起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月最後の投稿です、ちょっと短め。


第五十四話:0079/08/25 マ・クベ(偽)とV作戦

「よく来てくれた、ハン博士」

 

席を立って迎え入れてくれるレイ大尉に対し、モスク・ハンはぎこちない敬礼をする。技術者だからなどと言い訳せずに少しは練習しておくのだったな、などとレイ大尉の答礼を見ながら少し後悔しながら口を開く。

 

「こちらこそお会いできて光栄です、レイ大尉」

 

続くオーガスタから脱出できた研究員達も次々と挨拶を交わす。それが終わると、各人の仕事道具が次々と運び込まれる。港湾区画に置かれたこのオフィスは建前上コロニー建設用重機の管理、整備用と言うことになっているため、遠慮無くコンピューターだけでなくCAMシステムまで持ち込まれる。流石に工作機械類は隣の部屋に移されたが、それでもメンバー分のコンピューターと資料だけで部屋はあっと言う間に手狭になった。

 

「本当は歓迎会の一つもしてやりたいんだが、生憎上にせっつかれていてね。早速で悪いが皆にはこいつを仕上げてもらいたい」

 

そう言ってレイ大尉が壁掛けの大画面モニターへ映し出したのはモスク達も見慣れた機体だった。

 

「これは?大尉、どういう事ですか。我々はRX-78…、ガンダムを超えるMSを造りに来たはずですが」

 

モスクの言葉も無理はない。なぜならモニターに映っているのはジャブローでも見慣れた機体。RGM-79、ジムだったからである。同じ感想を抱いたのか、他の連中も周囲と話し始め、部屋は途端に騒がしくなる。その様子をモニターの横で眺めていたレイ大尉が、まるで見るに堪えないと言う風に溜息を吐いた。

 

「成程、君達の意見は良く解った。ではその上で聞くが、君達の言うガンダムを超えるとは何だ?」

 

レイ大尉の言葉にモスクは内心首をかしげた。

 

「あらゆるスペックで優越する機体を開発する。それ以外に何があるというのですか?」

 

オーガスタ組の一人が口を開く。モスクも同意見だが、その一方で違う答えにたどり着いているであろう目の前の男の回答が気になった。

 

「技術者としてならばその意見は賛成する。だが、兵器開発者としてならば落第だ」

 

大尉はそう切り捨てると手元にあった端末を操作し、今度はガンダムのパラメータと、その横に何か別のパラメータを並べて表示した。

 

「これはオーガスタでの戦闘画像から解析したガンダムの実働パラメータだ」

 

モスクを含め、その場に居た全員が息を呑んだ。何故ならそこに表示されている数値はカタログスペックを大幅に割り込んでいるどころか、ジムのカタログスペックにすら届いて居なかったからだ。

 

「そもそもガンダムの役割は何か、ジオンのMSより優れていること?違う、断じて違う。我々はMSでお人形遊びをしているのでは無い、ガンダムの役割はジオンに勝つことだ」

 

最早誰も口を開かず、ただレイ大尉の話に聞き入っている。

 

「確かに機体が優秀であることは重要だ。だがMSにおいてはその性能を引き出すためのファクターにおいて、パイロットの技量に対する依存度が極めて高い。この部分を是正するためにガンダムには学習型コンピューターを搭載したが、今回はこれが裏目に出てしまった」

 

最高の機体に自ら進化し続ける制御系。最適解に見えたそれはしかし、莫大な製造コストを要求することとなり、結果満足な学習をする間もなく数に押しつぶされた。しかも敵に鹵獲された現状では、こちらの手の内を完全に晒してしまったに等しい。

 

「もう裏道は使えない。ここからは正攻法で連中を打倒しなければならん」

 

「つまり、最初に拝見したアレが正攻法の答えだと?」

 

思わず口にしたモスクの言葉にレイ大尉は頷くと、軍人から技術者の顔になり説明を始める。

 

「そうだ、ハン博士。学習型コンピューターの優位性が失われる以上、我々も優秀なパイロットを生み出さねばならん。それもジオンより短時間で、大量に。故に我々が造るべき機体はパイロットを生還させる事を第一としたものだ」

 

その言葉と共にモニターの映像は最初のものに切り替わった。

 

「コックピットにオーガスタで研究していた脱出ポッドを採用する事で、コアファイターより機体容積を確保しつつ撃破された際の生残性を維持する。加えてコックピットハッチを含むバイタル部に部分的にルナチタニウム合金を採用し対弾性能を向上、ジェネレーターは防護隔壁で独立させ、緊急時には排出可能にする」

 

「仰ることは理に適っていると考えますが大尉。何故ベースをジムに?今後を考えればガンダムをベースにすべきでは?」

 

そう質問が発せられると、そちらの方向を一瞥しレイ大尉が答えた。

 

「繰り返すが軍が必要としているのはサラブレッドではなくワークホースだ。タフで従順、多少の損傷もすぐ直して戦線に復帰する。その為には高品質が要求される部品構成はむしろ害悪にしかならん。それに現状ガンダムの性能は完全に過大だ、使いこなせないカタログスペックなど絵に描いた餅と同義だろう」

 

よってパイロットが扱える水準まで機体性能を落とし、その余裕で部品の選定基準を緩和する。理想は町工場で作ったような部品でも問題無く組み込めるMSだ。そう言い切るレイ大尉に別の研究者がさらに質問を投げた。

 

「ですが、ガンダムならば元々高い仕様要求に応えるためにかなり余裕があるのでは?」

 

「ガンダムの余裕は構成される素材に依存したものだ。むしろ構造が簡略化された分内部容積に関して言えばジムの方が広い。加えて知っているかね?ガンダム1機の建造費でジムは20機造れる」

 

兵の多寡はそのまま戦局に直結する重要なファクターだ。

 

「さらに言えば、あの様な実働性能でもガンダムは敵MSを最低3機は撃破している。つまりジオンのMSはビーム兵器が運用出来ればその程度の機体でも十分対応可能な機体性能と言うことだ」

 

「ですが、それでは上層部の提示している条件をクリアできません」

 

他の技師が困惑を混ぜ込んだ声音で反論すると、レイ大尉が悪い笑みを浮かべた。

 

「この機体にはガンダムと同様のジェネレーターを搭載する。その上で重量は5%削減、更にスラスターもガンダムと同一のものにする。つまり出力で同等、加速性能では優越した機体になるな」

 

その言葉にモスクは詐欺だと内心で叫んだ。確かに同一のジェネレーターを搭載すれば見かけの出力は同じになる。だが実際には駆動するフィールドモーターの変換効率が関わってくるためジェネレーターの出力が同じならば同じトルクが出るという訳ではない。事実ガンダムとジムの出力差は10%程度だが、実効トルクにおいては倍以上の差が出てしまう。その事が顔に出ていたのであろう、レイ大尉はお前の懸念は解るとでも言うように笑顔を向け口を開く。

 

「当然のことだが、採用しているフィールドモーターの性能上ガンダムと同じトルクを出すことは不可能だ。だがその点に関して言えば、ここに居るハン博士が打開策を持っている」

 

突然の指名にモスクが固まっている間に話は進む。

 

「彼が研究しているマグネットコーティング理論は素晴らしいものだ。これを使えば低出力のフィールドモーターでも十分なトルクが得られる」

 

「い、いや。あの理論は反応速度を向上させるものであって…」

 

モスクの小声の反論は当然のように無視されレイ大尉の熱弁は続く。

 

「表題は反応速度の向上とあるが、ここで注目すべきは摩擦抵抗の低減だ。駆動時の抵抗を減らすことで必要なトルクを減らすことが出来る。射撃時は関節部に瞬間的なロック機構を追加すれば保持の問題は解決できる。これだけでコストの大半を抑えることが出来るのだ。正にこの機体の成否はハン博士に掛かっていると言っても過言ではないだろう」

 

降って湧いた重責に声ならぬ声で悲鳴を上げるが、乗りに乗ったレイ大尉は止まらない。

 

「この機体に求められる性質上学習型コンピューターの搭載は必須だが、ガンダムのものは複雑な上にコストも高い。そこでこの機体にはデータ収集機能だけを付与した簡易版を搭載する。データは随伴する中継機に送られ、これを各基地のサーバーで統合、最適化し前線へとフィードバックする。こうすることで万一機体が失われてもパイロットが生きていればすぐに同じ戦力として再投入が可能だ」

 

聴き入っているオーガスタ組の中には興奮して頬を紅潮させている者までいる。モスクもその気持ちは良く解った。ここに来るまで新型機開発という漠然とした指示に期待を膨らませる一方で多くの不安があったことも事実だ。だが、強力にリーダーシップを発揮しているレイ大尉を見ていると、これならばやれる、この人となら造り上げることが出来るという自信とでも言うべきものが湧いてくるのを感じた。

 

「さあ、諸君。議論は尽きないだろうが残念ながら時間は有限だ。今はまずコイツを造り上げる。そこから始めよう」

 

後にモスクはこの頃の自分たちを振り返り自伝にこう記している。

我々は正に狂奔の中であれらを生み出していった、と。




うわテムつよい。

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