起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月分です。



第五十六話:0079/08/29 マ・クベ(偽)と牙無しの魔獣-前編

「つまり、サイド7で連邦がMSの開発を行なっていると?」

 

送った資料を見ながらそう確認してきたキシリア様に首肯しながら口を開く。

 

「信用出来る情報筋ですので間違いないでしょう。ついでに資料として納品しているフィールドモーターも譲渡したいと」

 

「グラナダへ入ることは許可できんが取引は前向きに検討する。それにしてもルナリアンと言うのは抜け目のない連中だな」

 

そう言ってキシリア様は鼻を鳴らした。それ、全く褒めてませんよね。

 

「つきましては、こちらでも研究用に幾つかフィールドモーターを送って頂きたいのです。それからフラナガン機関…失礼、フラナガン医療センターに入院しております娘を一人、寄こして欲しいのですが」

 

「…娘?」

 

怪訝そうに眉を顰めるキシリア様に経緯を話す。

 

「先日、基地におりますフラナガン博士から推薦がありまして。何でも機械構造に類い稀な才覚を示す娘だそうで。是非オデッサで学ばせたいとの事です」

 

「ふん…確かに学ぶなら貴様の所が好都合か。宜しい、手配しておく。他は?」

 

顎に手をやって考えるポーズを維持したまま聞いてくるキシリア様。今回はすんなり許可出たなぁ。

 

「はい、いいえキシリア様、申し上げたい内容は以上であります」

 

「うん、ではこの件はドズル兄上にも伝えておく。ああ、ガルマが何やらMSの件で相談したいと言っていたぞ。後で連絡しておけ、以上だ」

 

欧州方面軍の定例会議でついV作戦の事を喋ったら、そんな情報こっちに上がってきてねえぞ、キリキリ吐けとキシリア様からお叱り頂いた。俺はもう少し沈黙の価値を知った方が良いと思う。

 

「まあ、あのルナリアン達のことだ。どうせ連邦からも毟っているだろうな」

 

ジオン軍の攻撃で各サイドが壊滅している現在、月面都市の存在はジオン、連邦双方に大きな影響を与えている。連邦にしてみれば地球で精製、製造できない工業部品や合金の貴重な入手元だし、ジオンにしてみれば軍需優先のために不足しがちな民需物資の供給源だ。この戦争が長引けば長引くだけ儲かり、双方が消耗すればするほど立場が上がる。だとすれば連中のことだ、なるだけ戦争が長引くよう立ち回ることだろう。

 

「大方、作業機械あたりにでもフィールドモーターを民生品としてくくりつけて送っているかな?」

 

資材運搬用のトレーラーまでサイド6で流石に止めないだろうし。いや、下手すると独自の航路を使って送っている可能性もあるか。何せ宇宙世紀以前からの老舗だしなぁ。悪巧みさせたら文字通り天下一だろう。

 

「ひぃっ!た、大佐!?」

 

そんなことをつらつら考えていたのが悪かったのか、小腹が空いたので食堂へふらふらと向かっていたら通路で誰かとぶつかった。

おっとごめんよ、無事かい?なんて紳士に脳内で考えながら手を差し伸べたら悲鳴を上げられたでござる。

 

「…怪我はないかね?伍長」

 

「はい、大佐殿!問題ありません!」

 

お、おう。元気良いな。即行で立ち上がって不動の敬礼をしてくる伍長を眺めていたら、なんか一緒にいた連中が距離を取りつつコントを始めた。

 

「リベリオ…良い奴だったのに…」

 

「諦めろ。奴は運がなかったのさ…」

 

まったく、上官からかうのは良いけどちゃんと相手見てやれよ?世の中には融通のきかん奴だっているんだからな?…いやまて、もしかして俺もダグ大尉みたいに甘えられちゃってる?マ、なめられちゃってます?いかん、それはいかんよチミィ。

 

「…ふむ、どうやら教育が足りなかったようだな?」

 

俺の言葉に固まるマルコシアス君達、だが残念、ちょっと遅かったなぁ!

 

「丁度良い、食事前に少しレクリエーションといこうじゃないか」

 

 

「それで、何で俺たちが呼ばれてるんで?旦那」

 

「私はこれでも部下思いでね。折角だから本当の敵の実力を教えてやろうと言う訳さ」

 

研究用と称して引っ張ってきた陸戦型ガンダムのコックピットを模倣したシミュレーターを前に苦々しい表情のスレイブレイスの面々に悪い笑顔でそう返す。

 

「つか、何でこんなもんがあるんだ?」

 

「色々とあるのさ、色々とね」

 

不思議そうに首をかしげるフレッド君にそう笑いながら答える。相手の装備を十全に動かせる潜入工作員とか、どっかのジェームス君も真っ青じゃない?

 

「ついでに真面目に働いている君へのサービスさ、トラヴィス中尉。ほら、モニターの左から二番目、どことなく面影が残っていると思わんかね?」

 

近づいて小声でそう告げてやると、完全に人殺しの目で睨み付けられた。ふふふ、4月頃だったらちびってたな。

 

「しっかりと敵の怖さを教えてやりたまえ」

 

そう言って今度は別室で待機していたマルコシアス隊のメンバーの所へ向かう。

 

「さて、待たせたね諸君。今日のお相手は特別なのを用意したぞ?」

 

「特別…でありますか?」

 

代表して答えるダグ大尉に笑顔で答えてやる。

 

「ああ。先日連邦から亡命した義勇兵が今日の君達の相手だ。と言っても人数が少ないからね。小隊同士でやり合って貰うが残っている連中は私が面倒を見てやろう。心配するな、今日はこちらも小隊でやる」

 

ウラガンにちょっとマルコシアス君達と遊んでくるわって連絡したらでっかい溜息を吐かれて、お守りをつけられた。前回やった訓練後の執務で疲れて居眠りしたのが不味かったな。

 

「エリオラ・イグナチェフ大尉であります。本日は大佐の僚機を務めさせて頂きます」

 

「エイミー・パーシング少尉であります!同じく大佐の僚機を務めます!宜しくお願いします!」

 

流石ウラガン。俺に対してえげつない面子を寄こしてくる。ちなみにエリオラ大尉MS乗れたんだ?なんて言ったら、

 

「淑女の嗜み程度には」

 

なんて笑顔で返された。なに、サイド3の女学園にはMS道みたいな選択科目でもあんの?特殊なカーボンで安全なの?是非欲しいからあったらその技術ください。エイミー少尉もいつの間にって聞いたら、

 

「大丈夫です!大佐のデータは全て閲覧済みです!」

 

とか、実に不安を煽る発言をかましてくれた。うん、何が大丈夫なんだろうね?

 

「宜しい、即興ではあるが我々はチームだ。よろしく頼む」

 

そう言って俺はシミュレーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

「…これが、敵のMS!」

 

ヴィンセント・グライスナー曹長はシミュレーションとは言え初めて遭遇する人型の敵に言いようのない恐怖を覚えた。

既に連邦がMSの開発に成功し実戦投入している。その事自体は前線に伝わってはいたものの、遭遇報告はごく稀、しかも大半はグフⅡに搭乗したベテランが対応していたためヴィンセント自身が正面から対峙する機会は今までなかったのだ。

 

「大丈夫だ、ヴィンス。ありゃ大佐よりは弱そうだ」

 

僚機のリベリオがそう軽口を叩いた。

 

「それって比較になるのかよ?」

 

シュナイド隊長まで含めての文字通りマルコシアス隊全員で挑んで見事に返り討ちにあった記憶は新しい。

 

「シミュレーションだからと気を抜くなリベリオ伍長!来るぞ!」

 

シュナイド隊長の叱責と共に敵機が動いた。カーキとオレンジに塗られたMSはジオンの機体に比べると直線的なシルエットで構成されている。こちらと同じ3機で編成された敵部隊は、それぞれ違った得物を握っていた。

 

「…コイツは!ヴィンセント!盾持ちを牽制しろ!リベリオは後ろのバズーカ持ちだ!無理に撃破を狙わず射撃を妨害しろ!二丁持ちを俺が片付ける!」

 

「「了解!」」

 

言葉と同時、ヴィンセント達は散開する。ザクとは比べものにならない加速を見せる乗機に軽い興奮を覚えながら、こまめなステップを挟みつつ近づいてくる盾持ちへ向けてマシンガンを放つ。しかしそれはサイドステップで躱されてしまった。

 

「っ!上手い!だが運動性はこちらが上だ!」

 

そう言って追撃を仕掛けようとした瞬間、リベリオが鋭く叫んだ。

 

「ヴィンス!」

 

その声を聞いたヴィンセントは咄嗟に機体の進路を強引に変えた。おかげで追撃の機会は失われたが、同時に自分が居た進路上をバズーカがかすめていくのを目にし、自分が盾持ちにまんまと誘われたことを理解した。

 

「腕はほぼ同じ、機体性能はこちらが上…連携は圧倒的に向こうが上か」

 

苦々しく思いながらもヴィンセントはそれを認める。部隊の中では比較的連携の取れているヴィンセントの小隊ではあったが、その多くはシュナイド隊長のフォローに頼っている部分が大きい。結果、要の隊長が拘束された途端部隊としての機能は著しく低下してしまい、交戦から数分と経たずにヴィンセント達は全員仲良く戦死判定を貰ったのだった。




ちょっと長くなったので前後編にしてみました。

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