起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
本文中にヘイト表現が含まれます。
嫌悪感のある方はお読みにならない事をお勧めします。
「斯様にデメジエール中佐、並びにランス中佐の奮戦は我が軍の誇りであり…」
表彰式の挨拶とかスピーチって凄く眠くなると思いませんか?ムンゾからこんにちは、マです。視察から明けて翌日、朝もはよから高速艇に詰め込まれてやってまいりました我が故郷サイド3。なにげに俺主観だと初めてなんだよね、それでも懐かしさを感じるのはマさんの記憶のせいだろうか。
「では、両中佐。前へ!」
盛大な歓声に包まれながら、礼装に身を包んだ二人が無駄にでかい壇上へ登っていく。身内で授与されるのが自分だけだったので渋っていたデメジエール中佐も、今は余裕を帯びた笑顔で式に臨んでいる。ちなみに十字勲章受章2個目だって、流石教導隊所属は違う。
ギレン総帥自ら声をかけ、肩に手をかけて気さくな司令官アピールをした後、手ずから勲章を二人の胸に着けた辺りで会場のボルテージは最高潮に。この後俺も部隊の代表で表彰状貰うんだけど、ちょっとこのハードル高くないですかね?
「皆様!勇敢に戦い、そして見事多大な戦果を上げました両中佐に今一度盛大な拍手を!」
司会者さんの見事な煽りもあって、正に万雷の拍手。もう部屋に帰りたい。その後心を無にして素数を数えていたら、式はつつがなく終了し、そのまま俺は総帥府へとドナドナされた。辞令の件ですよねーってほいほい付いていったら何故かギレン総帥の執務室に連れ込まれたうえ、何故か人払いされたでござる。え、なに、なんぞ!?
「ガルマから報告を受けている。キシリアからもな。随分と好き放題しているようだ、准将」
何が可笑しいのか邪悪な笑み(※あくまで個人の感想です)を浮かべてそう仰るギレン閣下。うん、何この顔面凶器、超怖いんですけど。
「お二人には格別の配慮を頂きまして、このマ、感謝の念に堪えません」
そう言って直立不動を貫く、ただなんだろう?思っていたよりこの人人間ぽいな(スゴイシツレイ)。
「ふむ、だが軍紀違反は見逃せんな?功績大なりといえど規則を破ったものには相応の罰を与えねばいずれ組織は崩壊する。そうは思わんかね?准将」
「…仰る通りかと」
ド正論を持ち出されたらぐうの音も出ねえや。信賞必罰はちゃんとせんと、また功績挙げれば命令無視しても良いじゃん!って暴走するバカが出るからね、誰とは言わんけど。
「つまり覚悟の上での行動だったわけか?」
良かった今回の北米行きの事だ、壺はばれて無い。俺は内心安堵し堂々と言い放って見せた。
「はい、ですが部下達は私の命令に従っただけであります。何卒寛容な裁可をお願い致します」
「くっくっく、良かろう。貴様がそう言うのであれば今回の問題は貴様一人の責任と言うことにしよう」
俺の言葉にギレン閣下は肩を揺らすとやはり邪悪な笑みを浮かべながら応えた。
「有り難うございます」
俺がそう言って頭を下げると、閣下は机から書類を取り出して読み上げた。
「突撃機動軍所属マ・クベ准将、貴官の発案により連邦軍の作戦を頓挫させたことを我々は高く評価している、故に貴官の貢献大なりとし、一階級特進、少将に任ずる。また、過日の戦闘における功績からジオン十字勲章を授与するものとする」
そう言って階級章を机に置くギレン閣下。
「承知…は?」
まともに聞かんで頭を下げようとした所で変だと気付く。あれ?今昇進しませんでした?
「おめでとう少将、君も晴れて正式に将の位だな。また本日付で貴様は総司令部所属特別遣欧部隊の指揮官に任ずる。内容はオデッサにおける資源収集、並びに同地域にて地上用兵器群の試作製造、そして地球方面軍の後方支援だ」
「閣下、それは」
「つまり今までやっていたことをそのままやれと言うことだ。ああ、オデッサの連中はそのまま残してやる。群狼は群れでこそ価値があるのだからな」
やっべぇ、何このイケメン、顔面凶器とか言ってごめんなさい!
「格別のご配慮、感謝の念に堪えません。このマ、これからも祖国のため粉骨砕身する所存です」
そう言うと満足そうに頷くギレン閣下。やべえ、親衛隊の気持ちがちょっとわかっちゃう、これが本物のカリスマってやつか!そんな風に思っていたら、ギレン閣下は笑みを崩さぬままもう一枚書類を取り出した。
「よろしく頼む。さて、少将。総司令部に正式に所属が移ったので、改めて評価をしよう」
…ん?
「総司令部所属、特別遣欧部隊司令マ・クベ少将。貴官は突撃機動軍所属時、司令官であるキシリア・ザビ少将から度重なる警告を受けたにもかかわらず、戦力の無断収集、無申請の装備改造を行なっていたな?更に地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐に命令書の偽造を行なわせ、挙句司令部へ連絡も無しに勝手に戦力を動かした。この件について何か弁明はあるかね?」
ちょ、ま。
「この件について総司令部は極めて重大な背任行為であると考えている。この件に関して我が軍が出した裁可は反乱の意思ありとして即時拘禁、軍事裁判の予定であったが、キシリア少将、ガルマ大佐の報告を考慮し、処分を決定した」
え、もう決まってるの?確定事項よ!ってやつなの?
「此度の重大な背任行為は本来厳罰に処するべきであるが、これまでの少将の働きに免じ、2階級降格の上、十字勲章剥奪を以って処分とする。では、受け取りたまえ」
そう言って大佐の階級章を少将の階級章と入れ替えるギレン閣下。イケメンに見えたと言ったな?あれは嘘だ、この陰険顔面凶器め!
人事に関しての連絡を終えて少し気分の上向いたギレンは、式典後のパーティー会場に向かった。会場に入って暫くは綺麗どころや繋ぎを作りたいであろう連中から囲まれていた大佐だったが、それらを躱してつまらなそうに壁に張り付いたところに声を掛け、執務室横の応接室へと入る。キャビネットから適当なウィスキーを取り出して机へ置いた。
「まあ、サービスはこの位で十分だろう。ここからはプライベートだ、楽にしてくれていい」
そう言って自ら酒を注いでやるが、大佐の表情は優れない。無理もないことだとギレンは思う。自覚するほど悪相であるギレンはそのせいで人間関係の醸成に何時も苦労しているから、大佐の反応を見てもいつものことだと苦笑が漏れるだけだった。
「これからより近い上司と部下になるのだ。少しくらい胸襟を開いても罰は当たらんと思うがね?」
言いながらグラスを傾ける。大半の人間は無難に返事をするか、ただ微動だにせず嵐が過ぎるのを待つのだが大佐は違った。同じく酒が注がれたグラスを持ち、一口味を確かめた後、一息に呷ったのだ。その行動にギレンはちょっとした喜びを覚える。こうして誰かと酒を飲むのはいつ以来だろう。そんなことを考えていると、大佐は顔を顰めて口を開いた。
「美味くありませんな。熟成が足りていません。これではただの強い酒だ」
その言葉にギレンは思わず笑ってしまう。酒を酌み交わすのも久し振りだが、用意した酒を不味いと言われたのは初めてだ。
「それはすまなかった。私は酔えれば良い質でな、あまり味には拘っていないのだよ」
「個人の嗜好に口を出すのは無粋ですが、あまり良い飲み方ではありませんな。酒と付き合うコツは美味いものを楽しんで飲むことだと小官などは愚考する次第です」
「美味い酒ね。オススメなどはあるかね?」
「…そうですな」
キャビネットへ移動し幾つかの酒瓶を前にどれが良いかなどと埒もない話に花を咲かせる。流石に肝の据わった男だと思いつつ、ギレンはそれとなく本題を切り出した。
「なかなかの博識ぶりだな。これで文化にも技術にも明るいとなると、君に私がついて行ける話は政治くらいになりそうだ」
「ご冗談を、閣下の博識ぶりは国民皆が知るところでありましょう」
「そうかな?例えばジオニズムについて、君はどう考える?」
そう聞くと大佐は顎に手を当て、目の前の酒瓶を眺めながら口を開く。
「宗教ですな」
「宗教?」
「誰もが心強く生きられる訳ではありません。故に拠り所が必要です。スペースノイドにとってのそれがジオニズムであった、その程度のものでしょうな」
「内容についてはどう考える?」
「それこそ耳心地の良い言葉を並べただけです。そもそも過酷な環境下にあればより高次の精神を会得できると言うなら、原始人類の方が過酷な環境で生きていたでしょう。スペースノイドは過酷な環境で生きていると謳っていますが、完全に環境のコントロールされたコロニーで生きていてそれはないでしょう。せめて真空中で生きられるようになってから出直してきてほしいものです」
歯に衣着せぬ物言いが痛快であり、思わずギレンは更に踏み込んだ質問を放つ。
「では、私の書いた優性人類生存説については?」
「優秀な人間がリーダシップを発揮し、集団をまとめるのはある意味当然でありますし、そのことに疑問はありません。ただジオン公国国民がそれに当てはまるかと言えば疑問です。第一優秀であるならば一人の人間に全ての権限を与えるなどと言う構造が歪である事など解りそうなものですし、その先が自身の責任と権利の放棄による家畜化であるのは明白です。そこに思考がたどり着かない時点で連邦市民との間に差など無いでしょう。むしろ有権者として政治の失敗が自身に返ってくる分、連邦市民の方がまだ頭を使っているやもしれません」
「大佐、君は随分連邦よりの思想なのだな?私の前でよく言える」
そう聞けば大佐はつまらなそうに応えた。
「別に連邦が正しいと言っているのではありません。ただ、閣下であっても完全で完璧な指導者たり得ない。そうであったなら、我々は戦争などせずとも独立を勝ち取っていたでしょう。故に少しでもマシな政治体制はどちらかと言っているに過ぎません」
「だが、衆愚政治と腐敗はどうなる?それを続けた結果、人類は故郷たる地球を失いかけている」
「それで滅びるなら所詮それまでの種であったという事です。自己を律せず滅びまで突き進むなら、そんな種族はいっそいない方が地球のためでしょう」
あっさりと言い切る大佐に一瞬呆気にとられた後、ギレンは久し振りに盛大に笑った。あまりの事だったので隣にいた大佐は目を剥いてこちらを見ている。
「大佐、君はなかなか愉快な人間のようだ。君のような者と出会えて私はとても嬉しい。これからもよろしく頼む」
そう言って手を差し出すと、大佐は躊躇いがちに握り返してきた。これが二人の長い付き合いの第一歩になるのだが、それが理解できる者はまだだれも居なかった。
こんなのジオニズムでも優性人類生存説でもねえ!
と双方について詳しい方居ましたら是非ともご教示下さい。