起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
提案が承認されて早くも三日が経ちました。思いついた次の日には実施命令が来るとかフットワーク軽過ぎませんかね?
「基本的にゃあ、月面制圧プログラムを基にすりゃあ良いだろう。重力設定を1Gにしてだな」
「特殊部隊の選抜じゃないんだ。基本さえ押さえておきゃいいんだよ。地形への対応?そんなの所属基地で変わるんだから配属後の追加課程にしな」
本日、オデッサはシミュレーターの管制室からお伝えしております。地球用のMS適性試験プログラム作るよーって話したら、ガデム少佐とシーマ中佐がノリノリで付いてきた。ちなみにデメジエール中佐は絶賛シミュレーターの中である。
「いや、今更MSと言われても…」
なんて言っていたが、始まってみればなかなかノリノリである。
『大佐の言うほどじゃないですが、確かにこれなら一応動かせますな』
最初こそおっかなびっくりゲルググを動かしていたが、今ではホバー機動から射撃までやっている。相手は静止目標だし中佐も動きが単調だが、少なくとも動かせてはいる。尤も、MS組の二人はあまり満足していないようだが。
「ホバーは、平面での運動ですからね、選択肢が増えただけで基本的に何か車両にでも乗っている経験があればそれほど難しくはないでしょう」
「三次元に比べりゃ縦軸の選択肢が大幅に制限されるしな。上下への警戒が少なくなるだけでかなり負担は減る。拠点間も基本的には平面だし、何より目標になるものが地上は多い」
MSの適性において、最も重視されるのが空間把握能力だ。何故かと言われれば、当然戦闘中、相手と自分の位置を正確に判断できる方が有利だからと言うのもあるが、それより重要な意味があったりする。
「「いやあ、地上は楽で良い」」
MSは兎に角動き回る。戦闘機でも巴戦は発生するが、その比ではないくらい複雑に運動するMSは殊更空間識失調を起こしやすい。おまけに戦闘中はミノフスキー粒子を溺れるくらい撒くのが現在の常識なので、電波による誘導が受けられない。しかも宇宙だと自分が静止しているのか、移動しているのかすら認識できなくなる場合すらあるため、この空間認識能力が高くないと、あっという間に迷子になってしまうのだ。ちなみに、ベテランでも相応にこの状態になるのだが、その場合どう帰るのって聞いたら、天測だって返された。地味にアナログである。
「地上ならMSもなかなか悪くないですな、俺は戦車の方が性に合ってますが」
シミュレーターから降りてそう笑うデメジエール中佐を見ていた二人が半眼になって突っ込んだ。
「中佐、ありゃ完全に戦車の動きだよ。縦軸への機動なんて障害物を避ける以外使ってないじゃないか?」
「お前さんの動きじゃ、ここの連中なら5分とかからず蜂の巣じゃよ。まあ初回と考えれば及第点だがね」
「…いいんだよ、俺は戦車乗りなんだから」
「まあ、人間誰でも得手不得手はあるからな。しかしこれで適性試験に一度落ちた者でも、地上限定ならやれそうだと証明できたわけだ」
そう言ってむくれる中佐に笑いかけながら結論づける。
「技術そのものは訓練次第である程度どうとでもなりますからね。しかし我が軍も贅沢な軍になりましたなぁ」
「だな、まさかMSより人が足りないなどと言える日が来るとは」
史実でも同じような事言ってましたけどね。向こうは人的資源が払底してだから全く意味が違うけど!
「暫くは歩兵部隊を中心にパイロットへの転換試験を受けてもらう。本人の希望は可能な限り聞くつもりだが、基本的には適性があればMSパイロットになってもらう予定だ」
「歩兵はかなり過酷ですからなぁ、基本的には転向するでしょう」
「そうなると補充は基本的にパイロット以外が多くなるのかの?歩兵部隊からあまりベテランを引き抜くと都市制圧が難しくならんか?」
市街地の占領や、占領後の都市の維持など、どこまで行っても歩兵は必要な兵種だ。けれど現状からすれば、ある程度縮小しても問題ないというのが総司令部の見解だ。
「欧州と北米の統治がかなり良好だからね。歩兵部隊はかなり余裕があるのだよ。何より例の放送で大半の地域はこちらに友好的だ」
北米なんて現地民の元警官とかに武器を返して治安維持に参加してもらってるらしいからね。ユーリ少将がうちじゃまだ無理だってぼやいていた。クルスト博士は割と死んだ方が良いMADだが、少なくともこの件ではジオンは感謝すべきだろう。
「今後戦線にMSが充足すれば、次いでパトロール隊を対象にする予定だ。その次は砲兵隊だな」
パトロール隊は、降下作戦当初、偵察部隊として連れてきた軽車両を装備した部隊だ。しかし、戦線の拡大に伴って空いてしまった隙間を埋めるためにその軽車両のまま哨戒任務についている。中でも信じられないのがワッパとかいう不思議装備に生身の人間を乗せて走らせまくっているのである。パイロットスーツは優秀であるが、ライフル弾に対する防弾能力なんて無いし、機体も非装甲。下手しなくても相手に見つかれば命はない感じである。モーター駆動で静かで小さい!偵察に最適!みたいな売り文句らしいが、人一人と機体を浮かせるだけの風圧は滅茶苦茶埃を巻き上げるので、正直同じモーターでバイクかバギーあたりを動かした方が見つかりにくいと思う。地形対応能力は認めるが。
「元々パトロール隊はMSの不足を補うためですからね」
「砲兵隊はどうなんです?ありゃ替えがきかんでしょう」
「砲兵隊に関しては、むしろ装備をMSに更新する予定だそうだ。うちにも試作機を送るからテストするように連絡が来ている」
そう言って俺はガデム少佐に端末を見せる。そこには680ミリ単装砲とかいうタカミ中尉が見たら喜びそうな文字が並んでいるが、見たガデム少佐は顔を引きつらせていた。
「MSにダブデの主砲を載せるのですか?」
「正確に言えば、砲弾を共有するだけで砲そのものは新規開発だな」
最初から射程を割り切って軽量化している。
「機体名は…YMS-16、ザメル、ですか。これの運用なら今までとそう変わらんでしょうな。とすると、転向させるパイロットはこれの護衛ですか?」
「一応砲戦用MSに乗せてひとまとめで運用、と言っているがそうなるだろうな。現状砲戦用となるとドムのキャノンタイプだが、あれは曲射が出来んし、出来る装備を積んだとしても680ミリと射程を合わせることは無理だろう」
「うへ、こりゃまた派手なMSですな?」
「せっかくですからデメジエール中佐、乗ってみたらいかがです?今日のシミュレーターで限定資格は貰えるんでしょう?」
面白そうに言うシーマ中佐に俺は頭を振った。
「大口径砲の搭載という点以外この機体とヒルドルブの共通点はないよ、シーマ中佐」
そもそも砲兵向けと言うだけあってザメルはほぼ装甲が無い。重量の大半は主砲とその砲弾で正に古き良き砲運搬車である。無論ヒルドルブのように装甲も持たせようと思えば持たせられるだろうが、その場合重量は今の数倍になるだろうし、そうなれば推進器も大型化する。となれば機体サイズがさらに大きくなって…という悪循環が始まるわけだ。ヒルドルブの場合、これを搭載砲の口径という形で妥協している。ザメルの半分の口径というのは、あのサイズと重量で抑える上で選択しうる最大級のサイズだったのだ。
「全高も高いし、装甲も無い。正に自走砲ですな。まあ、100キロで動き回る680ミリと言うだけで十分な脅威ですが」
「成程な、そりゃ破城鎚のヒルドルブとは勝手が違いますな。さしずめこいつは遠投投石機と言うことですか」
そんなことを言いながら何度も頷くガデム少佐。古めかしい例えだけど、そういうの好きなのかな?
「さて、世間話はここまでだ。シーマ中佐、ガデム少佐、すまないが引き続き調整を頼む。デメジエール中佐はシミュレーターの感想をまとめてほしい。思ったことや感じたことは些細なものでも挙げてくれ。君たちの働きが兵士の命を左右するぞ?」
「今度はMSの適性試験?おいおい、うちの軍はずいぶん羽振りがよくなったじゃないか?」
貼り出された通達を読みながらギャル軍曹は口笛を吹いた。パトロール隊唯一のMSパイロットである彼は先日ドムを受領したばかりだ。
「転向は歩兵部隊から優先らしいですけどね。適性だけ先に見て、シミュレーター訓練だけ先行するみたいですよ」
「相変わらず耳が良いなソル」
「パトロール隊は規模は変えずに純粋にMS配備数を増やす方針みたいですね。ワッパ乗りが減らされるってクワラン曹長がふてくされてましたが」
クワラン曹長は開戦直後からワッパに乗り続けているので、その分愛着も強いのだろう。その様子が容易に想像できてしまい、ギャル軍曹は思わず苦笑した。
「まあ、MSに乗れるかは試験結果による訳だしな。それに乗ってみれば案外気に入るかもしれないぞ?特にドムは最高だ」
そう言いながら自機であるドムが如何に良い機体であるか熱心に語ってくれるギャル軍曹に笑顔で対応しながら、ソル伍長はクワラン曹長のことを考えていた。
(曹長、変な方向に突っ走らなきゃ良いけど)
後日、彼の心配は的中し、暴走したクワラン曹長がより高性能なワッパを陳情し、何故かそれが巡り巡ってオデッサ基地司令を悩ませることになるのだが、見事テストに受かったソルには関係の無い話なのだった。
ワッパとか怖くて乗る気になりません。あんなんで走り回るジオン兵マジクレイジー。