起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第五十七話:0079/08/29 マ・クベ(偽)と牙無しの魔獣-後編

『畜生!来るな!来るなぁ!?』

 

通信越しに相手の絶叫が聞こえる。スレイブレイス達との訓練がメインなので、俺とマルコシアス君達とは教習モード、つまり通信チャンネルが全員繋がった状態でやっている。

 

「よそ見は感心しませんね?」

 

接近する俺に気を取られて動きが単調になったドムをエリオラ大尉が175ミリで正確に撃ち抜く。さっきからこの人コックピットを一撃ばっかりしてるんだけど殺意高すぎませんかね?

 

「わっわっわ!なぁんとぉぉ!」

 

一方残りの一機を抑えているエイミー少尉は愉快なかけ声と共にチャンバラに勤しんでいる。射撃が素直すぎてバズーカを早々に撃ち切ってしまったからだ。これも性格なんだろうなあ。

 

『ああ、ジャン!くそっどけぇ!』

 

「うわっととと!?」

 

エイミー少尉の機体を強引に押し飛ばして、ドムがエリオラ大尉に迫る。だがそれはあまりにも無謀な選択だ。

 

「そう言う時は身を隠すんです」

 

どっかで聞いたような台詞を吐きながら狙撃砲を投げ捨てるやエリオラ大尉は、突っ込んできたドムの顔面に綺麗なストレートをぶち込み転倒させると、コックピットへヒートサーベルを突き刺した。こう、突き刺した後ゴリゴリネジネジ入念に潰してるんですけどエリオラ大尉マルコシアス君達に何か恨みでもあるんですかね?

 

「トドメはきっちりと。生き返られても困りますから」

 

それを笑顔で言える貴女が俺はとても怖いです。

 

 

 

 

撃墜され、ブラックアウトしたモニターを眺めながらセベロ・オズワルド曹長は溜息を吐いた。セベロは隊の中でも最も成績が優秀なメンバーで構成されたA小隊を率いている。つまりダグ大尉を除けば、部隊で一番腕が立つパイロットと言うことだ。だが、そんな自負や自尊心などここでは何の役にも立たないことを着任から数日で痛いほど思い知らされた。

 

「話にならん。君達は本当に軍人かね?」

 

21対1という、勝っても負けても恥をさらす戦いに見事敗北した後、対戦相手だった大佐から放たれた言葉だ。当初セベロは、自分たちの練度の低さを指摘されたと考え、その上で何も言い返せないと口を噤んだ。確かに大佐は新型機であるドムに乗っていたが、そんなことはあの物量差の前では些細すぎる違いだ。加えて大佐は落ち込むセベロ達に追い打ちをかけてきた。

 

「現時刻をもってマルコシアス隊は解散とする。特別競合についても即時廃止だ」

 

隊の何人かはその言葉に怒りをあらわにしたが、セベロはむしろ納得してしまった。本物のエースと自分の実力差を痛感してしまったからだ。同時に肩に乗っていた重しが取れたような感覚をセベロは味わっていた。部隊で最も優秀という事は、つまり常に追われる側であるという事だ。戦場でも、基地でも気を抜けない。追い落とされない為に常に走り続けていたセベロにとって、特別競合の廃止はそうした緊張の糸を切る意味を持っていたのだ。その事に彼は思わず自嘲してしまう。栄達の道が閉ざされたというのに、それに安堵するとは。祖国の独立に殉ずる覚悟は出来ていたつもりだが、思っていたよりも自分は弱い人間だったようだ。

 

「クソ!…すまん、セベロ」

 

「あ、ああ。いや、こちらのカバーが足りなかった。数的不利になった時点で仕切り直すべきだったよ。こちらこそすまない」

 

通信越しに聞こえてきたジャン・ルイ伍長の声で現実に引き戻されたセベロは、互いに自然と謝罪の言葉が出たことに密かに驚いていた。ジャンは総合成績では中の上と言った所だが、パイロットとしての技量はセベロとほぼ変わらない。以前であれば謝罪では無く援護が無かった事への不満を口にし、こちらの指示通りに動かなかったとセベロも言い返していただろう。

 

「それを言ったら私こそごめんなさい、あんなに簡単に墜とされなきゃ…」

 

そう言って最初に撃墜されたカルメン伍長が落ち込む。だが、セベロに言わせれば大佐を一人で抑えるべく戦っていたカルメンはむしろ良く持ちこたえた方だ。むしろその間に他の機体を落とせなかった自分たちが責められる事はあれど、カルメンに責任を求めるのは筋違いだろう。

 

『ドムはザクに比べ高速な分距離が離れやすい、その点に留意して早めに指示を出すと良い』

 

落ち込む二人にどう言葉を掛けるべきか悩んでいると、何処か気の抜けた声が通信に混ざった。

 

「た、大佐!?」

 

『三人とも既にドムの操作は掴めている。後はそれに合わせた戦術を覚えるだけだな』

 

流石は選別されるだけのことはある。そんな数日前とは真逆の評価に戸惑っていると大佐は笑いながら続けた。

 

『次にやる時はより手強くなっていることを期待する。では交代だ、曹長』

 

 

 

 

いやあ、A小隊のメンバーは中々やるじゃない。思わず興奮して声かけちゃったよ。技量や経験に関して言えばまだまだだけど、あの着任したての頃の破落戸みたいな戦い方に比べたら雲泥の差だ。さっきの戦いだってしっかりと作戦を立てて、お互いにフォローしあって戦っていた。元々選抜されるくらいだから技量は確かだし、これで連携の経験が増えれば一人前の部隊として戦えるだろう。やっぱり競合とかで変にライバル心が刺激されてそれが悪い方向に出てたんだろうなぁ。

 

「お優しいのですね、大佐」

 

「部下にやる気を出させるのも上司の務めだろう。それに彼らが強くなれば私にもリターンがある、サービスくらいするさ」

 

部隊が強くなればなるだけ全体の生存率が上がる。俺の目的を達成するにはこれ程価値のある事もあるまい。そんな事を考えながら通信チャンネルを弄る。G小隊とレイス達の模擬戦も終わったようであれこれ話している。なんか原作みたくトラヴィス中尉とヴィンセント曹長が何か探り探り喋ってて微笑ましい。あとフレッド君とダグ大尉は随分馬が合ったのか何か強敵と書いて友と読む的な雰囲気を出している。で、それ見てお互い苦労するといった苦笑を交えて射撃についてマーヴィン君とリベリオ伍長が話している。中々良い雰囲気だ。

…でもちゃんと躾はせんといかんよなぁ?

 

「さて、エリオラ大尉、エイミー少尉。そろそろ次の模擬戦に移るぞ」

 

「はい、大佐」

 

「りょ、了解です!」

 

うん、ちょっとエイミー少尉が疲れているかな?でもやるっつったからにはちゃんとやって貰う。

 

「エイミー少尉、疲れているな?君の操縦は常に全力を出しすぎている。もっと途中で休憩を挟みたまえ」

 

「はい!申し訳ありません!」

 

これはもう性格なんだろうなぁ。

 

「エイミー少尉、意地を見せるのは結構だが己の限界を見誤るな。むしろ抱え込み自滅する事を恐れたまえ」

 

この手の連中はどうも誰かの手を借りることを甘えや相手に迷惑をかけると考えている。

無論何でもかんでも手伝わせていればそうだろうが、自分に出来ない事を抱え込んでも同じ思考で乗り切ろうとしてしまう。学生の勉強ならそれもまた良いだろうが、残念ながらここは軍隊で、我々は兵士だ。己の成長も大事だが、それより先に問題の解決を優先しなければならない。そうしなければ死ぬからだ。

 

「しかし、それでは大佐達のご負担に」

 

「君の見ていた大佐とやらは部下のフォローもできんほど頼り無かったか。それはすまなかった。では、頼りない大佐のために口に出して教えてくれんかね?」

 

と言うか口に出して貰わんとこっちでも把握しきれない。この辺はソロプレイが多い俺の落ち度だよなぁ、むしろ隊の指揮は後方で射撃に専念しているエリオラ大尉に任せた方がいいかもしんない。

 

「私の能力不足だ。君達の状況を完全に把握しながら戦うのは難しい。そうだな、エリオラ大尉、悪いが次の模擬戦では指揮を頼む。後方に配置出来る分私よりマシだろう」

 

俺の言葉に息を呑む二人。何さ。

 

「…私が大佐に指示を?」

 

「指示通りに出来る保証はしかねるが、期待に添うよう努力しよう」

 

俺の言葉に一瞬間が空いた後、堪えきれないように笑い出す二人。だから何なのさ。

 

「了解しました。エリオラ・イグナチェフ大尉。本小隊の指揮を預かります」

 

「よろしく頼む。さて、まだ5戦も残っているんだ。テンポ良く行こう」

 

この日の模擬戦は前回と同様マルコシアス隊が全敗という記録だったが、終わった後の表情は前回とは全く違っていたと見た者達は語っている。




魔獣の調教無事完了

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