約一年ぶりの更新です。正直自分でもこんなに遅くなるとは思ってもいませんでした。
まあ、詳しくいってもあれなので簡潔に。
実は半年ほど入院生活をしておりました。
そのせいで大学は留年だし、就活はやり直しで大変ですが、何とか更新は続けていきたいので改めてよろしくお願いいたします。
無人ISの襲撃から一週間が経ったIS学園の整備室には連日イサベルとカミラの姿があった。
先日の謎のISとの戦いで所謂奥の手というやつを使ったイサベルの機体は見た目には問題はないように見えるが、かなりのダメージを負っており、連日の修理にも関わらずカタログスペック上の3割しか性能が発揮されない状態にあった。特にスラスター兼砲口であるアルバの破損は著しく、新しいものと交換した方が早いほどだ。
それを改善すべく二人で協力しているのだが、いくらスペインが誇る技術者であるカミラを以てしても、この調子では当分使い物にならないというのが共通見解でもあった。
とはいえ、楯無によれば一か月以内にタッグトーナメントが行われるらしく、最低でも5割くらいの性能が発揮できるようにしたいところであった。
「ベル、アルバの稼働何割削っても大丈夫?」
「最大で6割かな。むしろ第二世代型まで一旦戻しちゃったほうがいいかなあ?」
「それは、どうだろう。出来ないこともないけど、一旦しちゃうとスペインに戻らないと戻せなくなっちゃうんだよね。まあ、プラン通りに次の機体が仕上がってきているなら問題ないんだけど、そっちはどうなの?」
「微妙かな。急いでくれてるけど、流石に一か月以内っていうのはね。一応アルセリアのはできたらしいけど、私の分は新装甲があんまり上手くいっていないみたいでさ。本当はカミラが一旦帰った方が早いんだけど、それも無理そうだし」
最先端とはいえIS学園はあくまでも学園でしかなく、研究開発を目的とした工廠とは機材の充実具合はかなり異なり、これほどまでに大規模な修理であれば、本来は一時帰国という手段をとるか、本国から予備パーツを送ってもらうのが普通なのだが、無人機の襲撃は緘口令が敷かれているため一時帰国やパーツの取り寄せには許可がいる。
当然イサベルたちは許可を求めたのだが、それはIS委員会で却下されていた。あまりにも不自然な動きではあるが、二人には自力で直す以外の方法がなくなってしまったのだ。……まあ、この二人には大体どういう事情なのかは分かっているのだが。
「まあいいや。私はしばらくは学園のISを使わせてもらうよ。それでも負ける気はしないけどね」
そういってイサベルは教室へ向かう。カミラは担任である千冬から許可を貰いISの修理の間に限っては授業の公欠が認められている。おそらく千冬もIS委員会の決定に疑問を抱いているのだろう。そのため、特に何も言われることなく許可を得ることができた。
「じゃあ、また放課後に」
カミラの言葉を背に、イサベルは整備室を出て行った。
◆
昼食を終え、今日からはISを使った授業が開始される。
まずは飛行の手本として専用機を持つ一夏、セシリア、イサベルが自身のISを装着した。
「イサベルさん、それは……」
「ああこれ? ちょっと私のISは修理中でね。学園から一機借りたんだ」
イサベルが使っているのは、スペインが量産化の第一歩としてIS学園に寄贈したトーケー・デル・ソルの量産機「
「まあ、私のソルに比べたら大分性能は落ちるけどね」
半分以下にね、とイサベルは心の中で言うが、その半分ですら現行の第二世代機を上回っているのだから驚きである。
ちなみにこの機体、教職員ですら満足に使いこなせたのは麻耶だけであったりもする。決してほかの教員のレベルが低いというわけではないが、この機体は量産機ではあるものの使い手の資質がある程度必要であり、すべての機能をつかえたのが麻耶のみであったということである。
「では、三人は上空10mまで上昇、その後地上に降りてもらう。その際、地表から5㎝浮いた状態で静止すること」
千冬の指示通り、セシリアとイサベルは上昇したが、一夏は上手くできないのか、少し遅れてやってきた。
「なあ、どうやったらそんなに上手くできるんだ? どうも飛ぶっていうことの実感が湧かなくて……」
「簡単ですわ。まずは自分の飛ぶ方向に三角錐をイメージして……」
「いや、そんな理屈はいらないって。一夏くんはロボットアニメとか見る?」
「ああ、弾に見せられたことならあるぜ」
「じゃあ、その時のロボットみたいな感じで飛ぼうって思えばいいんだよ。……ていうか、模擬戦の時普通に飛んでたじゃん」
「いやー、あの時は必至でさ、あんまり考えてなかったんだよ。で、よく考えたらなんで飛んでんだろうってなったんだよ」
「まあ、そのうちそんな感覚もなくなるって。じゃあ、次は降下だね。先に行くよ」
イサベルはそう言うと、スラスターを一気に吹かして地上に向かった。途中、減速する様子など見せず、地面が迫ったところで逆噴射をして見事に5㎝ぴったりで機体を静止させた。
「流石は国家代表だな。次、オルコット」
名前を呼ばれたセシリアはイサベルと同じように一気に地上に向かい、きちんと静止して見せた。
「8㎝だな。少し減速が早い。最後、織斑」
一夏は前の二人に倣って全速力で地面に向かい、そして…………止まれずに激突した。
「馬鹿かお前は」
千冬からのアドバイスですらない言葉を聞き、地面に空いた穴の中で一夏は項垂れた。
その後はIS数機を使ってISに乗るとはどういうことかを体験したあと、一夏に地面の修復を言いつけた後、授業は終了した。
◆
放課後になるとイサベルは大抵部活動に参加するのだが、ここ最近はISの修理に付きっきりであり参加できていない。
しかし、今日は整備室自体が定期点検の日でありISの修理ができない。そのため久しぶりに部活動に参加しようとしたイサベルだったが、千冬に呼び止められてしまった。
「アルベルダ、少し話がある。来てくれるか?」
「いいですよ。……ここではできない話ですか?」
「察しがよくて助かる……ああそうだ。私の部屋……はダメだな。どこかいい場所はないか?」
「私たちの部屋でしたら盗聴盗撮その他諸々は出来ませんから大丈夫ですよ」
「そうか。では行こうか」
それだけ聞くと千冬はさっさと行ってしまった。イサベルもその後を追っていく。
「アルベルダ。お前は
部屋につくと、早速千冬が問いかけてきた。
アレ、とはあの時にイサベルが使った手段のことだ。ISが通常発揮できる能力の上限を突破した使用法は、ISと使用者に莫大な負荷をかける。事実、イサベルのISはその反動でダメージレベルにしてD判定、所謂大破である。彼女自身も翌日は寝込むほどであった。
「分かっています。でもあの状況ではああするのが最善でしたので」
「いいや、お前はアレの本当の意味を分かっていない。アレは人の手に負えるものではない。束自身すらその危険性からリミッターを掛けたほどのな。…………お前はどうしてそこまでする? あの状況であれば多少の怪我に目を瞑れば……いや、お前と更識なら無傷であの場を乗り切れたはずだ」
「それはいくらなんでも私を過大評価しすぎですよ。あの場ではあれが最も被害を少なく事態を収める方法でしたよ」
「…………まあいい。これ以上アレを使うなよ。………………私のようになる前にな」
千冬が言った最後の言葉はイサベルの耳には届かなかった。
それ以上言うことはないのか千冬は部屋を出ていった。
千冬が出ていった部屋の中でイサベルは一人呟いた。
「……もう、遅いんですよ…………」
イサベルとの会話を終えた千冬は自身の部屋に戻った。そこでおもむろにもう使うこともなくなったペンダントに目を遣る。
それは彼女のISの待機形態を模したものだ。彼女の愛機「暮桜」は暴走の果てに自己封印という結末を迎えている。そして、その事実は今でも千冬を苦しめているといってもいい。
これも全て、自身の力に対する傲慢さが招いたことでもあった。束という天才の友人を持ち、守らなければならない
いつの間にか力が入っていたのか、手を置いていた金属製のテーブルは
そのことに自嘲の笑みを浮かべた千冬は頭を切り替えるためか、彼女はシャワーを浴びようとタオルに手を伸ばしたところで彼女の携帯に電話がかかってくる。番号は見慣れないものだが、通常ありえない13桁の番号は彼女特有のものだ。
「どうした、束」
『なんとなく、ちーちゃんが落ち込んでいる気がしたので電話してみました! じゃあね!』
たったそれだけで束は電話を切ってしまった。
しかし、千冬の表情は確かに柔らかくなっていたのだった。
◆
スペインのIS工廠では、現在昼夜を問わずイサベルの専用機の開発に奔走していた。カミラがいない今、その計画のすべてを任されているカルロスは次々と挙がってくる問題点を苦心して解決しようとしている。
彼は決して凡才ではない。それは女尊男碑が罷り通っている奇妙な世の中でありながらIS工廠のナンバー2として働いていることからも証明されている。むしろ他国であれば、彼は国が召し抱えたいほどの、間違いなく天才の領域にいる人物だった。しかし彼は、彼では遠く及ばない才能の持ち主であるスペインを一気に軍事強国にまで押し上げたブルーノ、カミラの両名を知っているが故に、自身の才能を過小評価しがちでもあった。
そして最近ではアルベルダ隊長の知り合いということで紹介されたアリスなる人物も、彼を遥かにしのぐ才能の持ち主であった。図面を少し見ただけで問題点を見つけ出し、それを的確に処理していく様は明らかに自分より上だと確信できる。
とはいえ、自分が彼女に劣るからといって、臆したり逃げたりするようなことはしない。むしろ、目標が増えたと歓喜する彼は間違いなく技術バカであり、それは彼以外の研究員にも言えることであった。
そうして、数々の失敗と改善を繰り返したイサベルの新ISは完成に近づいていた。そして、同時に副隊長であるアルセリアのIS改修案も進められており、そちらは既に実戦でのテスト段階にまで進んでいた。
試作名S-01'と仮称されたそのISはアルセリアの得意分野である近接戦を強化した機体であり、腰部に4本、腕部に2本、脚部に2本のブレードを装備し、背部には現行のアルバとは全く異なる形の装備が追加されている。そして、一番の相違点は、換装を無くしたことであった。
換装なしでの全領域対応型は、所謂第4世代型に位置づけられている。元々、汎用性に長けていることを目標として設計されていたトーケー・デル・ソルは、同時期に開発され先日フランスに譲渡されたS-02と違って尖った性能はしていなかった。それこそが量産化に必要なことであったためのものであるが、それ故にイサベルやアルセリアの力量に機体が追いついていないという現状も引き起こしていた。
そして、フランスとの同盟の際に行われた模擬戦において、それは露呈した。スラスターの過負荷によるアルセリアの敗北自体はそれ程問題ではない。彼女がそういった戦いを好んでいるのは周知のことであり、対極ともいえる戦い方のイサベルとの模擬戦であればそうなることは明白だったからだ。
問題はそこではない。単純に、彼女たちは自身のISの特徴を完全に把握したうえで、それに合わせるように
彼らだけでは気付かなかっただろう。恐らく、カミラですら指摘されるまでは気付いていなかった。しかしその場にはイサベルの姉であるミーアがいた。スペインが誇る現最強とまで言われる国家代表が。
彼女の目には明らかだった。僅かな動きのぎこちなさは彼女でしか気付けないほど極小のものであったのだ。そして、それを告げられた工廠の面々は腹立たしく思った。それは勿論イサベルたちにではない。そうした戦いをさせてしまっている自分達自身にだ。
そこからは早かった。イサベルのISの強化論は元々あったが、それに加えアルセリアのISも同時進行で進めることにしたのだ。そして、僅か1週間で図面を仕上げ、彼らは作業に取り掛かった。それは、自分たちのプライドを掛けた仕事だったからだ。
そして、その結果が今、目の前に示されている。
アルセリア対隊員4名の模擬戦の結果は彼らを満足させるに足るものであった。性能は既に世界でも最高峰の性能であったトーケー・デル・ソルを遥かに凌駕し、近接戦でありながら掠り傷すら負わないアルセリアの腕が十全に発揮されていた。
「は、ははは…………できた……僕たちの技術の結晶が……」
一人の研究員がそう呟いたのを切っ掛けに、至る所で歓声があがる。それはあっという間に工廠中を巻き込み、隣接している空軍本部から苦情が入るほどであった。
『ねえ、カルカル、この機体の名前はどうするー?』
モニターから聞こえてきたゆったりとした声はアルセリアのものだ。そして、ようやく歓喜から再起動したカルロスは、少し悩んでアルセリアに決めてもらうことにした。これはトーケー・デル・ソルと違って、完全に彼女の専用機なのだから。それに、イサベルの新ISの名前はイサベル自身がつけているのだ。
『じゃーねー…………エストレリャ・ポラル。うん。これがいいかなー。よろしくねー、ポラル」
「うん。いい名前だ。アルセリア、今日はゆっくり休んでくれ」
『カルカルもだよー。それに、ほかのひともみんなね』
そう言って通信を切ったアルセリアは自身の機体を工廠に戻す。
それを確認したカルロスは、今日明日を工廠を休日とすることを研究員に告げ、自身は報告書を纏めるのだった。
次回はそれ程遅くならないように……なると思います。