己が防人としての使命を果たす為   作:うみうどん

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己が少女を守るため

 長野の最後は呆気ないものだと、住民は悟っただろう。

 今まで見たこともないような、バーテックスの群れ。

 地平線を覆い尽くすほどに大量のバーテックスが長野に攻め込んでいた。

 

 結界の中にバーテックスが侵入し、次々と住民を虐殺していく。

 そんな長野の終わりの中、勇者、白鳥歌野、巫女、藤森水都に告げられた最後の神託は、『よく三年も諏訪を守り続けた、二人が敵を引きつけてくれたお陰で、四国は敵に対抗できる基盤ができた』という非情すぎる物だった。

 

 これで最後になる勇者通信で歌野は乃木若葉に後を頼むと託すように伝えた。

 そして、白鳥歌野と藤森水都は向かい合うかのように手を握る。

 

「みーちゃん。貴方が一緒にいてくれたから、今日まで頑張ってこれた」

「うん…最後まで一緒にいるよ、うたのん。ずっとここで見てるから」

 

 そうやって最後の会話を二人は楽しむ。

 白鳥歌野は時間が来ると、バーテックスの大群に単身乗り込んでいった。

 その背中を水都は見送る。

 

 圧倒的な物量の差に、歌野はあちこちに傷を作る。それでも懸命に鞭を振るい続けた。

 血を流しながら、戦っている姿を見て水都は、祈る。

 

「…誰か。神様でも、悪魔でも良い…誰か。誰かうたのんを助けて…!」

 

 涙ながらに水都は訴える。

 そして、その悲痛な願いは、本来叶えられるはずが無く。

 声は虚空に消えていく物だった。

 

 しかし、その祈りに答える、一つの声があった。

 

「…残念ながら、神様でも悪魔でもない…」

 

 白鳥歌野を噛みちぎろうとしていたバーテックスの体が突如として弾け飛ぶ。

 そして、連鎖的に歌野に近寄っていたバーテックス達は一瞬のうちに消滅した。

 一体何が起きたのか、歌野は血を流しすぎたせいで、頭がうまく回らない、しかし、水都は声の主にいち早く気づいたようだ。

 

 大きな盾に銃剣を構えている一人の巨漢がそこにいた。

 雰囲気は勇者に似ているが、本質的には違うものだと水都は悟る。

 そして、それは水都達を救うために現れたのだとも、すぐに思ってしまった。

 

「ただのオカマだけど良いかしら?」

 

 ◆

 

 一郎は真っ直ぐ最短で長野につけるように、足を急ぐ。

 建物の屋上から屋上へとジャンプしながら移動しているのだ。

 

 途中で出てきたバーテックスは、一郎の進行を邪魔しない限り、攻撃はしていない。

 本来は、友人の命を奪った化け物に一矢報いたい気持ちはあるが、それは人の命を助けてからだ。

 

 そして、一郎がなぜ長野へ足早に向かっているのかというと、移動している最中で妙な胸騒ぎに襲われたからだ。

 一郎の胸騒ぎはよく当たる。

 誰かがピンチの時は決まって、胸騒ぎが起きた。

 その胸騒ぎの正体は、最悪の形で一郎の前に出てくることが多くあった。

 

 一郎の前に出てきたバーテックスを切り捨てる。

 そして、前を向いて一直線に長野へ向かった。

 

 一郎が長野に着いた時は、バーテックスが結界内に侵入しており、そこに住んでいた人間達はあらかた食い散らかされたようだ。

 今でも人間の亡骸に群がっているバーテックスを見て、怒りの気持ちが湧いた。

 

 そのバーテックス達を殲滅し、ぐちゃぐちゃになった死体を見る。

 今ではもう判別が不可能であり、悲しい気持ちに襲われた。

 

 三年前もそうだった。

 一郎を愛してくれた人は全員バーテックスに喰われた。

 この人だって、最後まで助けが来ることを望んでいたのかもしれないと思うとなんとも言えない気持ちになる。

 

 一郎は手を合わせ、生存者がいないか確認するために長野を走り回る。

 すると、バーテックスの大群を神社付近で見つけた。

 そして、その中心で人間の姿が見えた。

 

 鞭を振るい、血を流しながら懸命に戦っている少女。

 間違いない、勇者、白鳥歌野だ。

 

 すぐさま加勢するべく、一郎は移動速度を上げる。

 神社に差し掛かった時、生存者を発見した。

 その場で座り込み、歌野を見ながら涙を流し懸命に祈る少女。

 

 一郎はよかったと安堵する。

 まだ生存者がいた。

 二人と少ない数ではあるが、まだ負けてはいない。

 

「…誰か。神様でも、悪魔でも良い…誰か。誰かうたのんを助けて…!」

 

 そんな悲痛な叫びが一郎の耳に届いた。

 一郎は彼女を安心させる為に返事をする。

 

「残念ながら、神様でも悪魔でもない…ただのオカマだけどいいかしら?」

 

 彼女が一郎の方へ顔を向ける。

 帰ってくるはずがないと思った返事が返ってきたのだ。

 少女は、涙を流しながら訴える。

 

「助けて!うたのんを!助けてください!」

「ええ!ここは私に任せて、貴方は物陰に隠れてて!」

 

 そして一郎はバーテックスの群れに盾を構えながら突っ込む。

 盾で弾き飛ばされたバーテックスが消滅して、一郎は間髪入れず銃の引き金を引く。

 あたりに群がっていたバーテックス達が、弾け飛び、白鳥歌野が一息つく隙を作った。

 そのまま一郎は歌野を抱きかかえる。

 

「…貴方は?」

「貴方が白鳥歌野さんね、私は四国の防人よ。よく頑張ったわね、あとは任せなさい!」

 

 白鳥歌野は防人である一郎の話は若葉に聞いていた。

 なんでも変わり者でありながらも、しっかりとしている信頼できる大人だと、若葉は語っていた。

 

 そういえば若葉が言っていたことを思い出す。

 

『今、白鳥さんの所に防人の一郎先生という方が向かっている』

 

 助けが来た。

 その事実だけが白鳥歌野を安心させた。

 これまで一度も泣いたことがないのに、何故か歌野の頰に一筋の涙が流れる。

 そのまま眠るように一郎の腕の中で白鳥歌野は気絶した。

 

「ええ、今は眠りなさい。さて、この数は骨が折れるわね」

 

 歌野をさっきの女子の所まで行き、歌野を少女に渡す。

 

「貴方、名前は?」

「…藤森水都です」

「そう、水都ちゃんね…よく頑張ったわね」

 

 一郎は真剣な顔をして水都を撫でる。

 そしてまた水都の目に涙が浮かんだ。

 

「ご、ごめんなさい…助けて…助けてください…」

「ええ、その為に私はやってきたのだから」

 

 バーテックスの大群に一郎は向き合う。

 ここまでの数を相手にしたことはないが、それでも一郎は負ける気はしなかった。

 その理由は、一郎に助けを求める人がいる。

 その理由だけで、一郎は強くなれるのだ。

 

「さ!この四国の防人が相手になるわ!かかってきなさい!」

 

 ◆

 

 防人とは本来、戦闘においては勇者より下回るものだと、一郎は三年前に千景に助けれながら思った。

 しかし、まだ中学生の女の子をこんな化け物と戦わせる訳にはいかないと、どうにか防人でも充分にバーテックスに対抗できる方法はないかと、頭を使った。

 

 そして、単純ではあるが一つの答えに辿り着く。

 身体を鍛えればいいのだ。

 素の能力で勇者みたいな身体能力を手に入れなくても、勇者により近い力を手に入れる為。

 

 必死に、死に物狂いで身体を鍛え上げる。

 そして、防人の力がなくとも、猛獣を一体、倒せるまでに鍛え上げたと一郎は思っている。

 

 しかし、一郎は心は乙女だ。

 日に日にでかくなっていく身体に違和感を覚えるようになっていった。

 こんなのは私じゃない、と絶望した日もあった。

 

 しかし、そんな絶望も乗り越えた。

 理由は助けを待っている人がいるから。

 防人の力を必要としてくれている、人たちがいる。

 そして何より、年端もいかない少女達を傷つけたくないと思ったのだ。

 

 一郎には趣味が二つある。

 一つはメイク。

 そしてもう一つは人助け。

 

 乙女であることを捨て、手に入れた力は圧倒的だった。

 

「これで最後よ!」

 

 地平線を覆い尽くすほどのバーテックスをものの数時間で一郎は殲滅したのだ。

 

「…ふう、流石に疲れたわね」

 

 頰にできた切り傷から流れる血を親指で拭い取りながら、白鳥歌野と藤森水都の所へ赴く。

 

「さて…水都ちゃん…だっけ?貴方は怪我は無さそうね」

「うたのんが!うたのんが!」

 

 気絶から未だに意識を取り戻さない歌野を見て、水都はうろたえる。

 このまま死んでしまったらどうしよう。

 そんな想いが水都の中で渦巻く。

 

「ええ、大丈夫よ。気絶しているだけ」

「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」

「ええ、応急手当てだけはしておくわ」

 

 本来、防人というのは人の保護を再優先する為に作られたのだろうと一郎は考え、自主的に医療を学んだ。

 浅はかな知識しかないが、最低限の応急手当ては一郎には朝飯前だ。

 

 歌野の勇者服を脱がし、包帯を患部へ巻いていく。

 

(っ…酷いわね…)

 

 勇者服の加護があったので致命傷にはならなかったようだが、それでも傷の方は酷い有様だ。

 度重なる戦いで負ってきた古傷に、新しくできた傷で少女の体はボロボロだった。

 特に酷かったのは、胸から肩にかけての噛み跡だろう。

 これはおそらく一生残ってしまう傷だ。

 

(なんで子供がこんな事をしなければならないの?)

 

 本来なら大人がやらなければならない仕事だ。

 間違ってもこんな年端もいかない少女に、一生残るような傷を負わせる訳にはいかない。

 

 大社には不信感を抱く。

 子供だけ前線で戦わせておいて、自分たちは安全な場所からただ命令を飛ばすだけの存在。

 

 しかし、いくら怒りに身を焦がしても、現状一郎たった一人では何もできないのが現実だ。

 人間は一人では生きられない。

 誰かと誰かが助け合ってようやく、最低限の生活や幸せが手に入るのだ。

 

 手当を終わらせ、白鳥歌野を肩に担ぐ。

 そして藤森水都の方へ向き、今後のことを話し始めた。

 

「私はこれから四国に戻って、連絡をしなければならない。勿論貴方も歌野ちゃんも連れて行くつもりよ」

「うたのんを助けれるなら…お願いします!」

「ええ!お姉さんに任せなさい!」

 

 担いでない方の腕を一郎はサムズアップさせる。

 一郎の筋肉はまるで意思を持っているかのように、ピクピクと動き出した。

 それを見た水都は安堵から思わず吹き出す。

 

 一郎は助ける。

 これからも、ずっと。

 未来のある子供達を死なせはしない。

 

 例え、自分の最期の日が近づいてきているとしても。




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