調印式から続く諸々の行事のために一週間以上に渡って首相と共に行動しているイサベルだったが、それも明日で終わり。残っている行事は今行われているフランス側との非公式の会食と、世界に向けたパフォーマンスである明日の模擬戦のみ。それが終わればようやくIS学園に戻ることが出来る。
そして、今日の会食の相手は史上最年少でフランス大統領になった弱冠30歳のアラン、デュノア社社長で丸坊主のオーギュスト、そして、ブロンドの髪をポニーテールにしている同国家代表のジャンヌだ。ちなみにジャンヌはオーギュストの娘でもある。スペインからは女性首相のカルディナ、IS研究機関代表代理のカルロス、そしてイサベルが参加している。
そんな各国のトップたちが会食をしているのは、別に高級ホテルの最上階という訳ではない。首相のカルディナは元々一市民の出であり、あまり格式ばった食事を好まないということもあってこういった非公式の場では日本でいう定食屋のような店を貸し切って使うことが多い。今回もその例にもれず、イサベルの友人の親が経営している店を使っている。
「アルベルダさん、そちらのデュノアさんに説明してあげたほうがよいのでは?」
「あ、ああー、そうですね。ジャンヌさん、うちの首相はこういう店が好きでさ、だからそんな気にしなくてもいいよ?」
「心配しなくてもいい。ちょっと何食べようか決めてただけだから。それはそうと、もう注文してもいいの?」
「あ、うん……いいんじゃない? おーい、ゴンちゃーん、注文取ってー」
「そんなでっけー声出さなくても行くっつーの。つーか、ゴンちゃん言うな」
イサベルに大声で呼ばれて出てきたのは、同級生で黒い髪をオールバックにしたゴンザレスだ。毎回ゴンちゃんと呼ばれるたびに言い直させようとしているのだが一向に直る気配はないようだ。
「ジャンヌさん、先どうぞ」
「じゃあ、トルティージャ一つで」
「少ないねー。ゴンちゃん、私はいつもので」
「はいよ。少々お待ちを。あ、ベル、お前は長々お待ちを」
注文を取り終わったゴンザレスは厨房へと向かう。彼は両親とともに調理をするのだ。その腕前は既に両親を超えていると常連客は噂している。
注文し終わった二人が大人4人のテーブルを見ると、何やら背景に黒いものが見えるような気がした。そこまで深い付き合いではないが、カルディナやカルロスがここまでの雰囲気を出したことは無い。ということはフランス側なのだろうが、どうも大統領も冷や汗をかいているようにしか見えない。
イサベルがジャンヌの方を見てみると呆れたような顔をしていた。
「ねえ、ジャンヌさん、いったいあれは何?」
「あー、お父様ってね……こう腹黒な会話が大好きでさ、よくあんな空気になるんだよね。それがなければいい人なんだけど。あの性格のせいでさ、私のお母様は離婚しちゃったし、今のお義母様も月に一回は実家に帰ってるのよ。かといって私ひとりじゃあの腹黒モードのお父様には敵わないし、シャルちゃんを生贄にしてやり過ごす日々よ」
「あはは…………そりゃご苦労様」
「でもね、そのお蔭でこの前はいいものが見れたのよ」
そう言ってジャンヌは胸ポケットから一枚の写真を取り出した。そこに映っていたのは、綺麗なブロンドの髪をした貴公子然とした少年の姿だった。
「で、これが? いや、なんというか苛めたくなるようなそういう雰囲気出してるけど」
「実はこれ、シャルちゃんの男装姿なのよ」
そう告げられ、もういちど写真をよく見る。先ほどは分からなかったが、確かにそうだ。髪の毛を後ろで結んでいるだけなのに全く気付かなかった。見れば見るほど完璧な男装に見える。
「それでさ、この姿のシャルちゃんをお父様もお義母様も気に入っちゃって、どうせならこの格好でIS学園に通わせようってなってさ」
「えーと、それ、本気で言ってるの? 一般教員とか生徒は騙せても、織斑先生は騙せないと思うよ?」
「うん。だから、織斑先生には事前に言っておいたらしいよ。『うちの娘を男装させて入学させたいのですがよろしいですか』って」
「そしたら?」
「『学園の制服は改造しても構わないものですので、男としてではなく男装としてなら問題ありません』だって。いやー、物分かりいいよね!」
「あ、そう…………。ところで、この男装シャルちゃんって、こう、さっきも言ったけどさ、苛めたくなるんだけど。それに愛でたくなってきた」
「…………食べるのはダメ。……やっぱりベルもミーアさんの妹なのね」
『愛でる』をどう解釈したのか『食べる』と解釈したジャンヌに本気で止めてくれという感情をこめて言われたので、向こうから誘ってくるように仕向けようかなーと考えるイサベル。その考えが表情に出ていたのか姉に似ていると言われてしまった。
「ちょっと待ってジャンヌさん! 私はお姉ちゃんみたいに在学中に半分は食ったとかそんなことはしないから!! 私が好きなのはISと可愛いモノだから! 愛でるだけだってば!」
「おい、なに騒いでるんだよ。っと、こちらが注文のトルティージャになります」
「あ、ゴンちゃん。乙女の会話を盗み聞きですか?」
「ちげーよ。おっと、ベルのもちょうどできたんだっけか。えーと、セボの角煮が二人前、パエリアが三人前、ほうれん草のカタルーニャ風、で合ってるか?」
「おっけーおっけー。あ、アイスティーもお願いね」
「はいよ。んじゃすぐ持ってくるから」
テーブルいっぱいに並べられた料理にジャンヌは目を丸くする。それもそうだ。自分がトルティージャ一つなのに対し、イサベルは家族で食べるような量なのだ。それでいてスタイルは抜群という反則。ジャンヌは思わず質問せずにはいられなかった。
「いつもこんなに食べてるの?」
「うーん、いつもはこれにピンチョ・モルノとか食べてるかな。今日は少ないほうだよ」
これで少ないと言われ愕然とするジャンヌ。自分はスタイルを維持するためにデザートを控えたりしているというのに全く気にせずに食べるイサベルにスタイルで負けていることで一気に食欲が失せてしまう。これが若さか、と思わずにはいられないジャンヌ(20歳)。
そんなことも気にも留めずに人によっては胃もたれを感じるような量の料理を平らげていくイサベル。
「アイスティーお待ち……っておいベル、この人なんか魂抜けてるような顔してるぞ!?」
「…………」
「はあ、ダメだこりゃ。聞いちゃいねえ」
ジャンヌは黙々と食べ進めるイサベルをただただ見ていることしかできなかった。
◆
翌日、世界へ向けたスペインの国家代表同士による模擬戦は、射撃重視の調整をしたイサベルの『type.A-i』が近接重視のアルセリアの『type.A-a』を僅差で下し幕を下ろした。
始め優勢だったのはイサベルだったが、アルセリアのISに搭載された新装備によって『アルバ』を2基破壊されてからは一進一退の攻防となり、お互いにシールドエネルギーを削り合う展開となった。しかし、射撃重視であるイサベルはそれほど
模擬戦後、お互いに集中力を使い果たしたため、その後に行われる予定だった取材は翌日へと持ち越され、イサベルとカミラの滞在期間は更に長くなることとなった。
「ねえ、ベル。何で私の部屋にいるの?」
「いーじゃん。何か疾しいことでもあるの?」
「別にないけどさ。これからちょっとゲームやるから煩くなるよ?」
「ゲーム? …………あ。もしかして今日がトーナメントの日?」
夜になってカミラの部屋を訪れていたイサベルは『ゲーム』で思い出した。
二人が言っている『ゲーム』とは、『IS/
世界大会目前まで言ってどの国のモデルを使うかが問題になり大会中止になってしまった前作と違い、それぞれのISを1~100で数値化し、バトルによって稼いだポイントによってカスタムしていくというシステムに変わった。また、ランク付けがされ現在は第一世代から第三世代までのランクが解放されている。当然、第三世代のランクでは、それに見合った装備を買うことが出来、カスタムの上限も解放されているが、対戦は同世代間でしか出来ず、そのルールを不正な方法で犯した場合には管理者である『白騎士』がやってきてしまう。
そのようなルール調整によってある程度公平になったため、3か月に一回トーナメント形式での大会が開かれるようになった。今日はちょうどその日なのである。
「今日こそはあの
『ええ! 今日こそはやってやるわ!』
「あ、鈴。今日は早いんだ」
『あたりまえじゃない! 今日のトーナメントで上位4チームに入れば第三世代武装が一つ貰えるのよ!」
「えーと、カミラ? この子誰?」
オープンチャットになっている画面からイサベルにとって聞き覚えのない声が聞こえたのでカミラに尋ねる。
「この子は鈴。フルネームは鳳鈴音。中国の代表候補生だよ。私とはコンビ組んでて、そっちでの名前は『カシオペア』」
「あー、あの無鉄砲ちゃんか」
『無鉄砲ちゃんって何よ!?』
「どうって、そのまんまよ。あ、私は『SAI』って名前でやってるわよ?」
『『SAI』って、あの『SAI』?」
「そうよ……ってカミラまで何でそんなに驚いてるの?」
驚いているのは画面の向こうの鈴音だけではなかった。隣に座っていたカミラも驚いており、イサベルはとっくに知っていただろうと思っていたので、少々驚いている。
「ベルちゃんが『SAI』だったの!? 気づかなかったよ!」
「いや、何でばれてないんだろうって思うよ。私は。だってカスタムも明らかに私のISに似せてるし」
ほら、と言ってイサベルは自分の端末からゲームで使用しているISを表示させる。素となる機体はスペイン製第二世代のソルで、そこに大型スラスターを載せているところは確かにトーケー・デル・ソルにそっくりだ。
改めてその機体を見て何故気づかないのか不思議に思うイサベルであるが、カミラは本当に気づいていなかったようだ。
「えっと、じゃあ、コンビ組んでる『ラクス』って誰?」
「お姉ちゃん」
「だよねー。そんな気がしたよ。ベルが私と組んでないってことはミーアさんくらいだもんね……」
『ミーア? どっかで聞いたことがあるような…………』
何やら黙ってしまった二人だが、トーナメントの抽選会の開始の合図が鳴り画面に注意を向ける。毎度のことだが、この瞬間は緊張しているようだ。勝ち抜くためにはたとえ倒すと意気込んでいても
そして、表示された結果は…………
「えーと、私の相手は『かいちょー・ヘアピン』か。……どう見てもあの二人だよなあ…………」
イサベルは対戦相手の名前を見てある二人を思い浮かべる。そして、カミラ達の相手は誰なのかと聞こうとすると、何やらどんよりとした空気が漂ってきた。
仕方なく自分の端末を操作しカミラのペアの対戦相手を確認する。
「えーと、『せーれー・カシオペア』がカミラね。相手は……『
『言わないで。まだ勝ち目はある……はず…………よ………………』
「大丈夫。いざとなったら切断してしまえば……」
『それはダメ!! ペナルティは喰らいたくないわよ!!」
阿鼻叫喚な二人の様子を見たイサベルは心の中で十字を切り、静かに部屋を出て行った。
◆
「ふっふっふー。今日の相手は誰かなー」
どことも知れない場所にその女性は居た。手にはコントローラー。そして表示されるユーザーネームは『
「おっと、今日のいけにえさんはみーちゃんだね! テンションあがってきたよーー! あ、
『大丈夫です。問題ありません』
「なら出陣だよ! 私たちの前に敵はいないのだーー!」
『はぁ』
通信相手のため息が聞こえたところで一旦通信を斬る『
「まったく。隠さなくても『
そして…………
「姉さんはあれで隠してるつもりなのだろうか」
各キャラのユーザーネームは連想ゲームの要領で。
イサベル→ISABEL →ISA→『SAI』
カミラ→ミラ→マクスウェル→『せーれー』
ミーア→SEED DESTINY →『ラクス』
鈴音→超鈴音→『カシオペア』
楯無→生徒会長→『かいちょー』
簪→髪飾り→『ヘアピン』
束と箒に関しては、束は白騎士の白から、箒はコンビを組んだときに変えさせられました。ちなみに箒の以前のユーザーネームは『コメット』
感想書いてもいいんですよ?