起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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予定より早く書けたので。


第四話:0079/04/18 マ・クベ(偽)の誤算

会議から3日が経った。あの後周辺地域の権力者を取り込むための晩餐会に出席したら、何故か居たユーリ少将にめっちゃフレンドリィに話しかけられ、相づちを打ちつつ何杯かブランデーを空けていたら、いつの間にか車に乗せられ欧州方面軍司令部にドナドナされていた。訳がわからないよ。

 

「貴様の話は非常に興味深かった。是非とも彼らと具体的な話をしてもらいたい」

 

訳:てめえが広げた風呂敷なんだからてめえで始末しろや、な?

 

おかげさまで連日神経質そうな軍人さん達と熱いミリタリートークで盛り上がっております。作戦計画概要の作成とその為の補給体制の調整計画の作成とも言う。

待って、マ・クベはただの基地司令なの。ちょっとこのお仕事は権限超えてると思うの。

まずいよね?ってユーリ少将に言いに行ったらいい顔で委任状渡されました。だから訳がわからねぇって。

 

「大佐、やはり戦力が足りません」

 

「前線への物資補給計画ですが集積地の選定についてご相談が」

 

「輸送計画の試算になります、やはり輸送車両が不足します」

 

「配置転換の計画になります、ご確認ください」

 

「大佐」 「大佐」 「「「大佐!」」」

 

「休憩!」

 

大声でそう言い部屋から飛び出す。やってられるかこんちくしょう!

この3日で憩いの場となった第二休憩室の自販機の隙間に体を滑り込ませ、購入したハンバーガーを同じく買った缶ジュースで流し込む。もっと良い物食えって?食堂は監視が居て食う前に連れ戻されるんだよ!飯寄こせって言ったら、無言で食ってた完全栄養食の箱渡されたわ。

ばれないように振る舞うとか言ったな?あれは嘘だ。嘘というかそんな余裕ないわ。

第一原作でこんなエピソード無いじゃん。いったいどうなってるんだってばよ。

 

「大佐、お時間です」

 

見上げれば2日目に補佐名目でつけられた中尉がにこやかな笑顔で見下ろしていた。コーカサス系の美人さんなのだが、今の俺には死神に見える。首を振り目一杯拒絶を示すと、笑顔のまま中尉が指を鳴らす。すると、彼女の背後から下士官服に身を包んだスキンヘッドと、笑顔がまぶしいマッチョメンが二人。有無を言わさず両腕をつかんで俺を持ち上げた。

 

「おかしい!明らかに隠れられないサイズだろう!?」

 

俺の抗議に白い歯のまぶしい笑顔で応えた二人はそのまま俺を参謀室へと運んでいった。

 

 

「お疲れですか、大佐」

 

「疲れていないように見えるか?」

 

司令部に急遽用意された個室でベッドに沈みながらそんな言葉を吐き出す。

計画なんて1日やそこらでほいほい出来るもんじゃねえんだから、お前らちゃんと休めよ!と切れ気味に怒鳴りつけ、存分に参謀達をドン引きさせた後、晴れて個室に籠城中である。24時間連続稼働なんて要求されたんだから俺に落ち度はないと思う。

尤も籠城しても実は休めていない。なぜならユーリ少将がオデッサに連絡も入れず俺をお持ち帰りしやがったので、良い感じに向こうの業務が溜まっているのだ。

幸いウラガンが優秀なので遅延は発生していないが、どうしても俺のサインが必要な書類はこうして休憩時間に処理しているのだ。おのれ少将、覚えておけよ。

 

「まあ、まあ、いい。それで、トラブルは起きていないな?」

 

「はい大佐。概ね順調に進んでおります」

 

そうか、進んでいるか…そうか。

 

「すまん、ウラガン。おそらく後数日は拘束される」

 

だからごめん、そっちはそっちで頑張って欲しい。

 

「承知しました」

 

静かだが迷いの無い返事にちょっと目頭が熱くなってしまう。良い副官だなぁ、俺は壺の配達人扱いなんてしないぞ。絶対、絶対だ。

 

「では、すまんが少し眠る。頼んだ」

 

そう言って意識を手放しかけた瞬間、空気シリンダー独特の音が響き扉が開いた。

 

「大佐、お時間です」

 

流れるような動作で、珍しく唖然とした顔の副官が映るモニターを消すと、コーカサス美人系死神が変わらぬ笑顔で指を鳴らした。

 

「死んじゃうから!」

 

「有史以来そう言って死んだ者は居ないと聞き及んでおります」

 

本日の籠城時間、1時間42分。戦争云々の前に過労で死ねるかもしれない。

 

 

宇宙世紀のエナジードリンクは優秀だ。さっきまで頭痛すら感じていた寝ぼけた脳がシャッキリ爽やかである…これ、覚醒するお薬とか入っていないよね?

 

「大佐、やはり現有戦力での攻勢となりますと、MSの被害が大きすぎます」

 

参謀長である中佐が苦り切った表情で口を開いた。

そらそうだ、他方面から引き抜いた戦力を使って、正面圧力を上げるだけの単純な方法だもの。戦術のせの字も無い、ただの数の暴力である。

 

「問題は地形と補給だな」

 

バルカン半島は山がちな上に大都市間を繋ぐような幹線道路も少ない。MSにしてみればあまり大差ない問題だが、兵站からすれば厄介だ。しかも丁寧に掃討していかないと山岳地形を利用してゲリラ化する可能性が高い。どーしたもんか。

 

「相手は歩兵ですし、ガウで爆撃しては?」

 

「難しいな。クレタの連邦空軍がいる限り制空権が取れん」

 

「揚陸して制圧しますか?」

 

「あそこが落ちれば地中海の制空権が一気にひっくり返る。向こうもそれは承知しているはずだから、それこそMSでも無ければ制圧は難しい」

 

そしてMSが海路で進撃できる事を教えてしまう代償としては、クレタ島攻略だけでは戦果が乏しい。その後ティレニア海を封鎖されたらイベリア半島は絶対に落とせなくなるからだ。

 

「つまり陸路で攻略するのが望ましい…そうしますとやはりMSの被害が軽視できません」

 

整備部隊を増員しても部品が無ければ直せないからなぁ。何か、何か無いかな。

そう悩んでいると18時を告げるチャイムが鳴った。定時なんて概念あったんだね!などと思いながら時計を見る。

 

「…中佐、今日は何日かね?」

 

「は?」

 

そう、俺は言ったじゃないか。出来ないことは出来ないと。

 

「やれやれ、やはり休息は必要だ。こんな事にも気づかんとは」

 

「あの?大佐?」

 

「簡単だ、全く簡単だ、中佐。手持ちでどうにか出来ないなら、他から持ってくれば良い」

 

そう言って俺は部屋から出る。ちょっと上層部におねだりだ。

 

 

 

 

この3日、ユーリ少将は中々に楽しい生活を送っていた。

大事な部下であるが司令部の連中は非常にネガティブな表情で会議をするので気が滅入る。そんな仕事を託した大佐は今までの気障ぶりが嘘であったかのように愉快な行動を繰り返し、今では一部の将兵から笑いを提供する癒やし要員のような扱いまでされている。おかげでこの所全体的に漂っていた緊張した空気がいくらか緩和され、兵士達が笑っている事が多くなったのだ。士気の改善を金も物資も使わずに行うなど、柔軟な将校を自認している自分ですら思いつかない事だ。もし計算してやっているならとてつもない男である。

秘書の尻を眺めるふりをしながら、そんなことを考えていたら。当の本人がアポイントメントを取ってきた。一昨日は職務内容の確認、昨日は待遇改善の嘆願。さて、今日はどんな愉快な話を持ってくるかと気楽に対応したら、いきなり爆弾を持ってきた。

 

「は?装備の陳情?それも試験部隊の奴をかっ攫う?」

 

「言い方は自由ですが、まあ端的に言えばそうなります」

 

そう言って大佐は端末を差し出してきた。黙って受け取り目を通すが、思わず聞き返してしまった。

 

「おいおい、正気か大佐」

 

装備を横からかすめ取るようなまねをすれば、大きな借りになる。所属する派閥が違えばそれはより顕著になるし、派閥内ですら弱みを作ったと立場を悪くするだろう。

これが新鋭の機体だとか、優秀なスタッフだと言われればある程度理解も示せるが。

そう言って試験部隊への配備指示書に目を通す。追加試験のための配備などと如何にもな名目は書かれているが、どうみても廃棄処分品を数あわせで現地に送る為の口実だ。

つまりこの大佐は、他の誰もが不要だと言っているモノを頭を下げて譲ってもらってこいと言っているのだ。

 

「戦争をやっている人間なぞ、皆正気を失っていると考えますが」

 

ぬけぬけと言い放つ大佐に、明確に不機嫌を伝えるべく言い放つ。

 

「哲学の問答じゃねえよ。こんなもんの為に俺に弱みを作れと言っている意図を話せといってるんだ」

 

そう睨み付けると、大佐は少し目をむいた後、可笑しそうに口を開いた。

 

「少将もそう言った事を気になさるのですな、良い勉強になりました」

 

「ふざけてんのか?それとも俺に対する嫌がらせか?」

 

そう言ったユーリを正面から大佐は見返す、その表情はここ数日の愉快な道化ではなく、怜悧な軍略家のそれだった。

 

「個人的な感情で無駄をするほど私は暇ではないし、ジオンに余裕も無い。必要だから必要だと言っている。委任状を寄こしたのは貴官だろう、ならば私が要求するモノをとっとと用意したまえ」

 

その物言いに思わず鼻白む。その表情に満足したのか、気障ったらしい悪い笑みを浮かべ大佐は言葉を続けた。

 

「大丈夫、悪い取引はさせませんよ。こういう事はそれなりに得意なのです」




暫く内政なターンです

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