが。そんなことを言いながら防衛目標まであと少し、倉庫街の途切れるところまで来た瞬間それは起こった。

 

「なぁ!?」

 

後方を警戒しつつ後をついて来ていた軍曹が驚愕の声を上げると同時、盛大な転倒音が響いた。慌てて振り返れば、自分が通過するまで何も無かった場所にワイヤーが張られている。否、それはワイヤーなどでは無く。

 

「そこかぁ!」

 

ヒート・ロッドの根元、即ち敵の居る位置へ向けてマシンガンを撃ち込む。僅か10秒でマガジンが空になり、即座にリロード。おまけとばかりにもう一マガジン分たたき込んだところでデル軍曹が起き上がっていないことに気付く。

 

「デルどうした、早く起きろ」

 

油断なくマシンガンを構えながらそう呼びかけるが返事が無い。

 

「デル!どうした!?」

 

焦燥に駆られ視線を向ければ、そこには仰向けになり、アス機と同様にコックピットを一突きにされたデル機があった。

 

「ひぃ!?」

 

まるでホラー映画のワンシーンのようだなどと、どこか冷静な部分が告げてくる。そしてこれがホラー映画なのだとしたら。

 

『終わりだ、少尉』

 

大佐の声がコックピットに響く。シチュエーションと設定からして通信は入らない、MS同士の接触回線、すなわちお肌の触れあい以外は。

振り返った先、トップ少尉が最後に目にしたのは片腕を無くした大佐の乗るアッガイだった。

 

 

 

 

アッガイ、面白い機体に仕上がっているなぁ。確か造ってるのはスウィネン社だったっけ?なんか愉快な思想の社長さんだったと記憶しているが、MS開発に関しては優秀なようだ。

 

「シミュレーション終了。大佐お疲れ様でした」

 

オペレーターを買って出てくれたエイミー少尉がそう告げてくる。コックピットもほぼザクのままだし、海兵隊向けにオデッサでも生産するよう打診してみようかな?

 

「しかし少し出力を持て余しているな、動きがピーキーだ。それに武装も格闘に寄りすぎている」

 

小型化の弊害で内蔵火器を殆ど用意出来なかったからなぁ。ヒート・ロッド?あれは飛び道具とは言わん。

 

『十分扱えていたように感じましたが?』

 

どこか疲れた顔で通信を入れてきたトップ少尉に俺は返事をする。

 

「こちらに有利な条件を並べたからの結果だよ少尉。それに人員の少ない海軍はどうしても単一の機体で複数の任務に従事する必要がある。まあ、内部容積が小さいアッガイでは、ハードポイントを設けて任務に合わせて装備を調えるのが精々だろうな」

 

折角だしそっち方面のアイデアも伝えてみよう。一個でもものになればラッキーだ。

 

『…左様ですか』

 

なにやら深い溜息を吐くトップ少尉。おいおい、溜息なんて吐いてると幸せが逃げちゃうぜ?

 

「とりあえず、次はシチュエーションを変えてみよう。そうだな、昼間の隠蔽はどの程度かやってみるか」

 

俺の言葉に何故か顔を引きつらせるトップ少尉。具合でも悪いの?止めとく?って聞いたらやけくそな声で返事がきた。

 

『はい、いいえ大佐殿!最後までお付き合い致します!』

 

それから暫くして、基地に実機のアッガイが運び込まれたのだが、何故か一部のパイロットと海兵隊は近寄ろうとしなかった。なんだったんだろう、アレ?




サンボルアッガイはアッガイじゃないと思います。
大好きだけどね!

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