成人式の前日に投稿したから……4か月ぶりですね。
……次回もそんなことにならないように頑張ります。
箒の叫びに目を向け、アリーナの地面に倒れ伏す一夏を見てカミラは嫌な予感を感じた。
それは既視感。
そう。この現象をカミラは以前体験している。突如変わる動き、まるでそれまでに経験したことがあるような攻防のプロセス。そして、操縦者の意識喪失。何から何まで
そして、その予感は現実のものとなってしまう。
今まで倒れ伏していた一夏が音もなく起き上がる。箒たちはほっと息をついているがカミラはそうではない。いつ攻撃が来てもいいように油断なく構える。その銃口は揺らぐことなく一夏を狙っている。
「―――ッ!」
カミラを突然の衝撃が襲う。手元を見れば先程まで握っていたマシンガンが破壊されていた。そして、既に正面に
センサーが悪いのではない。白式が速すぎるのだ。おそらく移動全てに
「最悪です。本当にもう。ベルちゃんは肝心なときに居ないし……」
これが通常のIS同士の試合であればギブアップでもすれば試合終了になるのだが、この状態のISはそんなことは関係ない。自身のエネルギーが無くならない限り活動を続けるのだ。そしてこの場にいるのはカミラ一人。一応イサベルに連絡はしているが駆けつけてくれるとは限らない。
「やるしかないか……」
そう言いつつカミラは機体を急上昇させる。一瞬の後に今までカミラが居た場所を白い閃光が通り抜けていく。それを確認する間もなく、今度は地表付近まで一気に急降下。
『type.S』に搭載されている機動予測に関する演算にアルバの制御メモリも当てているため今のところは回避できているものの、反撃しようと少しでも機動予測のメモリを削れば瞬く間に撃墜されてしまうということはカミラ自身よくわかっている。
しかし、攻撃しなければ終わらないというのも事実。
「多少のダメージは覚悟……かなあ」
そう言ってカミラは
正式採用が一時的に見送られているそれはアルバの後継にあたる。アルバ最大の弱点であった大きさを二回りほど小さくし、あまり使用頻度の高くなかったブレードへの可変機能を廃止。小型故に可能なレーザービットとしての機能を追加したモデルではあるが、小さくしたとはいえ本来のビットに比べればまだまだ大きく、安定稼働というにはまだ満足とはいっていない。
性能実験のために持ってきた装備ではあるが使えないわけではない。今まで機動予測に振り分けていたメモリをそれの操作に再振り分けし、全8基を同時に運用する。それと同時にアルバの設定を変更しスラスターとしての機能のみに限定し機動力を強化する。
この間にも白式の攻撃は続いており、カミラは高速での縦横無尽な機動を絶やすことが出来ない。
幾度目かの攻撃を躱したところでようやくセットアップが完了し本格的に試作機の運用を開始する。
今までの自身の回避データから白式の行動パターンをカミラ自身が予測し、試作機への指示を送る。的確とは言えないが、それでも白式の攻撃頻度は低下した。銃口を向けられたときには既に射線上から退避しなくてはならない光学兵器であるレーザーは
そして、ビットゆえの遠隔操作を利用して白式から逃げ場を奪っていく。今の白式は人間的な動きではなく機械じみた動きをしている。そしてそれは予測を立てやすいということでもある。
順調に逃げ場を奪い、カミラは止めを刺すために背後からの攻撃に備えていた4基の試作機を前面に展開する。先程零落百夜の矢でシールドエネルギーの大半を奪われているので威力自体は最大とはいかないがそれでもシールドエネルギーを削りきるのには十分な出力は出るだろう。
「これで!」
一瞬白式が動きを止めたところにカミラは躊躇なくレーザーを放った。
◆
本音に連れられてイサベルは生徒会室に来ていた。
楯無が生徒会長を務めるこのIS学園生徒会執行部では、現在クラス代表戦に向けた調整の真っ最中であり、イサベルが呼ばれる理由など当人は何一つ思いつかなかった。
「あ、イサベル、ちょっとこっち手伝って。私じゃ上手く出来ないのよ」
楯無に呼ばれイサベルが近づくと、そこには何やら見覚えのある四角い物体があった。
「楯ちゃん? これってアクア・クリスタルだよね? ミステリアス・レイディの」
「うん。ちょーっと調子が悪くてね。私、これの調整は苦手なのよ。簪ちゃんなら出来るんだけど、第三世代の調整で忙しいって断られちゃって」
「それで私を呼んだ、と」
「うん」
イサベルは溜め息を吐く。いくら何でも非常識すぎる。ミステリアス・レイディの第三世代兵装であるアクア・ナノマシンの製造プラント『アクア・クリスタル』を他国の国家代表に調整してもらおう等という『情報漏洩なにそれ?』を地で行く楯無の行動に流石のイサベルも呆れてしまう。
「確かに私だったら多分調整できるとは思うけど、流石に他国の最重要機密に触れるのはどうかと思うのよ。だから大人しくロシアの方に申請でも出しなさいよ。ねえ、虚さん?」
「ええ。まったくもってその通りです」
「ええー、いいじゃんやってあげなよー。あーるんは情報漏らしたりしないでしょー?」
「あのねえ、本音ちゃん。私が漏らす漏らさないの問題じゃないのよ」
呑気なことを言う本音に苦笑いを浮かべるイサベル。手伝ってあげたい気持ちもあるのだが、体裁というものがあり、しかも生徒会室という場所であってもここが各国の精鋭が集うIS学園である以上どこに目や耳があるか分からない。同盟を結んだばかりで安定しているとは言い難いスペインにとって不祥事はあってはならないのだ。
「ぶーぶー」
「ブーイングは受け付けません。それで? 用事って言ってもこれだけじゃないんでしょ?」
「ええそうよ。IS学園の生徒会長になるために必要なことは知ってるかしら?」
調整の手を止めて、改めて向き直る楯無。その質問に対してイサベルは「知らない」と答えた。
「“最強であれ”。ただそれだけよ。今までだったら国家代表が私一人で、上の方でも納得してたみたいなんだけど、イサベルが入学したから生徒会長決定戦でもやったほうがいいんじゃないかって」
「ふーん。でも私が生徒会長になっても仕事しないよ?」
「知ってるわよ。でも上、特に各国の理事たちが躍起になって私たちを戦わせようとしてるのよ。ま、貴女のデータが欲しいんでしょうけど」
「じゃあやらない。そんな目的で私のISは動かない」
きっぱりと拒否の意思を表すイサベル。楯無もそれが分かっていたのか別段驚きもしない。
「でも、困ったことに生徒たちの間にも話が広まってるのよねー。外堀から埋められていってるわけ。だから、遅かれ早かれやることになるわ」
「ええー。じゃあ早くやっちゃおうか。ほら、新入生に対するデモンストレーション的な感じで授業中止にしてさ。できれば明後日の午前中くらい」
「ま、それでイサベルがいいなら。ただ、私は全力は出せないわよ?」
そう言って楯無が指差すのはアクア・クリスタル。楯無曰く調子が悪いらしいので確かに全力は出せないだろう。
「あー、大丈夫。実は私のも演算領域がちょっと圧迫されてるからラグが発生してるのよ。だから状況的には五分五分位だと思うよ」
「あらそうなの? じゃあ、取り敢えず明後日ということで調整しとくわ」
「よしっ。これで古典の授業が潰れる!」
私欲丸出しではあるが小声であったために楯無に聞かれることはなかった。
二人の間で話が纏まったちょうどその時イサベルの携帯端末からコール音が鳴りだす。
「……んー、救援求む。ってまあ、取り敢えず行ってみますか。じゃ、楯ちゃん日程のほうよろしく!」
生徒会室のドアを開け、イサベルは一目散にアリーナに向かっていった。
そんな様子を見て。
「アリーナに回線繋いでくれるかしら? 本音」
「りょーかい! ……繋げないよ。何かが妨害してる」
「しょうがないわね。諦めましょう。そんなに緊急でもないみたいだし」
イサベルのあまり焦っていない顔を思い出し楯無は回線を繋ぐことを諦めた。
◆
レーザーを放ったカミラだったがその顔は険しいままだ。一瞬、赤い光が迸ったのが見えたからだ。以前イサベルが確認した零落百夜の光そのものだ。それが示すのは、砲撃が失敗に終わったということ。
そして、攻撃のために動きを止めたということは、白式の攻撃を避けきれないことを表す。
既に白式は先程までの位置にいないが、変わってそこにはオレンジを基調とした機体―――イサベルの駆るISの姿があった。
「お疲れ様、カミラ。あとは私に任せなさい」
そう言うとイサベルは白式に接近していく。白式が
時折白式のブレードが赤色に輝くが、零落百夜がその力を発揮することはない。何故ならイサベルが今回主に使っているのは外見こそ大差ないがいつものレーザーライフルではなく実弾主体のライフルだからだ。
レーザーを無効化してくるというのにわざわざ使うことはない。そもそもレーザー自体が発展途上の技術であり、霧の中での戦闘や土埃の舞う場所では拡散してしまい使い物にならない。そういった時のために実弾系の装備も当然常備している。
イサベルのISにはライフルのほかにレールガンも
だが、その状況であってもイサベルには余裕がある。白式が武器の破壊を狙っても当たる前に
「そろそろこっちから仕掛けますかね!」
そう言ってイサベルは新たにブレードを取り出す。以前一夏の
そのブレードを大きく振りかぶり白式に急接近するイサベル。隙が大きいように見えるが、アルバの切り替え速度のおかげでほとんど隙は無い。
さらに、他人には用途不明であるスカート型の装甲が攻撃を躊躇わせる。しかし、現在機械じみた動きをしている白式はそんなことは関係ないとばかりに零落百夜を使い切り込んでくる。
だが、間合いに入るよりも早くイサベルはブレードを振り下ろした。当然その位置からでは当たらないのだが、可変機能に力を入れているスペインの武装がただのブレードで終わるはずがない。切っ先ではない方の刃がブレードの先端を軸に180度回転しブレードが長くなる。それが振り下ろしの最中に行われるため実際の間合いは倍に伸びる。
そしてブレードは白式に命中した。その一撃で雪片弐型は白式の手から弾かれる。そうなってしまえばイサベルの独壇場だ。スラスターの限界なのか
「これで終わりっと。カミラ、一夏くんの腕から白式外しといて。また起動したら厄介だから」
白式が待機形態に戻ったのを確認したイサベルは自身のISも待機形態に戻す。それからカミラに指示を出し、後処理を始める。どこかに電話を掛けるのかイサベルはアリーナの外に向かっていく彼女を見送り、カミラも一夏を抱え上げ保健室に向かう。後ろから箒たちが着いてきていることを確認し声を掛ける。
「篠ノ之さん、織斑先生を呼んできてくれますか? 鈴ちゃんとオルコットさんはあとで話があるから残ってくれる?」
「ああ、分かった。場所は保健室でいいんだな?」
「はい」
箒が十分に遠ざかったのを確認すると、残った二人に向かってカミラは話し始める。
「二人に残ってもらったのは、国家代表候補生だから。今日のことは絶対に口外しないこと約束してくれる?」
「それは構いませんけど……箒さんはいいのですか?」
「篠ノ之さんはいいんです。織斑先生に言ってもらいますから。まあ、篠ノ之さんがいると話せないこともあるので……」
そこで僅かに口を濁すカミラ。しばらくの間無言だったが、保健室に一夏を寝させてから口を開いた。
「実は、今回の白式の暴走は過去に何例か確認されている現象なんです。オルコットさんは知ってますよね? エビータのこと」
「ええ。私が完全敗北した相手ですもの忘れられるわけがありませんわ」
「彼女もこの現象に振り回されました。その時はイサベルとアルセリアさんが抑えてくれたんですけど、それ以外の隊員では手も足も出ませんでした。スペイン製第二世代ソル5機がかりでです」
「そんな……」
「現在も原因解明のためにそのコアは敢えて初期化させずに解析中ですけど、コア自体がブラックボックスなので原因解明には至っていません。それに、この現象は世界各国で起こっています。当然、英国や中国でも」
「何よそれ、私はそんなこと知らないわよ」
「当然です。今回は多少外に漏れてしまうかもしれませんが、基本的には緘口令が敷かれ外に漏れることはありません。私も他国でもあったと知っているだけでどのような状況なのかは知りませんし」
ここで一端話を区切るカミラ。恐らく聞き耳を立てている者がいないか確認しているのだろう。
「当然、今私が話したことも口外しないでください。オルコットさんと鈴ちゃんに言ったのは、次にいつ織斑さんがこうなるか分からないからです。そうなった時に冷静に対処してもらわなければいけませんから」
「次もあるって言うの? 普通ならコアを封印処理……て、一夏は普通じゃないんだっけ」
「はい。世界で唯一ISを動かすことのできる男性ですから、データを取るためにISの専用機を与えてますからコアの初期化はないでしょう。それに…………」
「何よ、黙っちゃって。何か心配事でもあるの?」
「ここからは私の憶測なんですけど、実はこの現象、ある共通点が見えるんです」
怪訝な顔をする鈴。対してセシリアは何か思いついたようだった。
「私は一夏さんと今カミラさんが仰ったエビータさんのことしか知りませんが……二人とも近接戦闘型ですわね」
「そうなんです。より正確に言うなら、
三人ともそれ以降喋ることはなかった。千冬がやってきた時も黙っていたため箒が何かあったのかと焦っているが、そんなことはない。三人とも自分の考えを巡らせていて気づかないだけだ。
千冬はそれを一瞥すると保健室に入っていった。
◆
「いくらなんでも早すぎません?」
『――――――――――』
カミラに一夏を任せたイサベルは電話で誰かと会話していた。相手の声は辛うじて女性と分かるくらいで詳しくは分からない。
「そうですか、そんなことが……。次の行動はいつくらいになりそうですか?」
『――――――――――』
「ちょうど臨海学校の辺りですね。その時に何らかのアクションがあると?」
『――――――――――』
「分かりました。それまでに一夏くんを上に押し上げろということですね」
『――――――――――』
「ま、一応連絡はしておきます。ちょうどウチの工廠にも用事がありましたし」
『――――――――――』
「ん、誰か近づいてきたようなので切ります。では、また。
イサベルが電話をしまうのとほぼ同時に近づいてきていた人物が話しかけてくる。
「……大丈夫だったの?
「特に問題はなかったよ。まだ第一段階だったからね。それにしても忍び足が上手くなったね。まるで楯ちゃんみたいだったよ」
「……まだ私はお姉ちゃんには……敵わない」
「そりゃ当然でしょ。楯ちゃんは立ち上がるころから仕込まれてるんだから。だからそう落ち込まないの」
イサベルは綺麗な水色の髪を撫でる。サラサラと触り心地がいいのはいつものことだ。撫でられている本人は毎回だというのに顔が赤くなっている。
「全くまだ顔を赤くしてくれるなんて可愛いんだから、かんちゃんは」
「…………」
可愛いといわれた更識簪は無言になってしまう。それも含めて可愛いと思うイサベルだった。