起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分の投稿がまだだったなと気がついて。


第四十七話:0079/08/05 マ・クベ(偽)と奴隷

基地のかなり奥まった場所、地下に設置されたそこは意外にも快適な空間だ。そこが捕虜収容用の独房である事を考慮しなければだが。

 

「やあ、ごきげんよう。トラヴィス・カークランド中尉、調子はどうかな?」

 

内容とは裏腹に微塵も友好を感じさせない声音で男が告げてくる。

 

「飯も寝床も不満は無いね。これでコイツと歩哨が居なけりゃ最高だ」

 

そう言ってトラヴィスは腕を持ち上げる。そこには厳めしい手錠が掛けられていた。

 

「私としてもそうしてやりたいのは山々だがここには怖い人が沢山居てね。君や君のご友人の安全を考えるとこれが最善なのだよ」

 

強化アクリル越しにトラヴィスは声の主へと視線を送った。陰気で胡散臭いその男は、この基地の司令だ。正直そんな大物が何故自分に関わるのか見当がつかないが、待遇はそれ程悪くは無い。先ほど言ったとおり食事は保証されているし、ベッドだって下手な士官室のものより上等だ。それ故に気味が悪いのであるが。

 

「それで、一体俺に何の用なんだい?」

 

オーガスタで降伏したのはトラヴィスの部隊だけでは無かった。だが武装解除された後、何故かトラヴィスの隊だけが極秘裏にこの基地へ連れ込まれ、こうして軟禁されている。

 

「では、単刀直入に。私の駒にならないかね?」

 

その言葉に思わず手にしていた水のパックを落としてしまう。

 

「おいおい、確かに俺はお世辞にも真面目とは言えないが…あんまり見くびってくれるなよ?」

 

殺気を込めて睨むとすぐ横に居た兵士がホルスターへ手を掛ける。しかし相手はそれを笑って制すると、そのままの口を開く。

 

「中々交渉の仕方を心得ている。そうだな、では君の欲しいものと交換ではどうだろうか?」

 

その言葉をトラヴィスは鼻で笑う。

 

「アンタに俺が欲しいものを用意出来るとは思えないな」

 

「そうかな。例えばサイド3でやっている食堂の話などは…君も興味があるんじゃ無いかね?」

 

その台詞に思わず立ち上がったところで自分の失敗を自覚する。目の前の男はこちらに向けていやらしい笑みを浮かべているのが目に映ったからだ。

 

「その様子だと少しは興味が出てきたようだ」

 

憮然とした態度でトラヴィスはベッドへ荒く腰を下ろした。非常に腹立たしいが、あちらの方が完全に上手だ。

 

「…彼女は、無事なのか?」

 

トラヴィスの言葉に相手は困った顔になる。

 

「おいおい、まだ私は君の返事を聞いていない。取引は公正にやるべきだろう?」

 

捕まえて閉じ込めておいてよく言う。内心毒づいたが最早状況は覆らない。せめてもの抵抗に精一杯不機嫌な声で答える。

 

「解った、アンタの狗になってやる。さあ、満足か?答えろよ」

 

トラヴィスの言葉に満足したのか、男は人の悪い笑みを浮かべて口を開く。

 

「結構、大変結構。では私も対価を払うとしよう。彼女は生きているし、無事だよ」

 

その言葉に安堵と悔しさ、そして少しの虚脱感を感じながら、これからの自分の処遇について漠然とした不安を覚えているトラヴィスに、男は爆弾を投げつけてきた。

 

「君の大事な人は二人とも無事だとも…今のところはね」

 

「どういう事だ!?」

 

いきり立つトラヴィスへ向かい、相変わらずの表情で男は口を開く。

 

「彼女の息子さんは今、地球に来ているよ。この意味は解るだろう?」

 

その物言いにトラヴィスは思わず歯ぎしりをしてしまう。戦争中の地球にジオンの人間が降りてきている理由など一つしか無いではないか。

 

「てめえ…!」

 

「サービスをしてやったご主人様に対する態度じゃ無いな?」

 

ぬけぬけと言い放つ男に殺意を覚える一方で、この男の立場を推察する。何故今トラヴィスにそれを告げるのか。その意図は?

 

「俺の態度次第では、息子を救ってくれる…そう言う事ですか?」

 

「残念だが確約はできん。彼も軍人だからね…まあ、君が協力的ならば手を尽くすことは約束しよう」

 

役者が違う。降参の意味を込めて手を上げながらトラヴィスはそう感じた。顔も見せなかった前の飼い主に比べ、コイツは大胆さも悪辣さも数段上だ。

 

「解った、いや、解りました。それで?俺は何をすればいいんで?」

 

そう聞けば、男が端末を操作し手錠を解除する。あまりにもあっけなく解かれた拘束に困惑していると。男はすました顔で口を開いた。

 

「まずは部下を掌握したまえ。ああ、説得に必要なものがあれば彼に言え、大抵のものなら揃えてくれる。それと誰か一人でも裏切れば、全員が死ぬ。それはしっかりと覚えておくように…後のことは追って知らせよう」

 

 

 

 

「宜しかったのですか?」

 

一通り彼と、彼の部下の経歴に目を通して貰っていたウラガンがそう聞いてきた。

確かに彼らの経歴は酷いもんである。何せスパイ容疑に味方の爆破、軍データベースへのハッキングと上官殺し、普通はお友達になりたくない類いの連中である。

 

「つまり、彼らはそれだけのことをしでかしても処刑せずに取っておきたい。それどころか貴重なMSを与えて戦力としたいほど有能であると言うことだな」

 

それに犯罪者扱いだがどうもその内容は不正確だ。折角捕まえたんで諜報部にお願いして洗って貰ったけど、どいつもこいつも状況的にこいつしかいないんだけど、証拠は無いとか証言だけなんて状態だ。多分、有能な連中を手駒にしたくて前の飼い主が色々手を回したんじゃ無かろうか。

 

「それに罪人であっても問題ない。それならば遠慮無く使い潰せば良いだけだしな」

 

「しかし、いつ裏切るか」

 

その点も多分平気だと思う。

 

「元々あの連中は連邦への忠誠心が低い。まあ、あの仕打ちで高かったら正気を疑うが。加えてこちらには切り札がある。これが有効な内はおいそれと裏切れんさ」

 

特にトラヴィスは自身の事よりも家族である女性と息子を気に掛けている。その点を見誤らなければ、彼を通して部隊を掌握し続けられるだろう。

 

「さて、では彼らを有効に使う準備といこう」

 

 

 

 

「異動…でありますか?」

 

「ああ、オデッサからの援軍で戦線も安定しただろう?上はこの機会に部隊の整理がしたいようだ」

 

世話になっている重慶基地の司令は、そう言いながら命令書を渡してきた。

 

「貴様の隊もそうだが、開戦初頭から展開している遊撃部隊や選抜部隊は多くがザクのままだろう?こちらが有利なうちに新型へ転換させようという事だ」

 

遊撃、選抜などと特別な部隊であるような呼び方だが、要するにこれらの部隊は正式な大隊に組み込みにくい訳ありばかりだ。かく言うダグ・シュナイドが指揮している部隊もそんな訳ありの一つだ。

 

「正直に言えば君の隊は危ういからな。悪くない話だと私は思っている」

 

部隊内での競争による戦果の拡大。そんな素人の思いつきのような名目で集められた所謂エリートコースから弾かれた人間が集められた部隊がダグの預かるマルコシアス隊だ。競い合うこと自体は否定しないが、それが明確な待遇差に繋がっているダグの隊では完全に裏目に出ている。他の小隊どころか、自隊のメンバーすらライバルとしてしまうこの方式は、部隊間の連携どころか、小隊内ですらまともなチームワークが発揮できていない。しかも戦果を焦るあまり無茶な行動に出る者が多く、部隊の損害を増大させている。碌な戦果も挙げられず、損耗も激しいとなれば、斯様な評価でも仕方の無い事だろう。尤も殆どの隊員はそれすら不甲斐ない隊の他の連中に足を引っ張られたと感じているだろうが。

 

「正直有り難いです。ただの異動では不満も出るでしょうが、新型への機種転換ならばひよっこ共もそれ程不満を溜めないでしょう。ご配慮感謝致します」

 

ダグの言葉に一瞬目を丸くした後、笑いながら基地司令は否定した。

 

「いや、私の推薦じゃない。あちらからのご指名だ」

 

「指名?」

 

短く肯定の言葉を吐きつつ、基地司令は取り出した煙草に火を付け紫煙を吸い込む。

 

「オデッサの基地司令が直接言ってきたのだよ。そちらに居るマルコシアス隊をこちらに譲ってくれないか、とね。根回しの良い男だよ、寄こせと言うのとほぼ同時に異動の指示が上から来た。ああ、君達の代わりにオデッサに行くはずだった部隊がこちらに来るそうだから、存分に訓練が出来るとまで言っていたぞ?」

 

可笑しそうに告げる基地司令を前に、ダグは嫌な汗が背中を伝うのを自覚する。ここの所色々と有名なオデッサ基地の司令から直接のご指名、それも聞く限りは望外の好待遇だ。それだけに嫌な予想が頭から離れない。

その切れ者らしい大佐殿は、俺たちに一体何をさせるつもりなのだろう?




伏線を張っていくスタイル、尚回収出来るかは未定の模様。
次の話なんて遠い未来の事なんか解らないよ。

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