起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月分です


第五話:0079/04/24 マ・クベ(偽)は激怒した

少将に啖呵を切った後。取り敢えず3日ほど使って計画書をまとめて参謀達に後の細かい調整を丸投げしつつ、いい加減本業に戻すか代理人オデッサに派遣しろよ、とユーリ少将に文句言いに行ったらあっさり解放された。オデッサに帰ろうとしたら何故か沢山の兵士達が見送ってくれた、解せぬ。

そして6日ぶりに帰ってきましたオデッサ。私は帰ってきたぁ!とか思わずガトーごっこを脳内でしていたら、ゲートでウラガンが恭しく迎えてくれた。昨日までのお付きとの差に思わず泣いてしまい見ていた一同にドン引きされたが、俺は悪くないと思う。

さて、そんな感動の再会から3日ほど経った本日、俺は自身の執務室で土留色した顔の男子達と楽しいおしゃべりに興じていた。

 

「よく来てくれた。早速だがこれを見て欲しい」

 

そう言って俺は目の前に並んだ男たちに紙の束を渡した。緊張のためか上手く掴めない彼らをせかさず、ゲンドースタイルで見守る。うんうん、超震えてるね。大丈夫、おいちゃんそんなに怒ってないから。

リラックスさせてあげようと微笑みかけたのだが、更に顔色が悪くなった。左端の神経質そうな兄ちゃんなんか、脂汗かきながら膝が笑い始めてるんだけど。まあ、かわいそうとは思うが逃がす訳にはいかない。

 

「これは?」

 

「見ての通り、君たちに最も必要なデータだ」

 

渡したのは旧世紀の航空機の資料、それも詳細な設計データだ。

そう、いま目の前に居る彼らは何を隠そうジオンの迷戦闘機、ドップの開発チームなのである。先日帰ってくると基地防空機として配備されていたので、早速文句をつけたら何故かキシリア様から有り難い言葉を頂いた。

 

「ふむ、では貴様主導で後継機を準備せよ」

 

どう聞いても無茶ぶりです、本当に(ry

通信から1時間後には開発チームの連中を3日後に送るから準備しとけとの有り難いメールが届いた。あ、これ逃げられないやつですわ。

しょうがないのでバイコヌール基地とかに連絡取ったんだが、どこもひどい状態だった。

正直、キャリフォルニアで潜水艦鹵獲出来たくらいだから航空機の設計図くらいあるんじゃね?と聞いてみたのだが、電子データ類は片っ端から削除され、基地施設もほとんどが壊されていたらしい、むしろ工兵隊とか来てくれないかと相談された、無茶を言いよる。

ユーラシア方面軍の勤勉さを呪いながらちょっとご近所(モスクワ)まで足を延ばす。

案の定地下シェルターやら軍事基地は全滅だったが、連中、旧公文書館までは手が回りきらなかったようだ、実に僥倖。

電子データこそ削除されていたが、保管庫をぶち破れば旧ロシアの兵器データが大群でお出迎えしてくれた。ええ、片っ端から押収して現在データベース構築中です。

んで、今渡したのはとりあえずコピーを取った数十年前の骨董品ジェット戦闘機の設計図である。

 

「正直君たちには悪かったと思っている」

 

青さを通り越して死人みたいな顔で資料を読む開発チームの面々に声を掛ける。

いやまさかMS開発できるような技術者と企業が戦闘機造れないとは思わないじゃないか。

なんか変だと思って調べてみたら意外に答えは単純だった。

航空機設計に必要なデータ類は全て連邦によって秘匿されていたのだ。これもなかなか徹底していて、コロニー向けのものは個人レベルの設計ソフトに至るまで項目が削除されていた。おかげでこの人たちは航空力学の基礎も全くない状態から戦闘機を造る羽目になったのだ。そりゃ、宇宙艇に羽をはやしたような愉快なものになるわな。

 

「ゼロからあれだけのものを造ってくれた、それは感謝する。しかし現在の性能では残念ながら我々の要求は満たせていない」

 

俺の言葉に幾人かは顔を上げこちらを見た。相変わらず顔色は悪い、だがその目は興奮でギラギラと輝いていた。正直ちょっと怖い。

 

「だからすまないが、もう少し力を貸してくれないだろうか」

 

俺の言葉に力強くうなずく男たち、いいねいいね、燃えてるね、じゃあにいちゃん燃料投下しちゃうぞー。

 

「ありがとう、では当面の目標としてこのスペックの機体を開発する、期限は1ヶ月だ」

 

そう言って俺が要求書を渡したら何人かが泡吹いて倒れた、解せぬ。

 

 

 

 

その連絡が来たのは地上でのD3用生産ラインがやっと軌道に乗り、連日の徹夜から久方ぶりに解放された日の午後だった。数ヶ月ぶりの定時退社で同僚とどこかで飲もうかなんてたわいない世間話をしていたところに、主任が血相変えて飛び込んできた。

 

「よ、よし、全員居るな、緊急事態だ」

 

え、聞きたくない、全力で逃げ出したい、そんな俺たちの顔を見て主任が再度口を開いた。

 

「今、軍から連絡があった。D3の開発チームは至急荷物をまとめて地球に降りろだそうだ」

 

その言葉に重大なトラブルかと考えたがそれにしてはおかしい。もし大事なら軍からでなく、まず現地のスタッフから連絡がある筈だ。それに降りる位置も解らない。なんでヨーロッパ?うちの工場はキャリフォルニアにあるんだが。

 

「・・・どうも、欧州方面軍の幹部がD3に激怒したらしくてな、話を聞くから開発チームをこちらに送って寄こせと言ったらしい」

 

制服を着たお兄さんたちに有無を言わせないエスコートを受けながら乗ったシャトルで主任が洩らした。確かにあの機体は完璧とは言いがたい。だが提示された条件の中で最大限努力はしたし、少なくとも軍の要求は満たしていた。そして正直に言えば、今の設備と環境ではあれ以上の機体を提供することは出来ない。D3の採用にはそう言ったある種妥協も含まれていたのだが、まあ、前線の指揮官にすればそんな事は関係ないと言うことだろう。

主任が飛び込んできてから僅か3日で俺たちはオデッサのオフィスに通されていた。

目の前には政治将校と言われても信じてしまいそうな剣呑な雰囲気をまとった優男が一人、

爬虫類に通じる捕食者の視線に早くも気の弱いジョーイが体を震わせていると、事務的な挨拶のあと、男は分厚い紙束をこちらに渡してきた。訝しげな主任の言葉に、人の悪そうな笑みと共に挑発ともとれる言葉を男が発した。

ためらいがちに皆書類に目を通すが、そんなのは1ページ目だけで、すぐさま全員貪るように読み始めた。

それは俺たちが欲しても手に入れられなかった、航空機の詳細な開発報告書だったからだ。内容自体は旧世紀のもので随分と古いが、そんなことは大した問題では無い。なにせ俺たちはその大昔の情報すら持たずに造ろうとしていたのだから。

間違っても権力者の前でするべきじゃ無い態度で資料を読みあさっている俺たちに、男、基地司令のマ大佐は告げてくる。さあ、今度こそ本物の戦闘機を造れと。

皆の目に強い力を感じる、ここで引き下がったら技術者じゃ無い。そう決意を固める俺たちに司令はにこやかに死刑宣告をしてきた。

 

「ありがとう、では当面の目標としてこのスペックの機体を開発する、期限は1ヶ月だ」

 

そこにはD3など話にならないトンデモ要求が書かれていた、あ、これ死んだわ。

真っ暗になっていく視界の片隅でジョーイが泡を吹いて倒れるのを見ながら、俺も意識を手放した。

 

 

 

 

うん、長旅で疲れてた人にいきなり仕事の話は不味かったね、反省反省。とりあえず控えていた兵士の皆さんに医務室に連れてってあげてと頼んだら、素早くお米様だっこで連れて行った。もうちょっと丁寧に運んであげても良いんじゃ無いかと考えたところで、そういえば担架とかそういうのが不足してるのかという所に思考が行き着く。後で確認せねば。

そんな事を考えつつ、もう一件の案件を片付けるべく、隣の部屋で待たせていた人物を呼び出した。

 

「待たせてしまったかな。すまないがちょっと立て込んでいてね」

 

「はい、いいえ大佐殿、問題ありません」

 

疲労を感じさせない返答に思わず口元をほころばせる。

 

「ならば良かった。デメジエール・ソンネン少佐、オデッサへようこそ。貴官の働きに期待する」




ガンダムなのにMSが活躍しません、と言うか戦闘描写が無いですね。
でも暫くこんな感じです。

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