起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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早めに書けたので。


第五十話:0079/08/17 マ・クベ(偽)の日常

「あ、いたいた。ねえ、聞いた?」

 

定位置となった食堂の一角で遅めの夕食を取っていると、そう言ってフェイスが近づいてきた。

 

「お疲れ様、聞いたってどの話?」

 

ミリセントは眉を寄せながらそう聞き返した。何しろここオデッサは話題に事欠かない場所だ。聞いたかとだけ言われても一体何のことだか見当を付けるのも難しい。

 

「ほら、例の新しく来た選抜部隊の人達。早速大佐と模擬戦したらしいよ、しかも実機で!」

 

「何それ羨ましい」

 

戦士の表情でパフェと格闘していたミノル少尉が頬を膨らませながらそう不満を漏らした。

無理もない。シミュレーターこそ許可されているが、未だにミリセント達は戦闘用の実機の使用許可は出されていない。そのシミュレーターにしても正規のパイロットが優先されるから使える時間は少ないし、大佐と模擬戦が出来る事などめったに無いのだ。

 

「選抜部隊なんでしょ?即戦力だもの、私たちとは期待度が違うわ」

 

そう言いながら隣の席に座っていたセルマ少尉が抑揚のない声でマグカップを傾けながら答えた。悔しいけれどその通りだとミリセントも口には出さないが同意する。向こうはルウムから戦い続けているベテランで、こちらは速成と言うのも烏滸がましい半人前、扱いに差があって然るべきだ。

 

「でも私たちだって、目を掛けて貰っていると思うの。ほらぁ、隊専用のMSまで貰ってるじゃない?」

 

「その通りですわね。他人を羨んだところで知識も付かなければ技量も上がりません。今は与えられた任務を全力でこなすことですわ!」

 

そう言ってドヤ顔を作るジュリア少尉にメンバーは生温かい笑みを送った。先日基地の陣地構築の手伝いをした際にガテンファッションに加え土埃まみれになった姿を大佐に見られて奇声を上げた挙句、3日間生気の抜けた表情でハイとイエスしか言わなくなったのを全員が目撃していたからだ。恋する乙女は実に解りやすいのである。

 

「あー、でも、穴の掘りすぎで自分がパイロットなのか鉱夫なのか解んなくなってきたよ」

 

そう言って笑うフェイスにミリセントも頷き返すと、それを見ていたセルマ少尉が再び口を開いた。

 

「でも、学ぶ事も多いわ。最近は鉱山より基地の造成に参加することが多いでしょう?」

 

その言葉にフェイスが頷いた。最初の一週間こそ鉱山での掘削作業だったが、人数分の機体が揃うとそれぞれ基地の方々に派遣され、設営隊に頼まれるまま地面と格闘する日々だ。今日だって基地の西側に大規模な塹壕を掘るとかでフェイスは今まで作業に勤しんでいたのだから。

 

「工兵隊の皆さん、色々教えてくれるものねぇ。勉強になるわぁ」

 

アリス少尉の言葉に全員が深く頷く。工兵隊の人間は職人気質な連中が多いが、年頃の娘に弱いのか色々と教えてくれる。最初は効率の良い掘りかた程度だったが、今では有用な陣地構築についてや地形の読み方、中には爆発物を使った効率的な建物の壊し方まで伝授してくれる人まで居る。パイロットとしての技量に直接関わってくるとは思えないが、何がどう役に立つかなど今の自分たちが判断出来るものでは無いとミリセントは考え、教えて貰えることは何でも貪欲に聞いている。

結果、訓練が終わった後の食事や休日のお茶会などの会話も随分変わってきた。最初はどこそこのケーキが美味しかったとか、何たらのブランドの夏物のデザインがどうだとかだったが、ここの所は拡張工事の進捗具合や何処の隊の誰が何に詳しいかなんて会話ばかりだ。年頃の娘としては正直どうかと思うが、それを望んだのは他でもない自分である。尤も綺麗にタンクトップの日焼け痕が出来ている肌など本国の母が見たら卒倒するかもしれないが。

 

「それにしても選抜部隊かぁ。どんな演習だったんだろ?」

 

コーヒー色をした砂糖水を飲みながらミノル少尉がそう話を戻すと、鼻息を荒くしたフェイスが我がことのように自慢げに語り始める。

 

「それがね!最初は1対1だったんだけど、皆3分持たずにやられちゃったんだって!で、話にならないって人数増やしてって、最後は全員対大佐で戦ったって!」

 

「相変わらず無茶苦茶ですわね」

 

言葉こそ呆れ交じりだが、陶然とした表情で何一つ隠せていないジュリア少尉がそう評する。正直10倍以上の相手と渡り合うなど想像の埒外なのでミリセントもその言葉には同意した。

 

「マルコシアス隊って確か2個中隊でしょう?装備はザクだったと思うけど、それでもどうやったら勝負になるのかしら」

 

眉間にしわを寄せながら訳が解らないというセルマ少尉の言葉に、フェイスがまたも得意げに返した。

 

「『諸君らの連携は稚拙にも程がある。これではただの21連戦だ、ならば勝てんほどではないな』だって!」

 

「「その理屈はおかしい」」

 

大佐に認めて貰えるのはまだまだ先になりそうだ。ミリセントはこっそりと溜息を吐いた。

 

 

 

 

「ではこれより、MSM-03B…ゴッグ改の起動試験を開始します。シーマ少佐、いつでもどうぞ」

 

『あいよ!システムオールグリーン、ゴッグ改。起動するよ!』

 

シーマ少佐の宣言と共にゴッグは僅かに身を震わせた後、ゆっくりと動き出した。

 

「おお、動いた」

 

「当たり前でしょう、誰が設計したと思ってるんですか」

 

思わず感動して口を滑らせたらエリー女史に睨まれた。

 

「誰が設計していたとしても同じ感想ですよ。何せ今までと全く違う構造の機体ですからな」

 

絡まれると厄介なので視線は合わせずにそう答える。しかしすげえな、研究中のマモル・ナガノ博士に協力して貰ったとは言え、試作一号機だからもっとギクシャクするかと思ったんだが、その動きは実にスムーズだ。

 

「おい、あれを造れと言ったのは大佐だろう」

 

半眼になって突っ込んでくるエリー女史に俺は慌てて胡麻を摺った。

 

「いやあ、素人の思いつきを形に出来てしまうどころかここまでの完成度。ツィマッド社の、いやエリー女史の才能は驚嘆に値しますな。感謝します」

 

「ふ、ふん!まぁ、私無しではこの域に到達するまで後5年はかかったでしょうね!」

 

残念7年かかりました。照れて顔を赤くしつつも、視線は計測しているモニターをしっかりと見ている。ああは言うものの、やはり緊張はしているのだろう。そんな俺たちの不安を他所にゴッグは順調に試験項目をクリアしていく。いや、本当にすげえな。

 

「通常移動は問題ありませんね。少佐!ホバー移動に切り替えてください!」

 

『了解、熱核ジェットエンジン起動。行くよ!』

 

一瞬だけ減速した後、吸気系を解放したゴッグは独特の吸気音を響かせてホバー移動に移った。

 

「うんうん、新型のエンジンも問題無いみたいですね」

 

「原理的には先祖返りに近いですからな」

 

そう、何を隠そうこのゴッグ改はホバー移動を可能としているのだ。流石にグフⅡやドムに比べると格段に速度は落ちるが、それでも200キロ近い速度は出るし、足回りの関節への負担も少ない。特に上半身に重量が集中するゴッグにとって、脚部への負担軽減は陸戦能力向上の大きな課題でもあったので正に一石二鳥と言えるだろう。ちなみに他のホバー機に使っているターボファン方式はサイズの確保が難しかったので、ターボジェット方式を採用している。エネルギー効率が悪くなると技術者連中が渋っていたので、

 

「安心したまえ、どうせ先に人間の方が駄目になる」

 

と言ったら唖然とした顔をされた。大体現状で数ヶ月単位の稼働時間を誇っているのにそれが半分になったから何なんだと言いたい。そんな訳で小型かつ大出力で大食らいな新型エンジンは構造が単純化したことも手伝ってあっと言う間に完成、晴れてゴッグの足に納まっている。水中では完全にデッドウエイトになってしまうが、そこは致し方あるまい。

 

「機体の温度上昇も想定内ですね。良好です少佐、射爆場へ移動ください。メガ粒子砲のテストに移ります」

 

『はいはい、すぐ行くよ』

 

少佐の声も明るい。なんだかんだ言って基地にある機体は大抵乗ってるからなぁ。結構こういうのが好きなのかな?

 

「ターゲットは赤1、青1、緑1です。準備でき次第順次射撃を行なってください」

 

色はそれぞれ的の設置されたエリア、数字はエリア内に配置されている場所だ。今回で言えばそれぞれ射撃地点から200m、500m、そして1000mになる。一応その先に2000mと3000mがあるのだが、そちらは今回使わないようだ。まあ、初めての射撃だしね。

 

『了解、冷却機構解放確認。メガ粒子縮退、赤から行く。出力は50%…撃つよ!』

 

両腕のクローが開き射撃姿勢をとったと思った瞬間には、ゴッグの腕から光の奔流が吐き出され、赤の台に置かれていたターゲットを文字通り吹き飛ばした。

 

「出力50%でこれですか、すさまじいですな」

 

「悔しいですが流石MIPですね。良い仕事をします」

 

置いていたターゲットは黒いMS…プロトガンダムが持っていたシールドを模倣したものだ。モニターを拡大して見れば、見事に吹き飛んで後ろの固定具まで溶融させている。うん、これならジム辺りなら一発だろう、当てられればだけど。そんな事を考えている間に青、緑も当然のように吹き飛ばしたシーマ少佐が文句を言ってきた。

 

『こんな距離の固定目標なんざ目を瞑ってても当てられるよ。試験になるのかい?』

 

「動作テストですから今回は諦めて下さい。ちゃんと後で射撃テストもしますから」

 

『お楽しみは又今度って訳かい。期待してるよ博士』

 

そう笑いながら試験を続ける少佐に同じく笑みを返すエリー女史。二人を見て、俺も試験の成功を確信するのだった。

ちなみに、この日の試験結果を報告したところ、海軍からゴッグ改の配備要求が山ほど来てMIP社から涙混じりのクレームを受けたため、並行してズゴックのバージョンアップも手がけることになった。夕食の時エリー女史がすっごい目で睨んできたから黙ってプリンを差し出したのだが何故か鋭いローキックで回答された。解せぬ。




日常(ほのぼの)回

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