起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今月最後の投稿&今週分です。


第七十七話:0079/09/24 マ・クベ(偽)と事後処理

「さて、ウチの大将は何を言ってきたのかね?」

 

戦闘が始まる前に准将から直接渡された紙をパイロットスーツの内ポケットから取り出しヴェルナーは目を通した。そして思わず声を上げ掛け、慌てて口を押さえた。

 

(おいおい大将、こりゃちょっと笑えんぜ?)

 

そこに書かれていたのは、今回の作戦に参加しているシャア・アズナブル少佐がガルマ・ザビ大佐暗殺の実行者である可能性が高いこと。そしてもし彼が不審な動きをしたなら、即座に問いただし、場合によっては准将の責任の下無力化するよう指示されていた。

 

「こりゃ穏やかじゃねえな?」

 

そう言って眼下に目を向ける。スクラップ寸前の量産機にグレーのこれまた手足を失った指揮官機、そしてそんな状況下に関わらず五体満足で残っている胴体の青い指揮官機。シャア少佐のR-2はその指揮官機の横で周囲を窺っているようだ。

 

(見たところ殺気は感じねぇな…。むしろ何か迷っているような?)

 

R-2から放たれる雰囲気をそう読み取ったヴェルナーは、トリガーへ安全装置をかける。准将の言葉を信じない訳ではないが、その一方で自分の勘が違うと言っている相手に砲口を向けられるほどヴェルナーは盲目ではなかった。

 

(俺に指示したってこたぁ、そう言う事でしょう?准将?)

 

これが中佐達やウラガン大尉ならこんな指示が出された時点で躊躇いなく少佐を拘束しているだろう。それは万一の場合、自身が泥を被り、准将へ累が及ばないように出来るという計算を含めての行動だが。

 

「やれやれ、俺もちったあ偉くならんといかんかね…なんだよ?」

 

UMAでも見たような表情でこちらを見るガンナーとコパイに問うが、応えは返ってこなかった。

 

 

 

 

「勝った…のか?」

 

シャアにとってその終わりは呆気なく釈然としないものだった。胴体の青い指揮官機。出会ってからたったの二日だと言うのに、間違い無く終生のライバルになるであろうと直感した相手はしかし、純粋な闘争では無い盤外の力で屈服させられ、今は目の前で立ち尽くしている。

 

(道化だな…)

 

一体自分は何をしているのだろう?復讐のためとジオンに潜り込んでいながら、具体的な行動など何一つ出来ていない。ガルマに近づいた?戦功を挙げて少佐になった?

それが何だ。別の軍に配属されれば、会うことなどそれこそ今回のようなイレギュラーでも無ければあり得ない。最年少の少佐だなどと言われても、任されているのは艦が一隻にMSの小隊が一つ。その部下にしても腹心などと言えるような信頼関係は築けていないし、まかり間違っても反乱など起こすには数が足りない。かといって同僚や上司に覚え目出度いかと言えば、否と答えるしか無いのが現状だ。

 

「愚かだな、私は」

 

でかい口を叩いておいて、この体たらく。もっとやれることも、やるべき事もあっただろうに、結局自分は復讐という言葉に酔っ払った青二才だったのだ。ダイクンの名を捨てた瞬間から、自分はそんなちっぽけな存在になったのだろう。戦闘終了後の処理もせず所在なさげに立っていると、目の前で例の指揮官機が武装解除され、コックピットを開くように促されていた。

 

『両手を上げてゆっくりと出て来い、変な気は起こすなよ?』

 

シーマ中佐がそうスピーカーで告げるのを聞き流しながら、虜囚の身となった指揮官機のパイロットに興味を覚えカメラを向ける。たった二度の戦いだが、その二回で信じられない程の技量を見せた相手に興味があったし、自分をここまで思い詰めさせた相手の顔くらい見ておこうという、大した覚悟も計算も無い行為だった。それが自分の人生を大きく狂わせるとも知らずに。

 

「子供だと!?」

 

ジオンでも成人前の兵士というのは居ることは居る。特に一週間戦争で多くのパイロットを失った後は顕著で、実戦部隊はともかく、後方の兵站部隊やソロモンでも整備班や伝令などの雑務に新兵が宛がわれている。しかしそれでもハイスクールを卒業した18や17が精々で、目の前に居る明らかにジュニアハイすら出ていないような年齢の者は一人も居ない。その事にも驚いたが、その少年がこの状況でも決して屈さず、こちらを睨み付けている事にシャアは動揺した。

 

『…っ!連邦のパイロット、所属と階級、IDを提示しろ』

 

感情を抑え込んだ声音でシーマ中佐が告げるが、相手の反応は芳しくない。当初は反骨心からかと思ったが、どうやら違うようだ。シーマ中佐が語気を強めて再度促すと、少年は躊躇いがちに口を開いた。

 

「地球連邦宇宙軍所属、アムロ・レイ曹長…です。…IDは解りません」

 

冗談のようなセリフに言葉を失う。軍人であれば自分のIDが解ら無いはずがない。それの意味するところを正確に理解したであろうシーマ中佐は、怒りを押し殺した声音でパイロットにMSから降りるよう指示し、機体を回収するべく部下に指示を出している。それを他人事のように見ながら、シャアは思わずヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

「なんだ、この不快な感覚は!」

 

それが義憤である事に、まだシャアは気付かない。

 

 

 

 

戦いが終わったんだからさっさと戻れ。言外に含まれる意思を存分に受け取った俺はすごすごとガルマ様の待機している仮設指揮所へ向かった。まあ、指揮所というかギャロップなんだけど。

 

「お帰り准将。無事で何よりだ」

 

コーヒーの満たされたマグカップを差し出しつつそうねぎらいの言葉をガルマ様が口にする。本心2割、残りは皮肉とからかいって所かな?中々成長されているようである。

 

「お役に立てたようで何よりです。…捕虜の方はどのような状況ですかな?」

 

一足先にホワイトベースの方は武装解除されていたから、捕虜はもう移送開始されているはずだ。

 

「ああ、移送はもう開始している。連中大人しいものだよ。まったく、あの抵抗は何だったのかね」

 

そう言ってコーヒーを飲みながら溜息を吐くガルマ様。合理的に判断すれば確かに降伏しか無いんだけどね。

 

「何やら通信をしていましたし、何かしらの策があったのやもしれません。一応注意した方が良いでしょう」

 

状況的に確率は低いが、潜伏している連邦軍やゲリラが呼応するかもしれない。ただ、レーザー通信は使っていないようだったから、ジャブローからの救援は出ていないだろう。まあ、出ていても今なら美味しく頂くだけだが。そんなことを話していると、副官らしい男性が声を掛けてきた。

 

「失礼致します。捕虜のリストが作成出来ましたのでお持ちしました」

 

「ご苦労」

 

そう言って早速リストへ目を通すガルマ様。行儀は悪いが俺も横に移動してリストを見る。

おや、これは。

 

「君、このリストは間違い無いのかね?」

 

「はい、間違いありません。降伏してきた指揮官にも確認をとってあります」

 

直ぐに答えてくれる中尉。ほうほう、向こうにも確認をね。

 

「確認したのは、このパオロという中佐かね?」

 

「はい、いいえ准将閣下。パオロ・カシアスなる中佐は負傷により意識不明でありました。艦の統括者はこちらのブライト・ノア少尉になります」

 

「少尉があの艦を指揮していたというのか」

 

同じくリストを読んでいたガルマ様が納得したような声を上げる。大気圏突入まではともかくその後の迷走ぶりはこちらからしても良く解んなかったからね。でもブライトならもっと無難な動きになりそうなんだけどなぁ。まあいいや、今はそこは重要じゃ無い。

 

「ガルマ大佐、どうやら幸運の女神はまだこちらに居るようです」

 

「ほう…。察するに准将のお目当ての人物が居たようだね」

 

その言葉に俺は力強く頷いた。

 

「はい、彼を捕らえたことはあの艦を墜とした以上の意味をこの一戦に与えるでしょう」

 

そう言ってリストの名前をもう一度見た。そこに書かれているテム・レイの文字。相応の人物どころかいきなり大当たりを引いてやったぜ。実に僥倖。しかも状況からすれば色々と面白い事になるかもしれぬ。

 

「そこまでか。…どうだろう准将。良ければその捕虜の尋問を君に任せたいと思うのだが」

 

何やら考え込んだ後、そんなとんでもねえ事を言ってくるガルマ様。いや、正直有り難いけど良いんですの?

 

「重要な人物なのだろう?あのレビル将軍の時には父上が面会もしている。なら准将が話を聞いても問題は無いだろうさ。条約に捕虜への尋問は将官がしてはならんとも書いていないしね」

 

第一、並みの尋問官では上手く情報を引き出せないだろうから准将に期待させて貰う、なんて言われたら、ちょっとおいちゃん張り切っちゃおうかな!

 

「そこまで買って頂いて断る訳にはまいりません。非才の身ですがご期待に応えられるよう全力で当たらせて頂きます」

 

そう言うと何故かちょっと引いてやりすぎないようにと忠告してくるガルマ様。皆の中で俺は一体どんな邪悪な奴になっているのか、今度一度ちゃんと聞いておこう。俺はそう固く誓うのだった。




シャア、迷走中。

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