ご指摘してくだっさた方、改めてありがとうございます。
冬木冬馬side
俺は今度は鼻孔に入ってくるほど良い匂いに反応して目が覚めた。
目を開けると…真っ白な天井ではなく、薄暗い色に染まった天井が最初に目に入った。
そして、俺が眠るベッドの傍に椅子に置いて、、そこにあの時俺を殴った女子が心配そうに俺を見詰めていた。
「だ、大丈夫?」
「…全く……俺の後頭部を容赦なく思いっ切り殴りやがって…」
「ご、ごめん…冬木くん…」
「まぁいいよ…。今こうして助けてくれているしな…。感謝してるよ…杉山…咲良だっけ?」
「うん…」
彼女は俺の近所に住む杉山咲良。
同じクラスで瑞穂の幼馴染…要するに俺の幼馴染でもある。名前がうろ覚えだったのは、あまり接する機会がなかったから。…失礼な話だから、彼女には内緒にしないと…。
すると、奥の扉からあの男性が入ってきた。
「お、起きたか?すまなかったね、咲良が失礼なことをして…」
「いいえ…。どうせ、杉山は俺のことを奴らと見間違えたか、本当に俺を殴りたかったかのどっちかですよ」
そう失礼なことを言うと、杉山は顔を赤くして俺に怒鳴る。
「ちょっ…!冬木く……」
「シィッ‼」
だが、怒鳴ろうとした杉山の口を男性…杉山のお父さんが塞いだ。
どうやら…あまり大きな声を出すのは良くないようだ。
一通りに注意し終えたところで、彼女のお父さんは持ってきた服を俺に差し出してくれた。
「私の服なんだが…我慢してくれ」
「いえ、ここまでしてくれるんだから感謝しきれないですよ…」
俺はベッドから降りて、その服に着替えようと病院着を脱ぎ始める。その姿を見ていた杉山は益々顔を真っ赤にさせていき、速攻で後ろにそっぽを向いた。
「な…なんでここで着替えるの!?」
「寒いからに決まってるだろ?あと声デカいよ…。静かにしろってお父さん言っていただろ?」
杉山は「う~」と声を漏らして、恨めしそうに俺を見詰めた。
「ははは、冬木くんは礼儀も理解も咲良より早いね。そうだ、まだ名前を言ってなかったね。杉山尊だ。よろしく」
「冬木冬馬です。こちらこそ、助けてくださって本当にありがとうございます」
ガシッと握手を交わして、俺は彼らとの信頼関係を強くした。
そして、今起きているこの事態について聞いてみることにした。
「あの……今何が起きているんですか?俺は病院で昼間に目覚めたばかりでどうなっているのか……」
「…確かに話さないといけないし、絶対に言っておかなくてはならないだろう。でも…まずは晩御飯を食べたいんじゃないかい?」
そう言われて、俺の腹は正直にギュルルルと大きく鳴った。俺は恥ずかしくなって、顔を熱くさせる。杉山と尊さんはクスクスと少しだけ笑いを漏らしていた。
「はは、じゃあ…リビングに行こうか?」
俺は顔が熱い状態のまま…軽く頷くのだった。
今日の晩御飯のメニューはシンプルに……カップ麺が三つ、湯が入った状態で置かれていた。あんなに良い匂いがしたから、余程豪勢なディナーかと思ったが…こんなカップ麺の匂いでも、旨そうだと思ってしまったのは…長い間何も食べていなくて、空腹だったからだろうか…。
「じゃあ…食べながらでいいから…。何が起きているのか話そう」
俺は麺に食らいつきながらも、尊さんの方をきっちり見ていた。
「今から5日前…突然、奴ら…周りの人たちは“ウォーカー”と呼ぶのだが、ウォーカーが現れた。死んでいるのに動く…。正に悪魔だよ。原因は全く分からない。本当に突然現れて…人を食い殺そうとする。そして、噛まれた者はウォーカーになる」
「死んでいるのに……動く?」
俺は思わず聞き返してしまった。
そんなバカげた話があってたまるかと言いたかったが、今のイカれた状況では何一つ言えなかった。だが、尊さんの話であの下半身がない女性が生きていた理由も納得した。
「そう…死んでいるんだ」
「そんな……でも、医学的にあり得ないんじゃ…。死んでいるのに生きているなんて…」
「いや、奴らは生きていない。心臓の活動は停止しているからね。それは奴らと組み合った時に分かった」
「じゃあ……奴ら…ウォーカーは一生動き続けて…俺ら人間を襲うんですか?」
「その心配はない。ウォーカーは頭を潰せば、それで本当に死ぬ」
「…頭…………」
『頭』というキーワードは…俺の母親の死に様と関係あるのだろうか…。母さんもウォーカーになったから、仕方なく…誰かが、殺したんだろうか…。そう考えると…誰が殺したのかは限られてくる。
父親か…健太か…栞…なのだろうか…。
そんな……いくらなんでもそんなことは…。
「冬木くん?大丈夫?顔色、悪く見えるけど…」
俺は杉山に声をかけられて、どうにか我に戻れた。これ以上母さんのことを考えると…また頭が痛くなってうんざりになりそうだった。
「あ、ああ…。大丈夫だよ、杉山。それで…そのウォーカーは今どこに?この近所でも人はそれなりに住んでいたから……昼間でもかなりいるはずなのに、全く見ませんでしたけど…」
「いるよ、外にね」
「え?」
尊さんは静かにカーテンに近付くと、音がしないようにゆっくり開いた。
外には尊さんの言う通り、街灯に照らされた何十ものウォーカーの姿が見て取れた。
「すごい…」
「静かにね。ウォーカーは音と臭いに敏感なんだ」
「…なるほど。だからこの窓…隙間がびっちりガムテープで目貼りされているんですね…」
「その通りだ。でも見るだけなら問題はないよ。視力は退化しているからね」
確かに……こんなに電気が付いていて明るいのに、ウォーカーはこっちに近付こうともしない。
その時……そのウォーカーの固まりの中にいる一人の女性を見て…俺の身体はまた固まってしまった。
「…?冬木くん?」
「冬木くん、どうかしたの?顔…真っ青だよ…?
尊さんと杉山の声なんか全く耳に入って来なかった。
俺は堪らずカーテンを勢いよく閉じて、さっき寝ていたベッドの部屋に駆け込んだ。
「冬木…くん?」
杉山がそう言葉を漏らしていることも…訳が分からなそうに見ている尊さんがいることも忘れて…俺は走り込んでしまうのだった。
俺は枕に顔を押し付けて泣いてしまう。
さっきのウォーカーーの固まりの中に…頭が潰されていたはずの母さんがフラフラ歩いていたのだ。血がポタポタと頭から垂れ、首には切り傷があり、硬直したのか左手には自殺しようとしたのか、カミソリが握られたままだった。何より酷かったのは…歯を剥き出しにして、人肉を銜(くわ)えたまま歩いていることだった。
あんな姿の母さんを……見たくなんてなかった。でも…見てしまい、ショックを隠せずにいた。
もし…ウォーカーが音に反応しなくて、聴覚が衰えていたなら…大声を上げて泣いていたことだろう。それも出来ない俺は枕に向かって、声を押し殺して泣くしかなかった。これほど辛いことは…今まで経験したことがなかった。
「ふ………冬馬くん…」
不意に…後ろの扉から杉山の声が聞こえた。
俺は涙を拭って、彼女の方を見た。やはり…心配そうに俺を見詰めている。
「…何だ?怖くて眠れないのか?」
俺は泣いていたことを隠したくて…そんな憐みのある顔で見られたくなかったから……俺は…彼女を茶化すことで、そう思われないようにした。
だが……俺の予想とは、違って…普通の返答は返ってこなかった。
「……瑞穂の前でも…そんな風に悲しみを自分一人で背負うの?」
何故……今、瑞穂の名前が出てくるんだ…。
今は…関係ないだろと、思わず怒鳴りそうになった。だが、そんな俺の心境を知っているのか知らないのか分からないが、杉山は俺の隣に座る。
「私も…冬馬くんの気持ち…分からなくないよ?」
「何が…」
「お母さんを失った気持ち…」
…分かっていたのか…。確かに杉山も俺の母さんと面識はあったとは思うが、あんなに顔が歪んでいたら分からない思っていたが…。
「私も…お母さんと弟が…あいつらになったから……」
「………」
「辛いのは、冬馬くんだけじゃないよ?」
俺は…なんて馬鹿なんだろうか…。
さっき杉山を怒鳴りたいと思ったことを恥ずかしく、だらしなく思った。
「杉山……」
「ねえ、いい加減名字で呼ぶのやめて。ずっと一緒だったじゃん」
「……そうだな、じゃあ…咲良……でいいのか…」
その時、バッと咲良が動いた。
俺の胸に顔を押し付けてきたのだ。
突然の行動に俺の心臓は早打ちになり、身体も硬直してしまう。しかし…硬直していく俺の身体とは真逆に咲良の身体は僅かに震えていた。
「…咲良、お前…」
「私ね…まだ本気で泣けてないの……。だから、お願い……大声、上げない…からっ……。暴れないように……っ、抑えつけて…っ……」
「……分かった」
俺は咲良の身体を抱き締めてやると、咲良は痰が切れたように今まで抑えつけていた涙を放出した。
時折震える小さな身体…しゃっくりを上げる声……。
そんな彼女の姿に俺は…何とも言えない悲壮感に苛まれ、彼女が泣き止むまでの三時間…ずっと身体を抱き締めるのだった。
終わりの見えない物語なので、何処まで行こうか迷っています。
でも、そこは時間をかけてゆっくりとやっていきたいと思います。