起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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一方その頃、的なお話。


第八十話:0079/09/27 マ・クベ(偽)と胎動

連邦の艦艇を横目に見ながら、ベイへと誘導される。現金なものだとシャアは思わず苦笑した。開戦当時は入港まで数時間待たされた挙句、ジオンの艦艇は貨物用や作業船用のベイへ回されたものだが、今では連絡から数分でタグボートまで出てくる優遇ぶりだ。これで中立を名乗るのだから連邦政府もさぞや臍を噛んでいる事だろう。

 

「ザンジバル級は快適ですな。降りるのが惜しいくらいだ」

 

横に並んだジャン少佐が冗談めかして言う。事実ムサイやチベに比べ艦内容積に余裕のあるこの艦は部屋が広いという単純な部分だけで無く、通路や格納庫なども余裕があるため移動や整備などのストレスが少ない。本来であればオデッサへ回す予定の艦だったらしいが、暫く使うアテが無いと准将がガルマへ口添えしたため、今回の任務の間だけではあるが借用できることとなった。

 

「…ええ、お貸し下さったガルマ大佐には感謝をしなければなりません」

 

連邦軍によって徴募された不幸な民間人の移送。今回の任務に従事している大半の兵士がそう聞かされているはずだ。故郷へと送還しないのは、既に実戦に出てしまったためにゲリラという扱いになってしまっている事に加え、再び連邦軍によって戦場へ連れ出されないようにするための配慮。医療機関へ連れて行かれるのも、戦場のストレスによるPTSDの兆候が見られるためだ。そう言う事になっている。

 

(周到な事だ…考えたのはあの准将殿か)

 

そう思い至り、シャアは強い不快感を覚えた。どうにもあの准将の手の内で踊らされているような感覚に陥ったからだ。

そもそも事の始まりであるV作戦の偵察からして、あの准将が口を挟んでいる。結果から見れば状況は良い方向へ転がってはいるが、その一方で自身の思惑も邪魔されているように感じる。墜とせなければ北米に降りさせる予定だった木馬もジャブローへ降りてしまったし、その後幸いにして北米に移動したにもかかわらず、ガルマに近づく間もなく木馬は討ち取られ、大した手柄も立てずに自分は再び宇宙へと帰っている。この護衛に選抜されたのも准将の提案だと言うから面白くない。

 

(まるで私とガルマを離すように動いている…まさか気付いているとでも言うのか!?)

 

そう考え、しかし即座に否定する。復讐について誰かに話したことは疎か、態度にも出ぬよう細心の注意を払って来たのだ。それに気付いているなら地球を出立する前にガルマと二人きりになれたのは不自然だし、あの時のガルマの様子は、自分に何か含むところのある態度では無かった。

 

「シャア少佐、どうかされたのか?」

 

黙ってしまった事を訝しんだジャン少佐が怪訝そうに聞いてくる。

 

「いえ、何でもありません。手続きも早そうですから、そろそろ彼等に伝えた方が良いかと考えていただけです」

 

そうシャアが返すとジャン少佐は何か言いたげではあったが、賛同の返事をし近くに居た少尉に声を掛ける。親身になってくれるジャン少佐へ嘘をつくことに若干の罪悪感を感じながら、シャアはレイ少年のことを思い返した。

精神的に追い詰められていたこともあってか、言葉こそ丁寧だが、非常に攻撃的な態度を隠そうともしない彼に自分と同じ無鉄砲さや、親に振り回される身上といった共通点から何となくシンパシーのようなものを感じる。加えてあの才能を見せられれば、俄然興味も湧くというものだ。

 

(連邦の作り出した強化兵と言うが、彼の話にそう言った施設での経験は一切無い…だとすれば彼は本物のニュータイプかもしれない)

 

その可能性はシャアを強く刺激するものだった。彼の存在は正にジオン・ダイクンの唱えたニュータイプの発現、宇宙という環境に置かれて人が覚醒するという事例そのものだからだ。加えて生まれながらにスペースノイドで無くともそうした力に目覚めるとするならば、ギレンの提唱する優性人類生存説の否定にも繋がる。それはシャアの手元に極めて強力な手札が来たことを意味している。

 

「…欲しいな」

 

呟いた言葉は、誰にも拾われること無く虚空へ溶けて消えた。

 

 

 

 

「…あら?」

 

ティーカップを傾けていた褐色の少女はふと気がつき視線を遠くへ向けた。

 

「どうしたの?ララァさん?」

 

「マレーネ様、私はララァと呼び捨てて頂いて構いませんと…」

 

目の前に座る品の良い娘に向かいそう言ってララァは眉を寄せた。対等の友人として扱ってくれるのは嬉しいしその人柄は好ましいのだが、周囲の目というものもある。一方は公国の重要人物の娘であるのに対し、もう片方は借金の形に捨て値同然で売られた娘。人は平等だと謳われて久しいが、厳然とした身分の差は存在するとララァは知っている。

 

「ララァさんが様を止めてくれれば直ぐにそう呼ぶわ。それでどうした…ああ」

 

そこまで言った所でマレーネも気付いたのだろう。同じ方向へ視線を向け、何処か困った顔になる。

 

「とても強い力を持った子ですね。でも今にも押しつぶされそう。不安、焦り、怒り…哀しい気持ちで心が一杯だわ」

 

施設の訓練により、ララァは極めて敏感に他者の感情を読むことが出来るようになっている。けれどそれを置いても今、思いを発している少年は規格外だ。同意するように頷くマレーネがその証拠だろう。マレーネは伝える力こそララァと比肩するが、思いを読み取ったり受け止めたりする力に関しては数段劣るからだ。その彼女が知覚できるのだから、その少年が如何に強い力を持っているかが解る。

 

「でも珍しいわね、准将が口を利いて下さってから、こんな強い負の感情を持ってやって来る子なんて居なかったのに」

 

マレーネの疑問に、その少年の周囲にいる者の感情まで読み取れたララァが応える。

 

「もしかしたら、ジオンの方では無いのかもしれません」

 

「どういう事?」

 

返ってきた言葉にララァは頭を振る。

 

「周囲の方から同情と哀れみ…それから多分に恐怖を感じます。連邦の施設で保護された被験者の子かもしれませんね」

 

「…だとしたら、優しくしてあげないと。この世界は辛いことだけでは無いのだから」

 

そう言うマレーネに頷いて見せたが、ララァの意識はもう一つ感じ取った感情へ向けられていた。少年のそれに比べれば普通の人間より少しだけ強いかどうかというものだが、そこから発せられる感情に、ララァは何故か強く惹かれた。それは道を見失った迷い子のような、痛いほど懸命で、けれど哀しいほど無力な己に打ちひしがれた心。純粋で、故に傷だらけの、誰かが抱き留めてやらねば今にも消えてしまいそうなその青年を、ララァは救ってあげたいと思った。

 

「純粋なのですね…少佐」

 

ララァの呟きをマレーネはただ不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

連行された施設を見て、アムロは拍子抜けしていた。周囲のジオン兵があまりにも気遣ってくるので、このまま怪しい人体実験の道具にでもされるのかと身構えていたというのに、連れて行かれたのはサイド6にある、至って普通の医療施設のようだった。

 

(そう言えば、PTSDがどうとか言っていたっけ)

 

自分はそれ程憔悴していないが、友人のカイとハヤトは心が折れているようだった。ここまで来る間も酷く怯えていたし、明らかに口数も減っている。それに二人とも物音に過敏になっていて、移送されている途中でもちょっと大きな音がすると取り乱したり、遠くで砲声がすると、それだけで震えたりしていた。その事を思い出し、こうして医療施設へ送る事をするジオンは案外悪い奴らでは無いのかもしれない、アムロはそんなことを考えて慌てて頭を振った。

 

(騙されるなアムロ!懐柔するために飴を用意するなんて常套手段じゃないか!)

 

そもそも二人がこうなったのも連中が攻めてきたからだ。ならばそのケアを連中がするのだって当然のことだろう。そう考えて平静を保とうとするが、その目論見は目の前に現れた人物によってあっさりと覆される。

 

「貴方達が新しい入所者さんかしら?初めまして、私はマレーネ・カーン。こちらはララァ・スン、私達はここに来て長いから、解らないことがあったら何でも聞いてね?」

 

そう言って微笑む彼女を見てアムロは思わず呆然と立ちすくんでしまう。先ほどまで怯えていたカイもハヤトも同様に顔を赤らめて彼女に見入っていた。そんな二人を見て、自身も見入っていたことに羞恥を覚え慌てて視線を逸らすと、彼女達は可笑しそうに笑った。その様子に危うくもう一度見とれそうになるが、その一方で浮かんだ疑心が寸前の所でアムロの思考を保たせる。

 

(この人達はここに来て長いと言った。どう見ても普通の人だし、体や心が病んでいるようには見えない。じゃあ、この施設は何なんだ?)

 

思わず身を固くするアムロに向かい、ララァと紹介された少女が微笑みかけてくる。

 

「大丈夫、怖がる必要なんて無いわ。ここには貴方達を傷つける人も、恐れる人も居ないもの」

 

その物言いにアムロは思わず口元を手で隠しながら、気まずそうに聞き返した。

 

「心配してくれて有り難う。僕、そんなに不安そうな顔をしていましたか?」

 

そう聞くと、彼女達は視線を交えた後、今度こそ声を出して笑った。

 

「解るわ。だって貴方、とても大きな声で怖がっていたもの」

 

「ええ。私にも聞こえたくらい。あら、もしかしてここがどういう所か教えられずに来たのね?」

 

二人の言葉に釈然としないものの、重要な手がかりが掴めそうであったことから、アムロは質問を優先した。

 

「医療センターとしか。ここは一体何の施設なんですか?」

 

そう聞くと、ララァは悪戯に成功した子供のような顔で応えた。

 

「ここはフラナガン医療センター…新しい人達の力を研究する施設と言った所かしら?」

 

意味不明な回答にアムロが返答に窮していると、マレーネが助け船を出してきた。

 

「もう、あまりからかっては駄目よ。そうね、ここはね、ニュータイプを研究している施設なの」

 

それを聞いて、カイとハヤトが青くなる。何故なら今民間に知られているニュータイプ研究と言えば、あの悪名高きオーガスタを映したジオンのプロパガンダ放送だけだからだ。その様子を見て、自身の失敗を悟ったマレーネが慌てて言葉を続けた。

 

「ああ、心配しないで?あのオーガスタみたいな事はもうしていないから。ほら、私達はずっといると言ったでしょう?」

 

自分たちが壊れているように見えるかと言外に言われ、アムロは首を振る。だが、その一方で自分たちが同じ待遇となる保証など無いと思っていた。何故なら自分たちは死刑判決の代わりに送り込まれているのだから。

 

(上手くやれ、アムロ。何としても生き延びるんだ)

 

その覚悟が、良い意味で裏切られることをアムロ達はまだ知らない。




ニュータイプの会話は難しい。
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