調印式とかよく分かりませんのでちょっと濁しました。
一階に降りてきたイサベルはそこにいた人物に驚いた。
「お姉ちゃん!?」
「久しぶりね、ベル。卒業式以来かしら?」
そこにいたのは、イサベルの姉であるミーアだった。イサベルよりも少し高い身長に長い金髪、その顔立ちはイサベルにそっくりだ。一目見ただけで姉妹であることがわかるだろう。
「その顔を見るに、エアメールのほうが早かったみたいね」
「そうだけど……何しに来たの? 一応ここに来るには許可が必要なんだけど?」
「許可ならもらってるわよ、パパから。で、私のISの調整やってもらえる? ……あっちの設備じゃ細かいとこは出来ないのよ」
「じゃあ、カミラ呼ぶ?」
「お願いね。ISはここに置いてくからやっといてちょうだい。ああ、そうそう。私のデータとか色々入ったのも置いてくわ。私はこれから予定が詰まってるのよ」
そう言うとミーアは自身のISの待機形態であるイヤリングと、データが入っているであろうディスクを置いてさっさと出ていってしまった。どうやら本当に忙しいようで、外に停まっていたヘリを使って何処かに向かっていった。
ミーアが去ったあとの兵舎では彼女の話題で持ちきりだ。
「よく似てたね。……まあ、一カ所かなり違う部分があったけど」
「ああ……あれはカミラさん並みですね」
そう言って自身の胸を見下ろすのは、現在国家代表に最も近いと噂されているエビータ。織斑千冬に憧れ、近接ブレードしか使わない14歳だ。ちなみに量産機でセシリアを完封したのも彼女だ。
「でも、どっかで見たことあるような…………」
「うん。私もそう思った。ソフィアは?」
ソフィアと呼ばれた赤毛の女性は少し考え込み、しかし結局は思い出せなかったようで首を横に振る。
隊員たちはミーアについて話しているが、イサベルは違った。ミーアが置いていったディスクとイヤリングを持ち、カミラの部屋に向かう。
イサベルの部屋の向かいにあるカミラの部屋は他の隊員の部屋よりもはるかに大きい。更には部屋に掛けられている鍵も彼女の自作で解除することができるのはイサベルの他には今は亡きブルーノだけだ。毎朝の掃除の時間には決められた時刻に決められたパターンを入力することによって一時的に解除できるが、その手順を知っているのはソフィアだけ。必然的にこの部屋を掃除するのはソフィアになる。
それゆえ、この部屋に入ったことがあるのは、本人の他にイサベル、ブルーノ、ソフィアだけである。
カミラがここまで厳重に鍵を掛けているのは、ブルーノの研究資料がここに保管されているからだ。その資料の中には核融合を使った動力炉など、実現はできないものの、相応に危険な技術が記されている。
そんな首相ですら入ることの出来ない部屋にイサベルは入っていく。
その部屋の一番奥にカミラはいた。例のごとく下着姿である。彼女の眼前には6枚のモニターが稼働しており、先ほどまでイサベルが閲覧していたデータが映っている。
「カミラ、今いい?」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「お姉ちゃんのISの調整してもらいたくて」
「分かったよ。ちょっと待ってて。今パソコンにプロテクト掛けるから」
そう言ってカミラは目にも止まらぬ早さでキーボードを打ち、次々とロックしていく。一分後には全てのパソコンをロックし、服を着始めるカミラの姿があった。
「準備出来たよ。さ、行こ」
カミラは着替え終わると、イサベルより先に工廠に向かっていった。後から出ることになったイサベルはカミラの代わりにきちんと部屋の鍵を閉めて出る。
隊が所有するアリーナの横にスペインのIS工廠はある。そこには国中から集められた研究者がおり、日夜研究に励んでいる。スペインにISの工廠はここにしかなく、他国のように一企業がISを開発するといったことはない。これは国の方針であり、一カ所で開発することによって様々な装備や基礎設計を共有し発展させるためだ。更に、この工廠では地位は関係ない。昨日入った人であろうが、古参の人物の意見に反対しても変な目で見られることはない。反対するためにはきちんとした理論が必要不可欠だが。
そんな工廠だったが、対外的にトップがいないというのは些か良くなかったのか、つい先日、カミラが工廠長に名だけとはいえ就任した。就任以来初めて訪れるのだが、カミラはそのことなど気にも留めずに奥へと進んでいく。
工廠は5つの区画に分けられている。今回イサベルとカミラが向かったのは、アリーナと直接繋がっている整備区画だ。基本的にこの区画が使われるのは隊の訓練時や他の模擬戦時だけなので、そのどれも行われていない現在は誰もいない。そもそも、つい昨日まで研究者たち総出で協定締結に間に合わせるようにトーケー・デル・ソルの調整を行っていたので、今この工廠には僅かしかいない。最も、二人はそのことに気付いていないが。
「さ、はじめようかな」
カミラが展開されたミーアのISに様々な種類のケーブルを繋いでいく。何も映されていなかった大型ディスプレイにISの状態が次々に表示されていき、所々にエラーを示す赤い文字列が表示される。
「ありゃ、こんなにエラー出てるよ。一体お姉ちゃんはどんな使い方してたんだか」
「このエラーはそうじゃないよ、ベル。この機体、
「……マジで? 元は試作機だったからそれに関するエラーかと思った。じゃあ、トーケー・デル・ソルとほぼ同じこの姿が二次形態ってこと?」
「そういうこと。どうせだから全部載せちゃおうか」
驚いたことにミーアの機体『S-01』は
「じゃあ、これが幻の『type.C』ってことになるの?」
「そう。私がそうしてみせる」
二人の話題に挙がっている『type.C』とは、トーケー・デル・ソルの開発時に同時に構築された換装システムにおいて、全ての基礎となる『type.N』に8基のアルバが特徴的な攻撃型の『type.A』、4基の大型楯「
しかし、現行モデルですら全てを搭載すればエネルギー不足や過重によって性能が格段に下がってしまい実現には至らなかった。カミラの頭には二次形態の機体ならあるいは、という思いがあった。
そんな思いを感じたイサベルは邪魔をしてはいけないと、特に口を出すこともせずミーアから渡されたデータの解析結果を見ていた。そこには、ミーアのISのフラグメントマップが表示され、その隣にはイサベルのものが表示されている。二人のフラグメントマップはよく似ており、それはつまりお互いのISの使い方が似通っているということだ。
更にページを送ると、ミーアが行ったスラスターへのエネルギー配分や戦闘データが載っていた。それを基にイサベルは自らのISを調整していく。
二人とも無言で調整をしているので、しばらくの間機械の駆動音だけが鳴り響く。
3時間後、イサベルは自分の機体の整備が終わり、カミラの方を見ると、まだ作業を続けているようだった。どうやら『type.D』の装備であるフエルノが上手く組み込めないようで、難しい顔をしている。流石に一人では限界が来るだろうと思ったイサベルはカミラに助言をすることにした。
「別に4基組み込まなくてもいいんじゃない?」
「でもそれじゃ完璧とは言えない」
「あの全方位防御が実現出来ればいいんだから出力あげて2基でもいいんじゃない?」
「……それでもいいんだけど、そうするとアルバから供給するエネルギー量が限界値を超えちゃうんだよ。4基のときはそれぞれが補う形だからそこまでエネルギーは使わないんだけど、流石に2基で全方位となるとね」
フエルノによる全方位防御はそのエネルギーで構成された膜の厚さが均一でなければならず、四分の一と二分の一では1基ごとのカバーする範囲が大きく異なり、より広く均一にカバーしなければならない2基での発動は4基に比べ多くのエネルギーを使ってしまう。
元々機体の大きいトーケー・デル・ソルに大型楯を4基載せると更に大型になってしまい、被弾率が上昇してしまう。『type.D』はエネルギーをフエルノに多く回す分、装甲自体も耐久性の高いものを使っているが、それは機体の重さにも直結している。防御型である『type.D』は被弾覚悟の設計であるが、今作り上げようとしている『type.C』は万能型。スピードを犠牲にしてしまったらそれは万能とはいえないと二人は考えている。
とにかく何か解決策を見つけようとイサベルは自分のISのデータを見る。そして、あることに気付いた。
「ねえ、カミラ。私のに搭載されてるこの試作シールドビットってフエルノと同じ素材よね?」
「うん、そうだけど?」
「じゃあさ、このシールドビット使ってどうにかできないかな? ドッキングさせて一枚の大きな楯を作るとか」
「……それは、できると思うけど……まだ試作段階だからデータが足りない」
「大丈夫だって。取り敢えずやってみるだけやってみようよ」
何もしなくては何も解決しない、と考えやれることをやることにした二人。
シールドビットの予備はここにはないので、入り口近くにある開発区画に取りに行かなくてはならない。二人はISを展開すると、他の研究者の邪魔にならない程度の速度で取りに向かった。
◆
一夜明け、協定の締結日となりイサベル含め『ラ・アルマダ』の隊員は忙しなく動いていた。
会場の警備のために、スペインが所有するIS10機のうち、国家代表が所有する3機と、コアのままである2機を除いた5機が周辺を固めている。
そして、国家代表であるイサベルは、黒のスーツを着て首相の隣にいた。『ラ・アルマダ』の隊長であるということもあり、首相と面識がないわけではないが、さすがのイサベルも緊張していた。
「アルベルダさん。そんなに緊張しなくてもいいですよ」
「そんなことを言われましても……貴女一人なら大丈夫なのですけど、流石に他国の首相と会うのは私でも緊張しますよ」
調印式の時間になり、指定された会場に着いたイサベルは思わず息を呑んだ。
この協定が世界中の注目を集めていることは当然知っていたが、想像を超えるほどのカメラマンが会場に詰めかけ、彼女たちの登場と同時に激しいフラッシュが辺りを包んだ。
この調印式の模様は世界中で中継されており、IS学園でも当然放送されている。
今頃みんな驚いてるだろうなーと考えながらカメラに向かって微笑みを向ける。それを見て顔を紅くしているカメラマンも数人いたが、そんなことをしている間に着々と式は進んでいき、今はこの協定に参加する三ヶ国の代表がそれぞれサインをしているところだ。
サインが終わると、それを交換し、三ヶ国の代表は固く握手をする。拍手が至る所から巻き起こり同時にカメラのフラッシュも一斉に焚かれる。
そんな中、イサベルはフランス、ポルトガルのIS国家代表の下へ行き握手を交わす。すると、彼女たちの方にもカメラが向けられる。
恐れていた混乱など一切起きずに無事、この協定は結ばれた。
◆
「おーい、大丈夫か?」
「だ、駄目ですわ……」
スペインで午後2時、つまり日本では午後10時に行われた調印式は全ての行程を終えたのが午後4時、日本では午前0時。当然、国家代表候補生であるセシリアはその全てを見ていたので、完全に寝不足である。
そのほかにもクラスを見渡せば眠そうにしている者が大勢いる。
その中でもとりわけセシリアが眠そうだ。なぜなら本国への連絡に加え、彼女は自慢の髪のセットに1時間半はかけるらしく(ルームメイト談)、朝のSHRに間に合わせることを考えると、睡眠時間は約4時間といったところだ。ちなみにそのとばっちりを受けているルームメイトの
そんな眠そうなセシリアに声を掛けた一夏も眠そうにしている。元々早寝早起きを心掛ける一夏にあの時間は堪えたようで、目の下には薄いながらも隈が見て取れる。
チャイムが鳴りSHRの開始の時間になったが、いつもなら時間通りに来ている千冬が来ていない。おそらく今回の調印式の件で職員会議が長引いているのだろうが、座っていなければいけないこの時間に何もアクションがないと、寝不足の彼女たちはあっという間に眠りに落ちていってしまうだろう。しかも、全員が一夏に寝顔を見られないように腕で顔を隠して。
と、皆が眠気に負ける前に千冬がやってきた。クラスの雰囲気が眠気でいつもより活気がないことに気付くが、関係ないとばかりに半分寝ていた一夏を叩き起こし、SHRを始めた。