テイルズオブグレイセスθ   作:町の人

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記憶

 グレルサイドでの生活が始まってすぐ、私は周辺の探索を行った。目的はマップ埋めである。それと並行して、原作に存在していたダンジョンの確認も行っていた。

 まず初めに訪れたのは、ウォールブリッジ地下遺跡。

 砦はまだ築かれていなかったが、グレルサイドとバロニアの間には川が流れており、通行のための橋が架けられていた。

 原作でパスカルが語っていた「遺跡が作られた後に川ができた」という推測を根拠に入り口を探してみたところ、街道から少しそれた先に設置されていたワープ装置を発見することができた。

 原作通りといえばそれまでなのだが、こんな誰でも見つけられそうな場所で大丈夫なんだろうかと心配になった。まあ、1000年後まで残っていたのだから問題ないのだろう。……多分。

 遺跡内部の探索は、フォドラの人間が中に居る可能性があったのでやめておいた。

 プロトス1(ヘイス)とラムダの戦いについての記述が残されていたことから、あの装置が作られたのはちょうど今の時期だと考えられる。彼らにとって、私は「暴走したヒューマノイド」だ。遭遇すれば厄介事になるのは間違いない。

 いずれ羅針帯(フォスリトス)が完成してフォドラとの繋がりが無くなれば、遺跡を訪れる人間はいなくなるはずだ。その時まで待った方が無難だろう。

 

 もう一つのダンジョン、王都地下についても、南バロニア街道の途中にある砂浜で洞窟の入り口を発見することができた。

 こちらも遺跡と同様、位置を確認するだけに留めておいた。洞窟内には光源が存在しない上、魔物(モンスター)も生息しているようだったので、一人で入るのは危険だと判断したためだ。

 インサイトを使えば多少見えるようにはなる(動体視力だけではなく視力そのものが強化されるらしい)ものの、戦闘を行うには少し心許ない。

 視界が悪い中で銃を扱うのは、私にとって至難の技だ。それに加えて、術も燃費の関係で連発できない。狭い洞窟内では魔物(モンスター)との戦闘を避けられないため、不安要素だらけの状態で挑むのは得策ではない。

 とはいえ、いずれはあの場所に入る必要が出てくる。その時までには対応できるようになっておきたいものだ。

 

 その他の暮らしに関しては、ラントに滞在していた時とそう変わったものではない。ただ一つ、収入が増えたと言う点を除いて。

 重要な土地とはいえ辺境であるラントに比べ、グレルサイドは人口が多い。それに応じて依頼の数も増えるため、他の利用者に気兼ねする必要がなくなった。それに加え、依頼の報酬も全体的にラントより高いということもある。

 そんなわけで、1日あたり1000ガルド程度だった稼ぎを三倍近く伸ばすことができていた。いち早くラムダを目覚めさせてあげたい私にとっては、とてもありがたいことだった。

 

 一方、コーネルさんにはプロトス1(ヘイス)に破壊されたヒューマノイドを修復してもらっていた。私が倒したケントゥリオとウェリテスのパーツを流用できるかもしれないと思い、お願いしたのだ。

 フォドラの人間に回収されている可能性もあったが、幸い私が去った状態のまま放置されていた。宿屋に持ち込むわけにはいかなかったので、一旦シャトルに運んでおき、整備をしに訪れた際に検証してもらっている。

 ちなみに、シャトルの整備の方は私に一任されていた。ヒューマノイドになったおかげか物覚えが良いようで、教わったことはすぐに覚えることができている。そろそろ、動かし方を教わってみてもいいかもしれない。

 

 

 

 グレルサイドでの生活が始まって半年、 そして私達がエフィネアにやってきて1年が経った。早いものである。

 そんなある日のこと。コーネルさんと共にシャトルのある森を訪れていた私は、作業の手を止めてシャトルから離れ、少し開けた場所へと足を運んでいた。ある程度アップルグミをストックできたので、使っておこうと思ったのだ。

 ちなみに、自然回復の方はおよそ1ヶ月あたり1%だった。これだけ見ると少なく感じてしまうかもしれないが、単純に計算すれば8年強で全快できることになる。本来は1000年かかっていたことを考えれば、むしろ驚異的な回復量だと言えるだろう。

 周囲に何もいないこと、そして自分の原素(エレス)が100%になっていることを確認する。それからアップルグミを三個取り出し、まとめて口に放り込む。今回は十五個使う予定なので、これをあと四回繰り返すことになる。余談だが、味は結構好みだったりする。まあ、流石にこの量を一気に食べるのはやりすぎだと思うけども。

 これで、ラムダの原素(エレス)は55%まで回復できた。この調子なら、もう半年もすれば100%にできるだろう。そんなことを思っていた、その時だった。

 

『シータ』

「……!」

 

 頭の中に直接、初めて聞く(聞き慣れた)声が響く。それを誰が発したのかは考えるまでもなかった。まさか、もう目覚めるとは。

 もちろん嬉しくないわけではない。とても喜ばしいことだ。ただ、100%まで回復させなければいけないと思い込んでいたため、不意をつかれた格好になってしまった。

 深呼吸を繰り返し、なんとか動揺を抑え込む。

 

「……目が覚めたんですね、ラムダ」

『ああ、おかげさまでな。まずは礼を言わせてくれ。ありがとう』

 

 半年前とは違って流暢な、それでいて原作のラムダとは僅かに違う口調。憎しみに支配されていた彼とは違い、纏う雰囲気は柔らかいものだ。

 しかし、眠っていたはずなのに成長しているのはどういうことなんだろうか。

 

『そのことか。実は、眠っている間にお前の記憶を覗き見てしまったんだ。恐らくその影響だろう』

「……そういうことでしたか」

『望んだことではないとはいえ、勝手なことをしたと思っている。すまない』

「いいえ、あなたが謝る必要はありません。元はと言えば、私が原因なんですから」

 

 ラムダを受け入れる際に抱いていた不安——記憶を共有してしまうのではないか、という懸念は、どうやら当たっていたらしい。

 コーネルさんに私の記憶のことを話した時は、ラムダには聞かせないようにしていた。彼に「自分が世界を滅ぼそうとした可能性」を知って欲しくなかったからだ。今となっては、その配慮も無駄になってしまったが。

 私の記憶をどこまで見たのかと尋ねてみたところ、私が日本人だったこと、この世界がゲームの中で語られていたことなど、大体のことは伝わっているらしい。

 私の能力、そして原作の知識も把握しているとのことだった。考え方を変えてみれば、心強い仲間を得られたと言っても良いのかもしれない。

 

 コーネルさんにも早く伝えてあげなければ。そう思ってシャトルに戻ろうとしたのだが、ラムダが『二人だけで話しておきたいことがある』と言ってきた。

 その内容に、私は再び動揺させられることになる。

 

『もしプロトス1(ヘイス)がもう一度襲ってきた時は、我だけで相手をさせてほしい。そして、そのまま我を眠らせてくれ』

「……え?」

 

 なんで。どうして。そんな言葉で頭が埋め尽くされる。そんな私の様子を察してか、ラムダは『すまない』と言った後、言葉を続けた。

 

『せっかく回復してもらったのに、こんなことを頼むのはどうかと思う。だが、そうしなければソフィという存在が生まれなくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性がある』

「……ソフィが、生まれなくなる?」

 

 それは、どういう意味だろうか。

 

『確認しておくが、お前はどのような方法があると思っている?』

「そうですね……。もしかしたら話してわかってもらえないかな、と思ってます。今の時点でも僅かに人間のような感情があるみたいですし。後は……あまり積極的にやりたくはありませんが、目覚める度に倒すとか」

『残念だが、それは難しいな。終盤のソフィの言動をよく思い返してみるといい』

「………………ああ、確かに」

 

 言われて思い出した。使命を思い出したソフィは、頑ななまでにラムダを消すことにこだわっていたのだった。心を通わせていたパーティメンバーの言葉でも、最後まで曲げることはできなかったのだ。アスベルがあのような行動に出なければ、本当に対消滅を実行していただろう。

 そう考えてみると、私では力不足もいいところだった。

 

『もう一つの方法も、お前の精神的な負担が重すぎる。問題はそれだけではない。その方法では、プロトス1(ヘイス)の記憶が失われない可能性がある』

「記憶?」

『プロトス1(ヘイス)にとって、与えられた使命は何よりも優先すべき、存在理由そのものだ。そんな彼女が"ソフィ"となるためには、一度記憶を失う必要があるのでは、と考えたんだ。具体的な方法はわからないが、恐らく元の歴史をなぞれば同じ結果にたどり着けるはずだ』

「……なるほど。プロトス1(ヘイス)が長い眠りにつくことで記憶が失われ、"ソフィ"が生まれる土台ができあがる。そのためにはあなたも眠りにつく必要がある、というわけですか」

『ああ、その通りだ』

 

 アスベルたちに影響されて"ソフィ"という人格が形成されたのは、記憶を失っていたからこそ。そのラムダの推測は、決して的外れではないだろう。

 それにしても、1年前はまだ赤ん坊同然だったというのに、なんという成長速度だろうか。私の記憶を見てしまったことも、結果的には功を奏したのかもしれない。

 

『プロトス1(ヘイス)がこのまま眠り続ける可能性もないとは言い切れない。だが、逆もまた然りだ。もしその時が来たら、頼まれてくれないか』

「……わかりました。その時は、あなたの言う通りにします」

『ありがとう、シータ』

 

 本音を言えば、どんなことがあってもラムダを犠牲にするようなことはしたくない。だが他に方法を見つけられない以上、それは私のわがままにしかならないわけで。

 それに冷静に考えてみれば、なにも悲観的になることはないのだ。もしラムダが眠りにつくことになっても、いずれまた会えるのだから。途方もない時間がかかろうと、大した問題ではない。

 

 その他にも、いくつか方針を決めておいた。

 まず、ラムダの回復を一旦止めること。

 確証があるわけではないものの、ラムダの力が強まることにプロトス1(ヘイス)が呼応する可能性は無視できない。こうして目覚めさせることができたのだから、無理に回復を急ぐ必要はない。

 もう一つは、ラムダに魔物(モンスター)との戦闘を経験させること。プロトス1(ヘイス)に備えて、とラムダの方から提案してきた。私としてもそうしたいと思っていたので、本人がやる気になってくれているのはありがたいことだ。

 

 

 ラムダとの話し合いを終えて、私はシャトルへと戻ってきていた。

 シャトル内では、コーネルさんがヒューマノイドの最終調整を行っていた。流石はヒューマノイド研究の第一人者と言ったところか、彼はこの限られた条件下で見事ヒューマノイドを修復してみせたのだ。

 私に気づいたコーネルさんに、ラムダの意識が戻ったことを伝える。彼は一瞬驚いたような表情になった後、「よくやってくれた、ありがとう」と満面の笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくれた。

 ヒューマノイドの調整もちょうど今終わったとのことだった。では早速、ラムダに入ってもらうとしよう。

 

(ラムダ、良いですか?)

『ああ、問題ない』

 

 黒い球(ラムダ)が私から抜け出てヒューマノイドへと向かっていき、吸い込まれていった。数秒ほど経った後、ヒューマノイドの目が開かれる。

 ヒューマノイド(ラムダ)はコーネルさんをじっと見つめた後、笑みを浮かべた。それは、ぎこちなさのない自然なものだった。

 

「おはよう、コーネル」

「……ああ。おはよう、ラムダ」




本当は今回で1000年前の話を終わらせたかったんですが、間を空けすぎているので一旦投稿させてもらいました。
次回でまとめられるように頑張ります。

ラムダの口調に違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。
一応原作の回想が元になってはいますが、片手で数えられる程度の台詞しかないので想像によるところが大きくなっています。
コーネルの生存、シータの存在や記憶、人々との触れ合いにより変化した、ということでどうかお願いします。
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