冬木冬馬side
朝…1年ぶりの柔らかなベッドの上で心地よく目覚めた。髪からも身体からも嫌な臭いも消え、全てが充実していた。お隣で酷いくらいに寝相の悪い孝と平野コータも実に気持ち良さそうだ。
昨日…平野とあの紫色の髪の女性……毒島さんって言ってたっけ?あの2人が救援に来てくれなければ俺たちは死んでいただろう。
それにしても……
「この家はどんだけ広いんだ…」
初めて見た時からそれなりに大きい豪邸だと思っていたが、実際に見たら想像以上の大きさで驚いてしまた。それに…俺たちは仮にも外から来たよそ者だ。簡単に入れてくれるとは思ってなかった。
だが、ピンク色の髪で眼鏡をした、見たまんま博識そうな女…あれが孝の言う高城という同級生らしいが、彼女の友達…友人…言い方は何でもいいが、それだけですんなりと豪邸に招き入れてくれた。
それからたくさん飯を喰らい、温かいシャワーを浴びた。嬉しすぎて泣きそうになる瞬間もあったが、俺は泊まらせて貰っている側だ。泣いてなんかいられない。
ここにいる人たちのためにもしっかり頑張らないといけない。
俺はいつまでもベッドで横にはならず、真新しい服に着替えて部屋の外に出た。臙脂色の長い廊下、数m間隔である窓、そして未だに電気が付いている綺麗で小さなシャンデリアみたいな明かり。
何もかもが俺の予想の斜め上を行っていた。
すると、近くから物凄い怒鳴り声が響いてきた。
「分かったわよ‼︎全てママが正しいわよっ‼︎」
この声は……高城だろうか?母親と喧嘩か…。俺も昔はしたもんだ。
そう思っていると、バンと後ろの扉が開き、涙目の高城が憤怒の表情で出てきた。
「朝っぱらから喧嘩か?」
「うるさいわねっ‼︎私がどうしようと勝手でしょ⁈」
…相当お怒りなようだ。プイと俺から顔を背けて、離れていこうとする高城に俺は言った。
「助けてくれてありがとう。関係ない俺まで…」
高城の足がほんの一瞬止まったが、俺に何か言うこともなく、さっさと階段を降りていってしまった。
はぁと溜め息を吐くと、不意に後ろに人の気配を感じた。
素早く反応して向いてみると、そこには驚いた…と言うより少し怖がった表情の宮本がいた。
「なんだ、宮本か。驚かすなよ…」
「驚かせたのはそっちでしょ⁈怖い顔で私を睨んだくせに!」
宮本はそう反論すると、外に出ている高城を見て心配そうな表情を作った。
「…いつもあんな感じなのか?高城ってのは」
「まあ…そうかな?何でも完璧に進まないと嫌な性格なの」
「この世界で完璧を維持し続けるのは難しいと思うがな…。それにも気付かないんじゃ、バカかもな」
「…うん。バカだよ、高城さんは…。もうちょっと…自分を誇示しなくていいのに…」
そう言って、宮本も階段を降りていった。
高城は完璧主義者…か…。
面倒な女の家に泊まってしまったなと思った。
それから俺も下の階に降りていくと、ガレージの中に一人夢中で銃火器を弄る平野の姿が見えた。
太っていてメガネ。そしてあの銃に対する好奇心…。
恐らく相当な拳銃マニアなんだろう。以前の世界なら、嫌な目で見られていただろうが、現在ならそういうオタク的な知識がよっぽど生き残るのに必要になるだろうなるだろう。
俺には…何にもないけどな…。
「おっ!冬木くんじゃん!」
「お前…起きたんだ?俺が起きた時、孝と一緒に仲良く寝てたろ」
「ついさっきだよ!それで銃の点検をするのが毎日の日課なんだ♪」
ガチオタク…確定。
「それで……どうして高校生がそんな難しい銃を簡単に使えるんだ?まさか、ヤクザにでもいたのか?」
「まさか!僕は本当に銃が好きなだけだよ。まあ、アメリカで実銃を撃ったことはあるけどね」
「なるほどね…。だからあんなに撃てるのか…」
平野は孝たちが欲する理由がよく分かる。
日本で拳銃を使えるのは警官自衛隊、それにヤクザなどだ。数はそんなに多くない。俺も使えなくないが、一般人なら使えないのが普通だろう。
俺は腰にある銃を取って、それを平野に見せた。
「こいつも点検してくれないか?いざって時に使えないと困るからな」
「任せといて!」
平野はまた楽しそうに銃を弄り始めた。
すると、ガラガラガラとガレージのシャッターが開き、そこには腰に手を当てた高城が立っていた。
「あっ!高城さん!」
「…………」
「…………」
俺と高城は暫くお互いに見詰めていたが、すぐに高城が要件を話し出した。
「今後のことを話し合いたい。小室の部屋に来て‼︎」
「え〜〜…。今冬木くんの銃を点検中……ブホッ‼︎」
平野がまだ話してるのに、高城の拳が平野の顔面を直撃した。
あれは痛そうだ……。食らったのが俺じゃなくて良かった。
「黙ってなさい、デブチン!それに銃なんていつでも弄れるでしょ⁈いいから早く来る!…あんたも!」
「…だろうと思ったよ。平野、行くぞ…」
「高城さ〜ん……。酷いよお〜」
それから高城平野と共に孝の部屋に入った。中には既に孝の他に宮本、それに優美な着物を着た毒島さんがいた。
「高城、何だよ話って…」
「簡単な話よ。私たちは今、私の家でのんびりくつろいでいるけど、いずれは出ていくつもり…だったわよね?」
「あ、ああ…」
「今私たちは大きな局面を迎えている!」
高城はベランダへと繋がる窓を開けて、全員に言った。
「この集団に飲み込まれるか……ここで別れるか!」
「別れるって…⁈高城さん何を…⁈」
「彼女の言う通りだ。今私たちは互いの目的がそれぞれ異なっている」
「……でも、別れるのは…!」
高城はベランダに出て、外の景色を見せた。
「この地獄みたいな世界で生き残るには重要なのよ!小室は知らないだろうけど、パパは……私が死んだことを前提でこの設備を作ったのよ!流石……パパもママも天才よ‼︎」
…そういうことか……。
高城が言いたいことは大体分かった。
下らないな…。
「しょうもないな、お前」
「何ですって⁈」
俺の言葉に高城は鋭敏に反応した。ズカズカと足音を大きく鳴らして、俺の方に歩み寄ってくる。
俺も彼女に対抗しようと目の前に立ち塞がった。
「何て言ったのかもう一回言ってみなよ‼︎」
「しょうもないって言ったんだよ」
「何がよ!あんたに何が分かるのよ⁈私の気持ちをあんたが分かるはずが……!」
「ああ分からねえよ‼︎」
俺は思わずギャンギャン喚く高城の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「親に見捨てられたかもしれない気持ちなんて分かるわけねえよ‼︎だがなあ……俺はそれはまだマシだ!俺は……俺なんか……」
そう言いながら自らが父親にしたことを思い出してしまう。
黒焦げとなった父親の頭を……潰した感触は一生涯忘れないだろう。
「……なんにせよ…高城の方が俺よりマシだ…。それと…怒鳴って悪かった」
「………私こそ…イライラしぱなしで、」
その時…一発の銃声が轟き、俺の方を掠めた。
ベランダに出る窓ガラスを割り、俺の後ろの壁に銃弾がめり込んだ。
「今のは⁈」
すぐさま俺たちは身を屈めて、敵の攻撃を受けないようにした。外からはヤクザたちの慌てる声がたくさん聞こえてきた。
俺も狙撃を受けないであろうくらいに身体を屈めながら、ベランダから様子を窺う。すると今度はガラス瓶が割れる音と焦げた臭いが部屋に入ってきた。
「あいつらね!」
俺の隣に高城が来て、そう言った。
「あいつらって?」
「梶浩二のグループよ‼︎」
その名前を聞いた瞬間、俺の身体は一気に強張った。
「どうしたの?顔色が……」
「奴は…」
俺は無意識のうちに再び高城の胸ぐらを掴んで立たせて、さっきよりも何倍も怒りと恨みを込めて叫んだ。
「浩二はこの近くにいんのか⁈‼︎」
「あ……え……」
俺の剣幕に高城はちっともついて来れていない。だがそんなのは今の俺からしたら関係なかった。浩二がこの近くにいるのか……ただそれだけを知りたかった。
「どうなんだよ‼︎」
「冬馬!落ち着け!」
「早く教えろ‼︎浩二の居場所を‼︎」
俺はもう自分を抑えられていなかった。
俺が落ち着きを取り戻すには…何時間と時間がかかるのだった。
梶浩二side
予想通り…冬馬はあの忌々しい豪邸の中にいた。
暢気にしているかと思ったら、ウザい女と喧嘩でもしてたのか、胸ぐらを掴んで何か叫んでいた。その瞬間を狙って、俺はライフルの引き金を引いたが、弾はほんの少し左に逸れて外れた。
殺しそびれたのは残念だが、これでもう1つの手が使える。
あの豪邸にいる奴らは元々俺としたら、邪魔でしかない。
それなら……奴らごと、いや…豪邸ごと潰してしまえばいい。
俺は新たな作戦を考えつきながらも、瑞穂の部屋に入る。
だが…そこには瑞穂はいなくて、俺の部下の死体が転がっているだけだった。
「瑞穂……!」
瑞穂がどこに行ったか、誰も分からない。
次回、二人が再び邂逅…。
そして瑞穂がどこに消えたのか…。