人呼んで、グラハムスペシャル!! 作:銀髪!銀髪!
ロシア首都ヤクーツク近郊。
「ちっ」
忌々しそうにブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアは第五世代KMFの試作機である紫のグロースターのコックピットで、舌打ちする。
彼女が主導となり、ロシアを攻め始めてから半年。本来であればここまで時間をかけるつもりはなく、最短で3ヶ月で終わらせる勢いで進軍しようとしていた。だが思った以上のロシアの極寒の地系と、ロシアが開発した新型のKMF擬きに、停滞を余儀なくされていた。
既に停滞して二週間。無理矢理の進軍と極寒の環境で兵達の疲労は最高潮に達している。コーネリアの騎士であるギルフォード、そしてコーネリアの顔にも疲労は見える。
「思った以上にやるじゃないか。ロシアの荒熊・・・!」
KMF擬きにだけではここまで疲弊はなかった。だがロシアには『ロシアの荒熊』の異名を持つパイロットがいる。その実力はブリタニアの魔女の異名を持つコーネリアと互角かそれ以上の差を見せている。それだけではない。戦略、戦術。指揮官としても並外れます力を持つ恐るべき男。
そしてロシアのKMF擬きであるティエレンと呼ばれる機体。
分厚い鉄板の集合体を思わせる巨体。その巨体通り鈍重な速度だが、武装は全て大火力。並のKMFなら一撃で破壊できる砲塔をメイン武装に据えており、更には計り知れない防御力。
グロースターの大型ランスを複数回叩き込まないと装甲を破壊できないという堅牢な防御。だが破壊した機体を分解してみれば、その機体はまるで棺桶。脱出機能などなく、パイロットが直立して操縦する。コックピットの入口を歪まされたらその時点でパイロットごと叩き潰される設計。
最低限の安全しか確保されていない機体。嫌悪感は拭えないが、それだけ相手が切羽詰まっていることが分かる。
「陸路での援軍は期待できないか・・・」
吹雪のせいでランドスピナーはいつもと同じ動きはできない。それに対してティエレンは専用のランドスピナー———まるでスキー板にボールをつけた特殊なランドスピナーを使っている。
「このままではあの要塞は攻略出来ない。だが撤退などしてしまえば・・・!!」
問題は山積みである。例え平面でティエレンをどうにかした所で、首都付近にある要塞には攻めきれない。長距離砲塔が隙間なくこちら側へ向けられている以上、今のままでは勝ち目が薄い。
『コーネリア様!シュナイゼル殿下から伝達がありました!』
「なんだ、ギルフォード」
『援軍として小隊を一つ送る。有効活用してくれたまえ。との事です』
「援軍?だが一部隊如きに何が———」
それは、突然レーダーに映った。ファクトスフィアが壊れたのではないかと思うほど、高速で動く
コーネリアのグロースターの近くに着陸して来たのは7つの見たことの無い黒い戦闘機。ギルフォードやダールトン将軍は警戒してコーネリアの前に立つが、コーネリアに制される。
まさか戦闘機が、時代遅れの存在が援軍?そう普段は尊敬している兄を叱責したくなるが、そんなことは後回しだ。
隊長と思わしき男が6人の部下を率いて、機体から降りてコーネリアのグロースター目掛けて歩いてくる。コーネリアはグロースターのコックピットを開き、機体の背中、コックピットの上に乗り立つ。
寒さに身を抱きかかえたくなる感情を制しながら、ブリタニア皇女の威厳を持って彼らを見下ろす。
「兄上が言っていた援軍とは、お前達のことか?」
「はっ。グラハム・エーカー中尉、並びにオーバーフラッグス隊、シュナイゼル殿下の命により馳せ参じました」
オーバーフラッグス。聞いたことの無い部隊だ。少なくとも戦闘機を乗りこなす部隊など、今のブリタニア軍には存在しない。
「それで、お前達でどうするつもりだ。まさか敵の要塞、そしてKMF擬き。それら全てをお前達小隊一つで相手をするつもりか?」
「そのつもりです」
「この状況で、ふざけているのか」
「いえ。心底真剣に言っているつもりです」
剣を首に押し付けても、瞳の色を少しも変えることも、怯むことも無い。
「どうするつもりか、話せ」
「はっ。オーバーフラッグス隊で上空から敵KMFを各個撃破。そのまま陸路を進むコーネリア皇女殿下率いる部隊を援護しながら、要塞に対して撹乱を行います」
「あの装甲を破れるのか?お前達で」
「可能です」
「・・・分かった。貴様の言う作戦を実行しよう。ただし我々が進軍するのは貴様らが要塞に攻め込む直前だ。二十近くのKMF擬きをどうにか出来なければ、こちらは攻めることは出来ない。それでも構わないというのなら、やるといい」
「イエスユアハイネス」
躊躇いもなく言い切るグラハムに、コーネリアの目が見開かれる。彼我の戦力差を理解していないかのような物言い。グラハム・エーカーとは愚者か、果たして強者か。コーネリアには現段階では愚者にしか思えなかった。
———————————————————————————————
「オーバーフラッグス全機、フルブラスト!」
通信を通してブリタニア軍全機から聞こえるグラハムの声。その声と共に光の軌跡を描きながら、天空へ飛び立つ7機のフラッグ。隊長であるグラハムを先頭に、吹雪を正面から突っ切っていく。
「フラッグファイター達へ通達。これが、私達オーバーフラッグスの初陣だ。敵は不落の要塞、そして防御特化のKMF。敢えて言うぞ、死ぬなと」
『了解』
「見えたぞ!ここから部隊を二つに分ける。ハワード、ダリルは私と正面から攻める。ジョシュア、リズロ、ケイオス、ディンは後ろから回り込め」
グラハムの命令と共に4機のフラッグが速度を上げてグラハムを追い抜く。グラハムは目下でこちらを認識し、砲塔を構えるティエレンを見下ろし、口端を釣り上げる。
『嬉しそうですね、隊長』
「無論。待ち望んだフラッグファイターの戦場だ。コーネリア皇女殿下には悪いが、熊狩りを楽しませて貰おう!」
ハワードに返しながら、グラハムのフラッグは急降下を始める。目下にいるティエレンがフラッグに向けて砲塔を向け、容赦なく撃ち続ける。
「柔肌の機体に、そのような物騒な物。だが!!」
当たらない。フラッグの横長の機体に、威力重視の砲弾は掠りもしない。そもそもティエレンの持つ滑空砲は連射向きではない。雪が積もる大地では、上に向かって撃ってしまえば機体の足場は崩れ、狙いが大幅にぶれてしまう。そしてティエレン自体が急なロールアウトだったせいか、射撃OSは未完成でパイロットの技量に一任されている。
そんな砲撃などフラッグには当たらない。フラッグの先端に付いているリニアライフルは砲撃の雨をすり抜けながら、青白い弾丸を放ち、ティエレンの滑空砲を的確に潰していく。
「当たらなければどうということはない!!」
フラッグが変形する。無骨な戦闘機から、KMFにしては細身で少し巨大な人型へ。脚のバーニアをふかしたフラッグは降下の勢いを完全に殺し、左手に持ったリニアライフルで戸惑い動きが止まるティエレンを乱れ撃つ。
「やはり硬いな!ならば、こうするまで!」
リニアライフルの一発二発では装甲の破壊は不可能。だが胴体に凹みは与えられた。フラッグの右腕———本来のフラッグであれば左腕に付いているディフェンスロッドを突き刺すように叩き込み、無理矢理回転させて胴体を抉る。
「ここは戦場。故に無惨等という言葉に」
味方の報復をせんと、滑空砲に対人機銃、小型ミサイルポッドからあらん限りの弾薬を吐き出す。しかしフラッグは右に左に、まるで未来でも見えているかのように躱し、身を翻すと同時にリニアライフルでティエレンの頭部を撃ち抜こうとする。
しかしティエレンが上体を捻り、肩についているシールドでその身を守る。
「聞く耳持たん!」
着地と同時に、全力でバーニアをふかす。フラッグのあまりの機動に、更に狙いが乱雑になるティエレン。
既に恐慌状態となっているパイロットでは、テンションMAXのグラハムとマトモに戦えはしない。
簡単にフラッグの接近を許し、フラッグは脚部に収納されていたソニックブレイドを、ティエレンの胴体へ押し込む。
超高温のナイフはティエレンの装甲を嬲るように切り裂いていき、恐怖に塗れた悲鳴を上げるパイロット諸共内部から破壊する。
「ようやく二機か」
フラッグをティエレンの爆発から引き離し、二つのティエレンだった鉄屑を見下ろす。予想以上の装甲の硬さ。もしパイロットがもっとKMF戦になれていたのなら、腕の装甲一つは取られていたかもしれない。
「殲滅は順調に進んでいるな———レーダーに反応?!一機だけか!!」
フラッグは左を向いてディフェンスロッドを地面と水平に構え、飛来してきた弾丸をロッドで防ぐという本来の使い方をしながら、マズルフラッシュが見えた方を見詰める。
吹雪の中を切って現れたのはティエレン。だがその色は今までのティエレンの色とは違い、薄い茶色で染め上げられている。
「指揮官機。ということは———」
「唯一単独行動をとっているKMF。だとしたらこの機体が———」
「
まるで示し合わせたかのように両者互いにフルスロット。ティエレンのカーボンブレードと、フラッグのソニックブレイドがぶつかり合い、火花を上げる。
次瞬、ティエレンが滑空砲で横殴りにしようとしたのを、同じくフラッグが横殴りにしようとしたリニアライフルで止める。
「会えて嬉しいぞ、ロシアの荒熊!!」
「何者だ、このパイロット」
まるで軽業師のように、フラッグは右脚を振り上げ、ティエレンに振り下ろす。だがその蹴りはティエレンが身を乗り出したことにより、肩部シールドに当たるに留まる。
両者、一斉に離れ互いのメイン武装による牽制射撃が始まる。牽制射撃と言っても、その攻撃は一つ一つが確実に当てに行かんとする射撃。
「敢えて言わせてもらおう。グラハム・エーカーであると!」
前へ、左へ、後ろへ、斜めへ、右へ。
人機一体。まるで己の身体のように機体を動かす両者。超重量のため。動きがフラッグよりも遥かに遅いティエレンは、持ち前の頑丈さとパイロットの実力でフラッグの攻撃を退ける。
装甲を新型のカーボンE装甲という、新しい装甲になったとはいえ、フラッグの耐久性はティエレン相手では心許ない。滑空砲一つ掠るだけで大ダメージになる砲撃を、グラハムはスレスレで避ける。
『援護します、隊長!』
「援護は無用!ハワード、ダリルはジョシュア達と合流し、残存する敵兵を叩き、そのままコーネリア皇女殿下へ信号を送れ。私は熊狩りで忙しい!」
敵KMFを全て破壊したハワードからの援護の通信を、一方的に切り捨てる。グラハムは過去最高に昂っていた。フラッグに初めて乗った時以上に。ロシアの荒熊、そしてティエレンという強敵に、フラッグファイターとして戦えることを。
既にグラハムはロシアの荒熊以外は眼中にはない。今ならコーネリアからの通信を開くことなく切るだろう。物事に集中しすぎる、グラハムの悪い所だ。その結果、王族からの通信を無視するなどという暴挙に出ようとも、グラハムは今この瞬間に、この時だけに生きている。
「まだまだ物足りないだろう、ロシアの荒熊!」
「攻撃が鋭くなっている・・・。成長しているのか、このパイロットは」
リニアライフルの狙いが正確に、ティエレンの弱点部と言える関節を狙ってきている。そこだけではない。胴体に被弾した部位を狙い撃って来ている。力尽くでティエレンの装甲を破壊しようとするその気概。並のパイロットでは考えつかない、考えついたとしても実行することなど当然不可能な行為を、グラハムはやってのけている。
このままでは不味い、とロシアの荒熊は危機感を秘めながら、滑空砲を旋回して避けるフラッグを見遣る。
「長期戦はこちらの不利。このままでは要塞も突破されるかもしれない。ならば、意地でも目の前の敵を倒し、援護に向かわねば」
「私は執拗いのでな!逃がさんぞ!」
ティエレンの行く先に回り込むようにフラッグが入る。ジリジリとした攻防。
互いのブレードが火花を散らし、互いの重火器がブラッシュを炊く。
エース級のパイロット同士による決死の殺し合い。
天秤の如く傾くことの無い状況に、とうとう勝利の女神は天秤を揺り動かし、勝者を決めようとした。
「貰ったぞ!!」
「ぐぅっ——!!右側がやられたか、しかし!」
「なんと!?」
「肉ならくれてやる!!」
ようやくフラッグの射撃がティエレンの背中に付いているバーニアの一つを破壊する。しかし流石はロシアの荒熊。タダではやられず、フラッグのメイン武装であるリニアライフルを滑空砲で破壊する。
「今ので滑空砲は弾切れ。だが、敵もそれは同じ」
「ライフルを破壊された。これは、始末書ものだな。しかしどうやら相手も弾切れのようだ。ならば、機動性で勝るフラッグが、この戦いに有利となる———!!」
「やはり攻めてきたか!」
ソニックブレイドを左手に、突撃を仕掛けるフラッグ。ティエレンは即座に滑空砲をパージし、両手にカーボンブレードを装備させる。
「二刀流か!?」
「速度はともかく、手数はこちらが上だ!」
人型の機械が戦っているとは思えないほどの高速の剣戟。現代の戦場には相応しくない光景。だが約千年前にはよく見られた、原初の戦い。
焼き切るソニックブレイドと叩き潰すカーボンブレード。互いに食らわせることが出来れば簡単に勝負は決するはずなのに、どちらも有効打を入れることが出来ない。
フラッグは容易く牽制で蹴りなどの行動を起こしてしまえば、いくら素早い機体とはいえ、すぐさま両断されてしまうだろう。
ティエレンも動かせるのは両腕と腰のみ。背中には半壊しているバーニアを抱えている。
カーボンブレードを焼切る為に鍔迫り合いにいけば、もう片方のカーボンブレードに胴体を切り裂かれてしまう。ソニックブレイドの間合いが長ければまだやりようはあったが、もうどうこう言ってはいられない。
「これは、私も覚悟を決めなければな!」
「正面!?自棄になったか!?」
フルスロットでの爆発的な加速。肉体を押し潰してくるGを無理やり押し殺し、フラッグを突撃させる。ソニックブレイドを下から流れるように切り上げる。狙ったのは胴体ではなく、カーボンブレードを持っているティエレンの左腕。
「ハアアッ!」
装甲を無理矢理貫き、ケーブルを焼き千切りティエレンの左腕切り落とす。あまりの速度の加速によりティエレンを対応を遅れ、片腕を取られたが、何時までも止まっているはずはない。既にティエレンのコックピット目掛けて、右腕のカーボンブレードは振り上げられている。
「貰った!!」
「いいや、まだだとも!!」
カーボンブレードがコックピットを叩き潰さんとするその刹那、フラッグは転ぶように体勢を崩し、
「貴方もやった通り、肉を切らせて———」
「しまった!?」
「骨を断たせてもらおう!!」
整っていない体勢で、だがそれでも刃を突き刺さんとフラッグはソニックブレイドを振り上げる。振り下ろされたばかりのカーボンブレードは間に合わず。フラッグは右腕を奪われる前からそうする為に行動を起こしていた。
ソニックブレイドはその熱を持ってティエレンの装甲を溶断し、その刀身を中にいるロシアの荒熊に迫らせる。逃げ場はない。棺桶と称されたこの機体に脱出装置など付いていない。
完全な敗北。荒熊と称された男はフラッグのモノアイを見詰める。
「見事だ・・・!」
称賛の言葉と共に、機体は爆散する。ほぼ零距離にいたフラッグはティエレンの爆発に巻き込まれ、機体の表面は溶け、まるで荒熊の血化粧のように黒い煤に染める。
「全く、ここまでやられてしまうとはな」
画面に表示されているERRORの文字。既にソニックブレイドを使うエネルギーさえも失ったフラッグ。帰りの分の燃料を考えると、この後の掃討戦には参加できないだろう。心の中で愛機たるフラッグを労いながら、ゆっくりと変形させる。
変形させたその姿は、当初の時よりもかなりみすぼらしい姿だ。当然と言えば当然だろう。右翼たる右腕をやられ、更には唯一と言ってい武装まで失ったのだ。
「私は先に拠点へ帰還しよう。なに、流石のコーネリア皇女殿下も、こんな機体に鞭打つような真似などしないだろうさ」
青白い軌跡を残しながら、フラッグは拠点のポイントまで飛行して行った。
グラハムがセルゲイに勝てたのはティエレンのOSが不完全だったことと、機体の操縦時間、実戦経験。そしてロシア側が完全に防衛に回っており、セルゲイの知力が使えなかったからです。多分・・・。
ちなみに作者はティエレンとセルゲイがかなり好きです。エレガント閣下と同じくらい好きです。