梶浩二が来る数十分前…
成瀬瑞穂side
私は漸く分かった。
梶くんと冬馬の仲が引き千切られた原因が…私だってことに…。
気づくのに遅すぎた。私が少しでもこの事を理解していたなら…あんな悲劇は起きなかった。今更悔やんでも悔やみきれない程の後悔が私を襲う。
そして私が必死に考えて導き出した答えが…彼らの前から消えることだった。これ以上2人が僻みあってお互いを傷つけあう光景なんか見たくなかった。
私はまず格子を叩いて、私を見張る男を呼び出した。
「なんだ?」
「トイレ……」
男は「またか」と呟いて、不用意に部屋の扉を開けて背を向けた。
その瞬間を狙っていた。いつもご飯と共に運ばれてくるフォークを掴むと、それで男の首に思いっきり突き刺した。刺した途端に首からは血がブシャァと噴水のように噴き出て、私の髪や肌、服を朱に染めた。男は苦しそうに悲鳴を上げたが、それはまともな声にはなっておらずただか細い声だけになっていた。
荒い息のまま私は男が持っている銃や刃物を持って部屋の外に出た。今この建物には誰もいないのか静まり返っていた。私からしたら好都合で、さっさとここから出て行った。
後ろから一発の銃声が聞こえたが、それは気にせず…私は梶くんにまた捕まらないようにひたすら走った。
宛先なんてない。仲間もいない。
信じれるのは己自身だけだった。
そして…私は最後にもう死んでしまっているだろう亡き冬馬に向けて呟くのだった。
「さよなら…冬馬……。私…冬馬の分もきちんと生き抜くからね…」
今日で冬馬を想って流す涙は最後だ。
今日泣いたら…もう絶対泣かない。それだけ誓って…私は果てしなく広がる無限の世界へと一歩…足を踏み出すのだった。
現在
梶浩二side
俺はこの惨状を見てあらゆる思考が停止した。
瑞穂がいない…。逃げたのだ。誰よりも…冬馬より何倍も何百倍も瑞穂のことを分かっていて、愛している瑞穂が俺の目の前から…消えたんだ。
俺の下で倒れている部下の死体…ピクッと身体が動いたかと思えば、大きな奇声を上げて俺に襲いかかって来た。奴の歯が俺の足に食い込む前に俺は奴の頭をグシャリと潰した。潰れた肉と脳、頭蓋骨の破片が頭の中から出てくる。
瑞穂を失った喪失感と共に、楽しみが無くなったということから胸の中に迸(ほとばし)るくらいの怒りが湧き上がって来た。
「冬馬………全ては…冬馬のせいだ…」
ブツブツと無意識のうちに冬馬のせいだと呟く俺の前に1人の部下が焦ったような声でこの場に入ってきた。
「ボス!大変です‼︎」
「……なんだ?」
「っ…⁈」
こいつも今の俺の怒りようがよく分かるらしい。
だが長く待たれる方が俺は嫌いだ。
「さっさと言え‼︎」
「はい!ボス、奴が…あの時ボコったはずの男が俺らのアジトに一人で来ました!何やら交渉したいだとか…」
「何?」
冬馬が単独でここに来た?
何かの罠だろうか?いや違う。今冬馬はまず瑞穂を助け出したくて堪らないはずだ。
…どんな話であろうと、聞いてみた方が早いだろう。
「部屋に通せ」
さあ、冬馬…どんな話をするか楽しみだ。
冬木冬馬side
俺は自ら敵の懐に入った。
あの狙撃、火炎瓶の事件の後、俺自らが志願して浩二たちの盗賊団との交渉の名乗りを上げた。実際、あの豪邸にいる人たちを生かしてやりたいと思ったし、何より…今度こそ浩二ときちんとした話が出来ると思った。
瑞穂の状況も聞きたいし、今回以上に浩二と話せる機会はないと思う。俺はまず撃たれること覚悟で、単独、浩二たちが根城にしているという建物に入った。銃を突きつけてきた奴らに最初にこう叫んだ。
「俺はお前らのボスと話をしに来た!武器は何も持ってない」
最初はやはり俺が来てかなり警戒していた。だがすぐに身体検査を行われて、とある部屋に通された。そこは木製の古ぼけた机が1つと椅子が2つあるだけで、窓も何もなかった。
俺の脳に一瞬、このまま監禁されるのでは?と、冷や汗をかく時間もあったが、それは杞憂に終わった。
数分後、2つある扉のもう片方から茶色のコートを着た浩二が現れた。つい最近会った時と、何一つ変わっていなかった。
「また会うとはな…冬馬…」
「俺はもう一度だけ会いたかったよ。じっくり話が出来るまでな…」
「そうかい…。で?話って何だ?まさか瑞穂のことだけを話しに来たんじゃないんだろ?」
どうやらお見通しってわけか。それなら話は早い。
「まず1つ目、あの狙撃はお前だな?」
「ご明察。まあ銃身がちょっと曲がってたみたいだったから、外したけどな」
「……2つ目、どうして高城の家を何度も襲う?」
「俺だって無闇やたらと食料や武器を奪うわけじゃない。だが、この地帯を完全に支配出来れば、そんな盗む必要もなくなる。そのためにはあのバカデカイ豪邸に消えてもらう必要があるんだよ」
なるほど…浩二の狙いはそこにあるのか…。それなら…。
「これは俺の提案だが…今すぐ高城の家の襲撃をやめてほしい」
「理由によるね」
「単純な話だ。高城の家もお前の隠れ家であるここも食料や物資の数は限られている。だが、お前がいちいち攻撃を仕掛けてみろ。一体どれだけの武器を消費する?そんな状態が長期間の及んでみろ。お互いに共倒れで、浩二の理想は全て泡と消える。で…そこでなんだが、高城の領域とお前の領域が接しているエリア…そこはどっちでもないってことにしたらどうだ?」
「…詳しく話せ」
浩二がここで興味を引いたらしく、上体を前のめりにして聞いてきた。俺は続けた。
「歴史でもそうだが、人間はいつもたくさんの土地が欲しくて争いを起こしてきた。この状態…正に今の俺たちだ。それなら南極のようにどこの国でもないエリアを作ればいい。そこを後に高城と決めればいい。これは俺が決めるようなもんじゃないからな…。どうだ?」
浩二はかなり真剣に考えている。
暫く考えた後に浩二は手を出して、こう言った。
「乗ったぜ」
俺は軽く笑みを溢してから握手する。
「最後だ。瑞穂は元気か?」
「……ああ、元気だよ。俺がいつも『可愛がってる』からな…」
「‼︎」
その言葉を聞いた時、俺は今すぐこいつを殴り殺そうと思って、掌が出血するほど強く握って拳を作ったが、諦めて落ち着いていく。
「…そうかよ…。これで話は終わりだ」
「久々にお前と話せて嬉しかったよ」
それは本音か?と聴きたくなったが、敢えて飲み込んだ。部屋の扉を開け、出ようとしたところで俺は浩二に向けてこう言った
「いつか……必ず瑞穂を取り戻す…。それだけは覚えておけ…」
浩二からの返事はなかった。
浩二たちのアジトを出て、俺はもう分かっていた。
奴らは……すぐに俺たちを殺しに襲撃するはずだと…俺は確信を持っていたのだった。
梶浩二side
冬馬が去って、五分くらい経過した頃だろうか…。最初は殺したい衝動を抑えていたが、奴の話のペースに引きずり込まれて……『あいつとの話が楽しい』と感じてしまったもう1人の自分がいた。
それが腹立たしくて…俺は机をひっくり返し、椅子をぶん投げて破壊した。
「あの野郎…‼︎」
そもそも俺は乗ったと言ったが、あれは今の俺ではなかった。
『昔』の俺だった。
もう我慢の限界だった。
「おい‼︎」
俺の怒鳴り声を聞いた部下はすぐに部屋の中に入ってきた。
「明日、高城の家を潰す!そのために“アイツら”を用意しておけ!」
「餌は誰にするんです?」
「そうだな…。1番使えなさそうな奴をお前が決めろ」
「へっ、そいつは有難いぜ…。残酷ですね〜ボスも。奴らを放ったら絶対に生きれませんよ?」
「問題ない。俺の目的は全てを殺し尽くすことだ」
「了解」
部下たちはすぐに準備に取り掛かっていった。
俺は椅子に床に背中を預け、そのままズルズルと地面に座っていく。
これで…悲願である冬馬を一生この世から葬り去れる…。
そう考えると、笑いが止まらなかった。
「くくくく……あーっはっはっはっはっはっは‼︎」
だが、俺は気付いてなかった。
高笑いすると同時に…涙を流しているということに…。
次回、Second Season終了。