起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

77 / 181
さあ、対決の時間だ。


第七十六話:0079/09/24 マ・クベ(偽)と交渉

人を払った執務室で三人の兄妹がモニター越しに今後の打ち合わせをしていた。

 

「では、ドロスとドロワの両艦は宇宙軍に引き渡すと言うことで良いな?」

 

「おう」

 

「問題ありません。その代わり初期生産のゲルググはこちらという事で」

 

「例の特別大隊か?あっちこっちからエースを引き抜いているらしいじゃないか」

 

「戦況は優勢で小康状態…と言えば聞こえは良いですが、攻めきれずに膠着しているのが実情でしょう?あの馬鹿がシーマ中佐を引っ張ってしまいましたから使いでの良い部隊が無いのですよ。そろそろルナツーにも退場して貰いたいですし」

 

その言葉に下の兄が顎を扱きながら応える。

 

「オデッサデータは宇宙では使えんからなぁ。漸く数が戻ってこれから練度と言うところで…連邦もやってくれる」

 

その言葉に長兄が溜息を吐いた。

 

「万事思い通りになっていれば戦争なぞしておらんさ。それでキシリア、ゲルググのシミュレーションデータの作成は順調なのか?」

 

その言葉にキシリアは苦々しい顔になる。

 

「順調とは言い難いですね。集めた連中は腕は良いのですが、如何せん人に教えると言う能力が低い。まともなのはガイア大尉の小隊くらいでしょう」

 

黒い三連星の異名を持つ彼らは当初大隊への参加に難色を示していたが、後進を育てて欲しいというキシリアの要請に折れる形で参加している。黎明期からMSに関わってきた彼らのアドバイスは的確で、いっそこのままパイロット養成課程の教官にしたいくらいだ。

 

「こっちでもガトー少佐を中心に戦技研究などをしているが、あまり芳しくないな。やっぱりその辺りは専門にやらせんとな…どこかの馬鹿は基地司令の片手間でやっていたようだが」

 

呆れを多分に含んだ物言いにギレンが肩を震わせて笑う。

 

「その馬鹿は今ガルマの所か。確か例の新型艦を攻撃するのにガルマから支援要請を受けたのだったか?」

 

からかい混じりの問いにキシリアは憮然とした態度を崩さず答える。

 

「命令書の発行時間と到着時間が逆ですがね。どうにもあの艦が気になるようです」

 

「あのオデッサの怪物が執心の艦か。さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

「どちらが出てもアレなら仕留めましょう」

 

確信を持ってキシリアはそう言い切った。

 

 

 

 

「そこまでだ!連邦のパイロット!」

 

状況は実に危なげだ。シーマ中佐以下海兵隊は距離をとって量産型とグレーの機体、ガンダム3号機を完全に抑えていたが、シャア少佐とジャン少佐のザクヅダ混成隊は2号機…忌々しいトリコロールのガンダムに苦戦したのか、ヅダの一機が危うく落とされかけていた。完全に他の機体の意識外から乱入できた俺はガンダム3号機の脚部をバズーカで吹き飛ばし、

ランス中佐に倣ってMSダルマを製造すると、それを掴んで今正にヅダのコックピットをビームサーベルで貫こうとしていたガンダム2号機に向けて、俺は無線の全バンドで叫んだ。

 

「武器を捨てて投降したまえ。さもないとお仲間が不幸になるぞ?」

 

そう言い俺は左腕を持ち上げると、ガンダム3号機だったもののコックピットへヒートソードを近づける。既にダルマ作成に使用された刀身は赤熱し、装甲をジリジリと焼いている。動きの無いガンダムを少し脅してやろうと装甲を少し溶かしたところで、とんでもない発言が3号機から飛び出した。

 

『う゛ぁぁ!あづ、熱い!嫌だ!嫌だ死にたくない!助けて!助けてくれアムロォ!?』

 

…いま、なんと、いった?

 

すっと体感温度が数度下がる。おかしいなぁ、パイロットスーツ着てるから温度調節は完璧なはずなんだけど。おまけに手まで震えてきた、あれれー?急にアル中にでもなったかなぁ?明後日の方向に意識が飛びかける中、それでもリアル戦場の絆で鍛えられた俺の目は誤魔化されなかった。

 

「動くな連邦のパイロット!動けば人質の安全は保証できない!」

 

そう言ってヒートソードを更に押し込む。内部構造まで溶融が始まって、よりコックピットに熱が伝わったのだろう。中のパイロットが更にやかましく騒ぐが、それに構ってやる余裕は無い。動きが無い?冗談じゃ無い。あの野郎あの体勢からこちらへの刺突を狙ってやがった。

 

『准将!危険です!』

 

悲鳴に近いシーマ中佐の声が響くが、残念ちょっと遅かった。ここ、あいつの間合いだわ。

 

「連邦のパイロット、アムロ…と言うのかね?悪い事は言わない、投降したまえ。君達の母艦は墜ちた」

 

『准将!』

 

体勢を立て直したシャア少佐とジャン少佐がそれぞれ武器をガンダムへ向ける。だが何でだろうね、二人の攻撃が当たる未来が微塵も想像出来ねぇ。

 

『た、助けて下さいシャア少佐!ろ、ロックアラートがっ!奴は俺をロックして!?』

 

ヅダのパイロットが悲鳴を上げる、大丈夫、お前さんは大事な人質だから殺されないよ…今は、なんて言って安心させてやりたいが、乗っているのがアムロなら多感でナイーヴな15歳。ちょっとの刺激でガンダム盗んで走り出しちゃうような奴の自制心とか計算高さとかは期待しちゃ駄目だと思う。ちっくしょうヴェルナー中尉ホワイトベースに送るんじゃなかったなぁ!

 

「アムロ君、君は優秀なパイロットだ。だが考えてみたまえ、母艦が墜ちた今、補給も整備も無しにその機体で何処までやれる?しかもここは我々の領地だ、逃げ切れるものではないぞ?」

 

ガンダムは動かない。ホワイトベースが墜ちるのは時間の問題だが、まだ墜ちていない。それが解ったら、ホワイトベースを救うために目の前の機体は鬼神すら裸足で逃げ出すバケモノになるだろう。緊張で乾き、粘つく舌を懸命に動かす。

 

「今なら全員命は助かる。悪い取引では無いと思うがね?」

 

『…お前は自分の利益を言わない。こちらの利益ばかり強調するのはそうされないとお前達の方が困るからじゃないのか?』

 

静かに、けれど明確な殺気の籠もった声がスピーカから響く。鋭いね、もしかしてもうニュータイプに目覚めてんの?止めてよね、本気になったお前さんに俺が勝てる訳無いだろう?

 

「中々心得ているようだ。我々の利益は単純だよ。君の乗っている機体を出来るだけ無傷で鹵獲したい。見たところそれがV作戦の集大成なんだろう?」

 

どっちかと言えばあのジムっぽい量産機の方がそれだと思うが、敢えてガンダムに価値があると考えている振りをする。ガンダムに価値があると俺が思っていればいる程、この交渉に真実味を持たせることが出来るからだ。

 

『…ジオンは信用出来ない。僕がこいつを解放した途端撃ち殺すつもりだろう?』

 

「そのつもりならこんな迂遠な方法はとらんよ。それよりも早く決めた方が良い、私は余り気の長い方では無いからね」

 

そう言って再度左腕の3号機を揺すって強調してみせる。それでもガンダムは動かない。

 

「…最後の譲歩だ。周囲にいる各機は武器を下ろせ」

 

『准将!?』

 

密かに狙撃準備に入っていたシーマ中佐から秘匿回線で悲鳴が上がる。ごめん、でも多分ここの全員が生き残るのはこれしか無い。

 

「さあ、どうする?まだ信用出来んかね?」

 

俺の言葉にゆっくりと、しかし確かに戦闘態勢を解くガンダム。ビームサーベルが発振を停止したところで周囲にいたドムが両脇から押さえつけた。

 

『うぁっ!』

 

「手荒に扱うな!彼は投降したのだぞ!」

 

『は、はい!申し訳ありません!』

 

そう言った矢先、北の方から大きな爆発音が聞こえ、一拍遅れて信号弾が上がった。

 

『確認!青3発!敵艦撃沈!』

 

その言葉に俺はゆっくりと3号機を地面に降ろし、大きく息を吐いた。

こんな疲れること、もう二度とやらんからな!

 

 

 

 

スコープから顔を離し、デメジエールはゆっくりと深呼吸をした。最後に彼の放った徹甲榴弾は木馬の艦橋を直撃し、白い巨艦はそれを境に抵抗を止めた。

 

「やれやれ。トンデモねえな、宇宙艦てのは」

 

ビッグトレーですら容易く撃ち抜く距離から射撃を行なったというのに、結局艦橋以外の場所では有効打を与えることが出来なかった。

だがこれはデメジエールの早とちりであり、連邦軍の艦艇でもここまで高い防御を誇る宇宙艦艇はこのペガサス級だけであった。MSの運用母艦として設計されたこの艦は運用側の無茶苦茶な要求に応えるため、極めて高い防弾性能と各部の偏執的なまでのブロック化、ユニット化により驚異的なダメージコントロール性能を獲得していた。

その代償として一隻当たりの製造コストはマゼラン級の数倍、維持コストに至っては10倍以上となっている。当初V作戦と連動して行なわれたビンソン計画で本艦は数十隻を建造する予定だったのだが、あまりに高額な予算申請に某軍政系大将が頬を引きつらせた挙句、何人かの財務担当が辞表を出してきたために、その規模を十分の一に縮小されたという愉快な経歴を持っている。

 

『お疲れさんです、中佐殿。そいじゃ俺はもう一仕事してきます』

 

上空をゆっくり旋回していたアッザムからそう通信が入る。機体容積の大きいヒルドルブやアッザムには短距離用ではあるがレーザー通信機が装備されているため、ミノフスキー粒子下でも通信は良好だ。

 

「おう。こっちはランス中佐と片付けとくから気にせずに行ってこい」

 

そうは言ったが、向こうも戦闘が終わっているのは先ほどルッグン越しの無線で確認している。シーマ中佐が言うには少なくとも参加したパイロットは全員無事、准将も怪我一つ無いそうだ。ただそれなりにやらかしたらしく帰ったら説教だと息巻いていた。後で詳しく聞く必要があるな、そう思いながらもう一度木馬へ視線を向ける。艦橋に直撃弾を出す1~2分前に囮でも買って出ようとしたのか、連絡機が一機飛び出し、即座にヴェルナー中尉に撃墜されていた。当たり所が良かったのか墜落で済んだようなので、海兵隊の機体が回収に向かったはずだ。艦橋が破壊された後は、それまでの抵抗が何だったのかと言うほどあっさりと降伏してきたので少し拍子抜けしたが。

 

「まあ、楽に仕事が終わるのは良い事だ」

 

捕虜の拘束と装備の接収は歩兵の仕事、それが到着するまで変な気を起こさないよう恫喝するため、敢えて木馬にもう一度砲口を向け、デメジエールはシートに深く座り直した。戦車兵の出番はここまでなのだから。




男子の面子が傷つこうとも勝てば宜しい!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。