起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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テコ入れ回


第八十九話:0079/10/14 マ・クベ(偽)と汚泥

閑散とした山麓に建てられた施設内を、異形達が闊歩する。最初は慎重に、けれどそれが徒労である事を、異形を操る男達は直ぐに知ることになる。

 

「一足遅かったか、ミーシャ、そっちはどうだ?」

 

『こっちも何もねえな。なあ、情報がガセって事はねえのか?』

 

研究所と思しき建物に併設された、まるで不釣り合いな倉庫群を端から覗いていたミハイル・カミンスキー中尉が不信の声を上げる。

 

「例のスペシャル情報らしいからな、その線は低いだろう。事実施設はある訳だしな…アンディ、そっちは?」

 

MSで確認出来る範囲での情報収集を諦めたハーディ・シュタイナー大尉は、研究棟らしき建物の内部に侵入している部下のアンディ・ストロース少尉にそう通信を送る。幸いにしてミノフスキー粒子の影響は少なく、通信はクリアだ。

 

『今の所は特に収穫は無いですね…。ただ、数日前までは間違い無く使われていたでしょう。何処も人の手が入った形跡がある…。ん?どうした?何かあったのかガルシア?』

 

「どうした、トラブルか?」

 

通信中に慌てて移動を始めたアンディにハーディはそう問いかける。

 

『いえ、ガルシアの奴が何か見つけたと騒いでいて、今着きますっ…。こ、こいつは!?』

 

「どうした?何があった?アンディ報告をしろ!」

 

驚愕の声を上げた後、黙り込んでしまった部下に、少し語気を荒げながらハーディは報告を促す。するとアンディは苦しげに言葉を紡いだ。

 

『当たり、当たりです隊長。ここは間違い無く連中の研究施設ですよ…連中、必要なものだけはしっかり持っていったみたいです』

 

そう吐き捨てると同時、アンディから静止画像が送られてくる。そこには部屋一杯にうち捨てられた死体の山だった。死体など嫌と言うほど見てきたハーディも思わず顔を顰める。死体の多くは明らかに子供だと解るものだったからだ。

 

『連中、いよいよなりふり構わなくなってきたみてえだな…。どうするんで?隊長』

 

吐き捨てるようにガルシアが言いながら指示を求めてくる。ハーディは一度大きく呼吸をし、自身を落ち着けると、口を開いた。

 

「画像を撮っておけ、情報部連中が喜ぶ。それから一応生存者の確認を。まあ、絶望的だろうがな」

 

そう言ってハーディは、画像を切り煙草を胸から取り出した。

 

(地球はロクな場所じゃ無いが、気兼ねなく煙草が吸えるのだけは有り難いな)

 

そんなことを思いつつ、二本取り出した片方を咥え、もう片方を火を付けて灰皿の上に置く。それは友人や戦友が死んだ時にハーディが行なう彼なりの供養だった。

 

「この島じゃ、死んだ奴は敵も味方も皆ホトケって奴になるんだってな。…まあ、こうなったのも何かの縁だ、悼むくらいはしてやるさ」

 

誰にとも無く呟き、暫し目を瞑る。その思いが奇跡を起こした、などとハーディは今でも信じていないが、その直後にアンディから信じられない報告が告げられる。

 

『隊長!隊長!生存者です!生きています!生きている奴がいます!』

 

その声に目を見開いたハーディは直ぐに指示を飛ばす。

 

「ダッキー直ぐに向かえ!ニック、ダッキーのカバーだ!残りは周囲を警戒、いいか、貴重な証人だ!絶対生かして連れ帰るぞ!」

 

その行動がいかなる未来を生むか、それはまだ誰も知らない。

 

 

 

 

「…そうか、テム・レイ大尉はジオンへ亡命したか。ご苦労、下がって良い」

 

憔悴した部下を下がらせ、渡された報告書を机へ投げ出すと、ヨハンは椅子へ深く体を預けた。状況は芳しくない。一見膠着状態に見えているが、こちら側のリソースはジリジリと目減りしている。幸いにしてルナツーに残留していた技術者達が居たため、V作戦そのものは頓挫していないし、MSの量産化も始まっている。だが、先の連続しての敗北は、既存兵器支持派を勢いづかせ、開発兵器が多岐にわたったため、連邦最大の強みである物量を活かせなくなっている。そして何よりも誤算だったのが、ジオンの地球方面軍の精強さだ。当初の予定では、ある程度拠点は奪われるものの、6月終盤には侵攻速度が鈍化、8月には補給線が完全に延びきり進撃限界を迎える。それが開戦初頭に総司令部が出した結論だった。故に少数の戦力で失血を強いつつ、戦線を縮小。相手が補給で手一杯になったところへ渾身のカウンターを撃ち込む。その為のV作戦だったのだが。

 

「最大の誤算はキャリフォルニア…そしてオデッサか」

 

どちらも失陥までは想定されていたが、そこからの復旧、あるいは拠点としての増築が予想を遙かに超える速度だった。まるでやり慣れているかのような侵略は、守護者の連邦と悪のジオンという図式を崩し、今ではむしろ連邦が戦争を持ち込んでくる厄介者扱いだ。

 

「…時間が無いな」

 

恐らくこの数ヶ月が連邦にとっての分水嶺となるだろう。少なくとも年内にある程度の巻き返しが図れなければ、後は時間と共に国力差が埋まっていき、1年もすれば逆転されている可能性すらある。尤も、その前に政治家連中が保身のために停戦を叫び始めるだろうが。

 

「失礼します。極東管区よりムラサメ博士、並びにクルスト博士を乗せた便が到着いたしました」

 

「そうか、無事着いたのかね?」

 

「はい、全員無事とのことです」

 

「解った。直ぐに必要な物資のリストを提出するよう伝えてくれ」

 

彼等の研究が完成すれば、質的な不利を覆すことも夢では無い。たとえそれがどれだけ人の道に反するものであったとしても。既にそれを拒絶するだけの余裕は連邦に無く、またヨハン自身の軍人生命も残っていなかった。

 

 

 

 

「遅かったか!」

 

サイクロプス隊からの報告を読んだ俺は、報告書を机に叩き付ける事で鬱憤を幾らか晴らす。事の発端は、フラナガン機関にアムロ君達の様子を確認した時だ。ケアも順調に進んでいて、アムロ君はすっかり打ち解けたようだし、他の二人もかなり回復しているのを見て安心したことから、世間話にと施設の様子を聞いたらトンデモねえ爆弾が飛び込んできた。

 

「様子と言えば、先月頭あたりからクルスト博士が体調不良で長期療養していますね」

 

純粋に同僚を心配する口調でそうシムス中尉が話してくれたのだが、俺にはどう聞いても凶報にしか聞こえなかった。慌てて状況を問いただせば、もう完全に真っ黒。療養していたはずの家はもぬけの殻で、博士は何処かに消えていた。

仕方が無いのでユーリ少将に頼んでサイクロプス隊を借り受け(ちゃっかり彼等の装備はオデッサ持ちにされた上、全部ゴッグ改に更新させられた)、最有力候補であるムラサメ研究所を襲撃して貰ったのだが。

 

「クルスト博士ってのはそんなに厄介な御仁なんですかい?」

 

俺の様子を腕を組みながら見ていたデメジエール中佐が、そう問うてくる。うん、はっきり言って今世紀の危険人物トップテンに必ず入れると思う。

 

「端的に言えば、目的のためには手段を選ばない天才だ」

 

「成程、でもそんな連中ごまんと居るのでは?」

 

そうね、ジオンも連邦も見ているとそんな連中ばかりだね。

 

「彼の場合問題になる点は二つ。一つ目は目的がニュータイプの抹殺というあやふやなものであること。もう一つは、それを実行するための装置を実際に作り出しているであろう事だ。我々にとって厄介なのは二つ目の方、つまりニュータイプを抹殺するための装置の方だな」

 

俺の言葉があまりにも突飛なため、聞いているデメジエール中佐は理解が追いつかず、何とも言い難い表情になっている。うん、人にものを伝えるって難しい。

 

「ええと、特殊な装置…なんですかね?」

 

「具体的にどう言った仕組みかは知らんが、彼の残した資料からするとMSの性能を大幅に向上させるものらしい」

 

その言葉で納得したのか腕を組み頷く中佐。

 

「成程、それは解りやすい。しかも連邦が保護していると言うことは…」

 

「うん。既にものは出来ていると見るべきだろう。どころか報告から察するに、既に量産体制に入りつつある」

 

言いながら俺は机の上の資料を見るように促す。勿論そこには、サイクロプス隊が撮影した被験者だったものの写真も添付されている。それを見て中佐は不快そうに顔を歪めた。

 

「大佐、こりゃ一体何です?まさかその博士ってなぁ、怪しい儀式でもやるんで?」

 

「…これは、極秘情報だ。聞いたことも忘れて欲しい。クルスト博士が開発していた装置はニュータイプの能力、言ってしまえばマリオン少尉の回避能力などだな、それを誰でも使えるOSに落とし込むというものだったのだが、その過程でどうやらその人物の精神を装置内に取り込み、制御システムそのものに出来る方法を思いついたようだ」

 

史実では偶発的な事故の結果生まれているが、こちらではフラナガン機関でその手の実験は止められたから、サンプルはあくまでその前段階。そしてあの写真からすると連邦で制御システム…EXAMは完成し、膨大な実験の結果、量産化に成功したと見て良いだろう。

 

「理屈はまったく解りませんが、つまり連邦の機体はこれから全てマリオン少尉みたいに攻撃を避けるって事ですか?そら恐ろしく厄介ですな」

 

「性能について正確には解らん。なにせ材料にされた被検体の能力に依存しているらしいからね。だが、間違い無く今までより高性能になっているのは確かだ」

 

そこまで言って俺は机から書類を取り出す。

 

「賭けは嫌いなんだがな。前倒しでコイツを提出する必要がありそうだ」




連邦が邪悪な存在であるように必至にアピールしていくスタイル。
正にジオン。

サイクロプス隊の見知らぬメンバーについて
戦況が優勢なので史実より損耗していないので1個中隊分の戦力が居るという設定です。
キャラクターの名前は海軍犯罪捜査班から借用です。

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