起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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何がとは言いませんがまた欧州行きらしいですね。
資源備蓄しなきゃ。そんな訳で今週分です。



第六十話:0079/09/10 マ・クベ(偽)と別れ

鋭く突き出された光刃を無理矢理機体を捻って躱す。視界がレッドアウトしかけるが、そんなことに構っている余裕はない。舌打ちをしながらサブアームに装備した90ミリをばらまきつつ後退、何とか距離を取った瞬間、機体を今度は光条がかすめた。あっぶねぇ!乱数回避してなかったら直撃してたぞ!?

 

『アレを避ける!?相変わらず厄介な!』

 

向こうも驚いているようだが俺の方が驚きだ。今までなら得意な距離で戦おうと強引に距離を詰めてきたのに、今では当たり前のように射撃戦に移行してくる。

 

「いつの間に射撃を訓練したのかね。全く、ウチの連中は手加減を知らん!」

 

デスクワークばっかの大佐相手に酷い仕打ちだよ。

 

『その言葉そっくり返させて頂きます。さあ、今日こそその首もらい受ける!』

 

サブアームにビームが当たり、90ミリが吹き飛ぶ。既に反対側のアームに装備していたバズーカは撃ち切ってパージしている。こちらの射撃武装が無くなったのを好機とみたのだろう。残弾の少なくなったビームライフルを投げ捨て、シン大尉は再びサーベルを発振させながら肉薄してきた。

 

「詰めが甘いな、大尉」

 

だが褒めてやろう!この奥の手を使わせたことを!なんてノリノリで機体の胸を反らし、マルチランチャーを向ける。必殺!ドムフラッシュ!(実弾)

 

『なぁ!?』

 

撃ち出されたスタングレネードが最短距離で突っ込んできていたシン大尉の機体直前で炸裂し、メインカメラをほんの数秒だけ焼き付かせる。そしてその数秒は俺には十分な時間だった。

 

「切り札を使うなら奥の手も用意しておきたまえ、次までの宿題にしておこう」

 

オートバランスだけで突っ込んでくる機体にシールドバッシュをかまして倒し、コックピットへヒートソードを突き立てる。同時にシミュレーターが終了を告げてきた。

 

「やれやれ、最後くらい花を持たせてくれても良いでしょう?」

 

そんなことをぼやきながらシミュレーターから降りてくるシン大尉にドヤ顔で言い返してやる。

 

「大尉のようなエース相手に手を抜くなど、そちらの方が余程失礼だろう?」

 

俺の言葉に一瞬呆けた顔になった後、苦笑しながらシン大尉は肯定の返事をしてきた。そして感触を思い出すように手を閉じたり開いたりしながらシミュレーターを振り返った。

 

「しかし、R-2は素晴らしい機体ですな。汎用機であそこまでやれるとは」

 

そう、先ほどまで戦っていたのはジオニックがビーム兵器対応及び宇宙、地上両用機として制作したザクⅡR型の改良機、通称R-2型だ。今は地上でのデータ収集という名目で試作機一機とそのシミュレーターデータがオデッサに回されている。

 

「ああ、ジオニックも良い仕事をする。アレが量産されれば宇宙での我が軍の優勢は盤石な物になるだろう」

 

そう肯定すれば大尉も力強く頷いた。何だかんだでやっぱりパイロットの性分なのだろう。その顔はどこか少年のように輝いている。まあ、量産されないんだけどね!

何せコイツ本命のゲルググの為にビーム兵器と対ビームコーティングの性能を調べるためのテストベッドだし。おかげでR型の方は史実より増産されたけど、こっちは試作4機で終了予定だ。ただ、今後の部品供給を考えて消耗部品の多くをゲルググと共有する試験も兼ねていて、上手くいけば今のR型を順次このR-2モドキに更新していくらしい。折角だったんで、バックパックにドロップタンク追加したら?って言ったら、設計チームが何で最初に言ってくれない!?って発狂したらしい。ごめん、その頃まだ俺インストールされてなかったんだわ。

ちなみになんでウチで試験なんかしてるかと言えば、どうも連邦は躍起になってオデッサから情報を引き抜こうとしているから、ならオデッサで秘密っぽくテストしてりゃ本命のゲルググから目をそらせるんじゃね?という安直な考えらしい。あと、ジオニック社から直々にどうせデータ取るなら是非オデッサがいい!なんて要望もあったそうな。まあ、ウチの皆は腕が立つからね。

 

「宇宙…早いものです。先日こちらに来たばかりだと思っていましたが」

 

そう言ってちょっと寂しそうな表情になるシン大尉。そう、シン大尉とアナベル大尉は2ヶ月の研修を終えて今週末の定期便で宇宙へ帰る。戻り次第彼らは少佐に昇進しそれぞれの艦隊を与えられる予定だ。ちなみに彼らと交換で突撃機動軍からはキリング中佐とマレット大尉のイロモノコンビが送られており。体育会系なマレット大尉はそれなりに上手くやっていたらしいが、キリング中佐の方はあんまりにアレな発言をしまくったせいで、指導官だったコンスコン少将に顔の形が変わるくらい修正されたらしい。以前に比べれば男ぶりが上がったなんてキシリア様が愉快そうに言っていた。容赦ねえな。

 

「今よりちょっとばかり会うのが手間になる。それだけのことだよ大尉」

 

なんかしんみりしそうだったから、努めて軽く言う。今生の別れみたいに言うなよ。お互い兵隊なんだし縁起悪ぃだろ。

 

「はっはっは!ちょっとの手間と来ましたか。では、次の模擬戦まで精々腕を磨いておきましょう。ところで大佐、基地外の者が撃墜してもM資金は頂けるんですかな?」

 

は?なんぞそれ?

 

「おや?ご存じなかったので?ではあっちのレースも…これはまだまだアナベル大尉に頑張って貰わねば」

 

だから何だよレースって!?

 

「問題ありません。大佐の未来に少しばかり関係あることです」

 

その物言いで無視できる奴とか神経疑うんですけど!?笑いながら逃げるシン大尉を追いかけたが見事振り切られてしまい、一週間見事に逃げ切られアナベル大尉と二人仲良く宇宙へと帰っていくシン大尉をモヤモヤした気持ちで見送ることになった。ヤロウ今度職権乱用して呼び出しちゃるからな!

さて、そんなことがあった今週だが、それ以外大きな変化も無く基地は少し静かに…

 

「嘘は止めて頂きたい」

 

皆さんこんにちは、本日もオデッサはマの執務室からお送りしています。ただいまの発言は向かって左斜め前に増設された机に座る仏頂面、ウラガン大尉の発言です。おろしたての制服にキズ一つないピカピカの階級章という実にスタンダートなコーディネイト。全て無改造なのでマの改造制服が実に悪目立ちしますね。空気読んで肩にトゲくらい生やしてこい。

 

「ほらほら大佐。午後はアタシらと模擬戦なんでしょう?ちゃっちゃと済ませなさいな」

 

こちらは逆サイドに置かれた応接セットでのんびりお茶してらっしゃるシーマ中佐の発言。中佐になったのでちゃんと制服が届きました。普通に見慣れたあのSSっぽい服かなーと思ったら、またしても秘書官や本国の女性将校に大人気?のレディスーツタイプ。ヒールは低めだけどパンプスなんか履いちゃって、落ち着いた色のストッキングがこれでもかと強調されております。俺によーし。

 

「…ほほう、模擬戦ですか。ではそれまでにこちらの書類も処理してください。准将」

 

「……」

 

無言で対抗してみたら何故か良い笑顔になるウラガン。

 

「良い度胸です。そこだけは褒めておきましょう」

 

そう言って掴んでいた書類の束を倍プッシュ。俺は黙って席から立ち、ウラガンの前で土下座を敢行する。

 

「謝るくらいなら素直に最初から負けを認めりゃいいのに」

 

そう言って笑うのはデメジエール中佐だ。そう、何を隠そう我々、遂に昇進しちゃったのである。ウラガンに至っては何と二階級特進だ!まあ、申請したの俺だけど。ちなみに俺も晴れて准将になった訳だが。

 

「「なんか准将って呼び名、弱そう」」

 

なんて良く解らん理由で少佐ズ改め中佐ズにはいまだに大佐呼びされている。これ、混乱しませんかね?

 

「TPOは准将より弁えていらっしゃいますから問題無いでしょう」

 

うちの副官が辛辣な件。

そういや何処から知ったのかハマーンちゃんからもお祝いの連絡が来たんだよな。珍しくメールじゃなくて通信で。以前に比べるとかなり表情も明るく豊かになっておいちゃんほっこりしてしまいました。

 

 

 

 

「んっふふふふ~」

 

個人端末に移して貰ったデータを再生し、ハマーンはにんまりと相好を崩す。内容は3日程前に特別に許可のでたおじ様との通話ログだ。

 

「お久しぶりです、大佐!…あ、今は准将なのですよね、ご昇進おめでとうございます!」

 

「ありがとう、少し見ないうちに随分と綺麗になった。その服も似合っているよ、ハマーンさん」

 

穏やかに笑う大佐もとい准将は、ハマーンの、否この施設に居た全員の救世主だ。本人に言えば大げさだと笑うかもしれないが、少なくともハマーンはそう確信しているし、ほとんどの人間は賛同するだろう。今褒めてくれた服だって、以前だったら手に入れるどころか存在を知っていたかすら怪しい。週末に姉妹や親しい友人とウィンドウショッピングが出来るなんて、あの頃なら考えられない事だったからだ。

社交辞令が多分に含まれている、そう自分に言い聞かせても、頬が熱くなるのと鼓動が速まるのをハマーンは押さえられなかった。同年代の子達はアイドルの誰が良いとか素敵だと言うけれど、画面の中で当たり障りのない優しい言葉を紡ぐ男より、まず行動で示してくれた准将の方がずっと格好いいとハマーンは思う。少し目つきは鋭いけれど。

 

「それで、マレーネ姉様ったら食べ過ぎちゃったから試験の内容を増やして欲しいなんて言うんですよ?職員さんも困ってしまって。横で見ていて私、思わず笑ってしまって」

 

一方的に話し続けても、嫌な顔一つせず聞いてくれる准将。かといって適当に聞き流している訳でも無く、時折細かく内容を尋ねたり、自分の意見も述べてくれる。一人の人間として対等に接してくれているというのがよく伝わり、それが余計にハマーンを饒舌にさせる。そうなれば決められていた時間が経つのなど、正にあっと言う間だった。

 

「あ…。もう、時間」

 

「おや、そうなのかい?楽しい時間は過ぎるのが早いな」

 

その言葉が本心から発せられていると解ってしまうから、ハマーンの鼓動は益々高まる。故についそれが口から出たのは無理からぬ事だった。

 

「本当はもっと准将のお側でお話したいのですけれど」

 

その言葉に准将は困った顔になる。無理もない、今この人は地球で戦っているのだから。

 

「お願いを聞いてあげたいのだけれどね。ここはあまり安全じゃ無いんだ。私も長くは空けられないしね。けれど状況が落ち着いたら改めてこちらから伺うよ、約束だハマーンさん」

 

「…解りました。あの、准将。もう一つだけ、お願いしても良いですか」

 

「何かな?」

 

「ハマーンと呼び捨てて頂けませんか?さん付けはなんだか距離があって嫌です」

 

精一杯の言葉に准将は一瞬呆けた後、穏やかな笑みを浮かべ口を開く。

 

「解った。ハマーン、会える日を楽しみにしている」

 

この日を境に全力運転を始めた乙女心は、ハマーンのあらゆる能力を最大限に発揮させることになった。その結果、後日ハマーンはオデッサに降り立つ事に見事成功し大騒動となるのだが、そんな未来など知らぬ少女は無邪気に笑うのだった。




アクト・ザクは犠牲になったのだ…。

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