起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。
いよいよ奴が登場ですよ!


第五十八話:0079/09/01 マ・クベ(偽)と赤い彗星

「大佐の送ってくれた新型ギャロップは中々好評だぞ」

 

上機嫌にそう言うのはガルマ様だ。北欧の攻略にガウを都合して貰った分、中米地域の火力支援にでもと先日完成した改良型のギャロップを送ったのだ。まあ、あれをギャロップの改良と言って良いかは微妙だが。

 

「いえ、ガルマ様にも随分と骨を折って頂いておりますので。少しでもお返しになったのなら幸いです」

 

北米の各都市を恭順させてくれたおかげで工業製品や民需物資なんかの確保がかなり楽になっている。特に北米に拠点を置いていた所謂中小企業の技術者や作業員をこちらに引き入れられたのは大きい。鹵獲していた連邦軍の装備、特に後方で運用するトラックや四駆などの軽車両を補修可能になったから、これらを一気に補充できたため補給面はかなり楽になった。更に割り振っていた生産のリソースを武器に使えるのも有り難い。

 

「しかし、最初は驚いたよ。改良されたら主砲が無くなっているんだからな!受領した補給担当の困り顔は今でも思い出せるぞ?」

 

ですよねー。でもしょうが無かったんだ。色々弄って貰ったんだけど、タカミ中尉以外全員がどう考えてもこの主砲ジャマって答えしか出さねえんだもん。そんで俺が火力は上げたいよねって言ったもんだから、皆困って迷走して危うくホバー式ダブデで良いんじゃねなんて結論にたどり着こうとしてたから慌てて突っ込んだのだ。

 

「いや、カーゴに積めば良いだろう?」

 

なんせギャロップ、本体がほぼ格納庫で埋まっているから移動拠点として使うにはカーゴを装備することが前提になる。そして忘れられがちなのだが、こいつ元々カーゴ牽引用として設計されていたから、複数のカーゴを連結・牽引出来る出力があるのだ。

 

「砲戦用カーゴという文字をリストで見た時は私も目を疑ったがね」

 

見てて、これ基本的にはホバーになった装甲列車だよなぁって思ったらつい口にしちゃったんだよ。それをガチで使える兵器にしちゃう我がオデッサ技術部の皆さんはちょっと練度が上がりすぎている気がする。いいぞもっとやれ。

 

「ビッター少将は後2ヶ月早く欲しかったとぼやいていたがね。…さて、話したいことは幾らでもあるが、本題に入ろう。赤い彗星は知っているかな?」

 

「…面識はありませんが。彼が何か?」

 

いきなり名前が出てきておもわず固まっちまった。

 

「先日情報部が大佐の情報を基に精査した結果、連邦がV作戦なる計画を進めていることが確定した」

 

判明、じゃなく確定か。こりゃ結構情報集めてたな?

 

「つまりサイド7がその計画の中心だと?」

 

「そこまでは解らん。しかし少なくとも有力な拠点である事は間違いないだろう。ドズル兄さんは、赤い彗星に潜入調査を命じたそうだ」

 

その言葉に嫌な汗が流れるのを感じる。おいおい、なんでこんな所で原作に忠実なイベントが発生してんだよ?

 

「…成程。しかし潜入ですか」

 

「うん?何か問題か?」

 

怪訝そうな表情を浮かべる。同期だし親友だしで彼の腕を疑っていない故の言動だろう。

 

「彼の技量を疑う訳ではないのです。ただ、潜入となれば個々の技量もですがそれ以上に部下の統率が重要になりましょう」

 

原作ではそこで失敗している訳だし。つうか、あいつパイロットに拘りすぎてると思うんだよね。アレでどうザビ家に復讐するつもりだったんだろう?俺ならもっと部隊を動かす立場になって同志を集めて反乱とか計画するけど。結局の所担がれるのも嫌だ、ザビ家も嫌だでやることが半端なんだよなあ。

 

「…確かに。幾らシャアが優秀でも周りが下手を打てば意味が無いか。人員の選定についてもう一度精査するよう兄さんに進言してみよう。やはり大佐に話して正解だな、これからもよろしく頼む」

 

そう笑顔で言うガルマ様を見て、俺は机の下で握った拳に力を込めた。頼むから、厄介なことになってくれるなよ?

 

 

 

 

「出撃中止命令だと?一体どうしたと言うのだ?」

 

補給を済ませ、いざ艦を発進させようと管制に連絡した矢先の命令にシャア・アズナブル少佐は首をかしげた。事前に知らされている内容からすれば、既にサイド7で宇宙用MSが開発されている事は明白だ。だとすれば出撃を繰り上げられることはあれど、遅らせる理由など無いように思えるが。

 

「はい、部隊編成について再考するため暫し待て。とのことです」

 

「兵は拙速を尊ぶと言うが…命令では致し方ないか」

 

手渡された命令書を読みつつ溜息を吐く。仕方が無いとは口にしたものの、シャアは内心安堵していた。潜入作戦と言う事で全員分のS型が支給されたものの、それ以外は既存の部隊と何ら変わらない編成だ。しかも現在部下として与えられているメンバーはお世辞にも練度が高いとは言い難い。特に新入りのジーン伍長はパイロットとしての技量は高いが、その分周囲の指示や忠告を軽んじるきらいがある。ベテランのデニム曹長はともかくスレンダー軍曹もよく言えば慎重、正直に言えば臆病で戦力として頼りないと言うのが本音だ。無論情報収集活動であるから戦闘にはならないとは思う反面、不測の事態への対処能力に乏しいというのは心許ない。ドズル中将にそれだけ信頼されている証と考えられもするが。

 

「しかしここまで来ての待機とは、ドズル閣下にしては珍しいな」

 

作戦開始前はあれこれと悩むタイプだが、いざ始まれば即断即決を絵に描いたような指揮をするドズル中将にしては珍しいタイミングに思えそう口にすると、事情をある程度収集していたのか副官のドレン少尉が口を開いた。

 

「何でもガルマ大佐から忠告があったとか。大佐は例の北米基地で手痛い思いをしていますから、それで我々の戦力に不安を持ったのではないか、という噂ですな」

 

「ほう、ガルマ大佐がね…いつまでもお坊ちゃんではない、と言うことかな?」

 

シャアがそう言うとドレン少尉は何とも言えない表情を作った。己の失言に気付き笑いながらドレン少尉の肩を叩く。

 

「いかんな、学生気分が抜けていないのは私も同様なようだ。すまないが聞かなかったことにしてくれ」

 

その言葉に安堵の笑みを浮かべつつドレン少尉は無言で敬礼を返してきた。その仕草に肩をすくめているとオペレーターが正式に出撃中止の指令書を手渡して来た。

 

「ふむ、これは今日明日では動けんな。ドレン、腕が鈍らんように訓練を行なう。10分後にMSハンガーへ集合するようデニム達に伝えろ」

 

そう言うと自身もハンガーへ向かうべくブリッジを出る。人通りの少ない通路を進みながらシャアは考えた。

 

(あのガルマが献策とは。…ここの所聞く評判も以前のようなお飾りというわけでは無い)

 

「…迷っているというのか。何を今更」

 

ザビ家への復讐。その為に最早救えない過ちすら犯した自分が今更躊躇してどうする。そう思うと同時に、スペースノイド、否人類のこの先を憂うなら私心を捨ててジオンの勝利に身を捧げるべきでは無いかという思いも確かに存在している。

 

「一度見極めねばならんか」

 

それは同時に、自らの行いを過ちであると認めるに等しい行為だ。

 

「ガルマ、君は良い友人止まりか?…それとも」

 

自らが本当に望むものはなんなのか。明確な答えを出せぬまま、シャアはハンガーへと入っていった。

 

 

 

 

「まあ、そうなるな」

 

大量に積み上げられた報告書という名の苦情の山を前に溜息を吐く。先日連邦の新兵器ゲシュペンストの対策として技術本部から装備が回されてきたんだけど。

 

「火炎放射器付き爆撃機って、何だ?」

 

頬を引きつらせながらそうユーリ少将が聞いてきたけど、そんなん俺に聞かれても困る。なんでこんなの送ってきた!?何でだ!?言え!って連絡したら、曰くゲシュペンストの正体を見破った上での対抗兵器だと返ってきた。え、解ったの?マジで?慌てて詳細聞いたら、何と連中歩兵でビーム兵器を運用してやがるとのこと。おいおい、連邦さんチートすぎんよー。エネルギーCAP出来てまだ一ヶ月じゃん、何歩兵がビーム撃ってくるとか。星戦争やヤ○トじゃねえんだから勘弁してくれよ。んで、歩兵は解ったけど何で火炎放射器?

 

「開発者曰く、状況からして運用状況は待ち伏せである事から高度に隠蔽、陣地構築を行なっている可能性が高く、通常の爆撃では効果が見込めない。また非誘導の燃焼弾頭では確実性に欠ける事から火炎放射器を選定した。とのことです」

 

ナルホドネー。実に天才な発想だね。所でその高度に隠蔽された歩兵をどう正確に見つけて炎を噴射するつもりだったか是非実践して頂きたい。

 

「どうします?これ」

 

ハンガーを占領する勢いで運び込まれたド・ダイGA型を前に頭をかいていたシゲル中尉に溜息を吐きながら答える。

 

「全部外して換わりに気化爆弾でも詰めといてくれ。目標の位置が特定できん以上面で制圧する方が現実的だ」

 

そもそもこれ、撃たれた後の対処であってこっちの損害が減らせねえじゃねぇか。いや、まあ、いずれ歩兵が全滅すれば被害は減るだろうけど、それまでMS部隊に撃たれ続けろとか温厚なデル軍曹でもダッシュで殴りかかってくるぞ?

 

「これは一度話さねばならんかもしれんなぁ」

 

俺の言葉に横に居たジョーイ君が震えた気がした。何だったんだろう?




イケメン仮面さんは難しい(色々な意味で)

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