ウォーキングデッドin Japan   作:GZL

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第14話

冬木冬馬side

俺の胸の中で泣いている弟に、俺は少なからず動揺していた。

健太は元々そんなに泣くほどの子でもないことを俺は知っていた。だけど、こんなに大泣きしている健太を見たのは初めてで、どうしたらいいか分からずにいると…今度は幼い少女が俺の方に向かって来ていた。その容姿も…俺が知らないはずがなかった。

 

「栞……」

 

妹も俺の胸の中に飛び込んで、健太と同じように号泣する。

俺の目にも熱い涙が溜まり、2人の家族をぎゅっと抱き締めた。

俺は感傷に浸ったまま、健太に父さんのことを聞いてみた。

 

「健太、父さんはどうしたんだ?」

「‼︎」

 

俺がその事を聞くとすぐに2人とも瞬時に顔を強張らせた。

その表情、態度から俺はもう察しがついてしまったが、特段悲しむことはなかった。はっきり言って…『慣れて』しまっていた。

良くないことなんだろうが、これが現実だ。

暫くの間、悲しみの沈黙が続く中で俺の肩を火浦という人が叩いた。どうやら何か話があるらしい。

 

「健太、栞。瑞穂を暫く頼む。俺は今から行かなきゃならないところがあるから…」

 

健太だけが小さく頷いた。確認した俺が背を向けた時…後ろから瑞穂の声が聞こえた。

 

「……ねえ、冬馬!」

「何だ?」

「すぐ……戻って来てね…?」

 

上目遣いで見てくる瑞穂に俺はただ「ああ」としか言えなかった。

『慣れた』と言っておきながら…結局は自らも悲しみに明け暮れているのを感じた。

 

火浦さんの案内で俺は何やら色々なものが置かれている資材庫みたいなところに到着した。俺が中に何があるのか確認すると前に火浦さんは中にいた中年の男性にこう言った。

 

「矢部さん、テント1つ、それに寝袋を2つ、お願いします」

「はい!」

「資材庫です」

「あの…中を詳しく見ても構わないですか?」

「どうぞ」

 

中はきちんと整頓されていた。日常生活に必要なものから要らなそうなものまでほぼ全てが揃っていた。これだけ資材があれば…長期間は厳しいかもしれないが、ちょっとした時間なら生き延びることが出来そうだ。

そうやってジロジロと覗いていると、火浦さんが俺が握る散弾銃をよく見てから話しかけて来た。

 

「それ、クレー射撃用のショットガンですよね?その形のモデルガンは見たことがないから……本物」

「は、はあ…。これは…もう死んだ人から授かったものです。クレー用か軍用かは分かりません。でも…詳しいですね」

「アメリカに留学した時にやったことがあるんです。ここに来て頂いて光栄です。これも…神の思し召しかも…」

 

俺はそう言われても何も言い返せなかった。言われるがまま…の状態だった。

押し黙っていると、奥から矢部さんが買い物かごにいっぱい詰めてテントや寝袋を持ってきた。

 

「はい、2人分ですね!火の取り扱いにはお気を付け下さい。ここには消火出来るものがないので」

「分かりました。………」

「ん?この時計が何か…?」

「あ、いや……。高そうな時計だなと……」

「君も欲しいのかい?ちょっと待ってて」

 

矢部さんはまた中へ入っていき、今度は箱を持ってきて俺に言った。

 

「はい、好きなのをどうぞ」

 

箱には高級時計が同じ針を進めていた。

まさかこんなにあるとは思っていなかった俺はその場に固まってしまうのだった。

 

夜…俺は藪さんと一緒にご飯を共にしていた。ご飯と言っても大したものではない。俗に言うカップラーメン系だ。それとインスタントのコーヒーを啜っていると、藪さんが話しかけてきた。

 

「冬木くん……いいんだっけ?」

「は、はい…」

「固くなりすぎよ。もしかして私のような美人さんと話すのは初めてなのかな?」

「いえ……。ちょっと、初めての人と話すのは得意じゃなくて…」

「え〜美人とは話したことあるんだ」

「美人というか……」

 

俺は視線を瑞穂が寝ているテントの方に向けた。食事を先に済ませてある瑞穂は疲れ切って眠ってしまっている。1人にしているが…問題はないだろう。

 

「あの娘…彼女?」

「彼女……なのか、まだ微妙な関係なんで…」

 

そう…身体を一度重ねただけで俺からはまだ告白も何もしていない。だから恋人か彼女かと言われても、未だに答えを導き出せなかった。

 

「でも…格好いいね…冬木くん」

「え…」

 

『格好いい』と言われて俺は思わず聞き返してしまった。

俺は格好いいことなんてこれまで何1つとしてしていないため、どこに『格好いい』要素があるのかと思ってしまった。

 

「普通の人間の心理だったら…どんなに仲が良くて、恋人が近くにいても、放って自分だけ助かろうとするのが普通なんだけどね…。だけど冬木くんは瑞穂ちゃんを見捨てずにここまで来た。それは凄いと思うよ」

「……そう、ですかね…」

 

俺は曖昧な返事をした。

そして俺はふと思ったことを藪さんに聞いてみた。

 

「そういえば、藪さんって…恋人とかいたんですか?」

「え………ぷ…あははははははは‼︎」

 

突然に笑い出した藪さんに俺はポカーンとしてしまう。

藪さん1人腹を抑えて笑い、目尻に溜まった涙を拭った。

 

「いないわよ!私は高校大学と…高嶺の花みたいなものだったから…」

「…すいません……。変なこと聞いてしまって…」

「いいのよ、もう昔の話。それでも…人は助けたかった」

「え?どういうことですか?」

 

独り言のように呟いていた藪さんをじっと見詰めていると、藪さんは俺の方を見てクスッと小さく笑って立ち上がった。

 

「高校生にはまだ早い話よ!」

 

立ち上がって藪さんは2つの建物を繋ぐ橋の手摺の外側に出て、わざとウォーカーを誘き寄せ始めた。ウォーカーは藪さんを視界に捉えると必死になって腕を伸ばし、口を大きく開ける。

そんな奴らを静かに見守りながら…藪さんは呟いた。

 

「ウォーカーは…未来も過去もなく…何も考えずにただ食欲に赴くがままに生きている。もしかしたら…そっちの方が幸せなのかもね…」

 

俺は『違う』と否定したかった。だけど、藪さんの横顔からでも分かるくらい、悲しみと後悔が滲み出していた。

俺と…同じ苦しみを持っている人だと分かった。だけど、俺は藪さんに元気付けられる言葉など思い付かず、空になったカップ麺を持って、この場を離れるのだった。

 

冬木健太side

僕は寝ずの番をしていた。

ウォーカーがいつどこから侵入してくるか分かったものじゃない。だけど今日の僕は早くこの仕事を終わらせたいと思っていた。

兄ちゃんが今日…ここにやってきた。

どうして、何故という疑問はあの時多々あったが、それよりも兄ちゃんにまた生きて会えたことが何より嬉しかった。野球の試合で危険球を受けて入院したということは分かっていた。だから…母さんが…ウォーカーにならなければ……この期間だけでも…兄ちゃんと離れ離れになることはなかったかもしれない。

そんなことを考えていると、僕の横に兄ちゃんが座った。

 

「見張りか?偉いな…」

「当たり前のことだよ。兄ちゃんだって…成瀬お姉ちゃんを連れてここに来てビックリしたよ」

「確かにここまで来るにはかなり掛かったからな…」

 

兄ちゃんはいつものように笑っていたが、どこか寂しげだった。

 

「……父さんのこと、聞きたい?」

「死に様くらいなら…知ってもいいかな…」

 

僕はすうっと息を吸って、死に様だけを伝えた。

風が突然強く吹いて兄ちゃんに聞こえたかは分からないが、その顔が僅かに歪んだ気がした。それを聞いた兄ちゃんはどうしたことか、僕の身体を抱き締めた。

 

「大変だったろ?一番上の兄である俺がいなくて…本当に悪かった。お前に栞のことまで押し付けてしまって…」

「そ、そんなこと…」

「健太…よく頑張った。もう…お前が辛さとか後悔を1人で背負う必要はないんだ…」

 

兄ちゃんはそう言って、テントの中へと戻って行った。

その姿が見えなくなった途端に僕の目からは止めどなく涙がポロポロと溢れ出してきた。

 

「な…なんで……本当に泣きたかったのは…兄ちゃんのはずなのに…。僕が…父さんも母さんも……」

 

何度となく涙を拭っても、涙は止まらない。

僕はそれほどまでに無理をしていたんだろう。

シクシクと泣いている中、兄ちゃんがこちらをずっと見守ってくれていることに、僕は気付くこともなかった。

 

冬木冬馬side

健太が泣いている姿を見て、俺は再び胸を締め付けられるような感覚に陥った。それほどまでに健太…だけでなく、栞も精神的に追い詰められていたことになる。

さっきの健太が言っていた父さんの死に様…。

聞いていただけでも、かなり辛い死に方だったと予想出来た。

 

『父さんは噛まれた後に自らの身体にガソリンを浴びせて、僕と栞の前で炎に包まれた…。兄ちゃんも見ただろ?黒焦げになった死体を…。あれが僕たちの父さんさ…』

 

一瞬だけ…嘘を付いているんじゃないかと疑ってしまった。

あの焦げた死体が父さんなのかと…。

俺はその言葉が頭の中でぐるぐる回ったままで、瑞穂が寝ているテントの中に入り、瑞穂に背中を向けて寝袋に入った。

そして数秒後、一筋の涙が流れるのだった。

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