起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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そろそろですね。


第九十五話:0079/10/26 マ・クベ(偽)と小康

「君の意見を聞きたい」

 

朝っぱらから軍の最高責任者とお話とか正直心臓に悪いと思うんですよ。出来れば次から午後の遅い時間にして下さいませんかね?数日前から連絡しておいて頂けるとマ、喜んじゃいますよ?

 

「徴兵への移行は宜しくないかと。確かに人的不足は問題ですが、今軍の求めている人材は頭数ではありません。プロフェッショナルです」

 

「それは解る。しかし現実問題として現有戦力では戦線の維持が手一杯だ。例の陳情は読んでいるだろう?」

 

陳情とは先日回ってきた海軍からのものだろう。端的に言えば敵の輸送が増大してるからもっと戦力と装備ちょうだい!って内容だった訳だが、その意味するところは深刻だ。何せ今の連邦軍が物資を貯めるのなんて攻勢準備以外にあり得ないからだ。

 

「一度や二度なら欧州も北米も耐えられよう。しかし三度四度となればどうか?」

 

「厳しいでしょう。現状確認されている輸送量から推察できる規模となりますと、二度の攻勢でこちらの予備戦力は払底します」

 

他の戦線から引き抜こうにもそんなことすれば今度はそちらが狙われる。

 

「それが解っているからこそのタスクフォースと例の作戦計画なのだろう?だが、アレは博打が過ぎる。成功すれば良いが、失敗すれば最悪地上での主導権を取り返されかねん」

 

ですよねー。

 

「つまり、どうあっても戦力の拡充は必須でありますか」

 

「そうだ、現在でも志願者は一定数確保出来てはいるが、必要数には到底足りん。特にMSパイロットは深刻だ」

 

MSは軍の中核だから兎に角数が要る。けれど旧世紀の戦闘機ほどでは無いにしろ、相応に適性を求められる上に、戦場での損耗も激しい。俺の知っている時代に比べて遙かに医療技術は進歩しているが、失った腕を生やしたりは出来ないし、死んだ人間を蘇らせることだって不可能だ。まあ、それ以外だと割となんとかなるあたり宇宙世紀の科学力はパナい訳だが。

 

「体力があればそれなりに務まる、と言う訳にはいきませんからな」

 

まあ、そんなのが通じたのは精々戦列歩兵くらいまでだろうけどね。そんな埒もない事に思考を飛ばしていると、窓の外をゲルググが通り過ぎていった。シールドに付いていたマークからして元マルコシアス隊の機体だ。あんな感じでギスギスしていたけれど、相応に隊に愛着があったようで、マーキングだけは残させてくれと懇願されたのだ。元々MSの適性重視で選抜されただけあって、今や基地でも海兵隊か元マルコシアスかと言われるほど技量の高い部隊になっている。おまけに何でも器用に乗りこなすので、新型が配備されると真っ先にまわされるようになっている。さっきのゲルググもセンサーとか追加した改良モデルだったし。

 

「…例えば犯罪者を集めた懲罰部隊はどうか?」

 

物思いにふけっていると眉無し閣下がとんでもねえ事言ってくる。

 

「人格面に問題がある方が練度の高低より悪いでしょう。特に地球はスペースノイドにとってストレスの多い場所です。現地住民に対し再犯などされては統治どころの話では無くなります」

 

「人の居ない地域に送り込めば良いだろう?」

 

ええ、史実の俺がそんなことしてましたね!

 

「最悪野盗になっても良ければ使える手ですな。自軍の補給線も危険になりますが、それならばまだ目の届くところで歩兵でもさせていたほうが…」

 

「どうした?」

 

ちょっとまてよ?

 

「閣下、MSの適性試験は今どのようになっていますでしょうか?」

 

「変わっていない。君もよく知る…成程、中々面白いことを考えるじゃ無いか?」

 

なんでその質問だけで俺の考えが解るんですかね?天才怖い。

 

「まずは私の所、それから出来ればキャリフォルニアでも試して頂きたい」

 

俺がそう言うとギレン閣下は顎に手を当てて目を瞑る。沈黙は僅かで直ぐに口を開いた。

 

「既存の資格と分ける必要があるな。やれやれ、まるでドライバーライセンスじゃないか」

 

「言い訳のしようがありませんな。ですがそれで戦力が増えるなら安いものです」

 

 

 

 

「お久しぶりです、ギレン大将。ご息災のようで小官も嬉しく思います」

 

そう逞しい笑顔で告げるガルマを見ずにその後ろへと視線を送る。自分が見られていることが解ったのだろう。副官と思しき青年は緊張で僅かに震えていた。

 

「ガルマ大佐、そのような挨拶は不要だ。それより大事な案件だ、人払いを」

 

「承知しました」

 

ガルマが視線で退出を促すと、青年は明らかに安堵した様子で部屋から出て行く。その様子を眺めていたギレンへすかさずガルマがフォローを入れた。

 

「すみません、兄さん。あれで普段は優秀なのです。総司令に目を向けられれば誰だって緊張します。どうか許してあげてください」

 

「ガルマ、お前の優しさは美点だが、優しさと甘やかすのは別だぞ?地球方面軍司令の副官をやらせるならば、もう少し精神的にも鍛えさせろ」

 

解りにくい言い方ではあったが、自分を心配してくれている事が解ったガルマは苦笑を返した。

 

「後で叱っておきます。それで、今日はどうしたのですか?」

 

「例の戦力増強についてだ。アレがまた面白いことを思いついたぞ?」

 

「またですか?普段何を考えて生きていれば、そうぽんぽん思いつくのか。一度コツを聞きたいですね」

 

「あれは趣味人だからな。案外お前も壺集めをしていれば閃くかもしれんぞ?」

 

「それも考えておきましょう。それで、彼の面白い案とは?」

 

ガルマの言葉にギレンは口角をつり上げる。

 

「限定免許、だそうだ」

 

「は?」

 

理解の追いつかない顔のガルマへギレンが語る。現在行なわれているMSの適性試験は宇宙空間での戦闘を想定した空間把握能力、認識力に対するテストが主である。しかし、地上限定ならばこれらの能力は大幅に緩和される。であるならば、本来の適性試験に落ちた兵士でも地上限定ならパイロットとして戦えるのでは無いか、と言うのだ。

 

「曰く、地上なら飛び跳ねこそしますが操作は車と大差ありません。だそうだぞ?あの化物の感性が一般人に何処まで通用するか解らんが、少なくとも徴兵する前に試す価値はありそうだ」

 

「成程、既に地上に降りている他の兵科に所属するものなら、最低限地上戦の常識もある。そして歩兵ならば比較的容易に兵士の補充も出来ますね」

 

「ああ、特に古参の多いキャリフォルニアとオデッサには選考に落ちた者も居るだろうからな、案外良質な金脈になるかもしれん。こちらでも希望者にはそちらのテストも受けられるよう取り計らう。ついてはお前達でテスト内容の選定をして貰いたい。出来るな?」

 

不敵に笑いながらそう命じてくるギレンにガルマは笑顔で応じる。

 

「承知しました。ですが宜しいのですか?マ大佐だけに任せれば、功績は彼だけのものになるのでは?」

 

その物言いにギレンは愉快そうに笑った。

 

「お前を巻き込むよう進言してきたのは他でもない大佐だよ。何故か解るか?」

 

そう言われガルマは一呼吸考え、持論を口にする。

 

「キャリフォルニアも同時に進めれば早期に戦力の拡充が進められます。自身の功績よりも軍の実を取った…でしょうか?」

 

「だけでは無い。地球方面軍司令のお前を無視して戦力についての拡充計画を立てたとなれば、面白く思わん連中が要らん騒ぎを起こすだろう。そうなれば導入も時間が掛る上に、参加者も減る可能性がある。アレは嫌われ者だからな」

 

笑いながらそう話す兄に、ガルマは溜息を吐いた。事実マ大佐は敵も多い。何しろ気に入らなければ、この兄にすら噛みつく男である。相手が誰であろうと平気で批判するし、部下を不当に扱っていると感じたら部隊ごと引き抜いていくような事をするものだから、やられた連中からは蛇蝎のごとく嫌われている。しかも大抵被害先はこちらの派閥に属している連中だから、中には大佐を親ダイクン派の急先鋒だと批難する者まで居る。冷静に見れば、気に入らないものに手当たり次第噛みついているだけだと解るし、噛まれている連中は、元々素行に問題がある者ばかりだ。加えて大佐の行動が軍のデメリットになったことは(信じられないことに)今まで一度も無い。そのため兄達も姉も大佐を庇っているのだが、その庇われているという事実さえ、マ大佐が嫌われる要因になっている。

 

「口さが無い者にはザビ家の狂犬などと呼ばれているようですからね。一番噛みつかれているのは我々だと思うのですが?」

 

特によく噛みつかれる姉と一つ上の兄などは通信のたびに愚痴をこぼしている。

 

「だから狂犬なんだろうさ。なに、ああ見えて弁えて噛みついている。致命傷になる傷はつくまいよ」

 

その返事に再びガルマは溜息を吐く。致命傷寸前までは噛みつかれそうだと考えながら。




衝撃の事実:マ・クベ、嫌われ者だった。

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