個性『Lobotomy Corporation』 作:Lobo
インゲニウムの謎の復帰がテレビで放映され、世間は大いに賑わっていた。
それもそうだろう、本来ならばヒーロー活動すら困難だった彼が一晩の内にまるで時が巻き戻ったかのようにプロ活動に勤しんでいる。
家族に聞いても知らない、医療関係者からはあり得ないの一言でありそれがまた世間に混乱を与えている。
また、テレビ内では考察班がああでも無いこうでも無いと議論を重ねている。
取材班は当の本人であるインゲニウムに取材を行った所。
ーーそうだな、俺はきっとまだ神に見捨てられてなかったって事でしょう。
ーーその幸運を生涯忘れずにこれからも沢山の人達を助けていきたいです。
とのコメントが発表された。
そんな映像が流れたからはや4日が経過した翌週の月曜日。
倉持は轟と共にNo.2ヒーローであるエンデヴァーの事務所へと足を運んでいた。
双方の理由としては至極単純。
轟からすればオールマイトを除けば最も優れたヒーローは父であるエンデヴァーであり、未だ左の炎は制御が難しい。
ならば、多少の怨みはあれど彼に教えを請うのが最も倉持に追いつく為の近道だと考えたからである。
一方の倉持はというと、これまた単純。
彼自体は既に最低限学ぶ事は叩き込まれており、個性を含めた戦闘能力ならば最早トップ陣のプロに勝る。
しかし、ヒーローは一芸に秀でるだけでは勤まらない。
仮にも『救済』を掲げるのならば、救助や協力の実戦を積まなければならない。
ならば、最も勢力が大きい所で経験を積むのはある意味当然の選択といえよう。
そんな思惑を抱えた彼らは現在、一つのオフィスビルの目の前に建っていた。
轟は若干の苛立ちを、倉持はそんな彼の感情を読み取りはしたものの特に思う事は無くその中へと足を踏み入れた。
「お待ちしておりました。轟焦凍様並びに倉持管理様でお間違いないでしょうか?」
入って直ぐに受付であろう女性が彼らに近づき、本人確認をとってくる。
「あぁ。」
「はい。」
当然の事ながら、それに応答する彼ら。
それを聞いた女性はこう続ける。
「到着後直ぐにコスチュームに着替えて社長室に来るように、と
そう言うと早速彼女は彼らを案内しようとする。
轟はそれに着いていくが、倉持はコスチュームですら個性の一つである為に
「……御気遣いありがとうございます、しかし私は……。」
そう言いながら、彼は体を僅かに発光させ『失楽園』へとその衣を変える。
「これがコスチュームですので。」
女性は少々驚きはしたものの、そこはプロ。
直ぐに彼に対してこう告げる。
「では、轟様のお着替えが終わるまで席に座ってお待ち下さい。」
「わかりました。」
「改めまして、ご案内させていただきますね。」
♢♦︎
「……よく来たな焦凍。そして倉持。歓迎するぞ。」
轟の着替えが終わり、女性に案内された部屋を開けると中央に座るエンデヴァーがまず始めに彼らを迎え入れた。
左右には30は超えるであろうエンデヴァーのサイドキック達が一同に揃っており、この事から破格の対応だと彼等は察した。
「雄英高校一年、倉持管理です。よろしくお願いいたします。」
「……轟焦凍です。」
深々と礼をとる倉持。
最低限の礼を取ってやっている轟。
サイドキック達は、対照的な2人……と言っても轟の方をなんだか微笑ましい目で見つめていた。
例えるなら、反抗期の孫をみる祖父母のような目。
轟家の複雑な家庭事情を知らないが故の目なのだろう。
轟はなんだかむず痒い気分になった。
そんな中、まず始めにエンデヴァーからの要求が入る。
「早速だが、お前たちのヒーロー名を教えてもらおう。職場体験とはいえヒーローコスチュームを身につけた以上、お前たちは仮とはいえ一端のヒーローだ。これからその名とその姿を背負っていくのならば、これよりはヒーロー名で呼び合うことを心懸けろ。」
「……ショートだ。」
「ほう?……ほうほうほう。」
若干の苛立ちを隠そうともせず告げられたヒーロー名にエンデヴァーは表情こそ平常なものの声には喜びが若干乗り、炎は少し出力が上がっていた。
親としては名付けた名前をそのままヒーロー名にしてくれるのは嬉しいのだろう。
……実際には名付けを面倒に思った轟が本名をそのままヒーロー名にしたという背景は知られない方が良いのだろうが。
次は倉持の番。
「サルバシオンです。」
「……ほう。」
倉持が告げたヒーロー名にはエンデヴァーの何かに引っかかるものがあったのだろうか。
少し見定める様な目をし、その後興味深そうな目で彼を見ていた。
「良し、ではショートそしてサルバシオン。先ずは俺のサイドキック達を紹介しよう。全員のヒーロー名、そして個性を頭に叩き込んでおけ。メモを取っても構わん。いざという時に忘れていましたはヒーローとしては最悪という事を覚えておけ。
だが、お前達の個性は既に伝達済みだ。安心しろ。」
エンデヴァーの言葉に並んでいたサイドキック達が順々に自己紹介を始めた。唯強い個性だけで無く、便利な個性を持ったヒーローたちも揃っている。
やはり、プロNo.2ともなればサイドキックの質も段違いという事なのだろう。
その全てを彼等は頭に叩き込んでいった。
「自己紹介は終わったな。では次に、お前たち2人のスケジュールを伝える。まず、今日は訓練に時間を割くことにする。そして明日は朝から移動、東京都の保須市に出張する。」
「保須市だと?」
「……それって、確か。」
保須市と言う言葉に彼等は反応する。
その市にはつい先日、インゲニウムを再起不能に追い込んだ
ヒーロー殺し『ステイン』が現れた市だ。
ステインは今に至るまで17名のプロヒーローを殺害しており、その実力は
折り紙つきなのは間違いないだろう。
全国各地に転々と現れながら複数のヒーローを負傷ないしは殺害している
凶悪なヴィランだ。
「そうだ、前例に則るなら奴はまだ保須市に潜んでいる確率が極めて高い。
これ以上被害を広げさせる前に必ずや我々の手で奴を、ヒーロー殺しを捕まえてみせる!!」
そう言いながら、その身に秘める正義の闘志を燃やすエンデヴァー。
その裏にあるだろう何かには倉持は気付かない事にした。
しかしながら、一つ気になる点が倉持にはあった。
飯田は確か保須市に居たはず。兄が無事とはいえ正義感の強い彼だ。
ステインを自らの手で……なんて事を考えなければいいのだが。
「しかしだ、お前達には奴と戦闘する一切を禁ずる。例え奴と遭遇したとしてもサイドキック達の指示の元、避難誘導や後方支援にあたれ。……何故かは聡明なお前達だ聞かなくても分かるだろう。良いな?」
その言葉に、彼等はあるルールを思い出す。
ヒーロー資格未拾得者は公に個性を使用する事は禁じられている。
ヒーローの卵である彼等だが、卵であってヒーローそのものでは無い。
よって、ヴィランであろうと個性を使用した戦闘行為はれっきとした犯罪、
暴行罪に該当してしまう。
唯一の例外といえば正当防衛。
個性を使用しなければどうにもならなくなった時、つまり『急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為』
に当たれば良し。当たらなければその時点で逮捕物だ。
更にその行使にしても保護管理者、つまりはエンデヴァーの許可無しには使用ができないのだ。
加えるなら、ステインと戦闘してとしても倉持、そして轟の勝率は確かに存在する。
特に倉持は『
しかしだ、それを踏まえても足りない物がある。
……経験不足。
唯の戦闘ならまだしも救助を前提とした戦闘行為に関しては素人に等しい彼等。
仮に人質など取られてしまえば、その時点で彼等の敗北は確定する。
相手は非道のヴィラン。しかも実力はトップヒーロー級。
当然の様に行う可能性は決して無いとは言い切れない。
今の彼等は例えるならば、爆破スイッチを持った赤子。
客観的に自分を見れる倉持、敗北を知って成長した轟は自らの危険性を理解している。
故に彼等は頷く。
「良し、ではショートは俺に付いてこい。炎熱個性用の訓練室に向かう。サルバシオンはまた別だ。少し話がある。
「「はっ!!!」」
エンデヴァーがそう号令を下すと、一糸乱れぬ動きでサイドキック達は各自の行動へと動き出す。
といっても夜間通勤の人もいるため帰宅する者や仮眠室に向かう者もいるそうだが。
「ではショート、俺に続け!」
「……チッ!」
サイドキック達が全て出て行った後、轟親子もまた訓練室へと向かっていった。
♢♦︎
「……さて、サルバシオン。お前を残したのは少し聞きたい事があったからだ。」
轟を訓練室へと案内し再び戻ってきたエンデヴァーは開口一番にこう伝えた。
「お前の個性のデータを見せてもらったが…いくつか、不可解な点があった。」
「……そうなんですか?」
「……まぁいい。そうだ、例えば決勝戦の時だ。アレはなんだ?あんなものはこの個性のデータにはどこにも無かった!」
「……。」
「そう疑いをかければ分かり辛くとも穴を見つけることが出来る。つまりだ、お前の情報は誰かが意図的に操作したものだ。それもお前に近しい誰かが。」
倉持はその犯人を直ぐに特定した。間違いなく……。
(……なにやってるの……アンジェラ。)
「その上で聞こう。」
ーーお前は一体何者だ?
ーーお前の救済とは一体なんだ?
No.2の目に灯る炎が、彼の
バレてしまった情報改竄。
まぁ、スッカスカに加えて見ていたのは外部にいるエンデヴァー。
仮にもNo.2の実力者。これぐらいは見抜けるでしょう。
人間としてはちょっとアレだけど、有能な事には変わりはないんでこんな感じにしてみました。
では、また次回。