起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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年間ランキング2位復帰有り難う更新。


第七十四話:0079/09/24 マ・クベ(偽)と攻防

「敵艦より応答ありません!」

 

「だろうな、部隊の準備はどうか?」

 

元より木馬が降伏などしないとガルマは確信していた。だが一方で人間が弱い生き物である事もこの数ヶ月の地上で学んでいた。昨夜に実施したマ准将のハラスメントにより、相手は心身共に疲弊している。その状況下で助からないとなれば、人は文字通り死に物狂いの抵抗を見せるが、武器を捨てれば助かる、降伏すれば生きられる、そう言われてなお死ぬまで抗えるものは少ない。そこへ個人の生死の価値観も加われば、兵の足並みを揃えるだけでも指揮官は苦心することになるだろう。

更に敢えて広く周囲を砲撃することで、発見しにくい歩兵や小型車両による偵察も妨害したので、相手はこちらの戦力を把握できていない。そのため情報が不十分な状況で判断を下さねばならないが、そうなれば必然具体的な方策が立てられなくなり、それは兵の指揮官への不信に繋がる。

 

「各隊配置完了しています。それからシャア少佐より電文です」

 

「読んでくれ」

 

「『勝利の栄光を君に』以上です!」

 

少しは調子の戻ったらしい友人に内心安堵しながら、ガルマは口を開く。

 

「返電しろ」

 

「はい、内容はいかが致しましょう?」

 

「勝利より無事に帰ってこい、それと今度は壊すなよ。以上だ」

 

「はい!承知しました!」

 

そう命じたところで、ガルマはふと気がついた。

 

(ああ、私はもう、シャアと同じ戦場に肩を並べることは無いのだな)

 

その事に寂しさと、自身と同じような立場にありながら、前線に出ている准将を思いその不公平さに少しの不満を覚えた。ガルマは出撃前の准将との会話を思い出す。

 

「MSで出撃するだと?冗談は止してくれ准将。君に何かあったら姉上に何と報告すればいい!?」

 

既に勝手に移動した件についてキシリア少将からは叱責を受け、欧州方面軍のユーリ少将からは厭味を言われているにもかかわらず、准将は朗らかに笑っている。

 

「もう十分怒らせましたから今更怒りの種が一つ二つ増えても変わりませんよ。それにあの艦を沈める作戦を考えたのは私です。私の策に文字通り命をかけてくれた者達のために、あれは必ず仕留めねばなりません」

 

「それは解る。だがそれと准将が前線に出るのは別の話だろう?」

 

本音で言えば参謀として自分を支えて貰いたい。だが、それはこの場の最高指揮官として口に出すのが憚られた。

 

「ではもっと単純な話です。一機でも多くMSが参加した方が作戦の成功率は上がります。ガルマ様が指揮を執られるのならここに私は不要、なれば一兵士としてお役に立つ所存です」

 

頑なに前線へ出ようとする准将にガルマは最後の手段を使う。

 

「君は自分の部下を信じていないのか?」

 

だが、准将にしてみればその程度の言葉は想定の範囲内だったのだろう。動揺するどころかむしろ笑って口を開いた。

 

「無論信じております。彼らなら必ず木馬を仕留めるでしょう。ですが私は欲張りでしてね。勝利の美酒は全員で飲みたいのですよ」

 

 

 

 

「3…2…1…。ゼロ、時間だ、行くよ野郎共!」

 

「大気データ、周辺磁場修正完了。初弾焼夷榴弾、びびらせて動きを止める。次弾も同じ!」

 

「はっはぁ!大物だなぁ!だが今日の銛は研ぎ澄まされてるぜぇ!!」

 

作戦開始のアラームと同時にそれぞれがそう叫び自分の務めを果たすべく進んでいく。俺も大きく深呼吸を一度終えると、ゆっくりペダルを踏み込んだ。

 

「さあ、戦争の時間だ」

 

轟音を響かせながら滑り出す友軍機の頭上を、次々と光の尾が飛び越えていく。ギャロップに搭載されたMLRSが惜しみなく吐き出した対地ロケットだ。その飛翔音に紛れて遠雷のような砲声が轟いた。

 

「大盤振舞いですなぁ」

 

直ぐ近くを移動していたシーマ中佐から通信が入る。部隊の規模からすれば、こんな射撃は2分も出来ないからだ。

 

「出てくる前に艦ごと沈められればそれに越したことはないからな。それでも確かに思い切りが良い」

 

オーガスタ以降ガルマ様は堅実で慎重な戦い方をしていたから、ちょっと意外だ。

 

「先生の前で良いところを見せようとしていますかな?微笑ましい」

 

そんな良く解らんことを言うシーマ中佐。先生?どっちかって言うとシャア少佐に見せたいんでないかな?

 

「ご学友が居るんだ。力も入るだろうさ」

 

そう言った所で一つ先の稜線の向こうが光った。確かあそこはランス中佐の担当だ。

 

「こちらの都合通りには行かんか!シーマ中佐はこのまま木馬を目指せ!指揮官型が居ないか確認する」

 

「了解!」

 

短い返事と共に9機のドムが一気に加速する。それを横目に俺はランス中佐率いるグフ隊の様子を確認するべく稜線を越える。その先に見えたのは悲惨な戦場だった。

敵の数は3機、全て量産機で構成された小隊だ。対してこちらはグフが9機、あっと言う間に包囲した後、袋だたきにしている。ビーム兵器が実用化されるってんで先行して用意していたのか、ランス中佐の機体を除き全員ゲルググのシールドを装備しているから相手の射撃も押さえ込まれてしまっている。あ、ランス中佐が突っ込んでぶった切った。

 

「おや?准将どうされました?」

 

続けて左右に居た機体をヒートロッドで行動不能にした後、手足を切って達磨を作った中佐が尋ねてくる。うん、何でも無いよ。君のデタラメさに引いてただけだから。

 

「いや、ここに指揮官機は居ないようだな。その確認がしたかっただけだ、邪魔したね」

 

「いえ、折角ですから同道しましょう。どうせ行く先は一緒です」

 

そう言うと部下の小隊にダルマジムを運ぶよう指示し、さっさと動き出すランス中佐。所でこの人も熱心なダイクンシンパなんだよな。取り敢えずシャアがキャスバルだって露見しない内は平気だろうけど、一応要注意人物にリストアップしておこう。

 

「しかし流石十字勲章受章者は違いますな、相手のMSがまるで赤子のようだ」

 

数で勝っていたとはいえ敵を3機瞬殺とかちょっとこの人もおかしくありませんかね?

 

「はっはっは、日々鍛えられていますから。…本当は牽制のつもりだったのですよ、オデッサデータでは避けられる程度の攻撃でしたからね」

 

そう意味ありげな声音で笑う中佐、何この人。原作だとわりかし人格者っぽかったのに、なんかバーサーカー的な人斬りオーラビンビンなんですけど。

 

「一度実際に手合わせ頂きたいものです。おっと、見えましたな」

 

中佐の言葉と同時に俺も含め全員が散開する。周囲どころか艦上のあちこちが燃えているホワイトベースは、その名に反して赤々と夜明け前の大地にその身を映し出していた。

 

「ふん、流石新型。燃え方も綺麗じゃないか」

 

辛うじて無事だったのだろう幾つかの対空機銃が健気な反撃を行なっているが、既に接近したドムによって即座に潰される。非情なんて言わせないぞ、こっちは降伏勧告までしてやったんだ。

特徴的な主翼の左は根元から吹き飛んで地面に落下しており、同じく左側の格納庫も上半分のハッチが脱落していて、バズーカでも撃ち込まれたのか黒煙を上げていた。正に撃沈寸前といった風体だが、それ故に俺は攻撃しているドムのパイロットへ尋ねた。

 

「シーマ中佐はどうしたのか?何故1個小隊しか居ない!?」

 

「准将!?あ、いえっ失礼しました!シーマ様は途中で指揮官機と遭遇したシャア少佐の救援に向かいました!」

 

その返事に背筋に冷たいものが走る。あのシーマ中佐が2個小隊を率いて、おまけに赤い彗星まで居るのにこちらに合流できていない?

 

「ランス中佐、すまんがコイツの始末を頼む。私はシーマ中佐の方へ向かう」

 

「宜しいのですか?」

 

母艦を沈めれば、MSは降伏するかそれこそ死ぬまで戦うしか無い。ここでMSに向かうのはリスキーだし、手柄も中佐のものになるだろう。だが、そんなことは俺には些事だ。

 

「構わん。私は手柄が欲しくて戦っているのでは無い」

 

そう言って俺は返事も待たずに機体を翻す。喋っている間に気を利かせた海兵隊の隊員が、シーマ中佐の向かった最終ポイントを送信してくれる。ランス中佐の居た丘陵とは逆側の窪地、ちょっとした耕作地がある辺りだ。

 

「間に合えよ!」

 

300キロを超える速度で動くはずのドムが、この時は随分と遅く感じた。




嘘みたいだろ?70話以降で2日しか経っていないんだぜ?
一年て長いなあ(白目

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