起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
「よし、お客さんおいでなすったぞ…」
緊張で乾く唇をしきりに舐めながらスコープ越しに敵を睨みつける。相手の戦力はザクが3機に随伴として戦車もどきが同じく3両、それにAFVが2両続いている。羽つきやスカートつきが含まれていないことに少々物足りなさを感じたが、部隊に新入りが入ってきていたことを思い出し、訓練には良い相手かも知れないと思い直した。
『第二分隊、準備良し』
『第三分隊、行けます』
『だ、第四分隊、射撃準備できました!』
緊張に声をうわずらせる第四分隊の分隊長を落ち着かせてやろうと彼は口を開いた。
「大丈夫だ、奴らとの距離は3000。絶対に見つからん。だから焦らず落ち着いて手順通りやれば良い」
『り、了解しました』
幾分和らいだ口調が返ってきたことに満足しながら、その一方で彼は苦い気持ちにもなる。もしあの時自分が今の半分でも戦闘というものを理解していたら、隊の皆は、隊長は死なずに済んだのだろうか?
『目標、速度変わらず、連中ピクニックにでも来てるつもりか?』
呆れを含ませた口調で第二分隊が報告してくる。
「でかいおべべで気もでかくなっているんだろうさ、地球がおっかない場所だと宇宙人共に教えてやるとしよう…距離1500まで引きつけて斉射、第二、第三分隊は一番前の一つ目、第一と第四で後ろの奴をやる。いいか、ヘマして動力炉に当てるなよ?」
短く返ってくる承知の言葉に満足しながら射手の肩を二度叩く。射手の軍曹は小さく頷くと安全装置を解除した。すぐに他の分隊員は後ろに下がり身をかがめる。僅かな間の後、無警戒に獲物達がキルゾーンへ入り込んだ。
「撃て!」
叫ぶと同時、4本の光線がザクを貫いた。残された1機は何が起こったのか理解する前に前後で起きた友軍機の爆発に巻き込まれ転倒する。
「第二射!1、2、3は戦車もどき!4は転倒した一つ目を仕留めろ!」
「装填!」
ジェネレーターを入れ替えた装填手が退避するのを確認し射手の肩を二度叩いて自身もその場に伏せる。すぐさま射撃が行なわれ、今度は弾薬にでも誘爆したのか、戦車もどきの砲塔が盛大に吹き飛んだ。スコープで確認すれば、倒れていたザクもしっかりと撃ち抜かれ脱力している。
「よーし、トドメだ!3、4分隊、AFVを始末しろ!」
了解の返事から僅か5秒、最後の射撃が行なわれ敵部隊は文字通り全滅した。
「ふう、やれやれ。各隊、損害報告!」
服についた土埃を払いながら、彼は一応の確認を取る。返ってきた答えは当然のように損害ゼロ、正に完全勝利である。
「これで、部隊合計撃破数21、赫々たる戦果と言う奴ですな」
防護用ヘルメットのバイザーを上げて射手の軍曹がそう話しかけてくる。
「コイツの性能のおかげさ。先輩方はこれを有線誘導ミサイルでやっていた」
彼の命を救ってくれた隊長などは、そのミサイルで死ぬまでに部隊撃破数13機を記録している。
「まったく、エネルギーCAP様々ですな」
そう言って軍曹は砲身を叩いた。ラーティM79対MS歩兵ビームライフル。対MS用ミサイル、リジーナの発射器を転用した歩兵携行式のビーム兵器だ。有効射程3000m、一基を運用するには一個分隊が必要、射撃時の輻射熱が激しいため、射手は宇宙軍のパイロットスーツを改造した専用の防護服を身につけねばならない、射撃のたびにエネルギーCAPのカートリッジを交換するなど制約も多いが、MSですら一撃で撃破しうるその火力は一級品である。宇宙軍のMS偏重にオーガスタでの一件以来疑問を持った陸軍が独自に開発した兵器だ。
「機甲師団の連中も新しい玩具を貰ったらしい。そろそろ宇宙人共にここが何処なのか解らせてやらにゃならんからな」
そう言いながら次の獲物を狩るべく部隊に移動の指示を出す。何しろここは地球、歩兵の隠れる場所には事欠かない。
「ヨーロッパで俺たちを殺さなかったことを後悔させてやるよ、ジオン野郎」
「スカンジナビア半島に居る連邦軍が厄介だ」
本日の定例会議はそんな重苦しいセリフでスタートを切った。
欧州での本格的な掃討が済み西欧地域はほぼ勢力圏となったが、今一船団攻撃が上手くいっておらず、おかげでスカンジナビアやブリテン島の連邦軍はまだまだ元気だ。まあ、ブリテン島の方は引き籠もって居るのでこれ幸いと周辺を機雷だらけにしてやったのだが。問題は北欧の連邦の動きが活発でこれを締め上げるべく輸送船団への襲撃を行なっているのだが。
「資料を確認したが、襲撃に参加できている艦が随分少ない。もっと潜水艦隊を増強すべきではないか?」
簡単に言ってくれる参謀殿に俺は横やりを入れる。
「難しいですな。潜水艦のクルーはそう簡単には育成できません。そもそも宇宙でも艦艇は不足していますからな、適性のある人間は引き抜き難いですし一からとなればかなりの時間が必要でしょう」
「俺も大佐の意見に同感だ。それに港湾設備の問題もある。地中海の確保でかなりの数は確保できて居るが、距離が離れているし、なにより信頼できる整備員の確保が難しい」
腕を組みながらユーリ少将が追認した。
「だが放置は出来んでしょう。既にカレリア地方で部隊にかなりの被害が出ています」
「例の『ゲシュペンスト』ですか」
『ゲシュペンスト』はここ一週間くらいで全戦域に現れた未確認兵器だ。撃破された残骸からビームによる攻撃であることは特定出来ているのだが、それ以上の情報が無い。それというのも遭遇した部隊は文字通り全滅しているからだ。ただ解っているのは少なくとも歩兵を含む戦力であるという事だ、何しろこちらの兵士をご丁寧に皆小銃で撃って回っていたからね。存在を徹底して秘匿するには地味だが効果的だ。今のところ軍は特定が出来ないので効果的な対策が立てられず、補給を締め上げて活動を鈍化させようという方針だ。ただ、現状の大西洋艦隊は力不足も良いところで、補給路の封鎖なんて夢の又夢である。まあ、潜水艦がたかだか20やそこらじゃこのくらいが限度だよなあ。
「アフリカ方面が落ち着いたのだからアッザムでやれんか?」
「難しいな、あちらさんは海軍すらない状態でインド洋を担当している。むしろこちらのアッザムをまた送ってくれと打診されているぞ」
「二号機以降の戦果が余り芳しくないですからな。教練をもう少し改善できませんかな?」
無茶を言いよる。
「正直難しいでしょう。ヴェルナー少尉はパイロットとしては優秀ですが教官としては半人前以下です」
まず操作説明に擬音が入る時点で普通の人はついて行けないと思う。
「ガウを転用するのはどうだ?初期型ならドップを積めるだろう?」
「難しいな、連中戦闘機にすらビーム兵器を搭載している。ドップの防空だけではとても防ぎきれん」
連中セイバーフィッシュの改良型を戦線に投入してきている。こいつは何というか簡易型のコアブースターみたいな奴で、ビーム砲を搭載している上にこちらのドップⅡ並みの運動性を持っている。単純な格闘戦ならドップⅡの方が有利だが、トータル性能では向こうの方が優れている上にどうも既存のラインが流用できるのか既に大量投入されている。航空機のパイロット数は元々連邦の方が多いから、こちらの航空隊はかなり苦戦を強いられているようだ。流石連邦空軍、悔しいが航空機に関してはあちらの方が一日の長がある。
「その点についてですが朗報が。先日我が軍もエネルギーCAPの実用化に成功したとの連絡がありました」
おお、遂にか。
「更に同技術を用いビーム兵器搭載型の対地攻撃機を設計中、遅くとも来月中には実機が配備予定とのことです」
「おいおい、ちゃんと使えるんだろうな?」
「なに、問題があったら大佐に渡せば良いさ。だろう?」
「皆さんは私を便利な修理道具か何かと思っておられるのか?」
憮然として返事をするが何故か会議は笑いに包まれた。いや、マジでその認識は勘弁して欲しい。
「しかし敵の防空能力は侮れん。特にヒマラヤ級だ、アレをどうにかしなければ悠長に船団襲撃など出来んぞ?」
あれ一隻で40機近く航空機を運用出来る上に、連中お大尽にも輸送船団に直掩として必ず随伴させている。艦自身の防空能力もかなりのものだから厄介だ。
「リスクを考えれば潜水部隊で処理するのが理想ですが」
「キャリフォルニアで建造中の水中型MAは如何なものでしょう?」
そう聞いてくるミハエル大佐に溜息交じりで答える。
「ズゴックの製造にかかりきりらしく、先日漸く1号機の仮組みが始まったそうです。これからテストと考えれば早くても9月下旬でしょう」
「一ヶ月か、長いな」
問題はそれだけじゃないんだよなぁ。
「問題は地上だけでは無いかもしれません」
俺の言葉に視線が集まる。なんかデジャブだな、なんて関係ないことを考えつつ口を開いた。
「サイド6経由でアナハイムからかなりの工業製品がサイド7に輸出されています。表向きは工作機械やそれ用の補充部品だとなっていますが…」
いやらしい顔で情報をリークしてきたアナハイムの常務の顔を脳裏に浮かべながら話をつづける。
「主な取扱品はフィールドモーターだそうです。…ところで連邦のMSはフィールドモーター駆動ですな?」
俺の言葉に皆がざわめき出す。まあそうなるよね。
「連中既に宇宙用MSを準備していると見て間違いないでしょう。最悪本国との補給が絶たれる事もありうる。地上だけである程度対応出来る準備が必要です」
連邦のターン