ラントの入り口には男性が二人立っていた。槍を携えていることから、門番なのだろうと推察できる。
怪しまれたりしないだろうか、許可証がどうだとか言われないかと不安だったが、彼らは友好的に話しかけてくれた。
「おや、見ない顔だな。旅行かい?」
「ああ。しばらく滞在できる場所を探しているのだが、宿屋などはないだろうか?」
コーネルさんと相談した結果、私たちは家族で旅をしていることになっていた。旅の途中で、小休止のためにこの街を訪れたという体だ。
「そうか。なら、領主様のところに行ってみるといい。宿屋はないんだが、確か空き家ならあったはずだ。なあ?」
「んー……お、そういやあったな。なんなら、俺が案内しようか?」
「それはありがたいが、構わないのかね?」
「ああ。どうせ暇なんでな」
門番がそんなことでいいのだろうかと思わないでもないが、私たちにとっては渡りに船だった。
原作の時代では、ラントは他国との国境に位置していることから紛争が絶えないとされていたのだが、今は違うということか。もしくは各国がまだ発展途上のため、国境紛争そのものが発生していないのかもしれない。
ちなみにラムダは、門番の姿を見つけてからずっと私の影に隠れている。彼の中では、コーネルさん以外の人間は恐怖の対象でしかないのだろう。ラムダが今まで受けてきた扱いを思えば無理もないことだ。
それでも、いずれは他の人間とも仲良くなってほしいと思っている。すぐにとはいかないだろうが、少しずつ克服してもらいたい。人間の優しさを知ることが、ラムダの未来のためになるのだから。
「ならば、お言葉に甘えるとしよう」
「よし、決まりだな。じゃあ、付いてきてくれ」
門番さんの後ろに続いて、ラントに入る。
門から続く道の右手には商店が並んでいる。その先は左右に道が分かれており、左の先には別の門、右にはアーチ状の小さな橋がかかっている。奥に見える巨大な風車が、風を受けてくるくると回っていた。
街の構造は、私の記憶にあるものとそう変わらないようだ。画面の中で見ていた風景が目の前に広がっていると思うと、感慨深いものがある。
橋を渡って右に進むと、一際立派な屋敷が見えてくる。あれが領主邸のようだ。1000年前ということもあり、こちらは流石に記憶にあるものとは異なる。
「ちょっとここで待っててくれ」
そう言って門番さんが一人領主邸に入っていき、それほど待たないうちに戻ってきた。
「中で話を聞くそうだ。俺は持ち場に戻るから、あんた達だけで入ってくれ」
「わざわざすまないな。礼を言う」
「なに、大したことはしていないさ」
門番さんはそう告げると、「じゃあな」と手を振りながら去っていく。親切な良い人だった。
領主邸に入ると、初老の男性が私たちを迎え入れてくれた。その服装からして執事なのだろう。もしかすると、フレデリックやシェリアの先祖だったりするのかもしれない。
私たちは応接間と思われる部屋に通された。ここで話を聞くとのことだ。
「しばらく滞在したいとのことですが、どの程度の期間を想定しておられますか?」
「半年ほど住まわせてもらいたいと考えている。可能だろうか?」
「ええ、問題ありません。ただ、無償というわけには参りませんので、料金はいくらか頂くことになります。宜しいですか?」
「ああ、勿論だ」
とんとん拍子に話が進んでいく。
こちらのことは特に聞かれないが、身分とか調べなくていいんだろうか。まあ、聞かれても答えられないことばかりなので、こちらとしては助かるのだが。ある程度の「設定」は考えているとはいえ、詳しく聞かれるとボロが出そうだ。
そんなことを考えていると、いつの間にやら話はまとまっていたようだ。北門の近くに空き家があるとのことで、そこを提供してもらえることになった。
執事さんに礼を告げて、領主邸を後にする。
そういえば先ほど料金がどうとか言われていたが、お金は大丈夫なんだろうか。そう思って聞いてみると、
「ああ、問題ない。初めからシャトルで逃げるつもりだったのでな。持てるものは全て持ってきている」
とのことだった。いざという時は私が依頼などで稼ごうと思っていたが、そこは心配なかったようだ。
フォドラでもガルドが通貨として利用されていたらしい。……いや、フォドラとエフィネアの関係からして、元々フォドラで使われていたものがエフィネアでも流通するようになったと考えるべきか。
教えてもらった場所はそれほど離れていなかったので、すぐにたどり着いた。北門からほど近い位置にある家。ここが今日からしばらく私たちの拠点となる。
コーネルさんには、街でラムダと共に過ごしながら話し方を教えてもらうことにした。
てっきり憑依させているヒューマノイドに発声機能がないのかと思っていたが、そうではなかったらしい。人間の言葉そのものは理解できているので、そう遠くないうちに話せるようになるはずだ。
一方私は、術の取得・強化とアイテムの確保のため、そして戦闘に慣れておくために
というわけで早速、ラントの裏山に来ていた。道中には巨大な蜂の
それと、戦闘による
敵を誘うため、足音を隠すこともなく山道を登る。すると、こちらに気づいたビーが一直線に向かってきた。
ギリギリまで引きつけ、敢えて攻撃させる。まっすぐに突き出される鋭い針を、横にステップしてかわす。自分でも驚くほど冷静に攻撃を読むことができた。
隙を晒して無防備になったビーに向けて、至近距離から光線を放つ。ビーは体液を撒き散らしながら地面に落ち、動かなくなった。少々グロテスクな光景だ。
戦闘そのものに関しては、初戦闘に比べれば随分と良くなったと思う。タイニーウルフとの戦いを経験したことで、少しは度胸がついたのかも知れない。
再び山道を進む。次に襲ってきたのはプリツボミだ。ピョコピョコと跳ねるように近づいてくる様は可愛らしいとも言えるが、油断すれば大怪我では済まない。これでも
プリツボミが長いリーチを持つ葉っぱを振り回してくる。横合いから殴りつけるような攻撃を、今度は後ろに飛ぶことでかわした。着地と同時に光線を放つが、かわされてしまった。その後も何度か光線を放ったが、全て避けられてしまった。胴体が小さいため当てにくい。
ならば、術に頼るまで。ただ、フォトンブレイズは発動に少しラグがあるので、そのまま使っても同じようにかわされてしまう。少し工夫が必要だ。
プリツボミが避ける方向を注視しながら、再び光線を放つ。何度か同じことを繰り返すうちに、方向をある程度読めるようになってきた。これならいけそうだ。
葉っぱの叩きつけをかわし、また光線を放つ。プリツボミがそれをかわそうと跳ねた瞬間、避ける方向を読んで術を放つ。
「フォトンブレイズ!」
私の読みは当たり、プリツボミは自ら火球に飛び込む形となった。その高温に耐えられるはずもなく、プリツボミは黒焦げになって沈黙する。上手くいってホッとしたが、かなり時間をかけてしまった。
その後も何度か戦闘を繰り返し、山頂にたどり着いた。
そこに広がるのは、一面の花畑。実に壮観な眺めだ。確か、全ての
誓いの木と呼ばれていた大木は流石に存在せず、代わりに小さな木がある。これから1000年近い時間をかけて、成長していくのだろう。
なんとなく、崖の下を覗いてみる。この高さはどう見ても落ちればただではすまない。ソフィはともかく、アスベルとリチャードはよく無事だったものだ。
さて、そろそろ戻るとしよう。あまり心配はかけられない。
それから、短くも平和な日々が始まった。
ラントの人々は皆優しく、突然やってきた私たちにも親切に接してくれた。
近所の子供と遊ぶこともある。ラムダは初め怯えた様子で隠れていたが、少しずつ打ち解け、次第に一緒に遊ぶようになった。
また、ラムダは少しずつ喋れるようになってきた。片言ながら会話も可能だ。人に怯えることも徐々に少なくなり、笑顔も増えた。コーネルさんも満足そうだ。完全にトラウマを消し去るにはまだ時間がかかるだろうが、順調と言っていいだろう。
私の方はというと、裏山や時折北ラント道に現れる
ラントには宿屋が存在しないため、依頼は領主邸が取りまとめている。余談だが、日本でいう役所の機能も果たしているようだ。
依頼は品物を届けるだけではなく、
依頼を独占してしまうと困る人がいる。元々そんなことをするつもりはなかったが、予め知っておけたのは良かったと思う。
私が受ける依頼は主に
子供が
コーネルさんやラムダ、街の人たちと交流しつつ、ラント周辺の
3/14追記
裏山の花畑に関して記憶違いをしていたので修正しました。