ウォーキングデッドin Japan   作:GZL

26 / 33
恐らくSecond Seasonこれにて終了


第26話

冬木冬馬side

浩二とこれからのことを話した。高城と新たな争いを起こさないために自分が出来ることを全力でやった。俺なりにも奴にアピール出来たと思うし、あとは浩二が本当に俺の言ったことをやってくれるかどうかだ。

何せ今の浩二は完全な殺人鬼だ。自分のものにするためなら何でもする。たとえそれが殺人だとしてもだ。

あの後、無事に高木邸へ戻れた俺だが、久しぶりに真剣に考えて話し合ったからか、すぐに疲れて眠ってしまった。

その日…俺は夢を見た。

廃れた町の中で俺が浩二を押し倒し、左手に持つナイフがキラリと光った。その刃先を浩二の喉元に向け、振り下ろす俺。理性では止めろと言っているのに、身体はちっとも言うことを聞かない。

スローモーションでナイフは浩二の喉へと落ちていき、あとほんの数cmでナイフの刃先が突き刺さるかと思われたところで…その夢は終わった。

ベッドから勢いよく飛び出し、汗びっしょりの俺は荒く息を吐いた。

 

「なんだ…今の……」

 

暫く考えたが、ただの夢だろうと思い込ませて、気分を変えるために窓を開けて外の空気と入れ換えた。涼しい風が入ってきて、心地良かった。だが、その風に乗って…酷い臭いも入って来ていた。

 

「ん?なんだ…この腐った臭いは……」

 

ウォーカーは人間の死体だから、肉も脳も腐るから、腐敗臭がしてもおかしくはない。だが、この臭いはかなり強烈だ。

このレベルだと、ウォーカーが何百体といないとここまでは臭って来ないはず…。

そこで俺は…窓からの景色に大きく目を見開いた。

正に地獄の光景そのものだった。

俺の眼下に広がっているのは…高城の家の門へと真っ直ぐに進んでくる……数千体超のウォーカーの軍団だった。

俺はすぐさま、服を着替えて装備を身に付けると、廊下に出て大声で叫んだ。

 

「みんな起きろ‼︎ウォーカーだ‼︎ウォーカーの大群だぁ‼︎」

 

俺の声に起きた奴らも続々と起きて正門へと急ぐ。

門に着いた時には既に高城のお父さんとお母さんが立っていた。

 

「パパ!ママ!早く家の中に‼︎」

「馬鹿者!家に入ってもいずれこの門は破られる!それならば…ここで迎え撃つ!」

 

高城のお父さんがそう言うと、急に高城のお母さんは服を破いて動きやすいようにすると、至る所に付けていた銃火器を掴んだ。

その色気に一瞬惑わされそうになった。

 

「ほら、沙耶ちゃん」

「それって⁈ルガーP08…」

 

物欲しそうに涎を垂らして言う平野に高城は肘で彼の腹を突いた。

 

「渡されてもっ……つ、使い方が分からないわよ!」

「そこのところは平野くんがお願い出来る?」

「はい!はい‼︎はーーーい‼︎」

 

元気な奴だと思いながらも、俺はこの大量のウォーカーの襲撃が誰かに仕組まれたものだと思えてならなかった。そうでなきゃウォーカーがこんなに一斉に高城の家にやって来るはずがない。

その時、俺の脳裏に“あいつ”の薄笑いを浮かべた表情が思い浮かんだ。

 

「浩二か…!」

「だと最初から分かっていたわよ。あのチンピラが私たちを生かすはずがないわ」

「でもどうするの?このままじゃあの門も突破され……って冬木くん⁈」

 

俺は自分の意志とは別に足が動いていた。

俺の足はバイクが置かれているところに向かっていき、さっさとエンジンをかけて、すぐにでも行こうとしたら、誰かに肩を掴まれた。

振り返ると、そこには高城のお父さんが立っていた。

突っ込むのを止めようとしてるのかと思い、口を開きかけた時…彼はこう言った。

 

「行って来るがいい!それがお前の意志なら!そして、愛すべき者を助け、忌むべき相手を倒してこい‼︎」

 

俺は言葉が出なかった。ここまではっきり言われたのは初めてで、どう返事したらいいか分からなかったんだ。俺は少しだけ考えてから、言った。

 

「…ありがとうございます。迷惑ばかりかけてすみません…」

「気にするな。早く行けい‼︎」

 

俺は頷き、バイクのアクセルをフルに踏んだ。その瞬間、この家をずっと守ってきた鉄門が崩れ落ち、大量のウォーカーが雪崩れ込んできた。

俺はそれでも速度を緩めることなく、颯爽とウォーカーの垣根の中を通過していった。後ろからは孝や宮本が叫んでいた。文句かと思っていたが、全く内容は違っていた。

 

「おい!絶対に生きて戻って来いよ‼︎」

「大切な人を救って、クズ野郎をぶっ飛ばすのよ‼︎」

 

俺を励ましてくれる言葉に涙を流しかけるが、俺はそれを堪えた。

泣くのは浩二をぶっ飛ばして、瑞穂を救ってからだ。

俺はそう…思っていた。だが、現実は…非情だということを…すぐこの後思い知らされるのだった。

 

梶浩二side

俺はどこか釈然としてなかった。今日、俺の部下で1番使えなさそうな奴を殺して、その内臓を抉り取って道路に順々に並べてウォーカーを誘き寄せて、高城の家…そして、冬馬を抹殺する作戦を考えた。

なのに…俺は冬馬がこれから死ぬことがどこかで『嫌だ』と、感じていた。1年ぶりに会った時も…ライフルで頭を撃ち抜こうとした時も…そのような想いは全くなかったのに、どうして……と思っていた。

だが、今更考えても仕方ない。どのみち冬馬たちは死ぬ。

この町周辺にいるウォーカーをほとんど誘き寄せたんだ。数で言うなら大体万単位だ。生きていられるはずがない。

そう…思ってた。

その時、外から仲間の大きな声がしたかと思えば、銃声と悲鳴が鳴り響き、俺の部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「ボス‼︎奴が…!奴がまた……があっ!」

 

俺の部屋に来た奴は腹を撃ち抜かれて絶命した。俺は拳銃を掴んで、別の出入り口から部屋を出た。

襲撃者から逃れようと建物の上へと向かう。『奴』…。

まさか…冬馬なのかと思ったが、そんなはずないと頭の中で自分勝手に言い訳して、非常階段を登っていく。カンカンと俺が鳴らす足音の合間に銃弾が俺のすぐ横で当たる。

 

「っ!くそっ!」

 

俺も応戦して銃を撃つ。撃った時でも襲撃者の顔は見えなかった。

本当に誰なんだ⁈

そう思いながら必死に階段を登り終え、屋上に辿り着いた時、一発の銃弾が俺の足を掠めた。

 

「あっ‼︎」

 

俺は走れなくなり、地面に倒れた。仰向けの状態で、漸く襲撃者の顔を拝めることが出来た。その者を見て…俺は驚愕した。

 

「と、冬馬…!」

「はあ…はあ…。やってくれたな……浩二‼︎」

 

冬馬は拳銃を投げ捨てて、俺の方に近寄ると胸ぐらを掴んで地面に後頭部を叩きつけた。

 

「ぐあっ‼︎」

「テメエ…俺との約束を早速破ったな‼︎どうして……どうしてお前は…お前は、そんなに俺が憎いか⁈」

 

憎い…と言ってやりたかったが、それはもう昔のことのような気がしてならなかった。俺だって、本当は、お前との仲を取り戻したい。

だが俺はもう…戻れないところにまで来てしまった。

 

「浩二は…瑞穂っていう望みを手に入れただろ‼︎」

「……いねえよ…」

「…え?」

「瑞穂はもうここにはいねえんだよ‼︎」

 

冬馬…悪い……。俺はもう戻れないんだ…。

だから…俺なりの償いを…させてくれ…。

 

「お前が生きてるから…瑞穂は逃げ出してしまったんだよ‼︎何が好きだ愛してるだ‼︎お前は結局…誰も守れはしないんだよ‼︎」

 

その時、冬馬の口調が変わった。

 

「黙れ……」

 

そう言って、腰からナイフを抜く。

 

「俺は……」

 

冬馬……。

 

「お前が、憎い…」

 

そう言って、ナイフの刃は俺の腹を貫くのだった。

 

小室孝side

俺らは焼け落ちていく高城の家を見ながらも、松野さんが運転する車の中に乗っていた。あそこではたくさんの犠牲があった。

まず…高城の両親…。最後まで残ると言って、そのまま残してしまった。他にもいる。

麗…。俺を庇って、ウォーカーに噛まれて高城の両親と共に残った。昔からずっと居た麗を失ったのは、とても大きい。

隣では高城がずっと顔を俯かせたままだ。

この重苦しい車内で俺は冬馬がどうなったか気になった。

敵となった親友と…ケリをつけられただろうか…。

その答えは…今は分からない。

 

冬木冬馬side

肉を裂き、抉る感触が左手から伝わってきた。

俺の眼下では浩二が苦しそうに呻いている。

自分でも何をしたのか…よく分かっていない。足元に溜まっていく血…血塗れのナイフを握った俺…。

そうか…。俺が刺したんだ…。

浩二は苦しそうに俺を見ながらも、弁明の言葉を俺に言った。

 

「悪い……冬馬…。本当は…ただ、羨ましかっただけなんだ…。だけ、ど、俺は……いつしか、嫉妬から怨念へと変わって…あんなことしてしまったんだ…。今更許してくれる……なん、て…思って、ない…。でも…これだけ……言わせてくれ……」

 

浩二の焦点が無くなっていく…。

俺は涙をポロポロ落としながら、次の言葉を待つ。

 

「俺は……ずっと、お前の、親友………だ……」

 

パタン……と、浩二の右腕が力なく地面に落ちた。

俺は血に染まった手を見て、身体を震えさせた。

激しい後悔についていけなくて、俺は絶叫した。

 

「あ…あ……ああ、あああああああああああああああ‼︎」

 

涙も止めどなく溢れ、ただ叫び続けた。

自分自身で親友を殺してしまった後悔の念が…俺の何かを変えてしまった。

ずっと先に見える高城の家は燃えており、そこから脱出する車も見える。行こうと思えば行けるが、俺は行こうとは思わなかった。

投げ捨てた拳銃を取り、血塗れのナイフを浩二の身体から抜いて、乗り込んできたバイクに再び乗った。

孝たちとは別の方向に向かう。

俺はこれからどこに向かうのか…。

それすらも…俺には分からなかった。




次回予告 Third Season
親友だった浩二を殺してしまった後悔から、冬馬は3年間、1人で生き続けていた。
だが、三年越しに生存者をまとめるリーダーとなっていた瑞穂と再会し、心の中で疼く冬馬。
だが、あることが発端で冬馬と瑞穂は戦うことに…。
生き残るためと言い聞かせて、戦う冬馬の心境は…。
そして瑞穂は、遂に…想いを漏らす…。

「冬馬…本当にごめん……。私が間違ってた…」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。