起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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ジーン大人気ですね。もっと活躍させてあげたかった(棒)


第六十四話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅲ-

突然の襲撃に連邦軍の指揮所は正しく蜂の巣を突いたような騒ぎだった。深夜であったことに加え、襲撃が指揮所にほど近い港湾区の集積所であったことも災いし、極秘裏に配備していた武装車両の大半を初撃で喪失してしまったのだ。

 

「お忙しい所失礼します、大尉。シェルターへご避難ください」

 

「解っている。だがせめてここの資料は破棄できるように準備させてくれ」

 

「は?いえ、大尉。既に迎撃部隊が出ております。そのようなことは…」

 

「迎撃部隊が負けたらどうする?敵の規模は?今居るだけだと考えた根拠は?軍人ならば君も最悪も想定して行動したまえ」

 

苛立たしくまくし立ててから相手を見ると、そこには年若い少尉が困惑した顔で立っていた。

 

「いや、すまんな。少し冷静さを欠いていた。それで悪いのだが人手が欲しい。手伝ってはくれないかね、少尉」

 

「あ、は、はい。お手伝いします!」

 

そう言って手近な資料を纏めて鞄に放り込む少尉を見て、テムは暗鬱とした気持ちになる。英国系の顔立ちの少尉は年の頃20と言ったところだろう。テムの息子とそう変らない年齢だ。そんな少年と言っても良いような者まで戦場に駆り出さねばならぬほど連邦は追い詰められているという事か。

そんなことを考えている間に、今一度大きな爆発が起こり、さらに数分後には慌ただしく廊下を兵士達が行き来を始めた。

 

「…状況が変ったか?君!」

 

「は?はい!大尉殿、何でありましょう!?」

 

走っていた下士官を呼び止めて事情を聞くと、襲撃してきたザクをMS部隊が2機撃破したものの残りの3機に翻弄されており1機が大破、更に工業区画に新たなザクが現れ破壊活動をしているとのことだった。

 

「工業区画だと!?」

 

「た、大尉?」

 

「…すまん少尉。やらねばならんことが出来た。シェルターへは行けない」

 

「そんな!」

 

「それより誰かパイロットを連れてきてくれ。私は工業区へ行かねばならん」

 

工業区にはMS増産のために製造設備を増設しており、製造中の部品どころか、製造用の設計データがそっくり残っている。プロテクトは掛けてあるが、最悪MSならば設備ごと奪っていくことだって出来てしまう。

 

「多機能CAMが仇になったな」

 

苦い表情になりながらテムは駐車スペースへ急ぐ。流石に全ての部品のデータを入力した装置は無いはずだが、それでも材料選定用のマテリアルデータや入力済みの部品からこちらの機体性能を類推するのは難しくない。

 

「それに、あそこにはあれがある」

 

データ収集後上層部の興味が新型に移ったために放置され、倉庫で置物になっているはずのガンダムが。

 

「流石に無傷で渡す訳にはいかん」

 

「大尉!こちらです!大尉!」

 

駐車場に着けば、野戦服を着た下士官が手を振って呼んでくれた。

 

「助かる。曹長、しかしもう少し良い車があれば良かったが」

 

「装甲車はみんな出払っていますよ。MS相手じゃコイツでも大差ありません」

 

そう言ってボンネットを叩かれた車両は市内でもよく見かけるエレカを軍用にリペイントしただけのものだ。

 

「確かにな。…後はパイロットだが」

 

「遅くなりました!」

 

そう言って駆け寄ってきたのは見慣れない顔の兵長だった。

 

「君がパイロットか?兵長」

 

「はい、大尉殿。ダニエル・シェーンベルク兵長であります。大尉の下へ向かうよう指示を受けました!」

 

先ほどの少尉より更に年若い兵長を見て、不安からつい口を開く。

 

「他の者は?戦闘中か?」

 

「はい、いいえ大尉殿。初撃で兵舎が攻撃を受けたため、現在安否確認中であります」

 

安否確認、などと言ったが絶望的なのだろう。握りしめられた拳が震えているのを見てテムは自らの失言に気付く。

 

「っ!そうか、すまん。兵長、RX-78…ああ、ガンダムの操縦経験は?」

 

乗車を促しながらそう聞けば、兵長は眉間に皺を寄せた。

 

「はい、いいえ大尉殿。自分は後発組でしたのでジムの操縦経験しかありません」

 

「だろうな、悪いが目的地に着くまでに出来る限り頭に入れておいてくれ。基本的にジムと変らんが幾つかレイアウトが違うものがある」

 

特にジムではオミットされた為にコアファイターと共用化されていたペダルやスティックの位置が変っている点に注意するよう言いながらガンダムの操縦マニュアルを手渡す。

 

「では、行きます」

 

そう曹長が告げると車は蹴飛ばされたように加速し工業区へと走り出した。

 

「間に合ってくれよ…」

 

科学者として恥じ入る事かもしれないが、この時ばかりはテムは神に祈らざるをえなかった。

 

 

 

 

「そろそろ限界か」

 

コックピット内に響くアラームを聞き、ランバはそう呟いた。アラームは日の出2時間前を知らせるもので、本来ならこれを合図に全機が帰投する予定だったのだが。

 

「さて、あの怖がり軍曹がちゃんと確保出来ていれば良いが」

 

そう言いながら果敢にミサイルを撃ってきたバギーへ向けて容赦なく射撃を加える。カメラを向ければ未だに港湾区の方は断続的に発光が確認出来た。

 

「せめて一機くらい釣れるかと思ったが。上手くいかんものだな」

 

かなりの数の装甲車は破壊したが、本命であるMSは遂に現れなかった。これならば自分も向こうに加勢するべきだったかと悔やんだが後の祭りである。

 

「だが、成果もあった。コイツは良い土産になる」

 

破壊した工場の一部にあったCAMシステムを腕に抱えさせてランバはそう笑う。同じく破壊した倉庫に積まれていた部品からしても、コイツが連邦のMSを製造していたのは間違い無いだろう。これを持ち帰れば連中のMSを丸裸に出来るかもしれない。

支援出来なかっただけの価値はあったと確信しランバは機体を港湾区へ向ける。さて、ここからだとジャンプを含めても20分は掛かる。出来るだけ急がなければと考えたところで、不意の振動をランバの機体が拾った。

 

「爆発ではない?何だ?」

 

怪訝に思い振動の方向へ機体を向け直す。そこには爆発の煽りを受けて半壊した倉庫があった。

 

「センサーはダメか。ならば」

 

周囲の炎や爆発でサーマルも音響センサーも当てにならないため、ランバは最も簡単な確認手段として、倉庫へマシンガンを叩き込んだ。特に何の反応も返ってこないことに安堵しつつ、ランバは自分も少しナーバスになっていると考え、大きく息を吐くべく口を開いた瞬間、それは轟音と共に飛び出した。

 

「なんだと!?」

 

飛び出してきたのはブリーフィングで確認した連邦製MS、その指揮官用とおぼしき機体だった。データとは違い炎に照らされる装甲はくすんだグレーで統一されており、何処か無機質で冷たい雰囲気をまとっている。そしてその手に握られているものが自身に向けられていると自覚した瞬間、ランバは考えるより早くフットペダルを蹴りつけていた。

連邦は既にMSに搭載可能なビーム兵器を完成させていて、その威力は艦砲と同等である。

技術部の報告を思い出しながら、ランバは敢えて片足を倉庫へ引っかけて転ぶように建物の陰へ機体を滑り込ませた。しかしそれは失策である事をすぐに知ることとなる。倉庫を貫いた光条がザクの左腕を吹き飛ばしたからだ。報告通りの性能にランバは戦慄しながらも強引に機体を立て直し、着地寸前の敵機に対し90ミリをありったけ叩き込む。

 

「馬鹿な!直撃の筈だ!?」

 

左腕の喪失でバランサーに悪影響が出ているのか弾はややばらけたとは言え十発以上が確実に着弾したにもかかわらず、グレーのMSは平然と姿勢を正しこちらへ銃口を向けてきた。

ランバは舌打ちをしつつ銃口が向ききるより早く機体を後ろへとジャンプさせた。途中こまめにアポジモーターを吹かせて動きが直線的にならないよう細心の注意を払う。既に彼の中では、この機体を如何に打倒するかでは無く、どのようにして逃げ延びるかに思考は切り替わっている。スラスターによるジャンプが頂点にさしかかった時、赤熱したビームがランバのザクを掠めた。

 

「な!?コロニーの中だぞ!?」

 

自機に向けて躊躇いなく放たれたビームに思わずランバは叫んでしまう。自分たちが戦端を開いてしまったこととは言え、艦砲並みの威力を持つ兵器を躊躇いなくコロニー内で使用する連邦軍の行動に決して解り合えない思考の隔たりを感じ、そして今までの己は何だったのだと言う後悔の念が胸に湧き上がる。ランバは武人としても自尊心はあれどリアリストだ。故にダイクン派が失脚しようと、旧友にザビ家の狗と蔑まれても、最後にスペースノイドの独立が勝ち取れるならば、それを飲み込むつもりだった。あの一方的な、虐殺と言っても過言でない戦闘に、軍民を問わないコロニーへの攻撃を行なった一週間戦争までは。あの時コロニーを懸命に守ろうとする連邦軍をなぎ倒し、コロニーへ核を撃ち込む味方を見た瞬間、自身の中にあったほんの僅かな正義が完全に打ち砕かれた。だから自分はこの戦争から降りたのだ。不幸だったのは戦う以外の飯の食い方を知らなかったことと、自身が思っている以上に名が轟いていたこと、そしてドズル中将がそんな自分でも未だに手元に置いておきたいと考えていたことだ。それに何より自分に付いてこんな地獄まで来てしまった部下達の事がある。アコースは先日二人目の子供が出来たばかりだ。コズンには年老いた母がいる。クランプの妹は先端医療を受けなければ生きていくことが難しい。他にも色々と訳ありの連中がランバの部下には多くいる。そいつらはとてもでは無いが尉官や下士官の退役年金では食っていけない。今回の任務を受けたのは、偵察という直接手を下さないですむ内容であったのと、自身が上手くやれば民間への被害も抑えられるという自負からだった。

 

「引くも地獄、進むも地獄…か」

 

周囲への被害を全く考慮していない先ほどの攻撃で、ランバは痛いほど痛感してしまった。結局の所、連邦もスペースノイドを守っていた訳ではないのだ。コロニーを守っていたのも、敵に奪われまいとしてであり、スペースノイドの生命や財産を守るべく我々の前に立ち塞がったのでは無い。

だとしたならばこの戦争の正義などは無く、あるのは己の道理を通すという意地の張り合いだ。そして、連邦の道理が通った先にスペースノイドの独立は恐らく存在しないだろう。

 

「どうせ落ちる地獄ならば、せめて独立の一つも貰わねば割に合わん」

 

撃ち切ったマシンガンを投げ捨て少しでも機体を軽くする。グレーのMSは工業区を確保するのが狙いだったのだろう。二度目のジャンプをした時には追撃も射撃も行なわず、ただこちらを見送っていた。

 

「覚えておけよ。この借り、必ず返させて貰う」

 

その為に今はまずソロモンへ生きて帰ること。その為にはあらゆる手段をとる覚悟をしつつ、ランバは機体を港湾区へと走らせた。




ダニエル兵長の名誉のために書きますと、ここで使用されているビーム兵器は改良型のスプレーガンです。なので上空へ向けて射撃しても反対側に到達する前に拡散してしまいます。前話での射撃も同様ですからコロニーに被害は出ていません(ちょっと地面が削れましたが)。
ラルさんはこの事を知らないので以前鹵獲したガンダムのビームライフルで撃たれていると考えていたため、作中のような発言をしています。

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