ウォーキングデッドin Japan   作:GZL

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第32話

成瀬瑞穂side

捕虜を連れて来た。私は圭太からそのように聞いて、普段は空き部屋として使われている場所に足を進ませる。

彼の印象はあまり良いとは思っていない。裏で何かやっているようにも見えないが、それを調べている時間もない。あっちの生存者との問題が山積みの中、他の人を使わせるのも、信頼関係に溝が生じてしまうので、あえてやっていない。

…今は彼のことは放置するがいいだろう。

そんなことより捕虜のことの方が重要だ。どうやって捕まえたか、何をしたかも聞いてないが、和平が可能になれば…。

そう思いを馳せながら、扉を開ける。

そこにいた『捕虜』を見て、私は固まった。いや…捕虜なものか。あれは…彼は……。

 

「冬馬…」

 

私の存在に気付いた冬馬も一瞬、顔を強張らせたが、すぐに戻して飄々とした表情で私に問いを投げかけてくる。

 

「瑞穂か…。これ、外してくれないか?」

 

冬馬は後ろに拘束された手を動かす。私は深呼吸をして、彼の前に立つ。早急に鼓動する心臓を落ち着かせようとするが、これは止まりそうもない。

 

「冬馬、何をしたの?」

「…なんにも」

「そんなはずない。何もしないで、ここに連れて来られるわけない。正直に言って。私は冬馬を…」

「何もしてねえって言ってるだろ‼」

 

冬馬の怒鳴り声に私は数歩、下がってしまう。心臓の鼓動が更に早くなる。

 

「お前も変わったな、瑞穂。部下を使わせて、俺たちを潰そうとするなんてな」

「部下…?つぶ……す?な、なんのこと…。私は、何も知らない…」

「とぼけるな。お前の部下が瑞穂の指示だったと言ってたぞ」

 

私の指示?そんなことを言った奴がいる?

冬馬に怒鳴られたことや初めて知らされたことに激しく動揺してしまった私は言葉を紡ぐことが出来ない。

 

「…瑞穂、本当のことを言ってくれ。俺だって瑞穂を信じたい」

「ち、違う…私は何も……」

「そんな動揺しきった言葉ではとても信じられねえな」

 

冬馬はそう言い切り、それから何も言わなかった。

私は何度となく、冬馬に対して言い訳をしようと口を開こうとしたが、頭の中で空回りしてしまって…何も言うことが出来なかった。

 

 

 

和也side

俺は部屋の外で2人の口論を聞いていた。最初、瑞穂さんから『冬馬』という男から話を聞かされた時、その話は本当か、半信半疑だった。あの時の涙や態度は、ただ俺を避けるがためにしたことだとも考えられたからだ。

だが、ついさっきまでの口論で瑞穂さんと冬馬はとても親しかった関係だということは判明出来た。

口論を終えた瑞穂さんはがっくりと肩を落として出て行った。

その後、俺は奴が拘束されている部屋へと入る。俺の存在に気付いた冬馬は訝しげな表情で俺を見る。

 

「やあ、拷問の時間か?」

「そんな俺が拷問するような奴に見えるか?」

「人は見かけによらないって言うからな」

 

人を恐れていない…そんな目を向けた彼に俺は何故か背筋が震えた。

 

「安心しろ。俺は拷問係じゃない。…瑞穂さんについて聞きたいだけで…」

「瑞穂……お前、あいつとどういう関係だ?」

「は?どうって…」

 

俺が答えようとした時、冬馬は椅子に縛られたまま立ち上がり、額をぶつけてきた。

 

「いてっ‼︎」

 

俺が怯んでいるうちに、木製だった椅子を地面に叩きつけて砕き、俺の口を塞ぎ、首に手をかける。

 

「どういった関係だ⁈答えろ‼︎お前、もし瑞穂に何かしていたら…」

「待て‼︎落ち着け!俺と瑞穂さんは協力関係だ‼︎身体の関係とかそういうのは全くない‼︎」

 

嘘だけど…。

だが、ここで真実を言ったら本当に殺されると思うほど、今の冬馬には迫力があった。

俺の顔を数秒くらいじっと見たのちに、冬馬は腕の力を緩め、俺に手を差し伸べた。

 

「なら、悪かった…。荒れてしまって…」

「あ、ああ…」

 

気分の移り変わりが早い奴だ…。

この数分で冬馬に対する印象は刻み付けられた。

 

「話がある。お前らの集団にいる『裏切り者』について…」

「その前に…俺からの話を聞いてもらおうか…」

 

俺は奴の話を無理矢理止める。

冬馬は俺を真っ直ぐ見ているが、そのおとぼけの表情が…ムカついた。

 

「っ!」

「⁈」

 

俺の振り抜いた拳は冬馬の頬を直撃した。突然の俺の攻撃に冬馬は予測出来ていなかったため、後方に倒れる。

 

「テ、テメエ…!」

「ふざけるなと言いたいんだろうが…それは俺の台詞だ!お前はな…瑞穂さんをずっと苦しめてたんだよッ‼︎」

「⁈」

 

今度は俺の番と言うように、倒れた奴の胸ぐらを掴み…。

 

「テメエがやったことが瑞穂さんを苦しめる元凶になってるんだよ‼︎梶とかいう奴の争いごとで…」

「……違う。俺はそんなことで瑞穂を苦しめていない。あいつも…それを乗り越えたはずで…」

「それが思い込みってやつだ。瑞穂さんは今尚、その事で苦しんでいる。だから、さっきも瑞穂さんはうまく口に出来なかったんだ」

「……」

「いずれそのことについて瑞穂さんに謝っておけ。それだけだ。で、お前の話を言え」

 

冬馬は少し意気消沈した様子で小さく言った。

 

「『裏切り者』がいる。お前たちの中に…。恐らく…俺を拘束して来た男だ」

「圭太の野郎か?どうして…」

「瑞穂の様子と今の話を聞けば全て分かる」

「それで…俺にどうしろと?」

「協力してほしい。奴らをうまく出し抜くんだ」

 

冬馬の考えが正しいかなんて分からない。信じる保証もないに等しい。

だが、最近圭太が怪しい行動をしているのも知ってはいた。

それを見逃していた俺にももしかしたら責任があると思ってしまうと、冬馬の案を承諾するしかなかった。

 

 

 

圭太side

最後の仕上げにかかるとしよう。

拉致って来た敵が成瀬と親しい関係だったとみんなにバラせば、全員の信用を失わせることが出来る。そして、全員は俺の言うことを信じて、リーダーとなることも出来るだろう。

しかし、事を上手く運ぶためにあの冬馬という男を連れてきたが、デメリットとして問題点を作ってしまった。

それは小室孝の件だ。奴らは冬馬を連れ戻すために、強行突破をしてくることだろう。それでは瑞穂の仕業だと信じ込んでいる馬鹿どもでも、流石に俺の嘘だということがバレてしまう可能性が高い。

 

「さて、どうしたものか…」

 

考えていると、涙目の成瀬がやってきた。

泣いていることで俺に気付いていないのか、目の前を通過する。

その時。

 

「冬馬のバカ……。どうしてっ、どうしてっ…」

 

シクシクと高校生のように泣きじゃくる彼女を見た俺は1つの案を思い付く。

我ながら素晴らしい案だと思い、笑みを溢してしまう。

 

「なら……成瀬、少し話が」

「何?」

 

泣いている成瀬を呼び止めた俺は、ポケットからハンカチを取り出し、勢いよく彼女の口を塞いだ。

突然の出来事に彼女は動揺してしまい、抵抗が一瞬遅れた。

 

「なっ、何を…⁈」

「俺の計画に付き合ってもらうぜ?あんたの人生最後のな…」

 

成瀬は必死に抵抗を繰り返したが、酸素が身体に行き渡らなくなった彼女は脱力して…失神に近い気絶をしてしまう。

 

「さあ、始めるとしよう」

 

俺が準備に入る間に、外では既に小室孝たちが動いていることは誰も気付いていなかった。

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