起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
こういうことしてるからストックが増えないのです!
「率直に言おう、レイ大尉。アレではジオンに勝てない」
態々暗号通信まで使って、軍の最高司令官が言うことがそれか。苛立ちと落胆を感じつつ、しかし軍人として最低限の節度を保ってテム・レイは応えた。
「オーガスタの件は聞いております。ジオンの新型にやられたと」
でっち上げの陸戦型はともかくとして、虎の子として送った1号機が撃破されたのはテム自身も少なからず衝撃を受けた。だが、辛うじて持ち帰られたデータを見れば、それが彼の生み出した傑作、RXー78ガンダムの性能に起因する敗北でない事は明らかだ。だと言うのに。
「ならば話は早い。大尉には更に高性能な機体を開発して貰いたい。また宇宙用機の開発は一時中断し、建造中の4~6号機は陸戦用装備の開発母体とする」
簡単に言ってくれる。頬が引きつるのをテムは自覚する。現行のガンダムですら部品に求められる精度が高すぎて十分な数が確保できていない。そもそも先の敗北は数による圧殺であり、間違ってもガンダムの性能のせいでは無い。尤も、10倍の敵に勝てなければ性能不足だと言われてしまえばそれまでだが。
「4~6号機の件は承知しました。しかし、ガンダムの更なる性能向上となりますと…」
「それに関してだが、オーガスタから脱出に成功した開発チームとジャブローで機体の性能向上を研究しているモスク・ハン博士をそちらに送る。仕様は改めて送るから取り敢えず受け入れを頼んだ、ではな」
言いたいことだけ言い切るとレビル大将は通信を切ってしまう。テムは我慢できず手元にあったマグカップを壁に投げつけた。
「負けたら装備が悪かったか!?これだから野蛮な戦争屋共は!!」
一頻り罵詈雑言を叫んだ後、椅子へ深々と座り込み力を抜く。その頃には既に技術者の顔に戻っていた。
「現実問題として、ガンダムの性能は完璧だ。しかし生産性はとてもでは無いが量産に向くとは言えない」
これは駆動系にフィールドモーター駆動を採用したことに起因している。エネルギー変換効率や容積と言った面で流体パルスシステムに勝るのだが、肝心のモーターが非常に高い加工精度を要求するため、ガンダムの要求を満たす製品を製造できるのは月に本社を置くアナハイムエレクトロニクスだけだ。ルナツーで製造されている物は要求値に届かず加工不良も多い。アレではガンダムの半分も出力が出ないだろう。更に悩ましいのが先日の衛星軌道での連邦艦隊の敗北だ。大々的に発表されたアレのおかげで、月との輸送ルートに使っていたサイド6が高性能な工業製品は戦略物資に該当すると言いだし、フィールドモーターを積んだアナハイムの輸送船を追い返すようになったのだ。アナハイム側も大人しくそれに従っている。何のことは無い、ジオンが優勢だからあちらに媚を売っておこうという見え透いた行動だ。
「ふんっ、所詮我が身が可愛いだけのコウモリか」
毒づいたところで事態が好転する訳では無いためテムは別の事柄へと思考を移す。
部品供給が絶たれればガンダムの生産は疎か既存機体の維持も難しいだろう。
「だとすれば、現在ある生産拠点で製造可能なパーツで組むしか無い」
出力の高いモーターの製造自体は不可能では無い。裕度を持たせて大型化すれば良いからだ。だがそうした場合、ガンダムが実現していたあの高い自由度は失われてしまうだろう。それに大型化に合わせて重量の増加は避けられないから、現状より装甲を薄くして重量を維持するか、あるいは運動性を捨てて重装甲化するかだ。そう考えてテムは頭をかきむしる。
(なんと言うことだ、これではRX77へ先祖返りじゃないか)
だが幾ら考えても駆動系の問題が解決しなければどうにもならない。いくら高性能にする方法があっても、作れなければそれは絵に描かれた餅と変わらないのだ。
「問題はそれを何処まであの大将様が理解しているかだ。全く、これだから素人は」
さしあたってガンダムを十全に活かす環境を作るためにも、機体の数を揃えねばなるまい。そんな算段を付けつつ慣れた手つきで端末を操作する。
「まずはコイツの改善からか。やれやれ、また暫く家には帰れないな」
最近ロクに会話すら出来ていない息子の顔を思い出し溜息を吐く。
「この仕事が終わったら、一度地球に帰ろう」
そう呟くと、テムは通信室を出て研究室へと向かった。
「ああ、大佐。久し振りですね」
そう言って通信に出たギニアス少将は、以前に比べかなり疲労しているように見えた。
「お加減が悪いようで。少将、どうされました?」
そう聞けばギニアス少将は深々と溜息を吐いた。
「…ここの所総司令部からの質問が頻繁に来ていましてね」
聞けば東南アジア戦線の戦力増強にアッザムを送って貰ったまでは良かったが、その際に総司令部の中でこんな発言があったのだとか。
「あれ?今秘密基地で造ってるMA、ア・バオア・クーの新型と同じじゃね?」
流石総司令部、報告書斜め読みでもしてんじゃねぇかと言いたくなる発言である。
曰く、現在ア・バオア・クーにて開発中のMAでアプサラスのコンセプトはクリアできる。であれば、貴重なミノフスキークラフトは全部アッザムにしちまえよ。なんて連絡がチクチクネチネチ送られてくるらしい。ただ、アプサラス計画は公王陛下の承認という国家最高権力のお墨付きなもんだから、それを総司令部が否定するという形を避けたいらしく、こんな陰湿な手段で自主的に開発中止を言い出すように仕向けているっぽい。
「軍としても徒に機種を増やすのは望ましくない。1月以内に何らかの成果物が提出できない場合、新型への統合を議題に掛けると…」
それで急いで開発してて疲れているそうだ。そりゃそうなるわな。少将にしてみれば家の再興とか自分の夢とか、色々詰まってるのがアプサラス計画だ。しかも自身の体の問題もあるから変に突くとすぐに暴走する。総司令部は頼むからちゃんと相手を見て手段を選んで欲しい。
「もっと早く仰ってくれれば」
助けることも出来たかもしれない。そう言いかけた言葉は少将に止められた。
「そうも行かなかったのですよ、大佐」
少将の所属は総司令部技術本部。簡単に言えば軍の兵器開発を統括して居る部署である。んで、ここの所良いところが無い中順調に開発を進めて居たのが少将だったわけだが、それだけに期待がかかり、あいつに絶対勝って!ギャフン言わせたって!!という激励がそれはもう山のように来たらしい。そんな少将が俺と繋がっているなんて事になれば、可愛さ余って憎さが天元突破した連中に何をされるか解ったものじゃ無く、言うに言い出せない状況になってしまったそうな。問題は激励以外でなんの役にも立たなかったことらしいが。
そんな訳でどうにもならなくなってしまった少将は、せめてけじめとして俺に連絡をしてくれたらしい。
「出来たら送るなどと言っておいて、このようなことになってしまい申し訳ありません」
いや、謝られても回答に困る。そもそも少将なんも悪くないし。それに俺は往生際が悪い事にかけては自信がある。
「謝らないで下さい。それに諦めるのはまだ早い、成果の提出にはまだ一ヶ月あるのでしょう?」
原作だとミノフスキークラフトの調整やら試験やらが難航したのか試作機の初飛行が10月下旬。そこから1月もしないでメガ粒子砲の搭載が出来ている。そしてこの世界では既に試作機はアッザムのデータを参考にした分、飛行テストをほぼ終えていたはずだ。
「しかし、現状の機体ではとても納得させる事が出来るとは思えません」
まじか。
「飛行試験はほぼ終わっているのでしょう?搭載火器の開発が遅れているのですか?」
「はい、射撃管制プログラムの開発が難航していまして」
それは確かにマズイかもしれない。他の火器積んで誤魔化そうにもそれこそそれではアッザムと変わらない機体になってしまう。
「肝心のメガ粒子砲が撃てないとなると確かに厄介ですね…」
俺が顎に手をやって唸ると、少将は不思議そうな顔をして口を開いた。
「いえ、撃てますよ?」
「は?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。
「撃つだけなら出来るのですが、マルチロックや複数射撃時の目標追尾にまだ問題が残っていまして。射手が手動制御しなければならないのです」
その言葉に俺は肩から力が抜ける。そうでした、この人びっくりするくらい天才でしたね。
「…少将、それは最終到達点にしておきましょう。今回の報告はアプサラスがアッザムとは違うという点を提示できれば良いのです」
「しかしアッザムと違うだけでは納得しないのでは…」
そこはプレゼン次第かな。でもそんなに分が悪い賭けじゃ無いと思う。この時期にア・バオア・クーで造っているMAって言ったら、多分ビグ・ザムだ。だけどまだあっちは開発中、こっちは既に実機がある。ついでに色々と間に合わせなアッザムのとは違う専用のメガ粒子砲は文字通り桁違いの威力を持っている。だから俺は笑いながら少将に告げた。
「十分すぎる違いです。アッザムにはジャブローの岩盤を貫けるような装備は無いですからな。そしてジャブローの岩盤が貫けるような火器に耐えられる装備が、一体この世にどれだけあると思いますか?そして新型のMAとやらはまだ射撃どころか完成すらしていない。ならばむしろそちらをアプサラスに統合する方が合理的だ」
俺の言葉に目を白黒させる少将。技術者の人って往々にして自分が決めた到達点を下方修正するの苦手だからなぁ、仕方ない。
「射撃管制プログラムは未完成なのではない、複座にすればマルチロックすら可能なプログラムです」
「いや、それは…」
「大気圏突入にも耐えられる分厚い装甲と冷却システムは多少の攻撃などものともしません。速度が遅い?目標到達後のこの機体の役割は、居座り続けて大火力による破壊をまき散らす事です。移動などMSに随伴できれば本来十分だ」
「た、大佐?」
「機体容積にもまだまだ余裕がある様子。件のア・バオア・クーで開発中のMAに積む予定のIフィールドを送って貰いビームに対する防御を盤石にしても面白い…。連中がこの機体にどのような評価を付けるのか楽しみだ」
呆気を取られている少将に俺は笑いかける。
「少将、貴方は天才です。間違いない。だからもっと自分を大切にして下さい。貴方の存在はジオンの勝利に無くてはならないものです」
まあ、そんなことは抜きにして。
「それに、友人を失うというのはとても寂しいものです。私はそんな思いはしたくない」
七夕なのでちょっとしたサービス(のつもり)