インフィニット・ストラトス ~太陽の操者~   作:神駆

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9:「言い値で買おう」

 

 

 

 結局三週間にも及んだ協定関連の行事は終わり、イサベルとカミラはIS学園に戻ってきた。そして、ちょうど今日、カミラのゲーム内のパートナーである鳳鈴音も転入してくるということで、校門前で到着を待っていた。

 

 

「鳳鈴音ねえ……結構可愛いわね」

 

「ベル? どうしたのいきなり。確かに可愛いけどさ」

 

「いやー、こう本音ちゃんも癒しの対象なんだけどさ、なんかこう……妹にしたい感じじゃない?」

 

「そうかな?」

 

 

 二人が雑談していると、偶然そこを一夏が通りかかったので呼び止めてみる。

 

 

「一夏くん、久しぶりだね。どう? 腕は上がった?」

 

「お、イサベルにカミラ。まあ、最初に比べれば良くなったかな。最近じゃセシリアも手伝ってくれるし」

 

「ん? いつの間にオルコットちゃんを名前で呼ぶようになったのかな?」

 

「なんか名前で呼んでくれって言われてさ。そういや何でこんなとこに居たんだ?」

 

 

 今さらになって浮かんできた疑問を一夏は二人に聞く。帰ってきたんだったらいろいろすることもあるはずだと思っているのだろう。

 

 その疑問にカミラが答える。

 

 

「今日転入してくる子がいて、待ち合わせしてるの。ちなみに中国の代表候補生」

 

「へえー。何ていうんだ?」

 

「あー! 一夏!」

 

 

 その代表候補生が誰なのか聞こうとしたところで一夏の名前を呼ぶ甲高い声が聞こえた。その声の主は全速力で駆けてくる。

 

 その姿を見た一夏も驚きの声を上げる。

 

 

「鈴!? じゃあ、転入生っていうのは……」

 

「そうよ! 一夏、久しぶりね!」

 

「……やっぱり鉄砲娘じゃない……」

 

 

 そうつぶやくイサベルだが、その声は隣にいたカミラにしか聞こえず、それを聞いたカミラは苦笑いを浮かべる。

 

 

「はあ。忙しない人がまた増えた……」

 

「ん? カミラ何か言った?」

 

「ううん。何も言ってないよ、ベル。…………はぁ」

 

 

 またため息をつくことが多くなりそうだと一人憂鬱になるカミラだった。

 

 一方、久しぶりに一夏と会った鈴音は自分の内心を隠すので精いっぱいだった。たった一年とはいえ、一夏は自分の想像以上に成長していて、顔が赤くなるのを隠すために全力疾走してきたのだが、それも意味がないほどだった。

 

 

「あんたいきなりISを動かすなんて何してんのよ」

 

「なんか試験会場で迷っちゃってさ、たまたま置いてあったISに触ったら起動できちゃったんだよ」

 

「一夏らしいわね。で、それよりも何で一度も連絡を寄越さないのかしら?」

 

「いやだって俺だって何が何だか分からないままここに入ることになってそれで……」

 

「そっちもそうだけど……まあいいわ。今さら言ったところでどうにかなるようなものじゃないしね」

 

 

 会話が一段落着いたのを見計らってカミラが声をかける。

 

 

「鈴ちゃん、まずは受付に行かないと」

 

「あ、そうね。じゃあ、カミラ案内よろしく。えーっと、イサベルよね?」

 

 

 いつもはテレビを通してしか見ることのできないイサベルを目の前にして若干緊張しているのか鈴音は彼女らしくない声色でイサベルに話しかける。

 

 

「そうよ。んー私も鈴ちゃんって呼ぶから、そんな固くなんなくてもいいわよ。ほら、自然体自然体」

 

 

 そう言いながらなぜか鈴音に顔を近づけていくイサベル。

 

 

「ち、ちょっと……近いわよ!」

 

 

 距離が縮まるにつれて鈴音の顔は赤くなっていくが、それを全く気にせず、ついには鼻と鼻がくっつきそうな距離にまでなった。

 

 

「あ、え、う」

 

 

 二の句が継げない鈴音。だが、その距離から近づくこともなく、すぐに離れていった。

 

 

「こんなくらいで赤くなるなんて可愛いわね。かんちゃんみたい」

 

 

 かんちゃんというのが誰かは知らないが、どうやらからかわれていたようだと理解する鈴音。だが、なぜか怒る気にもなれずまだ赤いであろう顔から熱を追い出そうと手で仰いだ。

 

 何か見てはいけないものを見てしまったかのように一夏が視線を逸らした先には、カミラに怒られているイサベルの姿があった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 無事に受付まで鈴音を送り届け、イサベルとカミラは自室へと帰ってきた。結構長い間空けていたので溜まっているだろうとISのセンサーを使って調べると、計12個の盗聴器の類が仕掛けられていた。

 

 そこから出ている電波を辿れば主犯を見つけられないこともないのだが、どうせそんなことをしても次々に来るのだからと毎回放置するだけである。それでもこの多さには辟易するが。

 

 

「やっぱりこの学園の警備が甘いのかな?」

 

「まあ、こんだけ学生がいたら当然各国のエージェントだったりが来てるはずだし、どれだけ体制を強化しても漏れはでるよ。それよりカミラ、明日は覚悟したほうがいいと思うよ。どうせ教室に入ったら質問攻めだから」

 

「やっぱりそうだよね……」

 

 

 翌日のことを思ってか、既に疲れた顔をするカミラ。もともと公の場にはあまり姿を現さないカミラは、質問攻めに慣れていない。イサベルは慣れてはいるもののそれはマスコミ相手だ。同級生相手では勝手も違い、苦労することになるだろう。

 

 

「そういやさ、カミラ。私のISの設定弄ったでしょ?」

 

「よく分かったね。一応ミーアさんのデータからベルに合わせるようにプログラム組んだからバレないと思ってたのに」

 

「分かるに決まってるじゃない。いつもよりトルエノのチャージ時間が0.1秒早かったし、アルバの反応速度も若干早くなってるし、おまけに今まで殆ど機能してなかったシールドビットが使えるようになってるし」

 

「いや、シールドビットはバレること前提だったけどトルエノもアルバもバレるとは思ってなかったよ」

 

「まあ、普通じゃ分かんないんだろうけど、私には分かるわよ? だって私の夫のことだから」

 

「夫って…………じゃあ、私は何?」

 

「ペット」

 

 

 間髪入れずに即答するイサベル。予想外の答えにカミラは固まってしまっている。だが、それもほんの僅かの時間。いきなり言われて固まってしまったが、よく考えれば冗談であると分かる。現にイサベルの目はただこの場を楽しんでいるだけのように見える。

 

 それでも一応気になるのかカミラは問いかける。

 

 

「冗談だよね?」

 

「もちろん。私に人をペットにする趣味はないから。というかそんなことお姉ちゃんでもしてないから…………たぶん……めいびー」

 

「……」

 

 

 なんとなくその言葉の端々から疑っているような感じがするのは気のせいだと割り切り、カミラはその情報を脳からデリートした。

 

 なんとなく気まずい雰囲気になってしまったが、そんなことは関係ないとばかりに隣の部屋から怒号が聞こえる。どうやらまた一夏が箒を怒らせたようだ。大方転入してきた鈴音関連だろう。

 

 

「ねえ、ベル…………ベル?」

 

 

 呼びかけても返事がないことを疑問に思ったカミラがイサベルのほうを向くと、何やら端末の画面を眺めてニヤニヤしていた。テレビ電話なのか、向こうの声も微かに聞こえてくる。

 

 

『…………でして……』

 

「じゃあ、あとで送っといて。待ち受け画面にするから」

 

『……した…………』

 

 

 今の会話だけでは普通全く推測ができないが、カミラにはある確信があった。おそらくあの人(・・・)だろうという確信が。『待ち受け画面』などという言葉が出てくる時点で分かってしまった。

 

 

「あ、カミラ、さっき私のこと呼んでたけど何かあったの?」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

「そ。……あ、そうだ。新しい妖精ちゃんの画像見る?」

 

「今度はどんな格好させたの?」

 

 

 どこかその目線には非難めいたものが混じっているようだが、イサベルはそれに気づかない。

 

 

「これよ!」

 

 

 ずい、と差し出された端末の画面には、真っ白なドレスを着た銀色の髪の少女が写っていた。恥じらいからか少し赤くなっていっる頬がとても愛らしい。

 

 

「どうよ! ちなみにこれ、100部限定のカレンダーの表紙になる予定」

 

「言い値で買おう」

 

 

 さっきまでの非難めいた目線はどこにいったのか、欲望で目をぎらつかせるカミラ。あまりの変わりように若干引いているイサベルだったが、残酷な真実をカミラに告げる。

 

 

「完売よ」

 

 

 滅多に大声を上げないカミラが学園中に響き渡るような大声で叫ぶことになった。

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。一夏がどれだけ成長したのか直に確かめるべく、カミラと模擬戦をすることになった。観客席には、箒、セシリア、鈴音がいる。ちなみにイサベルは本音と一緒にどこかへ行ってしまったのでいない。

 

 

「準備は良いですか? 織斑さん」

 

「ああ。いつでもいいぜ」

 

 

 いつでもいいと言われたので、瞬時にアルバからレーザー砲を放つカミラ。しかし、そうなることを予測していたかのように掠りもせずに一夏は大きく右に回避する。そしてそこから一気に加速し懐への侵入を試みる。

 

 

「その程度……」

 

 

 接近されるのなら後退すればいい、とカミラは手に持ったガトリングを放ちながら後退していく。それを避けるために一夏も大きなルート変更をしなければならず、その隙に一気に距離を離されてしまう。

 

 そして、距離が開くと計4基のアルバからレーザーが放たれる。実弾よりも早いそれを避けるためには常に動き続けていなければならず、一夏は攻め手を見つけられずにいる。奥の手である瞬時加速(イグニッション・ブースト)は直線的であるため連射が可能な射撃武器相手には滅法弱い。そのことはセシリアから学んでいる。

 

 一方のカミラは射撃と並行して一夏の機動データを収集していき、それをリアルタイムでアルバの射角補正に反映していく。その証拠にアルバは一夏を掠りはじめている。これこそが『type.S』、サポートを重視した唯一のISが為せる技。このような芸当はイサベルの『type.A』では到底できない。

 

 

「クソッ、なんかどんどんダメージが増えてやがる……」

 

「ふふふ。あと少しですよ、織斑さん」

 

 

 近づくこともできずに一方的な展開となっているが、一夏の目に諦めの色は無い。その目は何かを探すように忙しなく動いている。

 

 それを不審に思うカミラだが、今までの機動データから作成した機動予測では次の一射以降躱すことはさらに難しくなるだろうことは明らかだ。そして、ほんの一瞬目を瞑ると本格的な攻勢に出た。

 

 先ほどよりも明らかに狙いが正確になったアルバは一夏の目を奪うのには十分だった。恐らく隙を探っていただろう余裕も今は完全に失せている。一夏はただ避けることに必死だった。

 

 一射目。

 

 ----躱す。

 

 二射目。

 

 ----足部に命中。

 

 三射目。

 

 ----ブレードで受ける。

 

 四射目。

 

 ----肩部に命中。

 

 次々に命中していき、シールドエネルギーを削っていくアルバの砲撃。四回の砲撃がセットになっているそれは、休む間もなく一夏に襲い掛かる。

 

 

「何か……何か無いのか!?」

 

 

 一夏はこの状況を打開するために頭をフル回転させる。必死に避けながら、その中でいくつもの作戦が浮かんでは消えていく。

 

 そして、ある言葉に思い当たった。

 

 『あ、そうそう。あの『雪片弐型』には可変機能が付いてるみたいだからよく調べといたほうがいいよ』

 

 イサベルが何気なく言ったその言葉。今はそれに懸けるしかないと考えた一夏は、必死に白式に呼びかける。

 

 

「白式! 俺に答えてくれ!!」

 

 

 その願いが通じたのか、視界に一つの情報が入ってきた。そこには『セットアップ完了』の文字が躍っていた。それを認識した瞬間、一夏は自然と使い方が分かった。まるで、()()()()()()()()かのように。

 

 

「『雪片弐型/大弓モード』」

 

 

 その真っ白な弓を見ると、不思議と一夏の中に余裕が生まれていく。今まで必死で避けていたのが嘘であるかのように白式は滑らかにアルバの砲撃を躱していく。

 

 それを見てカミラは驚いた。『雪片弐型』の変形までは特に驚きはしなかった。イサベルから零落白夜のときに変形したとは聞いていたからだ。しかし、その後の機動は一体何なのか。急に成長したわけでもあるまいし、それにこの動きは()()()()()()()()かのようなものだ。

 

 そして、あの弓を使わせてはマズイとカミラの勘は警鐘を鳴らしている。

 

 

「こうなったら、一撃で仕留める!」

 

 

 今までの波状攻撃を中断、背部にあるアルバを全て前面に移動させ、それぞれをドッキングさせていく。以前一夏の前でイサベルとの模擬戦で使った切り札。シールドエネルギーを代償としたレーザーの収束砲。全開までは僅か3秒。対する一夏も既に矢を番えていた。

 

 そして、一瞬の静寂ののち二つの攻撃は放たれた。

 

 IS2機分はあろうかという極大の砲撃に対して、一夏の放った矢は貧弱に見える。しかし----

 

 

「そんな…………」

 

 

 二つの攻撃が正面からぶつかり合う。だが、カミラの砲撃が一夏の矢を呑みこむだろうという予想に反して、矢に触れた部分から砲撃が消滅していく。

 

 

「『零落白夜』の矢!?」

 

 

 そして、カミラがその正体を掴んだのと同時、矢はカミラのISに直撃しシールドエネルギーを奪い去っていった。しかし、模擬戦の開始以来一度も攻撃を喰らっていないカミラにはまだ僅かにシールドエネルギーが残っている。追撃を掛けようと手に持ったガトリングを一夏に向ける。

 

 しかし、そこに一夏の姿は無かった。カミラのハイパーセンサーにも近づいてくる機体がないことが表示されている。

 

 

「一夏ーーーーー!!」

 

 

 観客席から箒の声が聞こえ、その視線の先を見て。

 

 

「織斑……さん?」

 

 

 一夏が地に伏しているのを見つけた。

 

 

 

 

 

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