話の大筋は変わっていませんが、お読みいただければ幸いです。
IS学園に到着したイサベルとカミラは、本来であれば誰か迎えの人が来ているはずだったのだが、時間になっても誰もやってこないため、案内板に従い生徒受付に向かうことにした。ちなみに、門を潜るところにある来賓受付に迎えの人のことを聞いたのだが、来ていないと言われている。
「それにしても広いねー。案内板覚えてなかったら今頃私たち迷子になってたよね、ベル」
「大丈夫。そうなったらISの回線使って楯ちゃん呼ぶから。生徒会長やってるんだし、地理は分かるでしょ」
「……ベル、ここだと先輩になるんだからちゃん付けはどうかと思うよ……」
「あー、そっか。じゃあ、楯無会長とでも呼べばいいかな……っと、付いたみたいだよ」
案内板は途中に無かったが、元々記憶力がいいため、現在地などを入口にあった案内板で覚えたので問題は無かった。一応侵入者対策であるらしいのだが、彼女たちにとっては無意味であるらしい。そもそもその侵入者対策というのも人づてで聞いた話なので本当なのか怪しいのだが。
10分ほど歩いて受付に着いた二人は、暇そうにしている事務員に声を掛ける。
「すいません、私たち遅れてくると連絡したイサベルとカミラですが、学園の方に取り次ぎお願いできますか?」
「証明書の提示をお願いします」
証明書、すなわちこの学園への入学許可証の提示を求められた二人は、バッグからそれぞれ色の違った書類を取り出す。ただの一枚の紙に見えるそれも、様々な偽造対策が施されており、特殊な装置を使うことによってそれが正式なものかを判断するのだ。
証明書を受け取った事務員はすぐに確認作業をすると、証明書の代わりに二枚のカードを持ってきた。
「これが二人の学生証です。紛失時には計50枚の書類への記入と、出身国への確認作業が必要となりますのでくれぐれもご注意ください」
「ありがとうございました」
学生証を受け取った二人は、そこに記載されているクラスに向かう。受付からすぐに校舎に入ることができ、そこから階段を昇る。ちょうど休み時間が終わるころなのだろう。廊下には人が溢れ自分のクラスに戻ろうとしていた。中には部活動の勧誘を粘り強く行っている上級生の姿もあった。
そうした人の間を縫うように進み、ようやく自分のクラスに着いた時には、授業は始まっていた。
今の授業が何の時間であるかは分からないが、教室に入らないことには何も進まない。まるで気負うこともなく、ごく自然にイサベルは教室に入っていき、カミラは慌ててそれを追いかけた。
◆
「決闘ですわ!!」
二人が教室に入って聞いた第一声はそれだった。何があったのか全く予想できなかったが、カミラは早くも溜息を吐いていた。それはイサベルの性格に起因する。彼女はこういったことが大好きなのだ。面白そうなことがあれば、それを全力で行うという彼女の性格は、カミラの悩みの種の一つである。
そして、密かにカミラの悩みの種になっているイサベルは、その顔に笑みを浮かべていた。それを見たカミラは、深く深く溜息。
『決闘ですわ!!』の衝撃から数秒、クラスの人の注目は二人に集まった。自己紹介の時点で二人遅れてくるという連絡は受けていたが、こんなタイミングで来るとは思っていなかっただろう。それは教師である山田真耶も同じであった。しかし、織斑千冬だけは違った。
突然の登場にも全く動じず、自己紹介を勧めてきたのだ。
「自己紹介を」
そう言われた二人は自己紹介を始める。
「えっと、私はカミラ・フアレスです。よろしくお願いします。一応、私も専用機持ってますけど、期待はしないでくださいね」
セミロングの黒い髪と透き通るような青い目、そして平均身長よりも少し小さいカミラは目の色を除けば日本人に限りなく近い容姿をしている。着方が個人の自由となっている制服は足首がかろうじて見えるくらいのロングスカートにしている。そして、何よりも目を引くのが……。
「お……大きい……」
副担任である山田真耶には及ばないものの、身長に不釣り合いなその部分は注目の的になっている。何やら後ろの方では絶望している人たちもいた。その中には、先ほど呟いた生徒もいる。
そして、イサベルも自己紹介を始める。
「私は、イサベル・アルベルダ。好きなものはISと可愛いモノ、好きな人はIS、婚約者もIS! よろしくね!」
ショートカットにしている金髪と、同じ色の目。背はスラリと高くいわゆるモデル体型であるイサベル。制服はスカート丈が明らかに短いが、本人曰く計算し尽くされているため前に屈んでも見えないらしい。
そして、彼女はとても有名である。スペインの国家代表であり、モデルであり、そしてなによりも印象深いのが、12歳の時の迷言である。
『ISと結婚する』
今やこの言葉を知らぬ人はいないとまで言っていい程だ。それは、彼女自身が言い広めていることにも一因する。極めつけに、彼女のISの待機形態は指輪。それは常に彼女の左手薬指に嵌められている。
そんな有名人がクラスにやってきた。そうなれば歓声が上がるのも無理はないだろう。
息を吸う音が聞こえたのか、世界で唯一、男でISを使うことのできる織斑一夏は素早く耳を覆った。
そして、次の瞬間。
「キャーーーーーッ!!」
「まさか! アルベルダさんがこのクラス!」
織斑千冬の登場時に負けず劣らずの歓声がクラスに響き渡った。あらかじめ耳を塞いでいたいたにも関わらず、一夏はその歓声によって耳が痛くなるのを感じた。
「静かにしろ。アルベルダ、フアレス。さっさと席に着け」
そんな歓声をものともせず、千冬は二人に着席を促し、話を先に進める。
「クラス代表の件だが、織斑とオルコット、一週間後の月曜日の放課後、第三アリーナで勝負を行う。何か質問等あるか?」
この発言によって、イサベルとカミラは先ほどの『決闘ですわ!』が何によるものかを理解した。そして、面白そうなものに首を突っ込むのがイサベルである。当然、彼女は手を挙げて発言する。
「あのー、織斑先生! 私も立候補していいですか?」
国家代表の立候補ということで教室が色めき立つ。それもそうだろう。国家代表がクラス代表となればもう勝ったも同然である。しかし、そう上手くはいかなかった。
「済まないが、アルベルダはクラス代表になることはできない。国家代表がクラス代表になっては他のクラスとの間に不公平が生まれてしまうのでな。諦めろ」
「でも、去年はいたらしいじゃないですか」
「ああ、更識のことか。ならばあいつに文句を言うんだな。去年更識がやり過ぎたせいで今年からこの規則が決まったんだ」
「楯ちゃーーーーん!!」
イサベルの脳内では、いつものように扇子を広げ意地の悪い笑みを浮かべる楯無の姿が思い浮かんでいた。そして、悲痛の叫びをあげた。
しかし、当然そんなことをすれば待っているのは制裁である。
「ッーーーー!」
目に見えないスピードで振り下ろされた出席簿がスパーンという音を響かせる。
「黙れ」
「……はい、織斑先生」
そして、そんな光景を見て、カミラは深く深く溜息を吐いた。
◆
放課後。特に授業で分からないところなどあるはずもないイサベルとカミラはこれからの自室になる1024号室にいた。
国家代表であるイサベルと専属整備士であるカミラにとっては慣れたものではあるが、当然のようにこの部屋には盗聴器などが仕掛けられている。それをカミラのISに搭載された探知機で一つ残らず探しだし、処分。
「うわ……最高記録更新だよ、カミラ」
「久々だね、こんな量になったの。でもこれでようやく羽を伸ばせるね」
処分した盗聴器の類の数は計47。立場上動向は隠しづらいので外泊するときには必ずと言っていいほど仕掛けられているそれも、流石に二桁の数字になるほど仕掛けられているのはそう多くはない。それだけIS学園の警備が甘いのか、潜り込んでいるのが多いのか。
しかし、そんなことを一々気にしていたら国家代表など務まらないので、イサベルはさほど気にしていない。
一方、カミラは盗聴器は気にしないのだが、盗撮には厳重に気を遣っていた。それは、彼女がコンピューターを弄る時の格好に起因する。
「あれ? もう脱いだの?」
「うん。もう盗撮される心配はないし」
カミラはコンピューターを弄る時は下着姿になる。流石に公衆の面前ではしないが、自室などのプライベートな空間では必ずである。今日は日中は普通に学園に行っていたため下着を着ているが、これが風呂上りや休日になると全裸だったりする。
それが、彼女が盗撮に気を遣う理由である。
そんないつもの姿を見たイサベルは、自分のベッドに腰掛けると左手の指輪にキスをする。
その顔は満面の笑みを浮かべており、人によっては声を掛けるのを躊躇うほどのものであった。
数分後、満足したのか、イサベルは立ち上がるとカミラが立ち上げているディスプレイを覗きに行く。
「あれ? これってカミラのISのデータ?」
「うん。私のISって攻性武装って一つしかないから、何か代用できないかなって」
「じゃあさ、これの使用法を逆転させれば?」
「うーん、でもさ、私の場合この間合いまで接近できないと思う」
「あー、そっか。カミラってば近接戦の才能皆無だもんねー」
「だから、悩んでるの」
二人でカミラのISの武装を考えるが、いいアイデアが出てこない。元々が通常のISとコンセプトの違うISであるため、攻性武装のことなど考えていなかったのだ。しかし、IS学園では模擬選やトーナメントなどで戦う場面がある。専用機持ちということで声が掛かることも多いだろう。
「じゃあ、いっそのこと攻性武装を全部封印して、模擬戦できませんアピールでもする?」
「でも、それじゃ、データが取れないんだよ?」
「……じゃあ、私のISの武装貸そうか? 元々は同機体なんだし使えるでしょ?」
「しばらくはそうするしかないかな。じゃあ、マシンガンと、ショットガン頂戴。全然使ってないみたいだし」
専属整備士であるカミラにとっては、使っていない武装などお見通しであるらしい。イサベルは苦笑しながら、言われたものを取り出しカミラに渡す。
それを受け取ったカミラは、すぐにそれを量子化し収納する。その手際の良さは流石としか言いようがなかった。
「これで何とかなるかな。少なくとも量産機には負けないくらいに」
「大丈夫だって。カミラお得意の逃げ撃ちだったら代表候補生にも引けを取らないと思うけど?」
「でも、イサベルには効かないよね?」
「当然! 私は国家代表で、使ってるのはおじいちゃん設計の第三世代IS、『
今まで何度も二人は模擬戦をしているが、カミラがイサベルに勝てたことは一度もない。それどころか、シールドエネルギーを削ったのですら数回である。それには、機体の特性の差もあるが、何よりもイサベルの向上心が大きい。
カミラがISの開発というほうに才能を開花させ、イサベルは操縦に才能を開花させた。そのことに驕ることなく努力を続けた二人はお互いの分野では太刀打ちできない。だからこそ、国はこの二人を組ませ、とうとう第三世代ISの開発に成功したのだ。設計図はブルーノが作ったものではあるが、完成させたのはこの二人である。
既にこのISは『type.A』が2機、『type.S』が1機配備され、量産化の体制が進んでいる。欧州連合のイグニッション・プランに参加していれば、既に正式採用されていたであろう完成度を誇るが、スペインはそれに参加していない。水面下では接触があるようだが、その全てを跳ね除けているという噂も立っている。
更に、イサベルの『type.A』には独自に改良が加えられており、もう一機の『type.A』を圧倒できるほどの機体性能を持っている。
学園入学に先立って行われた、スペインIS部隊『
そして、その削られたシールドエネルギーは、『type.A』に搭載された特殊武装の使用によるものがほとんどであり、ほぼ無傷での勝利である。
そんな圧倒的な力を持つISに更にイサベルは惚れ込むのだが、それは周知のことである。
「ねえ、カミラ。隣、うるさくない?」
学園に来る前のことを思い出していたカミラは、イサベルにそう言われ、耳を澄ます。すると、怒鳴り声や、何かの破壊音が聞こえてきた。
「カミラ! 私行ってくる!!」
カミラの返事も聞かず、イサベルは廊下に飛び出していった。
それを見たカミラはまた溜息。
今日四回目の溜息だった。