第19話
冬木冬馬side
あの山間部にあるショッピングモールでの戦いから、早1年が経過しようとしていた。
あれから俺たちは幾度となく、生き残るために居住地を変えてきた。様々な生存者とも巡り会わせてきた。良い人もいたし、本当の悪もいた。
それでも俺たちは生きることを諦めずに、とにかく動き続けた。
そして俺たちは漸く…安住とも言えないが、誰にも虐げられず…脅されず…それなりに静かに住めそうな地域を見つけたのだ。
そこは……俺と瑞穂、栞の故郷だった。
今日も良い天気だ。
厳しい冬が終わり、だんだんと暖かくなってきた。初めて冬を越えたが、それは苦難の連続だった。水は凍ってたまに確保出来ないこともあったし、寒さで凍え死にそうになるのかとも思った。
それに冬だと食料が確保しにくいことも相まって、一時はどうなることかと思ったが、それは杞憂に終わったようだ。
俺は自分の背丈よりも大きい柵の前で大きく欠伸をする。これが普段の日課になりかけている。まあ、ウォーカーがいるときは絶対にしないことではあるが…。
現在俺たちは俺の家に居所を構えていた。
中に入った時に、母の死体がやはりなかったから、本当にアレはウォーカーと化した母だったんだと思い知った。だけどこれで怖気付いてはいられなかった。
既に家族の大半を失ってきた俺にはこれしきのことで絶望してはダメだと自分に言いつけて、行動を起こした。最初に家の中にあるものを使ったりして、家の周りを俺の背丈より2倍近く高いバリケードを築き、ウォーカーの襲撃に備えた。
それに今は地下からどうにかして出れないかと、トンネルを発掘中だ。ほとんど進んでいないが、このトンネルが出来ればウォーカーの目をかい潜って、食料や物資、武器を調達できる。
それまでは大人しくバリケードから出入りするつもりだ。
このような生活を続けて、もう10カ月が経っていた…。
俺は瑞穂を連れて、家の外に出ていた。
そして、俺たちは道路の端に置かれた車の方に歩いていく。あれは生存者が商売を営んでいるんだ。この死者が練り歩く世界で生き残るための武器や物資を交換でくれる販売業者だ。
「お、今日も来たな。調子はどうだい?」
「普通だよ、爺さん。それよりも今日の仕入れは?」
「ああ、今日はいいのがあるぜ?」
爺さんは車の中に入って、ごそごそと漁ると、取り出したのは刀剣だった。
「ほら、こんなのはどうだい?」
「いいね。こんなのどこで手に入れたんだ?」
「それは企業秘密だ。で、どうする?買うか?」
「その拳銃も欲しい。この豚肉の固まりと交換でどうだ?」
「……まあいいか、ほれ」
俺は拳銃を受け取り、瑞穂は慣れない様子で刀剣を受け取る。
爺さんはそれから「じゃあ、またな」と言って、車を走らせてどこかへと消えていく。残ったのは俺と瑞穂…そして、ちらほらと車のエンジン音に反応してやって来たウォーカーたちだけだ。
「…試してみるか…」
俺は瑞穂から刀剣を受け取り、近くに来たウォーカーの頭を横に一閃した。ずるりとウォーカーの頭の半分は滑り落ち、腐った脳が露出した。中々の斬れ味だと思った。これなら、毎日欠かさずに砥いでおけば長持ちすると思った。
だが、今のところ問題があるのは瑞穂だった。
瑞穂はこの1年間…まともに武器を扱ったことがないのだ。ナイフはもちろん拳銃も…。
こんな世界で戦えないとなると、いざって時に大変なことになる。
そこで俺は瑞穂に提案した。
「瑞穂、あの林に行こうか?」
「どうして?なんか用でもあるの?」
「銃の撃ち方を教える」
成瀬瑞穂side
林に着き、冬馬はウォーカーが近くにいないことを確認してからさっきの拳銃を渡してくれた。私は自分でも分かるくらい身体をガチガチに固くさせて拳銃を両手でしっかりと持った。
重くて、ずっしりと来た。
これが拳銃を握るということなんだと…改めて思い知った。
「瑞穂、俺も本当は拳銃の撃ち方なんて教えたくなかったんだ。だけど後々のことを考えると、瑞穂にも自分を守る力を持って欲しい。だから…2発だけ使って教える」
2発だけ……多分、銃声でウォーカーが寄ってくるから最小限に留めて置きたいのだろう。私は小さく頷いて、私から3m程離れたところに聳えている巨木に狙いを定めた。
「ウォーカーは絶対頭を潰さなきゃならない。自分よりちょっとだけ高いところを狙うんだ」
冬馬に言われた通りに自らの背より少し高めに照準を絞り、初めて拳銃の引き金を引いた。その瞬間、今まで受けたこともない衝撃が両手から両腕に流れ、私の身体を後ろに吹き飛ばした。
「きゃ…!」
悲鳴を上げて、尻餅を付く。
冬馬は焦ったような表情で私の元に駆け寄って来た。
「大丈夫か⁈」
「う、うん…。凄いね、衝撃……」
その衝撃のせいで私の手はまだ震えたままだ。
「今日はもう帰ろう。流石に銃はまだ慣れないようだし…って、どうした?」
「ごめん、撃った衝撃で腰まで抜けちゃったみたい…」
「…ったく、仕方ないやつだなあ、昔から」
苦笑いを浮かべた冬馬はふざけるように私を抱え上げて、お姫様抱っこしてきたのだ。恥ずかしくて声も上げられなかったが、今自分たちの近くにはいたとしてもウォーカーくらいしかいないから問題ないかと思い、甘えるように彼の胸に頭を預けた。
お互い微笑が漏れて、朗らかな気分になる。
冬馬が健太くんを置き、冬馬のお父さんを殺してから心を失ったのではないかと危惧していたが、それは私の気のせいだったようだ。
もちろん心配している。冬馬の心が今、きちんと機能しているのは私がいるからだと、勝手に思っている。
そうだと思い、彼を支えようと思いを固めると、不意に冬馬が足を止めた。
「…どうしたの?ウォーカー?」
「いや……誰かに見られている気が…。気のせいかな、多分」
私には何の視線も感じられなかった。
冬馬は気にせずにそのまま林を出て行く。
だが…本当はいたのだ…。音の出ないフィルムカメラを構えて、私たちの様子を盗撮していた人間が…。
そんな存在がいたのだと気付くのは、これから先のことだった…。
???side
今日はいい収穫が出来た。
車の中一杯に詰まっている武器、食料、物資を他の奴に見つからないうちに俺たちの車に乗せていく。かなり音を出しているが、問題はない。
近くにはウォーカーも生存者もいない。この場にいるのは、俺たちのグループだけだ。
そして、奪い終えたところで部下の1人がニヤニヤしながら戻ってきた。その手には写真が握られていて、その写真を見て、嫌らしい妄想を更かしているようだ。
「遅かったな、なんかいいのでも撮れたのか?」
「へい、ボス。この近くの森で若い男女が銃の撃ち方を練習しててな……その女がめっちゃ良くて…」
「ここ近くに生存者が?意外だな…」
ここは俺の故郷ではあるが、全てが始まった日に全員逃げていったと思っていたが…未だに残っている奴がいたとは…。
「これがその男女です」
そいつが見せてきた写真を見て…俺の周りの世界は一瞬固まってしまった。その写真に映る2人を知らないはずがなかった。
いつかの時…一緒に時間を共にした3人の記憶が脳裏に蘇る。
が、俺はこの男…冬馬には嫉妬心しか抱いていない。女…瑞穂をいつも独占していたからだ。
いつも……いつもいつもいつもいつもいつも2人はくっ付いて俺に見せびらかせてきた記憶が鮮明に蘇る。この写真に至っては、冬馬が瑞穂をお姫様抱っこしている。俺のものだと見せつけたいかのように…。
更なる嫉妬と憎悪が身体中に渦巻く。
「いやあ、あの女抱けたらどんなにいいこと……」
俺の心中も知らずに、暢気に話している部下に俺は拳銃で額を撃ち抜いた。
周りの奴らも俺の行動に些か驚いている。普段の俺なら、ウォーカーが来るからと拳銃なんかほとんど使わない。だけど、今は感情に流されかけている。これも全て2人……いや、冬馬のせいだ。
「絶対に…見つけてやる…冬馬、瑞穂…」
俺はこの写真をビリビリに破き、茶色のコートを翻すのだった。
???は誰かわかりますよね?
次回、恨みを抱いた彼が冬馬に会います。