ただ、書いているうちに文量が膨れ上がってまとまり切らなかったため、ほぼ繋ぎの回になってしまい話が進んでません。
互いの無事を喜びつつ、言葉を交わすコーネルさんとラムダ。
しばらくそれを見守っていたのだが、コーネルさんの表情が僅かに曇っていることに気づいた。恐らく、ラムダの変化に疑問を持ったのだろう。
やはり、きちんと説明しておく必要がありそうだ。
コーネルさんに声をかけ、回復の経緯を可能な範囲で話すことにした。
ラムダが私の記憶を知ったことを告げると、コーネルさんは「……なるほどな」と納得したようにつぶやき、気遣わしげな視線をラムダに向けた。それに対し、ラムダは苦笑しながら応える。
「そんな顔をするな、コーネル。確かに、フォドラの人間に対する憎しみや怒りは我の中にも存在する。だが、我はお前やシータ、そしてエフィネアで出会った人々のおかげで、人間の暖かさや優しさを知ることができた。あの『ラムダ』と我は、もはや別の存在だ」
「……すまないな、気を使わせてしまって」
ラムダの言葉を受けて、コーネルさんは安心したようにふっと笑った。
復活直後のやり取りから心配はしていなかったが、私としてもこうしてラムダの気持ちが聞けたのは良かったと思う。
感動の再会もそこそこに、恒例となりつつある今後の方針を決める話し合いが始まった。
そこで私は、エフィネアを旅してみないか、という提案をさせてもらった。
これまでは便宜上そういう設定にしていただけだったが、ラムダが復活を果たしたこの機会に実行してみようと思ったのだ。
理由は、ラムダとコーネルさんの思い出作りのため。
フォドラを脱出してからというもの、ひと時の平穏はあったものの、プロトス
不測の事態はあったが、襲撃はなんとか凌ぐことができた。まだ完全に脅威が去ったわけではないが、ゆっくり過ごす時間は十分にあるだろう。
後は、私自身がそうしたいと思っているというのもある。
移動手段などについては既に考えてある。
他国との交流が一切ないフェンデルはもちろん、ウィンドル・ストラタ間においても、一般人が自由に行き来できる環境はまだ整っていない。そこで、シャトルの出番である。夜間に飛行すれば、誰かに見つかったりすることはないだろう。
目立ってしまうのを避けるため、服装などに関しては現地で調達するつもりだ。同様の理由で、旅の間は依頼をこなすのもやめておこうと思っている。
説明を終えて、反応を伺う。
「……どうでしょうか?」
「うむ、いい考えだと思う。ラムダはどうだ?」
「ああ、我も賛成だ」
「決まり、ですね。二人とも、ありがとうございます」
無事了承を得ることができた。まずは一安心だ。
だが、話はこれで終わりではない。
ラムダに目配せをする。彼は心得たというように頷き、話を切り出した。
「コーネル、我からも提案がある。シータにも頼んだことなんだが……
「……!」
「お前が我を心配する気持ちはよくわかる。だが、自分の身は自分で守れるようになりたいんだ。もう二度と、あの時のようなことにならないために、な」
「そうか……」
コーネルさんが私に視線を向ける。
「シータ君。君も、ラムダが戦うことには賛成なのだな?」
「はい。本人が望んでいるなら、そうさせてあげるべきだと思ってます」
「ならば、私も認めよう。ただし、無茶だけはしないと約束してくれ」
「ああ、勿論だ」
きっと、本音では反対したいに違いない。それは私も同じことだ。
しかし、そういった配慮が結果的にあのような事態を引き起こしてしまった。それをコーネルさんもわかっているのだろう。私と違い、直接目の当たりにした彼はより痛感しているはずだ。
その後、いつ旅に出るのか、どこへ向かうのかを話し合った。
出発については、ラムダが戦いの経験を積んでからということになった。
次に目的地だが、まずはストラタへ向かい、フェンデルを経て再びウィンドルに戻る、という大まかなルートを決めた。細かい中身に関しては、その都度話し合えばいいだろう。
話し合いを終えた後も、コーネルさんとラムダは何気ない会話を続けていた。彼らの境遇を思えば、こんなありふれた光景ですら得難いものだ。
それを微笑ましく見守りつつ、マップを起動する。以前言っていた、ラムダの目覚めにプロトス
プロトス
今のところ、彼女がラントの裏山から動いた様子はない。少なくとも、同時に目覚めるということはなかったようだ。
彼女もラムダと同様に、原作通りならば1000年後に目覚めることになる。
しかし、損傷を与えたのが私であることや、こうしてラムダが目覚めていることなど、状況は全く違う。そのため、想定より早く再構成が完了する可能性は十分にある。警戒は続けておくのが賢明だろう。
翌日、私は早速ラムダを連れて近くの森を訪れていた。
ちなみに、ラムダには私の中に入ってもらっている。あのヒューマノイドは戦闘向きではないため、基本的にあの影の姿で戦ってもらうことになるからだ。
フォドラ脱出時の発着場の有様からして、憑依した状態でも戦えないことはないのだろうが、今ここでわざわざリスクを犯す必要はない。
ある程度奥に進んだところで、マップで
私がラムダの相手に選んだのは、タイニーウルフだ。この辺りの
目標の近くまで移動し、気取られないように心の中でラムダに呼びかける。
(ラムダ、準備はいいですか?)
『ああ。では、行ってくる』
その言葉と共に、ラムダが私の体から抜け出る。黒い球体の状態のままタイニーウルフに向けて進んだ後、その真の姿を現した。
「——!?」
「……」
タイニーウルフは突然現れたラムダに驚き、飛び退って距離を取る。
一方ラムダは、調子を確かめるように腕や手をゆっくりと動かしている。その様子を、タイニーウルフは唸り声を上げながら睨み付けていた。
私はそれを離れた位置から観察しつつ、ラムダの姿をじっくり眺めていた。あの時は間に合わなかったため、この姿を見るのはこれが初めてだった。
影から生えてきたような黒い胴体、白い仮面のような顔、細長く伸びた腕、鋭い爪のような手。身の丈は私の倍どころではなく、恐らく4メートルは越えているだろう。
(……何も知らなければ、私も怖がっていたかも知れませんね)
そんなことを考えていると、戦いに動きがあった。
タイニーウルフが一直線にラムダに体当たりを仕掛けてくる。それを、彼は僅かに体をずらすことでかわしてみせた。
外れる事を予測していなかったのか、タイニーウルフは勢い余ってそのまま地面に倒れ込む。ラムダはそれに視線を送りつつも、その場に佇んだまま動く気配はない。
やがてタイニーウルフが起き上がり再び突進してくるが、それもラムダは軽々と避ける。その後も、同じやりとりが何度か繰り返された。
どうしてラムダの方からは攻撃しないのだろう、と思い始めた時だった。
「……ふむ、こんなものか。では、次はこちらの番だ」
そう言うや否や、ラムダはその長身からは想像できないスピードでタイニーウルフとの距離を詰めると、引っかくように右手を振り下ろした。
不意を突かれたタイニーウルフは、それをまともに喰らい吹き飛ばされる。致命傷ではなかったようだが、よろよろと起き上がる姿からはダメージの深さが見て取れた。
そこへ、ラムダが容赦なく追い討ちをかける。
「アベンジャーバイト!」
巨大な風の牙が上下からタイニーウルフを襲い、その体をズタズタに切り裂く。倒れ伏したタイニーウルフは弱々しく鳴いた後、ぐったりと動かなくなった。
戦いを終えてこちらに戻ってくるラムダに対し、労いの言葉をかける。
「お疲れ様でした。心配はしていませんでしたが、ここまであっさり倒してしまうとは思いませんでしたよ」
ラムダは元々、プロトス
しかし、ラムダの動きは初めてまともに戦ったとは思えないもので、おまけに術まで使っていた。
気になったので聞いてみたところ、「イメージトレーニングの成果だ」という予想外の答えが返ってきた。
「イメージトレーニング、ですか?」
「ああ。眠っていた間、プロトス
「そういうことでしたか。……彼女を基準にされては、タイニーウルフが可哀想になりますね」
苦笑しつつ応える。
それに加えて、私の記憶の中にあった原作のラムダの戦い方も参考にしたそうだ。元が同一存在なのだから、馴染むのは当然と言える。
しかし、術を使用していたのはそれでは説明がつかない。
「ところで、あの術はどうしたんですか?」
「ああ、あれか。理由はよくわからないが、使えるという感覚があった。もしかすると、シータに憑依した影響なのかもしれない」
「私の影響、というと……私が取得した術を、あなたも使えるということですか?」
「確証はないが、恐らくはそういう事だろう」
あの術——アベンジャーバイトは、確かに私も使えるようになっている。
私の能力が、部分的にラムダに影響を与えたということだろうか。私がラムダを受け入れることを想定して、神様がこういう機能を仕込んでいたと考えれば、納得できなくはない。
まあ、もしそうなのだとしたら、あの時説明してくれれば良かったのに、と思うけども。
(あの
そんなことを考えていると、どこかから「ごめんなさい……」という幻聴が聞こえたような気がした。
どんな形にせよ、ラムダの力になれているのは喜ぶべきことだ。感謝こそすれ、文句を言う理由はない。ありがたくその恩恵に預かろう。
その後も何度か
それどころか回数を増すごとに動きのキレが上がり、最後の方は相手が可哀想になる程だった。流石は原作ラスボス、と言ったところか。
日が沈む前に切り上げてグレルサイドに戻る道中、ラムダと言葉を交わす。
「どうでしたか?」
『想定以上だ。イメージ通りに動けているという確信がある』
「それは良かったです。それで、明日からも続けますか? 私としては、もう十分なんじゃないかと思うんですが」
『そうだな……なら、一つ提案がある。ヒューマノイドに憑依した状態でも戦えるのか、確認させて貰えないか?』
「……え?」
思いもよらぬ提案に、呆けた声を出して固まってしまう。
そんな私の様子を察して、ラムダが弁解するように言葉を続ける。
『すまない、驚かせてしまったな。だが安心してくれ。実際に
「……そうなんですか?」
『ああ。旅の途中で、厄介な連中に襲われる可能性もあるだろう。それに備えるために、どの程度戦闘が可能なのか確かめたいんだ』
「厄介な連中というと……山賊だとか野盗だとか、そういう?」
『そうだ。シータが遅れを取るとは思わないが、我やコーネルが狙われる可能性は十分にある。憑依状態でもある程度戦えるなら、我がコーネルを守ることでお前の負担を減らせるはずだ』
「なるほど……確かに、私も守りながらの戦いは未知数ですからね」
二人を伴って森を移動することは何度かあったが、常に
さらに相手が人間となると、より難しいものになるのは容易に想像できる。
「そういうことなら、私は賛成です」
『ありがとう。グレルサイドに戻ったらすぐに、と言いたいところだが、街中でやるわけにはいかないだろう。明日ここで試してみたいと思う』
「わかりました。戻ったら、コーネルさんに話しておきましょう」
グレルサイドに戻った私たちは、コーネルさんに今日1日の成果を報告し、その後、先ほど話し合った内容を説明させてもらった。
そしてその翌日、私たちは再び森を訪れた。
結論から言うと、ラムダは憑依状態でも十分に戦えることが判明した。
まず、この状態でも術が使用可能だったのが大きい。私と同様に詠唱は不要なので、初級煇術を使って牽制すれば近づくことは困難だ。
もし近づかれたとしても、その身体能力も見た目からは想像できないほど高い。さらに術で強化することも可能なので、並の人間にラムダを捕らえることはできないだろう。
とはいえ、動きにはまだぎこちなさが残る。そこで、私が相手になって組み手の真似事のようなことをすることにした。接近戦に関してはお互いに素人だが、スピードに慣れるため、身体の動かし方を習得するためには有効なはずだ。
それから数日間、出発の日を迎えるまで私たちは特訓に明け暮れた。