起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月分です。


第六十五話:0079/09/20 マ・クベ(偽)と大地に立つ-Ⅳ-

「逃げた…いや、無理をせず引いたと言うべきか」

 

倉庫に駆け込み機体を起動させたとほぼ同時に砲弾を撃ち込まれた時はもうダメかと思ったが、終わってみればほぼ満点に近い結果だ。生産施設は損壊してしまったが、データが残っているから復旧は可能だし、2機あったガンダムも両方無事だ。コマンドの存在を警戒していた曹長も安堵の溜息を吐きながら銃を下ろす。

 

「ご苦労だった、兵長怪我は無いか?」

 

『はっはい、大尉殿。機体も自分も問題ありません…その、凄いですね、ガンダムは!』

 

「ああ、有り難う。すまないがそのまま警戒を頼む」

 

興奮した口調で返ってくる了解の返事にテムも漸く大きく息を吐いた。

ジムの演習で得られたデータを基にガンダムの学習コンピュータもアップデートを続けておいて正解だったと人知れず冷や汗を拭いながら、その実今回は運が良かっただけであるとも感じていた。何故なら相手はマシンガンのみの軽装で、その上CAMシステムを強奪しようとしていたために格闘戦に入る前に機体を損傷させていたからだ。

機体の動作からしてあのザクを動かしていたパイロットはかなりMSの操縦に長けた者だろう。仮に白兵用の装備を持っていてそのつもりがあればダニエル兵長の技量と今のガンダムでは撃破されていてもおかしくなかった。

 

「大尉、港湾区の指揮所からです」

 

そう言って曹長が通信機を渡してくる。どうやら敵はミノフスキー粒子を散布していなかったらしく、おかげで通信はクリアーだ。

 

『大尉、無事か?そちらの状況は?』

 

連絡をしてきたのは何故か入港していたペガサス級、ホワイトベースの艦長であるパオロ中佐だった。

 

「はい、中佐。工業区に侵入しましたザクは1機でありました、緊急措置としてガンダム3号機を起動、迎撃に当たらせました。設備の奪取は阻止しましたが敵機は逃走、詳細は不明ですが生産設備も被害を受けております」

 

『こちらは、サイド7守備隊を指揮していたディエゴ少佐が戦死したため臨時で指揮を預かっている。港湾区に侵入したザクは恐らく5機、4機は撃墜したが一機には逃げられた、こちらも詳細はまだ不明だが、積み込み済みだった第一、第二小隊のジムの内2機が大破、第三、第四小隊の機体は恐らく全機大破だろうとのことだ』

 

つまり少なくとも2機のザクが撤退に成功したと言うことだ。この事実にテムの思考は激しい警鐘を鳴らしていた。

 

「中佐、出来ればパイロットを一人寄こして欲しいのですが」

 

『残念だがそれは無理だ、大尉。正規のパイロットは全員警戒中か治療中、候補生の方はそこのダニエル兵長以外安否不明だ。寝ていた兵舎に敵の攻撃が直撃してな…運が悪かったとしか言えん』

 

「では、現場判断で民間人の徴発をご許可頂けませんか?」

 

『待て、待ってくれ大尉。一体何を焦っている?』

 

熟練の中佐とは思えない発言に舌打ちをしかけ、懸命に自制する。

 

「敵は既にこちらの戦力を確認したのですよ?もう一度コロニー内で仕掛けられたら次は守れません」

 

ベイに停泊している艦船などMSの格好の的だろう。

 

『だが敵は既に4機のザクを失っているのだぞ?』

 

「お尋ねしますがその内バズーカあるいはグレネードを装備した機体は何機おりましたか?」

 

『確認出来ているのは最初の1機だけだ』

 

「こちらに来たザクもマシンガンのみの軽装でした。その上で攻撃を仕掛けてきたという事は間違い無く威力偵察でしょう。むしろ本番はこれからだと」

 

その言葉に押し黙ってしまう中佐、一秒でも惜しいテムはダメ押しの一言を放つ。

 

「連中はコロニーに核を撃つ輩です。このままではコロニーごと吹き飛ばされかねません。中佐!」

 

無論南極条約はある。だがMSは核で動いているのだ。不幸な事故は起きないと言い切れないし、それを上手く言い訳にすることだって出来る。何せ敵にも味方にもMSはたっぷりとあるのだから。

 

『解った。すぐに出港の準備に入る、それと民間人の避難指示だ、現時刻をもってサイド7の生産拠点並びに軍施設を放棄する。大尉、そちらは任せるがくれぐれも無茶はするなよ?』

 

「はっ!了解しました!」

 

こちらの返事とほぼ同時に通信が切れる。何せ1日以上繰り上げての出港だ。クルーには負担を掛けることになるが死ぬよりはマシだと諦めて貰うほかあるまい。

 

「ダニエル兵長!すまないが2号機を倉庫から運び出してくれ!それからなるべく無事なコンテナをトレーラーへ!曹長、何度も悪いが今度は居住区へ向かってくれないか?」

 

「はい、大尉。しかし居住区でどうなさるのです?」

 

「私の住んでいる地区にはここの労働者もそれなりに居るから、トレーラーの運転手くらい見つけられるだろう…それと、足りないパイロットのアテがあってね」

 

そう言えば曹長は眉間に皺を寄せた。軍事機密であるMSのパイロットをどうして民間人から確保出来るのかという顔だ。もしテムも普通の軍人で、良識のある親であるのならそんな選択肢は浮かびもしなかっただろう。だが彼はとうの昔にそうしたものを捨てていた。

 

「何処にでもどうしようも無い悪ガキというのはいるものさ…例えば、親のPCを勝手に覗く馬鹿息子とかね」

 

「た、大尉まさか…」

 

「さあ、時間が無い。向かってくれ、曹長」

 

 

 

 

「おーい、アムロォ。誰か来たぞぉ?」

 

乱雑なノックと眠気の混ざった声に起こされたアムロは時計を見て溜息を吐く。時間は朝6時、今日が休日と言うこともあって昨夜は友人達と遅くまでゲームで遊んでいたのだ。ちなみに声を掛けているのはそのままリビングで寝ていたカイさんだろう。一月程前にコンボイレーサーの試合だかなんだかで怪我をしたメカニックの代理として呼び出されて以来、何が気に入ったのか良く家に遊びに来るようになったのだ。ちなみに真面目で付き合いの良い近所のハヤトもよく巻き込まれて遊んでいる。

 

「どうせフラウですよ、カイさん出といて下さい」

 

そう言って毛布を被り直すが、カイは食い下がってくる。

 

「いやぁ、どうも委員長ちゃんじゃねえみたい…だぜ?」

 

おびえを含んだカイの声を不審に思い、目をこすりながらドアを空ければそこには何故か武装した連邦兵に銃を突きつけられているカイの姿があった。

 

「な、何ですか貴方は!?」

 

「…アムロ・レイ君だね?私は連邦宇宙軍第4軍サイド7守備隊隷下第38パトロール小隊のリュウジ・サカタ曹長だ。君のお父さんであるレイ大尉より君を連れて来るよう頼まれたんだが…彼は?」

 

「へへ…あ、アムロ君のご学友のカイ・シデンです、はい」

 

卑屈に笑いながらそう告げるカイを一瞥した後視線で確認してくる曹長に肯定を告げると、曹長はゆっくりと銃を下ろし安全装置を掛けた。

 

「解った。カイ君だったね?すまないが君にも来て貰う…他にこの家に良く来る友人は居るのかな?」

 

何と答えるべきか迷っている内に事態は更に転じていく。玄関のチャイムが鳴り、若い男女が言い争う声が響いてきたからだ。こちらが何かを言う前に玄関へ向かってしまう曹長をカイと二人頭を押さえながら見送ること僅か2分。小柄な少年と勝ち気な少女が曹長に連れられてアムロ達の前に立たされていた。

 

「彼らは?」

 

「隣に住んでいるボウさんと近所に住んでいるコバヤシ君です」

 

結局都合の良い言い訳など思いつくはずも無く苦し紛れに最低限の内容を伝えると、曹長は肩をすくめた後、まるで世間話をするようにフラウとハヤトへ話し始める。

 

「怖がらせてすまないね、実はアムロ君をお父さんのレイ大尉から連れてくるように頼まれてね、ほら、今朝方騒ぎがあっただろう?」

 

「ええと、工業区で事故があったって、あと港湾区でしたっけ?」

 

「うん、それでちょっと荷物を届けて欲しいらしくてね、アムロ君に聞けば解るそうなんだが…」

 

「どんなものでしょう?私良くこの家の掃除をしてますから解るかもしれません」

 

「ちょっと!フラウ・ボウ!」

 

アムロとカイの雰囲気から何かを悟ったハヤトがそう割って入るが、その時には曹長は元の軍人の顔に戻っていた。

 

「…どうも君達にも来て貰わなければならないみたいだ。ハヤト君だったかな?君も彼らとやっていたんだろう?アレを」

 

射貫くような曹長の視線にハヤトが首をすくめる。アレ、という言葉に心当たりがあるからだ。

 

「待って下さい!誘ったのは僕です!彼らは関係ないでしょう!?」

 

慌てて止めようとするが、返ってきたのは冷たい返事だった。

 

「軍事機密を覗いた挙句、それを私的に使用していて無関係は難しいと思わないかい?むしろ関係ないなら彼らは拘束しなければならないんだが?」

 

「そ、そんな重要なものだなんて知らなくて!」

 

「普段から立ち入りを禁止されているロックのかかった部屋に侵入し、プロテクトされているPCの中身を引きずり出しておいてその言い草は厳しいんじゃないか?悪いが諦めて貰う。こちらとしても手荒なことはしたくない」

 

その最後通牒に言い訳など出来るはずも無く、アムロ達は曹長と父であるテム・レイのもとへ向かうのであった。




何時からテムが無事ならアムロはガンダムに乗らないと錯覚していた?

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