起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第九十七話:0079/10/31 マ・クベ(偽)と試験

ガウから降ろされるパーツ群を眺めながらため息を吐く。何でうちの開発部は、こう、満点をつけられない装備を送ってよこすのか?

 

「資料通り馬鹿でかいですなあ」

 

俺の間抜け面が可笑しかったのか、楽しそうに笑うシーマ中佐。今は部下の訓練と言うことで中佐不在でも問題なく部隊が動けるよう、わざと基地に残留している。時折通信室で彼女の叱責が聞こえるから、まだまだ向こうも時間がかかりそうだ。

 

「笑い事では無いよ中佐。連中はこれをどう使うつもりだったのか」

 

そう言って手元の端末を立ち上げ、もう一度ザメルのスペックを確認する。全備重量121.5t、最高速度99km/h。ここまでは良い。

 

「全高、27メートル。台無しだな」

 

ザメルは重い、そして遅い。いや、この巨体を100キロで動かせるのだからすごい技術力ではあるのだが、三倍以上の速さのドムだって戦場までわざわざ自力移動なんてさせない。つまり輸送機なりなんなりに積むわけであるが。

 

「分解しないと載せられない?しかもでかくて通常のハンガーでは組めない?何がどうなったらこれで開発承認を通るんだ!?」

 

いかん、最近ゲルググとかで順調だったから完全にノーマークだったわ。なんかワッパの改善もしろとか訳わかんねぇ命令も来てるし。あれか、開発部は俺に恨みでもあるのか?

 

「取り敢えず組んで性能試験だけでもしておきましょうかね?改善要望はそれと一緒でも遅くないでしょう?」

 

「正直乗り気がせんな」

 

さて、オデッサはこう見えて新兵器の運用試験を任されると同時に、それの評価や運用方法の模索、果ては機体そのものの改善まで担当している。そんなところへ他の開発チームが設計製造した機体が持ち込まれるとどうなるか?

 

「この!砲を!造ったのはだれだぁ!!!」

 

ザメルは優秀な整備班が組み上げてくれました。整備班のMS全力稼働でも半日掛かったけどな!こんなん絶対戦場じゃ組めねえよ。ぐんにょりとした気持ちになりながら取り敢えず射爆場へ運んで一発撃った途端。ニコニコと付いてきていたタカミ中尉が般若の形相で絶叫した。うむ、さもありなん。ぶっ放した瞬間チャンバー付近のあちこちから吹き出す燃焼ガス。どうやら射撃時の制御用に意図的に漏らしているっぽい。しかも無反動砲と見紛うほどあちこちへガスを盛大にばらまいているせいか、長砲身の割に随分初速が遅い。にもかかわらず発砲した瞬間、砲全体が盛大にぶれるものだから、初弾はあさっての方向へ飛んでいった。

 

『大佐、この砲まっすぐ飛ばんぞ?』

 

砲撃NTのデメジエール中佐でも無理か。

 

「取り敢えず当たるまで撃ってくれ」

 

『どんな罰ゲームだ…』

 

切なそうな声で返事をした後、中佐は黙々と射撃を行う。射爆場にでかい穴が9個ほど出来たところで漸くターゲットに命中する。

 

「威力は申し分ないですな」

 

「威力はな。デメジエール中佐、次は曲射を試してほしい、いけるか?」

 

のんびりそんなことを言うシーマ中佐にため息混じりの返事をしながら、そうデメジエール中佐に聞くと、中佐はなんとも言えない声で返してきた。

 

『あー、大佐。すみませんが弾薬がありません。補給願います』

 

俺は黙って持っていたクリップボードを地面に叩き付けた。

 

 

「よし、諦めよう」

 

一応あの後、走行試験や模擬戦なんかもしてみたが、結論からすると、何をやらせるにも中途半端、という答えで落ち着いた。落ち着いてしまった。

長距離砲撃をさせるには精度が足りず、かといって近距離で使える装甲は無い。そして中距離で撃ち合うには携行弾数が不足している。まあ、最後のは砲口径がでかい分仕方ないのだが。

 

「兎に角砲が問題外です。あれを造った奴は火砲をなめてますね」

 

研究こそしてたけど、実際に陸戦兵器を運用するのは今回の戦争が初めてだからね。トンチキな発想にたどり着くのも解らなくは無いが。

 

「今回の件はこちらからの要望も悪かったな」

 

正直今回は全てのタイミングが悪かったと言えよう。元々地球方面軍は、戦力の不足を補充では無く、兵士の多能化で補おうと考えていた。つまりMSを多機能化することで一人で歩兵から戦車、砲兵までこなさせてしまおうという考えだ。本当にマルチロールが好きな連中である。んで、MSに砲兵の仕事をやらせようと、件のザメルが出来上がるわけだが、ここで重大な落とし穴があった。近代史を紐解くと解るのだが、技術の進歩で境界があやふやになったり、兼務できるようになったりもするが、実は砲兵とくくられている連中も細かく分けることが出来る。大雑把な分け方をするならば、前線で戦う味方を支援して敵を吹っ飛ばす直接支援砲兵と、長距離砲や長距離ロケットで敵の後方を直接叩く全般支援砲兵に分けられる。同じ砲兵と言っても運用が全く違ってしまうのだ。話をザメルに戻すと、開発部は砲兵と聞いて後者を想像した。だから最低限不足しない機動性以外は砲火力に全振りした、文字通り動ける砲を造ったのだ。ところが、前線が欲しがっていたのは違う物だった。MS部隊に随伴して直協支援してくれる、砲兵の仕事も出来るMS、言うなれば突撃砲のような物が欲しかったのだ。オイオイ、何だいこいつは?こんなでかくてノロマな塊がMSだって?ムンゾでキドニーパイを焼いているママだってもうちょっと面白いジョークを言うぜ?HAHAHA!と、言われたかは知らんが、兎に角軽量化、小型化、装甲化と開発部が思っていたのと全く違う要求が追加され、今に至るという訳だ。正直初期設計案のものなら、砲兵隊の装備としてかろうじて及第点が出せそうなのだが。

 

「ガウで運べないのでは展開力が致命的だな、これならギャロップでいい」

 

「直接支援には、絶対的に装甲が足りません。ヒルドルブの砲塔を固定式にして突撃砲仕様でも造った方がマシでしょう」

 

そうなんだよなあ。このサイズなら砲兵としてはギャロップがあるし、前に出すならヒルドルブがある。自走砲として使うにしても、ガウに搭載できるヒルドルブを改造した方が、遙かに使い勝手が良いだろう。…うん、決めた。

 

「アサーヴ大尉、タカミ中尉。ヒルドルブベースの自走砲を検討して欲しい。砲はこれと同口径、それ以外は君に任せる」

 

「「了解であります」」

 

「あのー、大佐。するってえとコイツはどうするんで?」

 

それまで黙って聞いていたゲンザブロウ氏が、そう言ってザメルの映されているモニターを指さした。うーん。どうしよう?

 

「ここに有っても場所を取るだけですし、キャリフォルニアに送り返そうかと考えていますが。どうしたのです?」

 

「いえね?これだけ余裕のあるプラットホームはそうそう無いもんですから、出来れば技術検証用に頂けないかなと」

 

以前言ったとおり、本来機体の改造に関しては軍の承認が必要なのだが、ウチは総司令部預かりになったと同時に、陸戦兵器限定ではあるが、機体の改造が認められている。当然報告は必要であるが、基地所属になった機体に関しては割と好き勝手に出来るのである。ここの所ひたすらゲルググの受け入れとドム、グフⅡの改造ばっかだったから完全に失念してたわ。

 

「確かに試作装備の試験なら使えますか…」

 

足回りは基本的にドムからの流用だし、ジェネレーターや制御系もまんまっぽいな。つうかこいつ、この形でジェネレーター1080kWしかねえのかよ。本当に砲戦特化なんだな。

 

「良いでしょう。ついでですからどうせなら一回り小さくなりませんか?」

 

一々運ぶときにばらさにゃならんとか面倒すぎる。

 

「はあ、一応やってはみますが期待せんでくださいよ?」

 

はっはっは、何をおっしゃる。

 

「ゲンザブロウ氏達の腕はよく知っていますからね。存分に期待させて頂きますとも」

 

 

 

 

「おう、ハカセ、嬢ちゃん。前話してた装備の件なんだけどよ。機体の方、都合付きそうだぜ?」

 

シミュレーターの対戦結果を相手であるマリオン少尉と、同伴していたフラナガン博士の二人とハマーンが食堂で話していると、中年の男性、ゲンザブロウ・ホシオカ技師が話しかけてきた。見た目も性格も文字通り頑固親父なゲンザブロウであるが、年若い女性には弱いらしく、いろいろとお願いを聞いてもらっている。先日などオーガスタの子供達が退屈だというので、彼にお願いしてフラナガン医療センターオデッサ支部の内部にMSのシミュレーターを設置してもらったほどだ。順番待ちが出来るほど人気なので、正規のシミュレーターを使えるハマーンやマリオンはこうして基地のものを使っているが。

 

「随分急ですな?確か、今のMSではサイズが足りないと言う話だったのでは?」

 

「ええ、大佐が面白いもんを貰って来ましてね。それが使い物にならんってんで、折角だから貰っちまおうって寸法です」

 

そう悪戯小僧のような笑みを浮かべながら喋るゲンザブロウに、フラナガンはむしろ納得したような表情になっている。

 

「成程、物も人も集まるオデッサは開発者にとって実に良い環境ですな。早速地上用の試作ユニットを送らせましょう」

 

「こっちは先に頂いてる図面で大凡の調整をしときます。やったな嬢ちゃん。専用機だぞ?」

 

「はい!ありがとうございます!おじさま!」

 

そうハマーンは満面の笑みで応える。その様子を黙って眺めていたマリオンは、密かにため息を吐き、これからのことを考えた。

 

(さて、どう報告すれば、大佐の胃に一番負担が掛からないだろう?)

 




ザメルの燃焼ガスについてはロボ魂を検索してみよう!
全く関係ないですがクロスレイズ攻略中です。え?イベント海域?何に事かなあ?

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