起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第七十五話:0079/09/24 マ・クベ(偽)と死神

出撃命令を受けた瞬間、ブルース・ブレイクウッドはヘルメットを床に叩き付ける衝動を必死に押さえ込んだ。

 

「あのエリート気取りの疫病神め!」

 

横に居た第二小隊を受け持っているジョイナス・ジョリアスカ少尉も腕を組んで溜息を吐く。

 

「敵の情報が欲しいと言うのは解らない理屈では無いですが」

 

言っていることはそれなりに正しい。敵の戦力や布陣、これらを確認もせずに戦うのは自殺行為だ。だがその情報を得るために、戦力の中核であるMSを母艦から離すのは納得がいかない。そもそも昨夜の砲撃でエンジンユニットの修復が出来なかったから、たとえ布陣が解ったところでホワイトベースは今の位置から動けない。なので悪戯に戦力を分散するより、防御を固めて迎え撃つべきではないかと意見具申もしてみたが、件の艦長殿は鼻で笑い却下してきた。

 

「現状は極めて不利な状況だ。この状況を打破するには積極的な行動あるのみ。既に我々の存在は通信にて北米に知れ渡っている。今正に敵の後方は蜂起した市民達の手によって攪乱されているに違いないのだ。浮き足だった敵軍を撃滅すれば補給も容易になる。さすれば我が艦を起点とし北米奪還の大攻勢に転ずる事も出来る!」

 

熱弁を振るう大尉を見てブルースはモニターを殴りたくなるが、何とか敬礼をし通信を切ることに成功する。即座に横のパネルが鈍い音を立てて歪んだが。

 

「お前さんのところはまだマシだがな、ウチのボウズ共はダメだ。昨日の砲撃で完全に参っちまってる。無理もないがな」

 

正規の軍人であり、相応の訓練を受けている人間でもPTSDになるのだ。数日前まで民間人だった少年達に耐えて寝ろと言う方が無理というものだとブルースは理解していた。おまけに大気圏突入時にダニエル伍長が負傷したため、3号機のパイロットはアムロ曹長と同じく臨時徴募されたカイ・シデン伍長だ。技量自体は悪くないが如何せん状況が悪すぎる。しかも3号機は補修部品が足りないため、試作パーツやジムのパーツを寄せ集めてでっち上げている。一応突貫で作成されたシミュレーションデータで練習させたが、現場でどのような不備が出るか解らない。その点も考慮しガンダム2機はホワイトベースに残すことも進言したのだが、こちらも反応は悪かった。

 

「どうせ正規採用もされんような試作機の再利用だ。ここで使い潰しても問題無い」

 

民間人が、それも子供が乗っているんだぞ、そう喉から出かける言葉をブルースは飲み込んだ。自分たち大人の軍人が不甲斐ないから彼らは戦場に立っている。その時点でキャプテンシートでふんぞり返っている大尉と自分にさして差が無いと思ったからだ。

 

「中尉、ここに居たか。3号機の調整はなんとか終わった、一応数合わせくらいにはなるだろう。それから損傷していたジムも1機は稼働できる。ただ、腕周りの装甲が払底したので左腕は装甲無しだ」

 

ひどいクマを作りながら、汗と埃で汚れた顔を拭いもせずテム大尉が近づいてくる。整備班長になし崩しに収まった人物であるが、その知識と技術は確かだ。サイド7を出て以来無茶な運用を続けているMS隊が破綻しないのも偏にこの大尉の奮闘に寄る所が大きい。だが、そんな大尉でも流石に物資が無ければどうしようも無いようだ。

 

「お疲れ様です、大尉。これで稼働機は7機。何とか2個小隊は維持できますか」

 

「…偵察命令が出ているのだろう?」

 

無意識に顎の傷を撫でて考え込んでいたブルースにテム大尉が声を潜めて聞いてきた。

 

「はい。艦長代理殿は大分錯乱していますよ。この戦力で威力偵察しろなんて言ってますからね」

 

「…中尉、最悪の場合に備えてこれを渡しておく」

 

「これは?」

 

「ウィルスだ。ジムの機体そのものは資料価値が低い。既にガンダムが鹵獲されてしまっているからな。だが制御プログラムは別だ、コイツが知れるとこちらの手の内が丸裸にされてしまう」

 

そう言ってディスクを渡してくる大尉にブルースは聞き返した。

 

「つまり、プログラムをぶっ壊すウィルスですか?」

 

「そうだ。すまんが降伏する際にはコイツを入力してくれ」

 

大尉の物言いにブルースは驚愕する。

 

「降伏って、大尉は俺たちが負けると思っているんですか!?」

 

「逆に聞くが、この状況でMS隊を母艦から離すような指揮官の下で君は勝てると思っているのか?」

 

ブルースが返事に窮していると、テム大尉は苦い笑みを作り続ける。

 

「私は今残酷なことを言っている。何せ死ぬことを許さないんだからな。とは言えそれ程酷い目には遭わんと私は見ている。連中は攻め手こそ苛烈ではあるが道理は守りそうだからな」

 

「コロニーを攻撃して地球に落とすような連中がですか?」

 

ブルースの故郷はオーストラリアだ。直撃こそ免れたが経営していた農場はコロニーの破片で使い物にならなくなったし、知人にも死者が出た。そんな事をする連中をどう信じろと言うのか。

 

「中尉、彼らがコロニーを攻撃したのは、他のコロニーが地球連邦に与したからだ。その点からすれば駐留艦隊を置きながら自国民を守り切れなかった連邦軍の不手際だ。それに当時は質量兵器の使用も禁止されていない。その点で言えば、条約制定後に彼らは一度としてコロニーどころか隕石一つ落としていない。制宙権を握っているにもかかわらずだ」

 

「勝っているからでしょう?」

 

「そうかも知れない。だがそれを言えば、連邦軍だって追い詰められても禁じ手を使わないなどという保証は無い。後は今朝方の降伏勧告だな。連中のプロパガンダを信じるなら少なくとも北米を治めているガルマ・ザビは人道的な人物だ。捕虜を無体にはせんだろうよ」

 

少なくとも味方を捨て駒にする人物に従って戦うよりは生きられるチャンスがある。それが大尉の意見だった。

 

「楽観論ですな」

 

「打算と計算と言って欲しいね。パイロットは今の連邦にとって最も価値のある財産だ。簡単に死なれては困る。捕虜交換もある以上、君達には泥を啜ってでも生き延びて貰わねばならん」

 

酷い話だ。だが大義のために死ねと言われるよりは遙かにマシだとブルースは笑った。

 

 

 

 

「なんて装甲だい!?120ミリでも効かないなんて!」

 

グレーの指揮官機はこちらの撃った弾を避けようともせず平然と射撃に耐えると、背中に装備したキャノン砲で反撃してくる。おまけに右腕には例のビームライフル、左腕にも連装のビーム兵器と、まるで動く砲台となった指揮官機は圧倒的な火力を発揮している。

 

「クソ!被弾した!」

 

厄介なのはそれだけでは無い。例の胴体の青い指揮官機は赤い彗星とジャン少佐達相手に大立ち回りをしてあちらを押さえ込んでいるし、グレーの指揮官機にぴったりとくっついている量産機はフォローが上手く、指揮官機の死角を埋めてしまっている。その上時折隙を突いて射撃を行ない、こちらに被弾を強要してくる。

 

「クルト中尉!無理せず下がりな!あたしらはこいつらを捕まえているだけでいい!」

 

だが一方でシーマにはまだ気持ちに余裕があった。あの巫山戯た胴体の青いトリコロールの指揮官機は厄介だが、こちらが相手をしているグレーと量産機は、上手いが勝てないと言う相手ではない。部下が被弾こそしているが、それは弾速の速いビームで、こちらの機体は対ビーム用モジュール装甲を装備しているので大した被害は出ていない。おまけに足も数もこちらが上だから距離をとって射撃戦に徹すればまず負けない。

 

(懐かしいねぇ、あんときゃ立場が逆だったけどね)

 

シミュレーションで初めて准将に負けた時を思い出し、戦場だと言うのにシーマは思わず笑ってしまった。そう考えればこの連中相手に全員が余裕を持って戦えているのも、普段からこのシチュエーションに慣れているからだろう。

 

「びびるこたぁ無いよ!准将の方がよっぽどおっかないからね!」

 

部下に発破をかけつつシーマは時計を確認する。交戦を始めて10分。随分粘られているが、それはこちらが無理をせずにいるからだ。それこそ誰かが死んでも構わないなら、こんな連中1分とかからず倒せるだろう。だが、それをすればあの人は表面上湛えても、酷く悲しむだろう。そう思えば自然と隊の誰もがそうした意見を言わなくなっていた。

 

「はっ!海兵隊も随分甘っちょろくなっちまった。責任とって貰わなきゃねぇ!」

 

撃ち切ったマシンガンを投げ捨てると予備のバズーカに持ち替える。初速に劣る分命中させるのは難しいが、これなら回避を強要出来る分他の奴のチャンスが作りやすい。

 

「さあ、じっくり付き合って貰うよ、あんたらの母艦が墜ちるまでね!」

 

 

 

 

「畜生!畜生!当たれ!当たれよぉ!」

 

スピーカーにはカイ伍長の絶叫が響く。ブルースは何か声を掛けてやりたかったが、状況がそれを許さない。

 

(何が敵は混乱しているだ!冷静そのものじゃねぇか!しかもこいつらは間違い無く精鋭だぞ!?)

 

完全に足止めされていることが理解できても、ブルースは動けなかった。こちらが連携を崩した瞬間、ブルースもカイ伍長もこの世にいないであろう事が、相手の動きから十全に伝わってくるからだ。今こうして自分たちが生きながらえているのも、出来る限り無傷でこちらの機体を鹵獲したいからだろう。自分たちが拘束されている以上ホワイトベースは丸裸だから、墜とされるのは時間の問題だ。そうなれば自分たちは降伏するしか手が無くなるだろう。

 

『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処せよ』

 

敵部隊との遭遇に際し、指示を仰いだら返ってきたのがこの台詞だ。その後はミノフスキー濃度が上がりすぎて通信出来ていない。援軍は望めない以上、このまま行けばホワイトベースが墜ちるより先に3号機の弾が切れて自分たちが死ぬ方が早そうだが。

 

「臨機応変に対処ね…。テム大尉、こんな予言は当ててくれんで良かったんですがね?」

 

そう言ってブルースはディスクを差し込んだ。




ラーティさんの思いがけない失態。
ジオンビーム対策済み。

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