起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
エタらないよう頑張ります。
注意!
誹謗中傷が含まれます。苦手な方はご注意ください。
軍人然とした物言いに我慢が出来なくなり、ついに喉を鳴らして笑ってしまった。無いわ、デメジエール少佐が優等生みたいに話すとか、ないわー。
「あ、あの。大佐殿?」
「楽にしてくれて良いよ、少佐。口調も普段通りで構わない」
そう言いつつ視線を送ればウラガンがマグカップを用意してくれる。
「飲むだろう?」
「は、はあ頂きます」
応接用のソファに移動すると、釈然としない表情で少佐も続いて座った。
「緊張するな。なんて言葉は信用出来ないだろうね」
その言葉に少佐が顔をこわばらせる。
無理も無い。折角手に入れたであろう蜘蛛の糸の持ち主がいきなり挿げ替わったのだ。しかもその先は政治屋きどりの大佐と来た。MTの名誉を取り戻し、再び一角の英雄に返り咲く為に命を預けるには、正直心細い相手だろう。だから、ここが肝心だ。
「少佐のことは調べさせてもらったよ。国防軍時代からの生え抜きの戦車兵、教導団も経験しているね。MTの開発時には技術部から請われて参加している」
黙ってマグカップを見つめる少佐に構わず話を続ける。
「転機は5年前のMS適性審査だ。隊の殆どの人間がパスしたために部隊は解散、残ったのは古参で退役間近の軍曹と君だけだった。目をかけていた新人も、相棒だと思っていた戦友も皆君を残して去って行った」
俯いた少佐の表情は判らない。
「それからは随分と荒れたようだね。表向きはMT開発に打ち込んで見せていたが私生活は荒れ放題。糖尿病を患ったのもこの辺りだ」
「…めろ」
「決定的だったのは2年前のMT開発中止だ。正しく全てを捧げていたMTの不採用は、君を軍で孤立させるのに十分すぎる内容だった。この辺りからMTへ執着する発言が増えているね。怖かったろう?自分が不要だと突きつけられるのは」
しゃべりきる前にマグカップを投げ捨てた少佐が胸ぐらをつかんできた。おお、凄い力だ。
躊躇いなく腰の銃に手を伸ばしたウラガンを手で制止しながら出来るだけおどけてみせる。
「ここの絨毯はそれなりに高いのだがね」
「大佐殿、あんたが良い性格をしているのは十分解った。で?俺をおちょくるために呼びつけたのか?地球方面軍ってのは随分と暇な所なんだな?」
ヒスパニック系は彫りが深くて怒った顔がすっげー怖いな!
「…それだけ怒っても発作が起きないようなら大丈夫だな」
ちびりそうになるのと声が震えそうなのを懸命にこらえて、そう口にする。声が小さかったのは胸ぐらを掴まれているせいだから許して欲しい。
「なんだと?」
「地球に降りても理解が追いつかない連中は沢山いる、という話さ少佐。取り敢えず放してくれるとしゃべりやすいのだがね」
怒りと困惑をない交ぜにしたままの顔ではあるが、つかみ上げていた俺の服を放してくれる少佐。ちょっと体が浮いてた、軍人怖い。
「実は先日、欧州方面軍内で部隊展開の見直しがあってね」
見直させちゃったのは俺のせいだけど。
「主攻面をイベリア半島に設定したまではいいが、どうにもMSでは力不足でね」
俺の言葉に驚きの表情を浮かべる少佐。察しが良い。彼はやっぱり優秀な軍人だ。こんな有能な人材を、たかがMSに乗れない程度の理由で冷遇するとか、ジオンは中々余裕があるじゃ無いか。
「必要なのは少々の攻撃など歯牙にもかけない装甲。立ち塞がる者を容赦なく粉砕する圧倒的火力。無理解な者達は言うだろう、失敗作が露払いに使われた。MSという主役を守るための前座だと。それがどうした、そんな連中の言葉など、先ほどの私の言葉と同じ無意味な雑音だ。気にせず見せつけてやるが良い、陸の王者の戦いというものを」
見れば少佐は再び俯き、肩を震わせている。
「試験もデータも取っている暇なぞ無いぞ、少佐。君には最前線で戦ってもらわねばならないからね」
涙を浮かべながら、少佐がもう一度姿勢を正し敬礼をしてくれた。そこには負け犬などでは断じてない、最高にかっこいい軍人が居た。
足裏に伝わる重みと、輸送機が巻き上げた風に混じる埃に、今自分が地球に立っていることを実感する。その事に僅かに興奮を覚えながら、デメジエール・ソンネン少佐はゆるみかける頬を引き締めた。
(ここからだ。ここからが本番だ)
MS適性無し。ただそれだけで、まるで不要品のような扱いを受けた。
待ってくれ、俺はまだ戦える!
証明するべく参加したMTは完成し、後はその力を見せつけるばかり。そう考えていた矢先に告げられた不採用通知。
戦う以前だ。自分はリングにすら上がる資格が無いと笑われたようだった。惨めさを忘れようと、元々荒れていた生活は更に荒れ、非常用のタブレット剤を用いねばならない程病が悪化した。
そして失意の中の開戦。宇宙を無尽に飛び回っていたMSは地球へと降り、瞬く間に戦線を広げていく。政府が頻りに伝える快進撃を聞くたびに、自分が取り残されている事を突きつけられているようで、酒の量が増えた。
戦車なんて時代遅れ、これからはMSの時代。隊から転属していく新兵が笑いながら言っていた言葉が耳から離れない。
だから、明らかに不要品の再利用兼体の良い廃棄処分だと解っていても、デメジエールは試験部隊行きの任務を承知したし、今回こそが己が負け犬などでは、時代遅れの不要品では無い事を示せる最後のチャンスだと考えていた。
「酒も止めた、医者の治療も受けた。情けないことに完璧には遠い。それでも今の最善は持ってきた」
予定が狂ったのはたったの6日前。唐突に呼び出されたかと思えば、現地試験の中止が言い渡され、同時に配備先の辞令を渡された。地球方面軍、欧州方面軍。試験などでは無い、実戦配備。1月近い繰り上げ出発だと言うのに、手際よく準備された大型輸送機にあらん限りの備品や機材が詰め込まれ、気がつけば機上の人になっていた。
夢じゃ無いかと思っていたのも、このどうしようも無いくらい伝わってくる地球という環境が現実だと教えてくれた。
「少佐のことは調べさせてもらったよ」
そう言って、痩せぎすの年下の大佐は、笑いながらデメジエールのここ数年を諳んじて見せた。自覚はしていたつもりでも、それを他者から聞かされるのは、また違った感情を揺り起こす。渡されたコーヒーに映っている自分のゆがんだ顔がひどく惨めに見えて、その状況を作っている目の前の男を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。
「やめろ」
僅かに漏れた言葉は、しかし男に届かない。
「怖かったろう?自分が不要だと突きつけられるのは」
その言葉に、感情が理性を凌駕する。気がつけば持っていたマグカップを投げ捨て、男の胸ぐらを掴んでいた。
「ここの絨毯はそれなりに高いのだがね」
こぼれたコーヒーを見やりながら、困った表情を作る男に、階級も忘れて口を開く。
「大佐殿、あんたが良い性格をしているのは十分解った。で?俺をおちょくるために呼びつけたのか?地球方面軍ってのは随分と暇な所なんだな?」
「それだけ怒っても発作が起きないようなら大丈夫だな」
返ってきたのは予想外の言葉。表情を変えぬまま手を放すことを要求する大佐に、自身のしでかしたことの重大さにおののきながら、こわばりかけた指から力を抜く。そして、大佐の発言の意図に気づく。そうだ、この大佐は最初に言ったでは無いか、自分のことを調べたと。ならば、今までの発言はつまり、激昂した自分が発作を起こさないかを見ていたと言うことか。否、それだけでは無いだろう。大佐はこうも言った。地上に降りても理解の追いつかない連中がいる。それは他の兵士達の事だろう。考えてもみろ。戦線へと組み込まれれば、今までなど比較にならない程、MSパイロット達と接することになる。それどころか協同する事だって幾度もあるだろう。その時向けられるであろう嘲笑や中傷に、自身が冷静に対処できるかどうかを見ていたのでは無いか。
それは、リングに上がるかどうかではない、リングの上で十全に力を発揮できるのかという問い。その事実にデメジエールは目の奥が熱くなるのを自覚した。この大佐は、この方は。俺が戦える男であるという点に一欠片の疑問も抱いていない。
そして最後に掛けられた言葉、正に殺し文句だ。
MSには荷が重い、けれどお前なら、お前達なら。こんな事は造作も無い仕事だろう?
足に力を入れろ、胸を張れ。例え視界がゆがんでも、まっすぐに目を向けろ。
完璧にはほど遠い、それでも今できる最善を。
負け犬はもう居ない。
狼さん登場、してない。