起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ここの所、本作が真面目な仮想戦記っぽく評価頂いておりまして、非常に光栄です。
でも待って欲しい。これがどういう作品だったかもう一度思い出して欲しい。
そう考えて書きました(嘘)


第五十三話:0079/08/23 マ・クベ(偽)と技術開発本部

ネヴィル・シュート・ランウェイ大佐の朝は早い。朝の照明が灯火される丁度30分前に起床しポットを火に掛ける。湯が沸いて紅茶を淹れる適温になるまで20分。この間に彼はリビングへと移動し、日課となったサンドバッグへの打撃を始める。開始当初不用意に殴った結果手首を痛めた経験から、打撃手段はもっぱらカラテチョップだ。ネヴィルは学習する男である。

軍のデータベースから印刷した陰険そうな男の顔写真を慣れた手つきで所定の場所に貼りつけ準備が整うと、ネヴィルは大きく息を吸い込み腕を振り上げた。

 

「きぃぃええええええぃ!!」

 

甲高い絶叫とともに二度、三度と腕を振り下ろす。貼り付けられた男の顔は無残に歪んでいき、7度目の打撃で剥がれ落ちた。すかさず距離を詰め容赦の無いストンピングを見舞うこと10度、トドメの一撃とともにアラームが鳴り響き、時間が来たことを告げる。乱れた呼吸と服装を整え茶葉をポットへ投入、しっかりと3分蒸らした後完璧な姿勢でカップへと注いだ。

 

「ふむ、やはり朝はアッサムにかぎるな」

 

この日課を始めて以来、心なしか体調も上向いて居る気がするし、食欲も強くなった。朝から淹れた紅茶の味を楽しめなくなっていた自分に気付いた時は愕然としたが、それも最早過去の話である。

 

「地球難民の受け入れ拡大に伴い各サイドの遺棄コロニーを調査、か。上手くいくのやら」

 

玄関から取ってきた新聞を広げつつトーストを齧る。たっぷりと塗ったマーマイトの芳醇な香りと味を口いっぱいに楽しみながら、めぼしい記事を読み進めていく。

 

「なに?ヒミコ・モリグチの慰問コンサートだと!?ええい!抜かった!」

 

すぐに端末へ手を伸ばしチケットを購入しようとするが既に完売、仕方なく彼は部下何人かに連絡を取り、チケットの確保に成功する。

 

「ふう、まったく。慰問というなら我々技術将校は無料で、いや、むしろ招待するべきなんじゃないか?事務所は何を考えているのやら…おっと、もう時間か」

 

壁に掛けられた時計を確認すると針は7時30分を指していた。そろそろ登庁の時間だ。気象設定は夏であるため外も随分明るくなっている。玄関を開ければ既に温くなり始めた空気が部屋へと入り込む。今日も一日中々ハードになりそうだ。

 

「だが、休んでなど居られん」

 

ネヴィルの熱心なアドバイスが功をそうし、サハリン少将の開発しているMAは開発継続が決定。さらには先日実用化したエネルギーCAPを用いる対地攻撃機の開発命令も受けた。正に重力戦線の命運は彼自身の双肩にかかっているとネヴィルは確信している。

 

「ふふ、所詮政治屋気取りの素人が口出しした間に合わせなどではこの難局は乗り切れん。やはり最後に頼られるのは我々技術者なのだ」

 

さあ、今日も祖国へ貢献しよう。そして新型機開発の暁には長期休暇を貰うのだ。

 

 

「オデッサから水陸両用機の追加装備について相談がしたいと連絡が…」

 

「水陸両用はキャリフォルニアに移管した、あちらで話せと伝えろ」

 

登庁早々に聞きたくない名前を聞いて眉間にしわを寄せる。だが報告は義務であるし、それを行なった部下に罪はない。最大限の自制心を発揮し、努めて静かな声でするべき事を伝える。食い気味に言葉を発したくらいは大目に見て貰おう。

 

「大佐、昨日ご指示のありました追加装備付きド・ダイGAですが設計が終了しました」

 

そう言って手渡されたファイルを開き内容を確認する。概ね想定していた通りの機体の出来に満足して頷いていると、ファイルを渡してきた部下が何かを言いたそうにこちらを見ていた。

 

「どうした?何かあるのかね」

 

「はい、いいえ大佐。今回の追加装備が何を意図しているのかと、疑問に思いまして」

 

部下の勉強不足に思わず嘆きたくなるが、彼が解らないのも無理はないと思い直す。なぜなら全ての人間がネヴィルのように天才ではないのだから。先人であり偉大なる天才の義務として、優しく彼を教え導くことにする。

 

「先日挙がってきた地球方面軍からの報告は読んだかね?」

 

「はい。正体不明のビーム兵器により少なくない被害を受けていると」

 

その言葉に首肯を返しネヴィルは言葉を続ける。

 

「私は聞いた瞬間、これが何による攻撃かすぐに解った。故にそれに対する装備追加を命じたのだよ」

 

「ゲシュペンストの正体を看破なさったのですか!?」

 

その反応に満足しながら彼へ答えを教えてやることにする。

 

「実に簡単だ、連中は歩兵にビーム兵器を携行させているのだよ、熱や音源に反応がない上に目撃者を態々歩兵の小銃で始末しているのが何よりの証拠だ。小銃で止めをさしているんじゃない、持っている火器がビーム砲以外小銃しかないのだよ」

 

ネヴィルの言葉に部下が目を見開く、確かに歩兵に持ち運べるほどビーム兵器を小型化しているなど、とてつもない技術革新に思える。しかし状況から推察すれば、かなり無理をした兵器である事も容易に想像出来る事から、ネヴィルはそれ程脅威だとは考えていなかった。

まず攻撃されている射線が複数であることから連射は出来ない。加えて前線の歩兵が積極的に運用していないことから、運用には複数人が必要であり機動力に乏しい事も推察できる。恐らく歩兵に持てる限界まで軽量化を行なったために、エネルギーCAPの容量が低いのだろう。加えて射撃時に必要な電力を大型のジェネレーターで賄えないので、恐らく爆薬式発電機あたりで強引に電力を確保しているに違いない。

 

「つまりなんと言うことは無い。所詮間に合わせの急造品だよ、どこかの基地司令の作品よろしくな」

 

所詮凡人の考えだとネヴィルは鼻で笑う。そして自分の作品についても教示する。

 

「古来より歩兵の天敵は炎だ、故に新型ド・ダイには対地火炎放射器を装備させる。炎は遮蔽物や急造の陣地ごときでは防げんからな。連中自分の浅知恵の結果を知れば頭を抱えることだろうよ」

 

ちなみにこの火炎放射器付きド・ダイは欧州方面軍に支給された後、即座にオデッサへと送られ、火炎放射器は撤去されることとなる。その報を聞いて以降、ネヴィルの朝の日課が10分延長される事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

アッガイの改良について相談しようとしたらすげなく断られた上にたらい回しにされたでござる。と思ったらどうもアッガイの設計者がキャリフォルニアに降りてきているらしい。なんだよ、嫌われてるかと思ったじゃねえか。絶対嫌われてるけどな!

 

「…どうも」

 

早速ガルマ様に連絡したら、なんかすぐ呼び出してくれた。そんな訳で何ともテンションの低そうな兄ちゃんが画面の前で体育座りをしている。なんで体育座り?

 

「初めまして、ヨハン・スウィネン技師…でよろしいかな?私は…」

 

「初めまして、クベ大佐。貴方のことは色々伺っています。アッガイの件も聞いています」

 

…うん、この人やりづらいな!

 

「ご存知頂いているとは光栄です」

 

「アッガイを好き放題弄って頂いたようで。おかげで社の評判も上々です。感謝していますよ?」

 

嘘くせえ!

 

「…あー、スウィネン氏、いや、ヨハン氏とお呼びしても?その件については謝罪する気はありませんよ?」

 

そう言うとヨハン氏は一回頷くと目を閉じて固まった。コイツ寝てねえか?

 

「…あれは元々私が設計したものを大幅にデチューンしたものです。愛着がない訳ではありませんが、より役に立つ形へと変わったなら技術者として喜ぶべきでしょう」

 

そう言って目を閉じながら何度も頷くヨハン氏。起きてるんだよね?俺達今ちゃんと会話してるよね?

 

「そう言って頂けると助かります。ついてはそのアッガイについてなのですが」

 

俺の言葉に一瞬体を強ばらせた後、ヨハン氏はゆっくりと目を開くと相変わらずの表情でこちらを見てきた。

 

「水中用装備を追加するには、あのアッガイ?では容積が足りません。…寝ていませんよ?」

 

それは態度で示しなさい。

 

「ええ、ですから、外部に接続する形を考えています…と言うよりはアッガイをコアモジュールとして小型の潜水艦を作りたい」

 

アッガイは小型とは言えMSだ。自力での航行能力を有しているし、動力は核反応。水中ならば冷却の問題も無いから電力は使いたい放題だ。ここに2~3人の居住空間と物資と魚雷発射管をくっつければ即席の潜水艦だ。

 

「現状一から潜水艦のクルーを養成するのは難しい。だが水陸両用のパイロットならそれなりの数が居ます。彼らが船団襲撃に加われば今より大分楽になる」

 

黙って聞いていたヨハン氏が初めて口角をつり上げた。

 

「我が社の理念はご存知で?」

 

「確か、『夢を形に』でしたかな?技術者らしい理念だと思いますよ」

 

そう返すと、ヨハン氏は今度こそ解りやすく笑顔になった。

 

「正直、協力する気は無かったのです。現実に即した、と言えば聞こえは良いが、クベ大佐の提案はどれも面白みに欠けましたから。ですが、気が変わりました。MSを使った潜水艦、中々に無茶苦茶だ、実に面白い」

 

はっはっは、褒められてると受け取っておこう。

 

「聞けば霊長類最強は達成したそうじゃないですか、ならばついでに海洋生物最強も頂いておきましょう」

 

そう言って俺たちはモニター越しに乾杯したのだった。




ごめんなさい、紅茶飲んでマーマイト食ってるネヴィルが書きたかっただけです。

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