起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第八十三話:0079/09/30 マ・クベ(偽)はエース(笑)

「くっ!こ、のぉ!?」

 

連続して放たれたビームが機体を舐める。戦闘開始から3分、直撃こそ貰っていないが、既に幾つかの装甲が蓄熱限界を超えてゆがみを発生させていて、コックピットにはそれを知らせる警告音が洪水のように流れている。クソッ!宇宙戦でビームってこんなに厄介なのかよ!?

 

『どうしたどうしたぁ!噂の怪物はこんなもんかぁ!?』

 

テンション高い煽りを叫びながら、後ろから迫る黒いゲルググが更に射撃を加えてくる。完全に遊ばれてんな。つうか宇宙戦なんてこちとらパイロット訓練過程までなんだよ!どころか体感的には初めてだわ!絆じゃ無重力ステージなんて無かったからな!

 

「すき…ほうだ、い…やってくれる!」

 

強引に機体をひねりこちらも射撃を行なうが、あっさりと躱される。畜生この機体重いぞ!?

 

『貰ったぁ!』

 

「やらせんよ!」

 

強引な方向転換で速度の落ちたこちらへ黒いゲルググは一気に距離を詰めてきた。コンパクトなモーションで振られるビームサーベルをシールドで受け、こちらもお返しに蹴りを見舞うが、シールドで防がれる。だがその反動で相手と距離が開いた。

 

「墜ちろ!」

 

思わず叫びながらトリガーを引く。しかし撃ったビームは機体を捉えらえられず虚空へ消える。でもここまでは想定内。

 

「そこだ!」

 

ビームサーベルを受けたせいで半分に断ち切られていたシールドを放棄し、左腕の固定武装である90ミリ機関砲を撃ち込む。回避を強要し機体が制御のために硬直するタイミングを見計らっての射撃、これならば避けられまい!

 

『欠伸が出るほど教科書通りだ』

 

その言葉と同時に機体が激しく揺れ、続いてメインモニターが光で一杯になったかと思ったら、撃墜判定のメッセージが出た。アカン、また死んだ。

 

 

 

 

「ふん、思ったよりは良い腕じゃねえか」

 

ノーマルカラーのゲルググを唐竹に切り裂いたと同時、演習プログラムの終了が告げられ、オルテガ中尉はヘルメットのバイザーを上げ大きく息を吐いた。

戦い方は教本そのもの。だが、書かれている内容をあそこまで正確に実行できる人間は少ない。最後の攻撃だって奥の手――装備している武装を投棄して意図的にAMBACの到達点をずらす――を使わされた時点で、オルテガにしてみれば勝利とは言い難い。何しろ相手はパイロットでは無く基地司令が本業なのだから。

 

「お疲れ、しかし怪物とやらも大したことは無いな」

 

シミュレーターから降りると、戦友のマッシュ中尉が労いの声を掛けつつ、そう対戦相手の大佐を笑った。今の所三戦三勝と自分たちが圧倒しているように見える。だからマッシュは気付いていないのだろうか?

 

「止せマッシュ、あちらさんは本職じゃ無いんだ」

 

横で腕を組んでいたガイア大尉がそう窘める。指揮官として相手の動きを分析する癖があるせいだろう。どうやらガイアの方は気付いているようだ。

 

「流石、名高い黒い三連星。正に手も足も出ないとはこの事だな」

 

固まって話していると、隣のシミュレーターから降りてきた大佐がそう言いながら近づいてきた。

 

「足は出ていたようですが?」

 

「見事に防がれたがね」

 

ガイアがそう言えば応えて肩をすくめて見せる大佐。その負けに痛痒を感じさせない姿を見て、マッシュが不機嫌な表情になったことにオルテガは気付いたが、すでに手遅れだった。パイロットとは皆自身の腕にプライドを持っている。故に負ければ悔しがり、勝利すればそれを喜ぶというのが自然な感情の動きだ。逆に言えばそういう感情を表さないなら、勝ち負けに拘泥していない、更に突っ込めば技量の上下など眼中に無いと言外に表しているとも取れる。それはパイロット、それも腕だけでここまでのし上がってきた者達のプライドを強く刺激する行為だった。

隊のリーダーとしての自覚のあるガイアや、自身の中では辛勝であったオルテガはまだ素直に受け入れられたが、最初に対戦し、あっさりと撃墜したマッシュはネガティブな方向へ捉えた。

 

「へっ。噂の大佐殿がどれ程の物かと期待したんですがね?」

 

「そうか、それは済まないことをした。ああ、そうだガイア大尉、出来ればこの後チームでやってみたいんだが…」

 

「は、はあ」

 

別のことに気が行っているのだろう、マッシュの煽りをあっさりと流す大佐に、更に機嫌を損ねるマッシュは、とうとうそれを口にした。

 

「全く、この程度の腕の奴に勝てないなんて、オデッサのパイロットは随分と腕が悪いようだ」

 

その言葉に、先ほどまで楽しげに喋っていた大佐の雰囲気が一変する。

 

「…ほう、面白いことを言うね、中尉」

 

「いやいや、真面目な話でありますよ、大佐殿。地球方面軍の連中がこの程度の腕をありがたがっているなんて悪い冗談です。なんせ、あいつらが失敗すりゃ、次は宇宙が戦場になっちまうんですからねえ?」

 

「おい、マッシュ!」

 

そう挑発を止めないマッシュをガイアが慌てて制するがそれはあまりにも遅すぎた。

 

「成程、一理あるな。しかし、私の部下を見もせずにそこまで言ってくれたんだ。相応に覚悟はあるんだろうね?」

 

「へっ。キシリア様にでも泣きついて営倉送りにでもするかい大佐殿?こっちは命がけでMSに乗ってんだ、お偉いさんの道楽に付き合わされちゃ迷惑なんだよ」

 

歯をむき出しにして鼻で笑うマッシュ相手に、大佐は無表情になった後、ガイアへ向けて視線を送り、ゆっくりと口を開いた。

 

「大尉、済まないが少し付き合って貰おう。部下の責任は上司の責任だからね、嫌とは言わせん。オルテガ中尉も連帯責任だ。いいな?」

 

「た、大佐。その、これは!」

 

ガイアが弁明するべく口を開くが、それより先に口角をつり上げた大佐が言葉を続ける。

 

「なに、別にとって食おうと言う訳じゃ無い。ちょっとしたレクリエーションさ。そうだな、君達が勝ったら欲しいものを進呈しよう。私の権限で出来る物なら何でも良いぞ?」

 

その言葉にオルテガは思わず身を乗り出す。マ・クベ大佐と言えば、突撃機動軍時代から羽振りが良い事で有名な士官だった。その気になればグワジン級だって手に入れられると噂された男が何でも良いと言う。それは一介のパイロットにしてみれば、正しく何でも手に入るチャンスだという事だ。

 

「…そいつは、魅力的な提案ですがね、大佐殿。俺たちが負けた時はどうなるんで?」

 

ガイアがそう聞くと、大佐は爬虫類のような笑みを浮かべこう応えた。

 

「その時は君達のプライドを頂いていくよ。マッシュ中尉の機体をもらい受ける」

 

 

 

 

「目を離している内に何をなさっているのですか、大佐」

 

機体のセッティングにあれこれ注文をつけていたら、お付の秘書官様にばれました。

 

「レクリエーションだよ、オデッサでは良くやっていることだ」

 

そう言うとイネス・フィロン大尉は腕を組み半眼になる。軍人として鍛えられた長身の彼女がそれをやると威圧感がパナいのだが、このマ、引かぬ、媚びぬ、顧みはする。

 

「レクリエーション。軍の備品を賭けてとはオデッサの風紀は随分緩んでいるのですね?」

 

チッ、そっちもばれてんのか。だが残念、根回しは済んでいる。

 

「問題無い。昨日受領したテスト用のゲルググを代わりに置いていく。宇宙用装備のままで地上でどの程度動くのか実機でテストをする、とでも言えば言い訳くらいにはなるだろう」

 

俺の言葉に眉を寄せて、しょうがねえなコイツ。という表情になるイネス大尉。凄みのある美人に睨まれてると、なんか変な扉開きそうだな。

 

「…言い訳。では本心は?」

 

は?んなもん決まってんだろ。

 

「中尉は私の部下を愚弄した。喧嘩をする理由などこれだけで十分だろう?」

 

男には殴らにゃならん時があるのだ。

 

 

 

 

止める間もなくシミュレーターへ乗り込み、模擬戦を開始する大佐をモニター越しに見ながら、イネスは盛大に溜息を吐いた。

 

「成程、エリオラ。コイツは確かに問題児だ」

 

監視役としてこの後オデッサへ異動となることが正式に告げられた彼女は、副官代理を務めるに当たって、オデッサに勤務している同期へ連絡を取った時のことを思い出した。

 

「一言で言えば、とっても頭の回る馬鹿な悪ガキかしら?」

 

「矛盾しているぞ。頭が回る馬鹿とはなんだ」

 

上官に対する評価としてはあまりな内容に思わず眉を顰めるが、その自分をエリオラは可笑しそうに見ながら、言葉を続ける。

 

「だって他に言いようが無いんですもの。ああ、先達として忠告。大佐からは1時間以上目を離さない方が良いわよ?」

 

その忠告を冗談と流した自分が腹立たしい。尤も、目を離したのは半分の30分だったのだが。

 

『オルテガ!マッシュ!ジェットストリームアタックをかけるぞ!』

 

ガイア大尉の声にモニターへ意識を戻せば、3機のゲルググ相手に何故か戦えている大佐のゲルググが映った。

 

『その戦法は現状に合っていないよ、大尉』

 

黒い三連星の代名詞とも言える技をそう言って大佐は崩してみせる。ほんの一時間前は一機相手にも負けていたというのに。

 

「なあ、少尉。大佐は何かしたのか?」

 

ほんの数分で技量が上がるなど、イネスの常識からすれば考えられない事だ。だから、彼女は最初に機体パラメータを弄ったのでは無いかと疑った。しかし、モニターしていた担当官の少尉は困った顔でこちらを見てきた。

 

「はい、いいえ、大尉殿。ああ、いえ、したと言えば…したのかな?」

 

歯切れの悪い言葉に若干苛立ちながら続きを促すと、少尉は続ける。

 

「簡単に言いますと、ゲルググは高機動の機体を練度の低いパイロットでも扱えるよう、旋回速度や反応速度をザク並みに落としているのです」

 

加速性能やそもそもの耐G性能が向上しているため、直線加速や制動といった面でザクを優越するが、事運動性能となると現在運用しているザクR型とあまり差が無いとのことだ。だがむしろそれは驚嘆すべき性能である。何しろR型はその稼働時間もだが、その運動性能を十全に発揮できるパイロットが少ないことも採用を遅らせていた原因なのだから。

 

「それで、つまり大佐は何をしたんだ?」

 

その質問に返ってきた答えは単純なものだった。

 

「はい、今の大佐殿の機体はガイア大尉と同じセッティングになっています」

 

何のことは無い。つまりあの大佐は。

 

「エースと同じセッティングにしただけ?」

 

その事実にイネスは興奮に背筋がぞくりと疼いた。

 

『俺を踏み台にしたぁ!?』

 

「覚えておきたまえ、大尉!数的優位と火力優勢を確保したなら小細工などせず正面からすり潰すのが最適解だ!」

 

叫びながらマッシュ中尉の機体を袈裟斬りに、続くオルテガ中尉の機体に右腕を破壊されながらも左腕の機関砲でコックピットを撃ち抜いた大佐の機体は、振り向きざまに引き抜いたビームサーベルを同じく振り返り刺突の形で突っ込んでいたガイア大尉のコックピットへ突き立てると同時、ガイア大尉のビームサーベルにジェネレーターを切り裂かれ、盛大に爆発した。

 

「成程、確かに頭の回る馬鹿らしい」

 

次は絶対に目を離さないようにする。イネスはそう固く決心しつつ、リアルファイトに移行しようとしている大佐を止めるべく、シミュレーターへと足を進めた。




イネス大尉は身長180越えのワガママボディ(攻撃力的な意味で)さんという脳内設定。
それとゲルググの近接装備はビームサーベルになりました。ナギナタさん落選。

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