起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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いつの間にか年間ランキング3位じゃないですかー!ヤダー!
これは投稿せざるを得ない。


第五十一話:0079/08/18 マ・クベ(偽)と古い友

ブラジリアにある高級住宅街、その比較的外縁に位置する場所に彼の家はあった。要人向けに製造された特注のエレカから降りる彼を、壮年の家令が静かに迎えた。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

「ああ、1週間ぶりかな?まったく、あんな穴蔵で1週間だ、息が詰まって仕方が無い」

 

上着を脱いで家令に渡すと、水差しから水をグラスに注ぎ一息で飲み干し、大きく溜息を吐いた。

 

「全くもってお笑いだ。連中まだ勝てる気でいるぞ?」

 

黙って付き従う家令に返事は求めず、彼は言葉を続ける。

 

「今日の会合の話は何だったと思う?月面都市への経済制裁についてだ!アナハイムが非協力的な態度ならばこちらも相応の姿勢を見せねばならんだと?これ以上敵を増やしてどうする?あいつらの頭は飾りか!?」

 

ジャブローには軍需民需を問わず多くの物資が備蓄されている。だから開戦初頭で地上の全てが安全でないと叩き込まれた連邦政府の高官は我先にと疎開を理由にジャブローへと転がり込み、備蓄物資を貪って以前と変わらぬ優雅な生活を送っている。もっとも、天然もので無かったりワインのグレードが下がっている程度で彼らは随分と忍従した気になっているようだが。

 

(人口の流出は依然増加している。解っているのか?国民の多くが我々よりもこのような事態を引き起こしたジオンの方が頼れると考えているのだぞ!?)

 

特に深刻なのが北米だ。ガルマ・ザビという最高権力に近しい人間が正式な書類として安全を担保する。この魅力に勝るものは無いだろう。加えてあれだけの恐怖を味わっておきながら、未だに政治家連中はジオンとの戦いを戦争ではなく局地紛争だと考えている節がある。正直、彼からすれば楽観が過ぎるにも程がある。

 

「総人口の半数が死んだことをもう忘れたのか?」

 

自らの言葉に、本当に忘れていそうだと考えうなり声を上げる。開戦初頭で死亡した多くは選挙権の無いスペースノイドだったし、その後の死者もどちらかと言えば貧困層だったからだ。彼らにしてみれば自身の票にならない人間など居ないも同然であるから、それがどれだけ死のうともただの数字に過ぎないだろう。

 

「レビルもレビルだ。あの一週間で手打ちにしておけば良かったものを。人類が絶滅するまで続けるつもりか?」

 

ともすれば頑迷と思える程、総司令官に任命されたレビル大将は声高に徹底抗戦を叫んでいる。その様子は狂気すら孕んでおり、彼には人類を巻き込んだ壮絶な自殺行為にしか見えなかった。何しろジオン側からはサイド6を通して幾度か停戦の打診が来ていたのに、その条件を聞くことすらせずに追い返しているのだ。

 

「危ういな…うん?」

 

今後の身の振り方を考えつつ、溜まっていた郵便物を弄んでいると、中に変わった封筒が紛れ込んでいることに彼は気付いた。一見すると変哲も無い無地の封筒。消印も連邦の勢力圏内であり、しっかりと検閲済みのスタンプも押されている。しかし、それが余計にこの封筒を怪しくしている。

 

「…コロニーの公共機関用の封筒?」

 

再生紙を使用しているそれは手触りが悪く、好き好んで使う者はまず居ない。つまりこれは意図的に使われていると言うことだ。そしてそうした解る人間にしか解らない回りくどい意思表示を行なう人間を、彼はよく知っていた。

 

「やはりお前か、マ」

 

手紙は生存報告と、またチェスを指したいという変哲も無い内容だ。だが彼に決意させるにはそれで十分だった。

 

「すまない、紙とペンを。…どうやら俺の生き方は決まったようだ」

 

久し振りに見る主人の笑顔に家令は静かに頭を垂れ、要望をかなえるべく部屋を後にした。

 

 

 

 

「次の捕虜交換で君達を連邦へ戻す」

 

元スレイブレイスの面子を呼び出してそう告げると、全員が目に見えて顔を強ばらせた。まあそうよな、向こうじゃ犯罪者扱いだもんね。

 

「君達の任務は簡単だ。教えたルートを使って連邦の情報を流す、それだけだ。ああ、安心して良いぞ、既に情報源のアタリはつけている」

 

俺の言葉に緊張を幾分緩めるメンバー達。ただ、余り舐められないように釘も刺しておく。

 

「はっきり言うが、私は君達を信用した訳ではない。だから保険も掛けさせてもらう。具体的には君達の誰かが裏切った場合、君達の誰かの家族が不幸になる。よく覚えておくように」

 

露骨にトラヴィス中尉の顔が憤怒に歪むが無視して続ける。

 

「情報源以外でも有益な情報があればボーナスを約束しよう、ちなみに目下最大の目標はジャブローの位置特定だ」

 

あの場所は原作でも明記されてないし、地名も架空だったから特定できんのよな。

 

「そんなことを俺たちに言っちまっていいのかい?」

 

「これでも人を見る目には自信があってね。君達を信用はしていないが、その能力は信頼している」

 

ついでに言えばその性格もね。

 

「どうせ君達に拒否権は無い。そのつもりで励みたまえ」

 

そう言って退出を促すと、入れ替わりでアナベル大尉を伴ったシーマ少佐が入ってきた。ここの所ゴッグ改の試験の傍ら、本人曰くマルコシアス隊の面々を色々からかっているらしい。機種転換をしている彼らを色々と面倒見てくれているようだ。何だかんだと面倒見の良い少佐は基地に居るMS部隊の親分的存在になってる気がする。例のお嬢さん達も真面目に任務に取り組んでいるし、件のマルコシアス隊だって俺は嫌ってるみたいだけど、少佐にはびっくりするくらい従順だ。

 

「もう彼らの使い道が決まったんで?」

 

出て行ったトラヴィス中尉達に視線を送りながらそう聞いてくる少佐。

 

「ああ、幸い伝手があってね。彼なら上手く使ってくれるだろう」

 

「…成程。まったく悪い人ですなぁ」

 

「もちろんだ、でなければ軍で出世などしている訳が無い」

 

善人なら戦う以外の道を選ぶだろう。

 

「まあ、それに肖っている私が言えたことではないのですがね」

 

そう言って笑う俺たちに向けて、何とも言えない表情になるアナベル大尉。

 

「大佐達は、この戦争に否定的なのですか?」

 

ああ、そう言えばその辺りは全然話し合ってなかったな。良い機会だからちょっと説教といこうか。…嫌われたらまあ、その時はその時だ。

 

「この戦争、と言うよりは戦争全てが無駄だと私は思っている」

 

「無駄…ですか?」

 

「無駄と言うより浪費と言った方が正確か。考えてみたまえ大尉。この戦争でどれだけの人間が死んだ?彼らがもし生きていれば、一体どれだけ経済に貢献したかなど子供でも解るだろう。それを各々の欲を満たすために投げつけ合ってすり潰したのだ、これを浪費と言わず何という?」

 

俺の言葉にしかめっ面を作るアナベル大尉。ここの所鉱山経営させたから、情とか抜きに人的資源としての人間の価値も大分身にしみているのだろう。

 

「そもそも、この戦争の発端は我々が独立したいという欲に端を発している。ああ、誤解が無いように言っておくがスペースノイドの扱いが適切だったと思っている訳ではないぞ?私自身も不当だと感じたから戦争に乗ったのだからね。だがそれだって根底は今より良い生活がしたいという欲だ」

 

欲を否定はしない。欲があったから人類はここまで進化したし、脆弱な体で宇宙にまで生活圏を広げられたのだから。

 

「つまりな、大尉。誰かが正しい戦争などというものは人類史上どこにも存在しないのだよ。そこにあるのは立場の違いと、我欲をたとえ相手を殺してでも貫こうとする意地の張り合いだけだ」

 

俺の言葉を黙って聞き続ける大尉。表情が強ばっているのは信念と今の会話の乖離のせいだろうか。

 

「だから大尉、戦争の本質を正義や大義などという甘美な言葉で覆う輩には注意したまえ。特にそれを本気で信じている人間は最も危険だ。信念とやらで動く者は理屈で動かん、彼らにとって損得は問題ではないからな。そういうのは大体周りも巻き込んで盛大な地獄を作る」

 

どっかのハゲとかね。

 

「戦争の、本質」

 

「君もここに来て見ただろう?我々が敵だと叫んだアースノイド達を。どうだった、彼らは?」

 

俺の問いに苦しそうな表情になりながら大尉は答える。

 

「ただの、人、でした。我々スペースノイドと何も変わらない、ただの人。それが私たちの敵でした」

 

その言葉に俺も静かに頷いて、口を開く。

 

「そうだ。ただ属する陣営が違う、立場が違う、それだけのことだ。だから大尉、戦争をするななどとは言わん、私だって軍人だからね。だがそれを正しいなどとは断じて思うな。正しい戦争をしているなどと考えたなら、我々は畜生にも劣る存在になり果てるぞ」

 

俺の言葉に、大尉はただ黙って敬礼を返してきた。その時の彼女の表情については、我々の名誉のために記さないでおくことにする。




古い友人…一体何ランなんだ…。
当然ですが本作の独自設定です。

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