冬木冬馬side
俺は現在茫然と立ち尽くしていた。
ついこの間まで無事に腐らず…廃れずに建っていたはずの我が家は昨日の謎の火災で黒焦げとなり、焼け落ちていた。誰がこんなことをしたのか…考えなくても俺には分かった。
恐らく浩二が俺の居場所を無くすためにやったことだろう。
孝と宮本も俺の家の焼け跡の中に入って、俺が言う藪さんと栞を探して貰っているが、何も見つからないのかぐるぐると同じところを何度も歩き回っている。
「本当に…ここにいたの?」
「ああ…。だけど、この感じからすると二人は逃げたようだな…」
「どうして分かるの?」
「死んでるなら黒焦げの死体があるだろ?それがない」
そう…茫然としてはいたが、明らかに死体はなかった。燃え盛る実家の中を逃げて行ったのが俺の頭の中で想像するだけでどれだけ大変だったことかと思うと、俺がその場にいなかったのが悔やまれる。
それにしても…派手にやったもんだ。完全に焼け落ちた後なのに、未だに灯油の臭いが辺りに漂っていて気分も悪くなりそうだった。
「…早く行こう。ウォーカーも臭いに反応してる」
孝がそう言ってここから離れるように促してきた。
俺はここから離れる前に、木炭の山の中に埋もれていた1つの写真立てを拾った。そこにはまだ仲が良かった時の両親と健太、それにまだ赤ん坊だった栞の家族写真が入っていた。
写真立てはもう焦げているため、俺はそこから写真だけ取ってポケットに突っ込んだ。
もう……ここに戻ることはないだろう。
俺は無き我が家から目を逸らし、二度と後ろを振り向くことはなかった。
俺たちはそれから住宅街の中をただ歩いていた。孝が先頭だが、まさか闇雲に歩いているんじゃないかと思い、彼に聞いてみる。
「どこに向かってんだ?」
「高城の家だ。まだ生きてるかもしれないから」
「高城?」
「あそこよ、冬木くん」
宮本が指差す先には小高い丘か山の上に建つ立派な豪邸が見えた。
一応近所ではあるから、誰が住んでいるのかと思ったが、この2人の知り合いだったとは…。だけど…。
「どうしてあの家が安全だって保証出来るんだ?」
「あの豪邸を中心に周りの家を見てみろよ」
孝に言われた通りに見ているが、おかしな点に気付いた。
どこも襲われた形跡がない。
「どういうことだ?」
「多分……高城のお父さんがやったことだろうな…。家の中にウォーカーを入れない為にその周りの地区を丸ごと自分たちの領土にしたんだ」
「どんな父親だよ…」
「俺は高城とは小学校の時に知り合ったけど…あいつのお父さん…ヤクザかなんかみたいだったな…」
「ヤクザの子?行っても大丈夫か、不安だぜ…」
「そこに関しては、俺も同意見だよ…」
俺と孝は溜め息を吐いた。すると、後ろから宮本が俺たちの頭を指で小突いた。
「マイナスなことばかり考えないで!もっと未来ある話をして!」
「……と言ってもなあ」
そんなプラス面の話をこの世界で出来るのだろうか?
俺にはそんなこと分かるはずもない。
今俺たちが出来ることは1つだけだ。とにかく…前に進むだけだ。
???side
僕は今日も高城さんのお父さんから託されたライフル『AR-10』の調整をして、ベランダ…じゃないな、屋上というか物見やぐらみたいな場所からこの豪邸の周りを監視する。
一応、高城さんのお父さんが一部の道路は封鎖していて、ウォーカーが入ってくることはないと思っている人も中にはいるが、万が一の時に備えて、僕がやらなくてはならない。
この1年間、高城さんのお父さんやその部下に信用されるために何でもしてきたと自分は思っている。ここで見せ場を作れなくてどうする!って感じで今日も見張るけど、やはりウォーカーはいない。
いなくていいんだけど、退屈なのがなあ…。
たまには別の場所を見るかと思い、少し遠目を見てみる。
やはりワイヤーで張られた場所にはウォーカーがたくさん溜まっている。
多分、ワイヤーがウォーカーの身体に当たって、その軋む音でどんどん集めって来るんだろうなあ…。
けどこの調子だと、いずれここから出ないといけないいざって時に、脱出できない気もする。
そんなマイナスなことばかり考えていると、ワイヤーが張られた道路にいるウォーカーの反応が突如変わった。
今まではワイヤーの先の道路ばかりを見ていたのに、急に身体を反転させてそっぽを向いた。
そこの方向に『AR-10』のスコープを向けると、三人の男女がウォーカーの相手をしているのが映った。その三人のうち、二人の顔の面影を見て…一瞬言葉に詰まった。
「あれ……は…」
誰がなんと言おうと、あの二人は小室くんと宮本さんだ!
僕は重たい身体を必死に動かして、高城さんたちに伝えようと急ぐ。途中で階段のどこかで躓いて転げ落ちてしまい、頭がくらくらする。すると、目前から呆れたような声が聞こえてくる。
「何やってんのよ、でぶちん…」
「あ!高城さん!大変なんですよ!」
「どうしたってのよ……」
「こ、ここここここ小室くんたちが……」
高城さんの表情は僕の言葉に反応して、いつも以上に喜びに満ち溢れていくのだった。
冬木冬馬side
俺たちはとんだところに入り込んでしまったようだ。
孝たちが言う高城とかいう女の家に向かうと言ったのだが、そこに向かう途中にはまるで罠が張り巡らされたかのように大量のウォーカーがいたるところにいるのだ。そして、とある道の一角に入ったら、そこの道路の先はワイヤーで通行止めされていて、通れなくなっていた。
「くそ!ここもかよ!」
「二人とも‼戻るわよ‼」
宮本がそう言うが、散々に引き寄せてしまっていたウォーカーによって、帰り道を完全に塞がれてしまった。
「……これはやばいやつ?」
「言わなくても分かるでしょ!」
宮本は持っている長い棒を構える。小室もやるようで、ぼこぼこになった金属バットを構える。
俺はというと…ああいう近接戦はしたことがほとんどないので拳銃を持つのだが、こういう大量にいるウォーカー相手に銃弾を使うのも嫌だったため、ここは二人に任せてもいいのでは…と、思ってしまった。
本当はいけないのに…あの時、瑞穗を助けられなかった無力感が未だに記憶の中に残っていて、どうせ俺には何も出来ないんだと思い込みが発生していた。二人は果敢に目の前の敵を殺していく。
その間、俺も後方のワイヤーに群がっていたウォーカーに拳銃を向けるが、ちっとも指は動かない。俺の反応が遅れ、ウォーカー数体が俺に襲いかかろうとしたところ、その首はいつの間にか飛んでいた。太陽にキラリと反射して光る日本刀と紫色に染めた髪が俺の目に飛び込んできた。
その人物を見た孝は表情を綻ばせて叫んだ。
「毒島先輩…!」
「久しぶりだな…小室くん」
更に遠くから銃声が響いたと思えば、ワイヤー側にいるウォーカーの頭に小さな風穴が空いた。
「今のは⁈」
「太った我らの仲間…と言えば分かるだろう?」
「平野か!」
「小室くんにそこの男!早くこの中に!」
俺はあの毒島と呼ばれる女に言われるがまま、ワイヤーの間を通り抜けて安全地帯へと入った。
そして、その先には偉そうに腰に手を当てて、俺と孝を睨んでいる女が立っていた。ピンク色の髪、ツインテール…。
「高城!」
「久しぶりね!小室。元気にしてた?」
目の前で再会を喜ぶ4人。
俺も……浩二と会った時…こんな感じが良かったと思いつつ、彼らから背を向けて微かに涙を零すのだった。
梶浩二side
久しぶりに銃声が俺の潜む町に響いた。あの銃声は…豪邸のある方面から聞こえてきた。潜り込んでいるスパイによると、新たに生存者がやって来たらしい。
若い男2人に女1人…。
恐らく、冬馬だろう。やはり生きていたんだ。
だが…奴があの高城の家に行ってくれたのはラッキーだった。
あそこと俺のグループはずっと対立していて、半年近く冷戦みたいな状況だ。なら…冬馬の奴を消すと同時に高城のグループもまとめて…殺すとしよう。