起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

80 / 181
ちょっと早いですが今週分です。


第七十九話:0079/09/26 マ・クベ(偽)と凱旋

細々としたガルマ様との打ち合わせで一日が終わり、明けて翌日俺は機上の人となっていた。そういやガウで移動するのってなにげに初めてだな。餌食い過ぎた金魚みたいな形してるくせになかなか快適な乗り心地じゃないか。技術部の連中もやりおる。そんな埒もないことを考えながら揺られること凡そ半日。帰ってまいりました、欧州オデッサ。日はすっかり傾いて風も少し肌寒い。おーし、皆ご苦労様会やろうぜー!今日は奮発して私物のワインとか振る舞っちゃうぞ!とかキャッキャしながらタラップから降りると、目の前に人影が。

 

「お帰り、准将。楽しんできたようだな?」

 

怒気を隠そうともせず仁王立ちされるその方は、麗しの上官であるキシリア少将その人だった。

 

ナンデ!?

 

状況について行けず周囲を見回す。先ほどまでニコニコとついてきていた中佐ズは笑顔を崩さぬまま距離をとっている。キシリア様の後ろには仏頂面のウラガン。は、謀ったな!?

 

「どうした?何か言う事があるんじゃ無いか?得意の弁舌で私を楽しませてみろ、准将」

 

全く笑っていない目でそう聞いてくるキシリア様の前で俺は正座をするとゆっくりと頭を下げた。日の暮れたオデッサの土は中々に冷たかった。

 

 

「お前は!悪いと思っているなら!何故実行に移すんだ!?」

 

取り敢えず話を聞くと、連行された自室にキシリア様の怒声が響いた。その勢いのままに一息でワインを呷ると即座にグラスを突き出してくるので、俺は黙っておかわりを注ぐ。ああ、当たり年と言われた56年もののボルドーが減っていく。

 

「聞いているのか?んん?」

 

据わった目で淑女がしてはいけない声音で聞いてくるキシリア様。

 

「聞いております、ですから髪を離して下さい、痛いです」

 

やめて!三十路近い男の頭皮はデリケートなのよ!?

 

「反省の色が見えんなぁ、解っているのか?お前のおかげで私がどれだけ苦労しているのか。調子づく連中を抑え!足を引っ張ろうとする連中をなだめながら!お前のエキセントリックな行動をフォローする苦労が解っているのかと聞いているんだ!」

 

完全に絡み酒だこれ!言いながら興奮してきたのだろう、髪を掴んだまま腕を振り回すため俺の上半身もアグレッシブに運動している。あ、いまプチプチって嫌な音と痛みが。

 

「すみません、ごめんなさい、すみません、ごめんなさ…いたいいたいいたい」

 

「なぁーにぃ?聞こえんなぁ?准将は反省していますかー?」

 

ぱ、ぱわーハラスメント!その晩、俺の頭髪はチョットだけ寂しくなった。

 

 

 

 

「それではガルマ大佐、お世話になりました」

 

そう言ってシャアは執務机に向かうガルマに敬礼をした。その姿はシャアの中にある将というイメージそのものであり、それが言いようのない焦燥感を生む。それが態度に出ないよう、静かに奥歯を噛みしめた。

 

「ああ、もうそんな時間か。すまないな少佐。面倒ごとを押しつけて」

 

「いえ、私こそお役に立てず申し訳ありませんでした。せめて荷運びくらいはやらせて下さい」

 

そう返すとガルマは一瞬表情を強ばらせたが、直ぐに笑顔を作り応えてきた。

 

「うん、少佐になら安心して任せられる。運ぶ荷物はこの戦いにおいて極めて重要な意味を持っている…くれぐれも粗略に扱わないで欲しい」

 

荷物。自ら寝返ったとされる連邦の大尉とその子息、そしてその友人達と例の無傷で鹵獲した指揮官機だ。もっとも既に大尉からの情報で機体の名前はガンダムであること、指揮官機では無くただの試作機である事などが判明している。子供達はただの徴募された民間人だと言うが、あの戦闘能力を見た後では信じろと言う方が難しい注文だ。

そのため機体と大尉はグラナダへ、子供達はサイド6にあるフラナガン医療センターへ送られる事になっている。

 

「承知しております。しかしそのフラナガン医療センターとは一体何なのでありましょうか?」

 

その存在自体はシャアの耳にも届いていた。自分の周りには居なかったが、ソロモンからも何名かの人員がその医療センターとやらで検査を受けたと聞いていたからだ。そう問えばガルマは一瞬顔を強ばらせた後、普段通りの声音で副官へ命じた。

 

「…ダロタ。すまないが暫く席を外して欲しい。また暫く会えなくなる友人とプライベートな会話をしたい」

 

その言葉に黙って副官の中尉は頭を下げると部屋から出て行った。それを確認するとガルマは椅子から立ち上がりキャビネットの水差しからグラスへと水を注ぎ口を湿らせると、努めて平坦な声で話し始める。

 

「シャア、今から私が言う事はただの独り言だ。…以前私がオーガスタにあった連邦の施設を攻略しただろう?ジオンにも同じような施設が存在している。無論非公式にだ」

 

その言葉だけでシャアは正確に意味を理解した。つまりフラナガン医療センターとは。

 

「正確には連邦のような人間を兵器に仕立て上げるような研究では無く…特別な能力、施設ではニュータイプと呼んでいる能力を強化、戦闘能力へ転用する研究だと言っていたが、どれだけ違いがあるかは解らん。あそこはキシリア少将の管轄で情報統制されているしな」

 

「つまり、あの少年達はモルモットとしてその施設に送られる、そう言う事か?」

 

シャアの問いにガルマは否定も肯定もせず、ただ視線を窓へと向けた。だがその沈黙こそが答えである事は誰の目にも明らかだった。

 

「…今回の作戦に参加したマ准将の話では、少なくとも人体に有害な試験は行なわれていない、とのことだ。いずれにせよ医療施設にでも入れなければ、彼らはテロリストとして処罰されてしまう。これは彼らの生命を守ることでもあるんだ」

 

「自分も誤魔化しきれない詭弁なら口にしない方が良い。ガルマ、君はそれで良いのか!?」

 

「良い訳がないだろう!」

 

怒声がそれ以上の言葉を遮る。

 

「子供をモルモットのように弄くりまわすなど正気の沙汰では無い!そんなことは解っている!だがなシャア、あの子は、あのたかだか15の少年は!君と互角に渡り合って見せたのだぞ!?彼がただ個人として特別ならば良い。だが彼が造られた特別であったら?その可能性がある以上、私は准将の意見に賛同する」

 

「…だがそこに正義は無いぞ」

 

「受け売りだがね、私個人の正義のために部下を徒に危険に晒す訳にはいかん」

 

自身の良心と部下数十万の命。そんなものは比べるにも値しない、憤怒の形相でそう言い切るガルマに、シャアは驚きと共に言葉に出来ない不快感を感じた。あの甘ったれの坊やと見下していた相手は一人前の将器を身につけつつある。それを直に目の当たりにし、シャアはガルマに嫉妬していた。だが常に先頭にいた彼は、それが何という感情であるか理解できていなかった。

 

「そうか、君がそこまで言うなら、私は従おう」

 

そう言って再び居住まいを正し、シャアはガルマへ敬礼すると踵を返す。部屋を出て扉が閉まる最後の瞬間まで、ガルマから声を掛けられることは遂に無かった。

 

 

 

 

「昨日は済まなかったな、准将。その、私もどうかしていたようだ。忘れてくれると助かる」

 

のんびりと流れる外の景色を眺めながら、そんなことをキシリア様が言ってきた。ただいまオデッサ上空1000m程を飛行中のアッザムよりお送りしております。アッザムデートはフラグだが、白っぽ番長がいなくなった今、もう何も怖くない!

 

「昨日?申し訳ありません。何かありましたでしょうか?」

 

「っ!そうか。いや、何でも無い。気にするな」

 

あからさまに安堵の声を出すキシリア様、え?なんで表情じゃねえのって?そらあの不思議な紫ルックにマスクとヘルメットで完全防御してるからだよ。容姿が原作より幼い分すっげえ似合ってないけど、それを指摘するほど俺はエアーの読めん男では無い。

 

「今回の一件は上層部も高く評価している。特に木馬を仕留めたソンネン中佐とガーフィールド中佐の2名はジオン十字勲章が授与されるだろう。指揮官機…ガンダムだったか?アレを鹵獲するのに貢献した者達にも何らかの報奨を考えている」

 

おお、やったじゃん中佐。何個目か解らんけど勲章に貰いすぎはあるまい。しかし報奨かあ、結構海兵隊の連中即物的だからなあ。金一封とかが一番喜ぶかもしれん。

 

「有り難うございます。兵達も励みになるかと」

 

そう返すと。視線をこちらに戻し、キシリア様はここからが本題だと切り出してきた。

 

「ついては代表として貴様にも一緒に表彰式に参加して貰う」

 

「承知しました」

 

また基地空ける事になるなぁ。ウラガンにお土産買わなきゃ。

 

「それから今の内に知らせておくが、表彰式後貴様の所属がかわる」

 

は?

 

「はっきり言う、今回はやりすぎだ。最早私では調整しきれん。なので貴様にはギレン総帥の所へ移って貰う」

 

「それは作戦本部へ異動という事でしょうか?そうしましたらオデッサはどうなりましょう?」

 

宮仕えだ、命令されたら嫌とは言えぬ。そう言いたいところだが、ここを放り出せと言われるなら徹底的にごねるぞ。

 

「…立場的に言えばラサ基地のギニアス少将に近いな。オデッサ基地は規模が大きくなりすぎている。欧州方面軍管轄では不適当であるため、総司令部預かりとする…と言ったところだ。つまり貴様はオデッサ基地司令からは外れん」

 

その言葉に俺は胸をなで下ろす。

 

「そう、ですか」

 

「まあ、精々上手くやれ。ギレン総帥は私ほど寛容ではないぞ?」

 

「…肝に銘じておきます。それからキシリア様、連絡を頂いておりませんが、表彰式はいつになりますでしょうか?」

 

あれこれお世話になった人に連絡しとかなきゃいけないからね。そう思って聞いたらキシリア様は不思議そうな顔でこちらを見てきた。なんぞ?

 

「連絡は今しただろう?表彰式は明後日だ」

 

だから!もっと早く言ってくれよ!項垂れる俺をキシリア様は不思議そうに見てくるが、そこ不思議がる所じゃありませんから!

この日の視察はつつがなく終了したものの、昨夜の出来事を何処から聞きつけたのか、夜の私室にハマーンが襲来し色々と騒動が起こったのだが、それはまた別の話。




ねんがん の アッザムデート を じっし したぞ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。